ワインエキスパート二次試験顛末
- GPS
- --:--
- 距離
- 1.0km
- 登り
- 3m
- 下り
- 23m
コースタイム
- 山行
- 1:20
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 1:20
天候 | 晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2018年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
危険箇所はありません。地図をよく見て道迷いのないよう気をつけるだけです。 試験室が入室可能になるまで座って待つところがないこと、トイレの数が受験者数に比べて少ないことに気をつけましょう。 試験会場の照明がやや暗めなので、飲料の外観の評価を難しく感じました。また自分のような老眼にはマークシートの記入や解答用紙に小さく書かれている文字の解読も少々大変でした。テイスティングは明るい部屋でやるのが正しいのですが、試験対策はまた別だなと感じたところです。 試験会場に口直し(?)の水を持ち込めないのですが、水はグラスに入れて提供されていました。 飲み物の種類は、白2種類、赤2種類、その他の酒1種類でした。 試験開始まで、グラスに触れたり、配布された紙類を載せてふたをして利することも禁止されています。でも外観は観察できます。 |
その他周辺情報 | 意外とお店が少ない |
装備
備考 | 2Bの芯を詰めたシャープペンシル。よく消えるプラスチック消しゴム。時計。水は持ち込めない。 |
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感想
(道迷い注意、無意味に長文です。また、本文中のテイスティングコメントは、筆者が当時感じたことをそのまま記述したものであり、正解ではありません。というよりかなり間違えてます。正解は日本ソムリエ協会のホームページをご覧になってください))
■当日の朝
1年間の修練で、ようやくここまで来た。猛吹雪のような1次試験(例:ブルガリアの土着ぶどう品種の数は?)を生き残り、ABCからとうとう山頂にアタックをかける日がやってきたような気分だった。
10日前には大型台風が関東を直撃し、午後8時をもってJRが首都圏の鉄道を全部運休にするという事態になった。その後もうひとつの大型台風が日本をかすめ、試験当日への影響が懸念されたが、幸い台風は試験前には日本を通過した。天気は晴れ、アタックには最良の条件だった。
夜明けと同時に宿泊地(実家)から、いつものようにジョギングに出て、行きつけの天神様に今日の日を迎えられたことを感謝した。
と、同時に鼻のコンディションをチェックした。ワインをやるようになって、自分の嗅覚に波があることを初めて意識した。他にはどこも具合を悪くことなどないのににおいがまるで取れないときがあることを発見したのだ。汗拭きシートや石けんなどに含まれる香料さえ感じなくなる日があることがわかった。そんな日に二次試験がぶつかったら大変なことになる。
走りながら、里山の土の匂い、くずの葉の匂い、多摩川河川敷のススキの匂いを感じて、体調は十分であることを確認してほっとした。
走り終えてシャワーを浴び、身支度を整えて、アタック前の最後の調整に臨んだ。アルザスリースリングと、ローヌのシラー。シラーの黒こしょうを筆者が唯一はっきり感じることができるギガルのクローズエルミタージュでうがいした。残ったワインはペットボトルに入れてかばんに詰めた。
■会場への移動
会場は目黒のホテル雅叙園東京だった。アクセスには新宿経由、渋谷経由、いくつか考えられたが、1年間修行に通い続けた自由が丘を通過し、大岡山から目蒲線もとい目黒線で会場を目指した。この1ヶ月間、一体何杯やっただろう?学校だけで108杯、自宅では空いた瓶がハーフ1本を含めて16本。テイスティングなので必ずしも全部飲んでいるわけではないが思い出しただけでも肝臓が痛くなるような量だ。テイスティングコメントも作るから頭も痛いのだが。そんなことを思い出しつつ、会場に。
駅ちかの商業ビルで一休みしてから会場を目指した。今時ならグーグルマップなど使いながら行くのだが、簡単な場所だから、地図で大まかな場所だけつかんでおけば大丈夫だろうと思っていたら、線路の反対側に出てしまっていた。鉄道の遅延を想定して、集合時間に余裕を持って目黒についてことが幸いした。暫く歩いたらそれらしい紳士淑女がぞろぞろ歩く列に合流することができた。
