山行記録: 瀬戸市・東京大学赤津演習林・ホフマンの森・海上の森

記録ID: 103413

全員に公開

講習／トレーニング

東海

瀬戸市・東京大学赤津演習林・ホフマンの森・海上の森

2007年12月10日(月) [日帰り]

nobou

GPS: 24:00
距離: 7.5km
登り: 245m
下り: 240m

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コースタイム

東京大学赤津演習林研究センター9:30-9:40演習林見学11:20-(バスで移動)-11:35ホフマン工事跡13:00-(バスで移動)-13:35海上の森16:00-16:40研究センター/解散

過去天気図（気象庁）	2007年12月の天気図
アクセス	利用交通機関：バス自家用車アクセスを調べる my出発地登録

感想

nobou

　禿山を克服する東大・愛知演習林見学

　12月10日
　日本の森を守る全国集会,瀬戸集会・2日目
　前日の開会挨拶にもあったように、愛知県はかつて全国第3位の禿山県であったと言う。愛知演習林はその禿山の植生を回復し、洪水等の被害を食い止めるための実験・実習地として1922年(大正11年)に設置されたもので、当時はほとんど禿山だったものが現在ではほぼ全域で緑が回復している。

　白坂量水堰
　10日は現地見学会,午前9時に瀬戸市赤津にある東京大学赤津演習林に集合。ここでスライドを使った演習林での研究活動の説明を聞いた後,9:30より林内を歩いて見学する。
　演習林の宿舎に入ると、まず県道と宿舎をつなぐ道の間にある堰が目につく。白坂量水堰と言い、この堰より上部の山の斜面,88.6haに降った雨の流量をすべて測ることができる施設である。
　堰の中央には縦に細長い切れ込みがあり、上のプールに溜められた水がこの切れ込みから流れ落ちるようになっている。切れ込みの下端と、オーバーフローして流れ落ちる水面の高さの差を0.1mmの精度で観測し、これを5分おきに記録するようになっている。林内には、対象面積(規模)の異なる量水堰がさらに2ヶ所設けられていた。
　白坂堰888.6ha)の中のさらに狭い小流域(上流)の流水量を観測している堰の排水面。小流域になるに従って水量が少なくなるので、流すカット面がV字型になる。右は地下を流れる水量を測る装置なのでさらに細くなっている。
　それぞれの水位の測定は過去80年間一度の中断もなく行われ、この間の流水量が克明に記録されている。
　東大愛知演習林
　 http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/aichi/index.html

　調査観測と研究の蓄積
　演習林内の北谷,南谷の2つの小流域内の1haを、長期にわたって生態系を調査するために640のプロットに仕切り、プロットごとに直径5cm以上のすべての樹木の種類と、その胸高面積が測定している他,葉や種子の落下状況や地面を徘徊する昆虫,鳥類の棲息状況の調査などが行われている。
　林内の気象環境は、温暖化により都市部の気温が上昇しているにもかかわらず気温の低下が認められ、植生の回復が気温の低減に大きく寄与していることが明らかになってきている。
　また、洪水により流出する土砂量の測定も行われ、植生の回復と共に流出する土砂量が激減していることが明らかになる等,大きな研究成果をあげている。
　演習林の見学では、640のプロットの仕切りラインや落ち葉を集める装置を見た後,コナラに寄生したカシナガキクイムシの痕跡を見る。♀がナラ菌を運んで樹内に侵入するとナラ菌が酵母をつくり、孵化した幼虫がこれを食べて成長する。演習林では病害虫を駆除せず変化を見守るのだそうだ。

　赤津演習林・・,愛知・滋賀・岡山は三大禿山県
　東大・赤津演習林の中には国指定史跡『小長曽陶器窯』がある。この小長曽は室町時代中期(500～600年前)の窯であり、当時から人間が森から木材を収奪し薪として使っていたことがわかる。
　江戸時代中期(300年前)には収奪が雑木林の再生能力を上回って近場の山はすべてはげ山と化し、遠くから木材を運んでこなければならなくなっていたらしい。
　それが、明治維新により幕府の規制が解かれるとさらに進んで、禿山は拡大の一途をたどり、ついに、愛知・滋賀・岡山の3県は『日本3大はげ山県』と称されるに至ったと言う。いずれも焼き物の産地である。
　1905(明治38)年に愛知県知事が東大に禿山復旧工事に関する調査を委託し、これを受けてアメリゴ・ホフマン教授が愛知県を訪れ、瀬戸町内で世界最先端の工事を行った。これが有名なホフマン工事である。　
　ここから東大と愛知県のつながりが始まり、後に東大農学部附属愛知演習林が発足した。　
　森林がゆっくりと変化していくのに比べて社会の変化はあまりにも急激である。しかし、その中で研究者達は戦前から今に至るまで、自然状態を保つために流域内の治山工事すら認めず、愚直なまでに同じ場所、同じ方法で測定を続けてきた。その蓄積は計り知れない意味を持つものと思われる。
　赤津演習林では、これらの量水堰によって1929(昭和4)年から、森から流れ出る水の量の精密な測定を開始し、以後,現在に至るまで78年間、方法を変えず,また1日も欠かすことなく測定を続け、はげ山から森林に戻りつつある山からの水の出方がどのように変化してきたのかを観測している。
　また、表層土壌の侵食による流出土砂量の測定も行われており、これによると1953年の禿山からの表層土壌浸食が、白坂で1ha当たり23.8トンだったものが、2001～2004年では0.4トンに激減しており、森林の回復が表層土壌の侵食を食い止める役割を果たしていることを明らかにする等の成果をあげているそうだ。
　演習林の見学を終えて紺野田・印所の森のホフマン工事跡に移動した。

