カズベク(5047m)
コースタイム
8/01 高度順応日
8/02 03:10メテオステーション〜08:15カズベク山頂08:30〜11:30メテオステーション
8/03 10:30メテオステーション〜13:30ツミンダサメバ教会
天候 | 7/31 晴れ 8/01 晴れ・強風 8/02 晴れ・強風 8/03 晴れ一時曇り・強風 |
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過去天気図(気象庁) | 2011年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
飛行機
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コース状況/ 危険箇所等 |
メテオステーションまでは特に危険箇所はないが、悪天候時は氷河上で方向を見失いやすいと思われる。GPS携帯が望ましい。メテオステーションのHPにGPSデータ有。GarminなどのGPSで読み込み可。下記URL参照。 http://www.bethlemihut.ge/index.php?lang=eng またLonely Planetのグルジア・アルメニア・アゼルバイジャン版にもテキストベースですがそこそこ情報が出ていますのでご参考程度に。 メテオステーションから上マイリ・プラテウの手前までは決してなめてかかってはいけない。道がはっきりしない上クレバスが非常に多くて危険。ロープ不携帯のパーティもあったが、アンザイレンはMustと考えるべき。このような状況なので日本から短期間で確実に登ろうとする場合、ガイド無しではかなり厳しいと思われる。どうしても自力でという方は最低限メテオで登山道の状況を聞いたり、場合によってはガイドの相談をしたほうが良い。 全般に風の強い山域。山頂の気温はこの時期-10〜-5℃だが体感はそれ以上に低い。寒さ対策は十分に。 ガイドは下記トラベルエージェンシー(Explore Georgia)から手配。高価だが質は高い。これ以外にトビリシ市内に登山手配が出来る会社がいくつかあるよう。 http://www.exploregeorgia.com/ |
写真
感想
7/30(土) 第0日目 晴れのち小雨
移動日
ドイツ・ミュンヘンからグルジアの首都トビリシに飛び、空港に降り立ったのは朝の3時半。空港の喫茶店で時間をつぶして6時の電車で市内に出る予定だった。しかし駅に行ってみると何故か電車は動いていなかった。バスも路線がよくわからないので仕方なくタクシーに乗る。今回ガイド手配はExplore Georgiaというトラベルエージェンシーとメールのやり取りを行っていた。ガイドとも8時半にExplore Georgiaのオフィスで待ち合わせしていた。
しかし現地に行ってみるとエージェンシーも何もない。タクシーの運ちゃんに聞いても判らない(と言っていると思う@露語)。エージェンシーに電話してみたが留守電になっていた。仕方ないので大通りのベンチに座って途方にくれていると、8時半過ぎにエージェンシーから電話が来た。場所がわからないというと迎えに行くから動かずに待ってろという。メールのやり取りをしていたニナがすぐ迎えに来てくれた。エージェンシーは大通りから歩いて3分ほど中通りに入った住宅の1室だった(看板も何もなくこれじゃ判るはずない…)。メールでは大見得を切って自力で行けるから心配しないでと書いただけに恥ずかしかった。
手配の支払いを済ませて、早速ガイドとドライバーと一緒にカズベク登山口の村カズベギへ出発する。ガイドはアルチというまだ21歳の真面目そうな好青年だった。トビリシで大学生をしているそうだ。途中、ムツヘタとアナヌリの教会も見学。ムツヘタはグルジアの最初の都が置かれた街。今は小さな村しかないが、教会は6世紀頃からグルジア正教の聖地でありグルジア人にとってとても重要な場所で世界遺産になっている。街の中心にあるジュヴァリ大聖堂は後で数多く訪れた教会の基礎になっており、雰囲気も荘厳。ここは是非行っておくべきだ。