雅叙園に着いた。たぶん大学の先輩の結婚式以来だから約30年ぶりだろうか。新郎新婦が記念写真を撮る当時のままのようだ。そんな中、ぞろぞろと受験生の波は建物に向かった。途中学校の仲間と合流した。気持ちが和んだのもつかの間、最後の「暗記」に励んだ。対象はその他の酒。今まで口にしたこともないようなリキュール類、蒸留酒類が1ないし2種類出題される。数日前に、学校で並べられていたサンプルから香りを取って作った1枚紙を確認した。中身は、酒類の名前と、それぞれの香りを主観的に一言で表現したものだ。ワイン以外はテイスティングコメントを記入する必要はないので、香りを自分の言葉一言で表現したコメントと、酒類とがまとめられている。たとえば「透明でアニスシーズ(八角)ならOuzoかSambuca」のように。さすがにワインはもう今やれるだけのことはやりつくしたから、知識ものの一次試験とは違ってどうしようもないだろうという状態だった。
■試験前に最大のクライマックスがやってきた
試験開始20分前にようやく試験室の扉が開かれた。席は最前列。試験監督官の机の真正面だった。各席には白が2本、赤が2本、そしてはちみつまたは琥珀色の何かが1本すでに置かれていた。白ワインのグラスは結露していなかった。つまり最適供出温度ではないということだ。室温に近いということは香りを取る立場にとっては都合がいい。試験用の飲料のほか、吐き出すための紙コップ、口直し用の水の入ったグラス、解答用紙等書類一式が入って封された透明なビニール封筒が置かれていた。
着席してまず飲料を凝視した。白は、緑がかったレモンイエロー、赤は紫がかった濃いダークチェリーレッドで、いずれも外観から品種を判断することが一番難しいパターンだ。これは読み筋だった。
試験監督のかっこいいお姉さん(ワインエキスパートを目指す受験生にとってはソムリエ協会のスタッフは誰でも格好良く憧れの対象に見えるものだ)から、ビニール封筒の中身を取り出すように指示があった。赤いテープ上の帯封を切り、中身を引っ張り出したとき、最初のクライマックスが訪れた。
がしゃん、
勢い余って封筒から飛び出した書類が、赤ワインとその他の飲料に衝突した。グラスがゆっくりと傾き、テーブルの向こう飛び出していった。1年間の努力がここで終わりになってしまうのだろうか?でもテイスティングだけであればからのグラスでも香りが取れるから試験自体は何とか突破できるのではないか?ひょっとしてお情けで注ぎ足しがある?1秒の何分の1かの時間の間にそのような思いが駆け巡った。
しかし、体の反応は思考を上回っていた。
左手には取り出しかけた書類、右手にはビニール封筒。それらを手放し、両手を伸ばして、包むようにして傾いていくグラスの胴体を守った。辛うじてグラスの転倒を防ぐことができた。
グラスの安全を確保した瞬間、思わず「ああぶない」深いため息のような声を発してしまった。右隣の女の子まで悲鳴を上げた。思考よりも声よりも、手の行動が一番速かった。。
その他の飲料のグラスの内側には、琥珀色の液体がへばりついていた。粘性はかなり高い。
最悪の事態は回避され、試験前の緊張が戻った。
■試験開始、1杯目の白がすべてだった
最大の危機をどうやら回避し、気持ちを落ち着けなおすこと2,3分。試験開始の合図とともに、いよいよピークへの最終アタック、テイスティング試験が開始された。
1杯目の白。香りが取れない。ほとんど何も取れない。辛うじてミネラルとかんきつが取れる程度か。また、自分の嗅覚が不調に陥ったのか?しかし今朝のジョギングでは嗅覚は正常だった。特別体調を崩したわけでもない。
そうだとしたら、これはワイン自体の香りが立っていないということだ。香りの第一印象は「閉じている」「控えめ」。今までの訓練ではほとんど使ったことのない、そして本番では一番使いたくない表現だった。
そもそもテイスティングは、悪くなっているワインでなければ、ワインのよさをほめて場を盛り上げることが目的だ。香りはあまりないというような、ネガティブに取れる表現は避けたいのが人情だ。
しかし、ここはあえて自分を信じることにした。今日の大原則として、
(1)感じたままをコメントする(マークシートに書き込む)