　ホフマン工事
　かつて尾張地方の山や丘には禿山が広がっていた。この禿山を復旧させるために、愛知県は明治38(1905)年,東京帝国大学農科大学に設計を依頼した。その時に提出されたのが、同大学雇教師,アメリゴ・ホフマンが林学科学生の卒業論文として指導して作成した設計書で、県は同年,設計の一部について工事を行い完成させた。この工事は、ホフマンが設計を指導したため、ホフマン工事と呼ばれた。
　当時の愛知県の禿山復旧工事は、山腹面に階段を切りつけ、苗木を植栽する方法が主流であった。これに対して、ホフマン工事は、山腹面への植栽は行わず、土砂の侵食や崩壊はある程度自然に放置し、渓流を安定した勾配に導き、渓流と山裾を固めると言う工法で、オーストリアやフランスで広く用いられていた。
　ホフマン工事以後においても禿山復旧の重点は森林造成におかれており、その意味ではホフマン工事は定着しなかったと言える。　　
　しかし、その設計に当たっては縦断面図を作成して渓流の安定化を図り、土堰堤の安定や放水路・水叩きなど,各部の大きさを計算によって求めるなど,近代科学に基礎を置く設計思想が取り入れられていた。それは現在から見れば決して満足な内容とは言えないが、その後の治山技術の発展に大きな影響を与えたもので、このような技術が先駆的にもたらされたことにホフマン工事の大きな意義があると言える。
　
　紺屋田・印所の森
　瀬戸市は言わずと知れた焼き物の町。瀬戸物と言えば焼き物の代名詞でもある。その焼き物を焼くために、瀬戸市を含む尾張一体の森林は乱伐され、日本三大禿山県の1つに数えられるほどに禿山が広がっていた。
　ホフマン工事や傾斜裸地への植栽などの復旧工事に加えて、明治末期から大正にかけて窯業界がガス窯への転換を進めたこともあって禿山復旧は成果をあげた。
　第二次世界大戦後の混乱期に山は再び乱伐されたが、石油利用が進んだ結果,ようやく本格的な回復を見るに至った。こうして二度禿山になり二度蘇った瀬戸市の森は今, 別の危機に直面している。瀬戸市北部の200haほどの山野は、重機がうなりトラックが埃を立てて走りまわる広大な露天掘りの採掘場に変貌したのだ。
　焼き物の材料となる粘土を採掘するのであれば、これを活発な産業活動の証しと受け取ることも出来るかも知れない。しかし、窯業の低迷により粘土は引取り手がなく野積みされるばかりで、実際に売れているのは地場産業とは無縁のガラスの原料になる『硅砂』と『砂利』なのである。
　その硅砂や砂利も掘り尽くしてしまえば新たな資源を求めて採掘場所を外部に広げるしかない。こうして今,瀬戸市内の緑地が侵食され始めているのである。
　瀬戸市は市域の8割に当たる9100haが森林と言う恵まれた環境にあるが、そのうちの2198haの県有林ですでに鉱業権が設定され、私有地の鉱業権設定区域を合わせると、実に市域の3分の1が鉱区となっている。
　その多くは瀬戸市の市街地を取り巻く緑地,すなわち土岐砂礫層からなる洪積台地である。つまり、50年もすれば瀬戸市は穴に囲まれた市街地が島のように浮くことになるだろう～と言う。