車は十字架峠という2400mくらいの峠を越えてカズベギ村(1800m)へ下る。峠からカズベギにかけてはコーカサスの絶景が広がっている。目指すカズベク(5047m)も徐々に姿を現す。今日の宿は○○ゲストハウス(名前失念)という民宿にチェックイン。宿からはカズベギの谷を挟んでMt.カズベクの姿が雄大に望めた。前山の頂上にあるツミンダ・サメバ教会もチャームポイントになっており雰囲気がよい。しっかしコーカサスの山は高低差が大きくダイナミックだ。余りにも高すぎて登る前からちょっとビビってしまう。
この民宿のおじいさんはガイドのアルチの元先生(元軍医)だそうで、サンクトペテルブルクにも住んでいたことがあるそう。ソビエト時代の話を色々聞けて面白かった。グルジアについて何か知ってるかと聞かれたのでスターリンを知ってると言ったら、自分の親戚はスターリンに殺されたのだと複雑そうに答えた。アルチはスターリンのことをgreat killerと称していた。話題はロシアの南オセチア占領から北方領土は今どうなっているのかまで広がった。ちなみにオリンピックが行われるソチ、ソチと言う地名はもともとはグルジア語がオリジンだそうで、グルジア人は自分たちの領土だと思っているそうだ。ソチのすぐ隣のアブハジア共和国も事実上ロシアが占領している。改めて思ったが日本もグルジアもロシアと隣接しており、国土の一部を占領されているという点では同じ境遇なのだ。しかしグルジア入国初日からこんな濃い話をすることになろうとは思わなんだ。
今日はこのおじいさんの孫娘の誕生日で、パーティをやるから是非参加してくれと頼まれた(夜10時から!)。しかし自分は3時起きで時差ボケもあり疲労困憊、丁重にお断りして寝ることにした。夜中、凄まじい大声で音程外しまくりのハッピーバースデーの歌が聞こえてきた。時計を見たらなんと2時だった。凄すぎるよグルジア人。。。
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7/31(日) 第1日目 晴れ
07:10カズベギ〜13:20メテオステーション(3680m)
昨日は少し不安定な天気だったが、今日から3日間は天気は良いそうで安心である。食事をしてから7時過ぎに民宿を出発。昨晩は近所の人も巻き込んでのビッグパーティーに膨れあがり、3時まで続いたそうだ。アルチは2時くらいまで参加したそうでかなり眠たそう。。。
まずは前山の頂上にあるツミンダ・サメバ教会(2300m)を目指す。カズベギの村の上にあるゲルゲッティ村を過ぎると森の斜面になる。この辺りはマツムシソウがいっぱい咲いている。日本ではこんなに密集して咲いているのは見たことがない。森の木はダケカンバも沢山あり、まるで日本の山に迷い込んだような錯覚に陥った。民宿のおじいさんはこの森で秋にはマッシュルームがいっぱい採れると言っていた。最近ヨーロッパ・西アジア・アフリカの山によく登っているが、これほど木や花が豊富なのはコーカサス以外ではスロヴェニアの山だけだ。一気にこの山が気に入ってしまった。
サメバ教会の前で一気に視界が開ける。素晴らしい景色だ。この標高より上は放牧地帯となり、緩やかな丘陵地帯になっている。教会を見学してから上に上がることにする。教会には観光客もたくさんいるが熱心な信者も多い。修道僧・修道女の真っ黒な服装の方もちらほらいる。この国では敬虔なキリスト教徒が多いことをこの後も何度も思わされた。
教会からは尾根を少し登った後トラヴァースして小さな涸れた沢地形の中に入る。この沢は所々急登もあり息が切れるが、色とりどりの花に包まれている。マツムシソウ、ナデシコ、フウロ、シオガマ、アザミ、イワギキョウ、シオガマなど日本と余り変わらない花も見られるのは驚きである。まさかコーカサスがこんなに高山植物が豊富な地帯だったとは…
標高2900mで一度十字架付きのケルンのある峠に出る。ここでカズベク本峰がまたどどんと現れる。目指すメテオステーション(気象小屋)と、その前に横たわる大きなゲルゲッティ氷河も初めて拝むことが出来る。ここから氷河へ向けて斜面をトラバースしてゆくが途中に気持ちの良いキャンプサイトがある。ここではロシア人のパーティがキャンプをしており水着で日光浴をしていた。どうもバースデーパーティをやってるらしく、みんなで手をつないで輪になって楽しく踊っている。アルチはここはビーチか?と苦笑いしていた。結構寒いのだがさすがはロシア人。余談だがこのサイトには湧き水がありすごくおいしい。欧州にありがちな硬水ではなく、日本の山の水と同じような味がした。