(2)ワインを表現することに集中する
(3)品種・生産国などのクイズの正解にはこだわらない(わからなくても焦らない)
と決めてきたからだ。
粘性が結構あった割には、アルコール由来のアタックはあまりきつくなく、それでいて余韻が結構長かった。レモンのようなかんきつ類の香りと石灰のようなミネラルから、フレッシュに作られたタンク醸造のシャブリと判断して、2杯目の白のグラスを手に取った。1杯目の品種の見立てが間違えとわかった。
グラスを鼻に近づけただけで、樽を使ったシャルドネ、恐らくアメリカ産と結論されたのだ。これは解答用紙を埋めるのに時間はかからなかった。
シャブリも品種はシャルドネだ。理論的にはシャルドネを2杯出して来ることもなくはないが、そうしたかなりの変化球を、ワインエキスパートの試験で出すのは考えにくいではないか。こうした揺さぶりに引っかかって、また1杯目の白に戻ってしまったのだ。
戻って再び香りを取ってみると、かすかにパン(パン・ドゥ・ミ)を感じることもできる。最初は気がつかなかっただけで、もしかしてシュールリーしている?シュールリーしていれば、このレモンイエローの色調から考えればムスカデだろう。しかしシュールリーとして候補に挙げられるのは甲州だけだ。甲州にマークを付けた。しかし甲州はグリ品種だからもっと透明度が高いだろう。この緑がかった色調が出るのは考えにくい。そう思って香りを取り直すと、そもそも香りを閉じているとしたくらいである、パンが感じられたのは気のせいにも思えてきた。そうなると消去法だ。
シャルドネ、リースリング、ソーヴィニオン・ブラン、甲州、ピノ・グリ、トロンテスはないだろう。候補は、ヴィオニエ、セミヨン、シュナン・ブラン。どれも識別するだけの経験は持っていない。なんとなく、ヴィオニエとセミヨンは、もっとフルーツの香りが華やかに取れるような気がした。結局自分の見立てとしては、1杯目の白は南アフリカ、シュナン・ブランとした。
時計を見れば、残り時間20分。50分の時間を2杯で30分も使っている。時間切れでしくじるパターンだ。今までの練習では1品目6分くらいでテイスティングコメントを書いていた。要するにガサツなだけなのだが、スピード重視の自分にとっては信じられない大ブレーキだ。もう赤をじっくりやっているだけの時間はなく、普段のペースで強引に答えを出していくしかない。
3杯目、4杯目とかなりしっかりしたダークチェリーレッドだった。粘性もかなりあり、よく熟したぶどうで作った力強いワインのようだ。
3杯目も1杯目と同様、見当がつかなかった、再び消去法だった。ピノノワールとガメイ、サンジョヴェーゼはすぐに消した。メルローとカベルネソビニオンも、ハーブ、土が感じられずに候補から消した。テンプラニーリョにしては、樽が強く感じられない。ジンファンデル、シラー、グルナッシュの中のどれかだろう。しかし、ジンファンデルとシラーなら、そうと感じるような香りや味わいを取れるはずだ。ジンなら干しぶどうのような力強さ。シラーなら胡椒は取れなくても、ある種のスパイス感を香りに取ることができるのではないか。このワインはどちらかというと、フルーツ、黒いベリーが取れつつもジンファンデルほどの濃さはない。結局残ったのはグルナッシュだった。生産地は、コートドローヌ南部だろうと当たりをつけた。
4杯目はいきなり香りを取った段階で梅干キャンディーを感じて、ジンファンデルだと結論した。樽は少し感じる。アメリカだろう。3杯目に比べると熟成感が少し出ているけれども、色調からするとまだまだ若い。ポテンシャルは高いだろう。今飲んでもとてもおいしいワインだし、少し寝かせてもまだまだ発展できそうだ。
5杯目はその他の酒。琥珀、香りをとったら草。試験直前の条件反射訓練にしたがってドランブイ。即答だった。何とか間に合った。
残り5分くらいだ。マークシートの個数を数えた。案の定、規定の個数をオーバーしている箇所があり、肝を冷やしつつ、修正した。マークをつけすぎるとその項目は0点になってしまう。
何とか最終点検を済ませたので、最後の儀式に移ろう。それは水以外の出された飲料をすべて飲むことだ。そして出された飲料はテイスティングで吐き出すにはもったいないほどの素晴しいワイン、そしてドランブイだった。じっくり味わいたいけれども、もう時間がない。ほとんど一気飲みのようにしてグラスを空けていった。
■残り一分を切り、最後のドラマが