　ホフマンの森(印所・紺屋田の森)は、瀬戸市の中心市街地に唯一残された豊かな里山生態系の息づく森で、オオタカをはじめ、ギフチョウ,サギソウ,イシモチソウ,トウカイモウセンゴケ,ハッチョウトンボ,トウキョウサンショウウオ,モンゴリナラ等の希少生物が棲息し、また、『ホフマン工事』を今に伝え、鎌倉期の古窯等の文化遺産も残る貴重な県有林である。
　この事業は、住宅地や幼稚園,老人施設に隣接した開発であるにも関らず、住民に対するキチンとした説明がなく、瀬戸市と愛知県は準公共事業として特例扱いで条例による手続きをも免除し、里山の希少種の調査はせず、文化財の調査も不充分なまま開発を容認している。
　この森のホフマン工事跡の残る斜面の反対側斜面,15haの森が硅砂採掘の露天掘りのために消える。
　すでに保安林『予定解除』を経て鉱山開発波始まっており、ホフマン工事の山頂から十数メートル先にはフェンスが設けられて立ち入り禁止となっている。近い将来,このフェンスから先の山はスッパリと削られてなくなると言う。
　また、印所・紺屋田の森は土砂流出防備保安林であり、かつては近くの住宅地で土砂災害による犠牲者が出たこともあることから、地元住民ら1400名に及ぶ反対意見書が提出され、公聴会が開かれたが、林野庁波開発を認めた。
　その後,開発地からは市内最大級の古窯が発掘されたが、一般公開もされないまま開発が進められ、古窯は失われた。
　
　海上(かいしょ)の森～山里の原風景　　　　　　　　　　　　　　
　現地見学の3つ目は2005年の『愛・地球博』の会場として開発の対象となった海上(かいしょ)の森。海上の森は、愛知県瀬戸市の海上町を中心に広がる里山&森林。都市部のすぐすそばにありながら1000種の植物,2000種の昆虫,130種の野鳥が生息し、豊かな生態系を構成している。
　シデコブシやモンゴリナラ等,東海地方固有の植物やギフチョウ,オオタカ等の希少種,30種以上のレッドデーター記載種等,『絶滅の恐れのある動植物』が息づいているホットスポットでもある。
　海上の森は愛知万博の際に開発の危機に瀕したが『自然の叡智』と言うテーマに反する開発に異議を唱える多くの人達の力で大きく守られた経緯があるが、今再び,この海上の森のシンボルとも言える『屋戸橋前の森』が4車線道路の建設でで大きく壊されようとしている。
　今年11月1日から『環境行政団体』となった瀬戸市は、名古屋市と共に2010年の『生物多様性締約国会議』の開催を誘致している。その理念に反するこの計画に批判が巻き起こっていると言う。

　先刻歩いたホフマンの森と海上の森に見られる希少種・絶滅危惧・準危惧種
　モンゴリナラ:(愛知)準絶滅危惧/(全国)リスト外
　サクラバハンノキ:(愛知)リスト外/(全国)準絶滅危惧
　シデコブシ: (愛知)絶滅危惧Ⅱ類 /(全国)絶滅危惧Ⅱ類
　イシモチソウ: (愛知)絶滅危惧Ⅱ類/(全国)絶滅危惧Ⅱ類
　サギソウ:(愛知)絶滅危惧Ⅱ類/(全国)絶滅危惧Ⅱ類
　ウンヌケ:(愛知)絶滅危惧Ⅱ類/(全国)絶滅危惧Ⅱ類
　ギフチョウ:(愛知)絶滅危惧Ⅱ類/(全国)絶滅危惧Ⅱ類
　ヒメタイコウチ:(愛知)絶滅危惧/(全国)リスト外
　オオタカ:(愛知)準絶滅危惧/(全国)絶滅危惧Ⅱ類
　ハイタカ:(愛知)準絶滅危惧/(全国)準絶滅危惧
　ツミ:(愛知)準絶滅危惧/(全国)リスト外
　ヨタカ :(愛知)準絶滅危惧/(全国)リスト外
　フクロウ:(愛知)準絶滅危惧/(全国)リスト外
　コサメビタキ:(愛知)準絶滅危惧/(全国)リスト外
　サンショウクイ:(愛知)準絶滅危惧/(全国)絶滅危惧Ⅱ類

　モンゴリナラ～東海地方特有の謎の木
　海上の森をはじめ東海地方ではよく『モンゴリナラです』と説明を受けることがあるが、モンゴリナラは正体不明の木である。ブナ科の樹木でミズナラやカシワによく似ているが、葉っぱの鋸歯が大きく深く、葉の裏にカシワのような毛はなく、またコナラと違って葉柄がほとんどないので葉が枝に直接ついているように見える。ミズナラと違ってドングリの先端がへこむ登言う特徴がある。
　モンゴリナラについては独立種とするもの、ミズナラの低地型とするもの、ミズナラの原種とするものなど諸説が入り乱れていて、専門家の間でも定説はない。『レッドデータブックあいち』では『現在のところまだ個体数は多く、場所によっては優先種になっているが、分布域全域にわたって宅地造成、工場用地造成、珪砂の採掘など強い開発圧にさらされており、その点で将来の存続が懸念され』としているが、紺屋田の森のモンゴリナラはまさにそのすべてに当てはまっている。

　海上の森を守ろう
　 http://www.wbsj-aichi.org/kaisyo_100.htm