標高3200mほどで氷河に入り、1時間ほどかけてナナメに登りながら横切ってゆく。傾斜は緩くクランポンは付けなくても安全である。気温が高いので氷河の上は水が縦横に流れている。ここで犬(ダックスフント)を連れたヒゲのおじさんに遭遇。なんとアルチのお父さんだそうでビックリした。息子が山に入るとのことで自分も入ることにしたそうだ。犬はさすがに氷河の上は冷たいみたいで人間や置いたリュックによじ登ってくる。そこでお父さんはおもむろに犬用の靴を取り出した。なんと準備が良い!!そもそも犬用の靴なんてあるんだ。でも暴れるので履かせるのにも一苦労… 氷河を渡りきるとモレーンのような小山があり登り切ったところがメテオステーションである。ほぼコースタイム通り6時間10分で登った。
メテオは結構混雑しており、ベッドのある部屋は満室。床だけの雑魚寝部屋になったが自分にとっては全然これで十分。テントの人も結構いたが、メテオは風の強い場所なのでひしゃげてるテントもあったりして結構大変そうだった。小屋は食事は出さないので自炊の必要があるが、アルチはパン、ハム、チーズ、スープの素などを沢山持ってきていて食生活は心配ない。ここで3泊することになる。翌日は高度順応日なのであとはノンビリ過ごして寝るだけだった。
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8/01(月) 第2日目 晴れ、強風
高度順応日
朝まで熟睡したが幸いにも高山病の症状は全くない。元々あまり心配はしていなかったが、どうやら自分は4000m以下では全く何ともない体になってしまった。10時過ぎに教会のある近くのピークまで登り、更に上の4000m地点まで足を伸ばした。やはり高山病の症状は出なかった。これで5000mまでの順応は大丈夫との確信を持った。昨年のダマヴァンド(5670m)を経験しているのも大きかったと思う。
午後からは全く暇なので、本を読んで過ごした。まだ読んでなかった伊坂幸太郎のゴールデンスランバー。文庫本を持ってきて大正解。この日は猛烈に風が強かったが良く晴れた。翌朝は2時起きなので19時には就寝した。
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8/02(火) 第3日目 晴れ、強風
3:10メテオステーション〜8:15カズベク山頂8:30〜11:30メテオステーション
2時におきて食事後すぐに出発。すでに多くのパーティーが出発しており、先々にヘッドライトの明かりが見えている。しばらくは氷河のフチを歩くがやがて氷河へと降りてゆく。クレバスが多いので早速アンザイレンする。カズベク本峰側からはひっきりなしに落石があり、暗いので様子が分からないだけに恐怖感がある。このあたり、落石が多いためか氷河が荒れておりヒドゥンクレバスも多い。一度アルチがクレバスに落ちかけ、その10分後くらいに自分も落ちかけた。両方とも小さな溝だったので落ちても大事は無かっただろうが、自分の落ちかけたクレバスは水が溜まっていたようで、両足を濡らしてしまった。
4500mのマイリ・プラテウの登りに差し掛かるとだんだん明るくなってきて一面の雪原になる。ここまで来れば安心で、あとは頂上直下の急斜面まで危険なところは無い。しかし烈風が吹き荒れておりいかんせん寒い。アルチは太陽が出たら休憩しようと言うが、北斜面に入るのでなかなか日が当たない。止まると寒いのでひたすら黙々と登る。
メテオを出て3時間半ほど休み無しで登り続けていた。4650mでようやくセッピの下に平らなポイントがありここで少し休んでクランポンを付ける。急斜面のトラヴァースが続いており、スリップすると危ないので本当はもっと早く付けたかったが、休めるポイントが無かったので仕方なかった。軽く食べ物を食べてすぐに出発する。
斜度は徐々に上がり、4900mでようやく山頂直下の鞍部に出る。ここは風が強烈で耐風姿勢を取っていないと飛ばされてしまうほどだ。あまりにも寒く、クレバスで濡らした足の指が凍傷になってしまうかと思った。アルチの声も全く聞こえないのでジェスチャーでの会話になるが、お互い多くを語らずとも言いたいことも分かってきていてスムーズに事が進む。「あうん」の呼吸状態だ。良いガイドに恵まれたものだと思う。ここまで来ればもう山頂は手に取るようで、アルチが喜びの雄たけびをあげる。