試験監督から「残り1分です」のアナウンスがあった。1年間の訓練、BCで高所に慣らすかのようなテイスティングと問題演習の日々、朝から晩まで、会社にいるとき意外はワインそのたの酒漬けだった試験直前を静かに振り返りつつ、最初の白の、空のグラスを手に取った。今日はこれがすべてだったなあと香りを取った。なじみのある香りが空のグラスを満たしていた。
これ、リースリングじゃん。
もうテイスティングコメントを組み立てなおす暇はない。このミネラル感ならアルザスだろうからフランスリースリングと結論したいところだが、もう生産国まで直すのはリスクが高い。あわてて消さなくていいところを消したことに気がつきあわてて修正する。もうシュナン・ブランをリースリングに辛うじて直し、それ以上のリスクは取らないと決めたところで。「試験終了」の合図。かくして、自分の1杯目の見立ては、南アフリカ産のリースリングという、余り聞かない興味深いワインということになってしまったのだ。
■そして静かに終わる
解答用紙が回収され、二次試験が終了した。右隣の受験生に話しかけた。
「悲鳴上げていらっしゃいましたね」
「あれで緊張がほぐれました」
もしも緊張を和らげる芳香に役立ってくれたのなら、光栄だ。お互いに
合格を祈念しあって別れた。
結果はともかく、やり尽くした気分だ。大学受験のときにも匹敵するほどの
完全燃焼感だった。もう結果がどちらに出ても悔いはないだろう。
ホテル雅叙園宴会場の階段、エスカレータは大量の受験生を一気に裁くほどの容量がない。暫く待たされそうだ。一旦出た試験会場にまた戻り、適当に空席に座って時間調整してから、おもむろに引き揚げにかかった。クラスメートと偶然ご一緒させていただくこととなった。少し歩いたところのおそば屋さんで、おそばとビールで打ち上げた。
■でも、まだ終わらない?
帰りの高速バスを待つために、大丸デパートでパンなど買っていたら。催事場で世界のワインとチーズフェアなるものが開かれているという。そのまま会場へ行き、「試飲」再開。しかも夕方になると特設ワインバーで高級ワインが飲めるという、居残りたかったが、バスの時間があるため泣く泣く見送った。
その代わり、二日後出張で東京へ再度出てきた帰りに立ち寄り、シャトー・ムートン・ロートシルト1989年をグラスで頂くことができた。偉大なワインとはこういうものなのかということを思い知らされたのであった。
■終章
その日の夕方には正解が発表されていた
1.ドイツ、リースリング、2016年
2.オーストラリア、シャルドネ、2015年
3.日本、メルロー、2014年
4.フランス、グルナッシュ、2013年
5.ベネディクティン
5が納得いかなかったが、後日ベネディクティンとドランブイを飲み比べたら、確かに試験に出たのはベネディクティンであった。
そして、10月22日の午後5時に合格者がソムリエ協会のWEBに発表された。結果を見るのが怖くて、先に配点を見て、品種、生産国、収穫年がそれぞれ2-3%の配点であることにさらに緊張が増したのだが、半面結果を知りたいという欲望も抑えがたく、ちら見のような要領でスクロールていくうちに、、自分の受験番号が画面の真ん中に飛び込んできた。
コメント
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ソムリエには憧れているのですが、表現力と記憶力がなく、致命的なことに吐き出すことができないので諦めています…。
他ならないKilkenny さんからお祝いの言葉を頂戴してありがたいです。
私も吐き出せない人でした。試験本番も吐き出しませんでした。私の先生も吐き出せない人でしたから大丈夫ですよ。
仕事で100杯テイスティングするとかでなければ。
takahashisunさんは、どうしているだろうか??と覗いてみたら、粋な記録がありました。
ステキな趣味(仕事?)をお持ちなのですね。
読んでいるだけで、芳醇な香りがしてきて、酔いがまわってしまいそうな、ゴージャスなレコでした。
(*^-^*)
身に余るコメントをありがとうございます。
この「登頂」に気をよくして、ビッグクライム(?)に
挑みましたが、惨敗でした。近々惨敗の山行(?)記を
アップする予定です。
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