最後の3ピッチは45度の急斜面だ。支点を取ってトップロープで登るかと思いきや、雪の状態も良いのでこのまま登ると言う(条件が悪ければツルツルのアイスクライミングらしい)。多少恐怖感はあるが、クランポンが良く効いて問題なく山頂まで登れた。快晴の頂上は絶景以外の何物でもなく、到着して思わず「やった〜」と日本語で吠えた。
コーカサスの最高峰(ヨーロッパ最高峰でもある)エルブルース(5642m)は遠すぎて見えないが、山また山の絶景が広がっている。カズベクはコーカサスでは第6位の標高だそうだが、近所には5000m峰は全く無いのでとても眺めが良い。写真を取りまくる。アルチは山で亡くした仲間の写真を持ってきており、写真と一緒に撮影した。彼も喜んでいたことだろう。寒すぎてわずか15分ほどしかいられなかったが十分堪能し、下山にかかった。
帰りは頂上直下の急斜面と、氷河のクレバス帯は要注意だ。特にクレバス帯は落石も多いせいもあってルートファインディングが極めて微妙、高度な判断力が要求される。改めて思ったがこの山は一筋縄では行かず難しい。天気が良かったから良かったものの、悪ければ登れない可能性も十分あった。そもそもこの一帯の天候は悪いことが多いそうで、今回のように3日以上も晴天が続くのはまれだそうで今年は異常気象だそうだ。自分が登った中ではスイス・アイガーの次に難しかった。メテオで会ったガイドも口々にカズベクはエルブルースより低いが難易度は難しいといっていた。当初ガイド無しで登ることも考えていたが死にたくなければまずやめたほうがよい。
出発したのは5〜6番目くらいだったが途中で全部のパーティを抜かしてトップでメテオまで戻ってきた。小屋で仲良くなっていたトルコ人パーティたちが祝福してくれ、すごく早く帰ってきたと驚いていた。山頂までは5時間5分、戻りは3時間ちょうどだった。アルチも5時間5分というタイムは自分がガイドした中では一番早いと驚いていた。でもおそらく風が強くて寒かったからそうなってしまったのだろう。
幸い足の指は凍傷にはならなかったが、天気が荒れていたら危なかったかもしれない。ひと寝入りした後、メテオで他のメンバーも含め盛大なパーティとなった。アルチのお父さんはコニャックを持ってきており、勧められたので飲んだらムチャクチャ旨かった。皆口々に前口上を言ってから乾杯し、必ず一気に飲み干す。自分も調子に乗って飲んでいたが、酔いが回りすぎて最後はふらふらになった(標高高いので…)。すごすぎるよ、グルジアの山男たち。
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8/02(火) 第4日目 晴れ一時曇り、強風
10:30メテオステーション〜13:30ツミンダ・サメバ教会
山の最終日、前3日より少し雲が多いがなんとか晴れてくれた。今日は危ないところが全く無いのでのんびり下るだけだ。アルチは次のパーティのガイドがあるためメテオに残るので、ここでお別れである。代わりのガイド2人と一緒に下山した。花や景色を撮影しながら草原をのんびり下って行くのはとても気持ちが良かった。コーカサスの山々、ぜひまた来ることがあればいいなぁ。
ツミンダ・サメバ教会まで迎えの車が登ってきており、そのまま乗車してわき目もふらずに一気にトビリシまで帰ってきた。5時前に予約していたホテルにチェックイン。地下鉄でルスタヴェリ大通りまで出て、レストランでヒンカリとオーストリーとビールで一人で盛大に(?)打ち上げ。グルジアは食べ物もおいしいし女性は綺麗。もう言うことなし。
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8/4 ゴリ、トビリシを観光
8/5 マルシュルートカ(乗り合いバス)でアルメニアに入国後タクシーをチャーターしてハグパット、サナインなどの世界遺産の修道院を見学。首都エレヴァンまで移動。
8/6 泊まったホステル主催の日帰りツアーに参加、セヴァン湖、ノラドゥズのハチュカル、ゲカルド修道院などを見学。
8/7 未明にエレヴァン→ウィーン→フランクフルトと飛びようやく成田便に接続、翌朝無事成田に到着しました。
おしまい。
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