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Yamareco

記録ID: 25767
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
朝日・出羽三山

月山(姥沢→八合目)

2004年08月06日(金) 〜 2004年08月07日(土)
 - 拍手
やっさん その他15人
GPS
23:30
距離
8.4km
登り
505m
下り
611m

コースタイム

姥沢リフト駅(1500m)10:30〜牛首〜頂上小屋13:30(泊)6:30〜八合目10:00
過去天気図(気象庁) 2004年08月の天気図
アクセス
コース状況/
危険箇所等
研修会 6日の登りは台風11号崩れで嵐でしたが7日は晴れて高山帯のお花畑と湿原のオゼコウホネなどの観察。外見は楯状火山だが実は石英安山岩を主体とした成層火山が西に爆裂・崩落したのだそうだ。西から見るとカルデラ壁の成層構造がわかる。
山頂からの日の出

感想

 花の名山として知られ、また山岳信仰の山として松尾芭蕉も「奥の細道」の途中に立ち寄ったとされる出羽の名峰である月山に、私学の先生方と13人で登る機会を得た。月山頂上小屋のご主人で、写真集「月山花賛歌」を出版されている芳賀竹志先生に案内していただいて火山地形、植物の垂直分布、環境と植生の関係などの勉強することができた。
 
1・行程
 8月5日(木)の8時に市ヶ谷に集合し東北道・山形道を通って志津に入る。翌日登る月山、姥が岳、湯殿山が遠望できる。夕食時に斉藤報恩会自然史博物館の山崎裕先生に博物館学芸員の仕事などについてお話しいただき、夜は芳賀先生のスライド映写で勉強。
 台風11号崩れの低気圧が日本海で前線を発生させているため、6日は霧と強風で展望が効かなく、上下の雨具をつけて出発。リフトで1500mまで昇り1984mの山頂をめざす。先は見えずとも足元に咲くチングルマ、ニッコウキスゲ、ナンブタカネアザミ、シラネアオイなどの花々が慰めとなる。風雨が強まり午後は山頂小屋で停滞。
 7日は天気も回復し、4時半に起きて日の出を眺め、6時半に出発。高山帯と湿原の植生を観察しながら八合目まで下る。
 下山後に、鶴岡市にある慶応義塾大学先端生命科学研究所を訪問し、所長の富田勝先生のお話をうかがって所内の設備を見学した。13時半発、東京に戻り20時解散。

2・山岳信仰の山
 出羽三山(羽黒山・月山・湯殿山)の開山は推古元年(593年)崇峻天皇の皇子である蜂子皇子といわれ、主峰である月山頂上に建つ月山神社の祭神である月読命は天照大神の弟で、夜の世界を支配する神として広く信仰を集めている。またこの山は羽黒派修験道の山伏修行の場としても有名である。八合目に向う途中でも、先達に導かれた白装束の団体といくつも出会ったが、それが年寄りばかりではなく、むしろ半数以上が若い男女を中心とした集団であったのが意外であった。通過儀礼としての「出羽三山奥詣で」の風習によるものであろうか。
 松尾芭蕉も出羽路の途中で月山に登頂したという記述が「奥の細道」にあり、旧暦の6月といえばまだ雪も残り、花を愛でるゆとりもなかった様子が見て取れる。彼は他の山には登ることなく、この月山が生涯の最高標高であるそうだ。

「六月八日、月山にのぼる。木綿しめ身に引かけ、宝冠に頭を包、強力と云うものに道びかれて、雲霧山気の中に氷雪を踏てのぼる事八里、更に日月行道の雲関に入かとあやしまれ、息絶身こごえて、頂上に至れば、日没て月顕る。笹を鋪、篠を枕として、臥て明るを待。日出て雲消れば、湯殿に下る。」
   雲の峯 幾つ崩て 月の山

3・月山の地質と地形
 月山は山形盆地と庄内平野の間に南北方向の稜線をもち、北の羽黒山から南にほぼ八里(32km)、しだいに標高を増して山頂に至る。東西から見るとなだらかな山容であるため一見楯状火山とも思えるが、南から眺めると東側の緩斜面にくらべて西側は急斜面であり、この急斜面は35万年前から噴出を始めた石英安山岩を主体とした成層火山体の西側が爆裂・崩壊した結果あらわれたカルデラ壁である。そのカルデラの中心の雨告山や山頂の小さな溶岩円頂丘も火山地形の観察としてはおもしろい。氷河によるカール地形は山頂の東側などで観察される。
 気象条件としては、冬季に北西季節風を受けるため、西側は強風に巻き上げられて雪は少ないのに対して東側の緩斜面は吹き溜まりになって20mもの積雪となり、この雪融け水は湿原を潤すとともに最上川の水源となり、また、1600m以上では夏でも広い雪田を残す。
 この特殊な地形と降雪によって、西側では乾性の風衝地となり、標高1300m以上で通常見られるシラビソやコメツガなどの風に弱い針葉樹を主体とした亜高山帯を欠いており、東側は全体的に湿性で、特に夏に雪田の融解・後退にともなってその周辺には特徴的な雪田植生を見ることができる。また、舌状の溶岩流の先端は「行者返し」などの急崖となるが、その後方の平坦地には広く何段もの湿原を形成しているのである。

4・月山の植生
 植物の生育はその環境である基盤岩の組成、土壌、温度、水分、風などの影響を受ける。月山においても西側には耐寒性、耐乾性の強いツガザクラ、ガンコウラン、イワウメが、東側には湿性のヒナザクラ、エゾシオガマ、チングルマ、シロバナトウチソウが、山頂の台地ではその中間のミヤマキンバイ、キオン、ハクサンフウロ、ハクサンイチゲ、シラネニンジン、ハクサンシャジンなどがみられた。湿った凹地に生息するコバイケイソウは今年は少し咲き始めており、来年は七年ぶりの一斉開花が期待される。氷河期の生き残りとされる湿原のオゼコウホネの花も観察することができた。
その他、三種類のアザミ(羽後薊・南部高嶺薊・深山奥北薊)の生育地や形態の違い、荒廃した植生がトウゲブキなどの播種・移植によって修復されつつある状況、などに注目して歩いてきた。

5・山のトイレ事情
 山での排泄物の処理といえば最も単純には斜面への垂れ流しや穴を掘っただけの地下浸透型であり、こうした山小屋も多く残っているのだが環境や水質汚染、悪臭などの問題からさまざまな工夫がされるようになっている。
 非浸透型の場合は便槽に溜まった屎尿を人力やヘリコプターで麓に下ろすことが必要であるため小屋によっては自分の糞は自分で持ち帰るという方式もあり、今回通過した月山頂上小屋はヘリコプターで下ろすということであった。
 それとは別に近年普及しているのは自己処理型のバイオトイレとよばれるものであり、これは糞尿をおがくずと混ぜて攪拌し、微生物の作用によって無機物に分解し、水分はその際の発熱によって蒸発させようというものである。仏生池小屋はこれを採用していた。このタイプの場合、発酵槽の温度を維持するヒーターと攪拌するためのモーターのために電力が必要となる。以前は排泄したあと自転車漕ぎで撹拌したり発電しなさいなんて小屋もあったが、最近は太陽光発電、風力発電、小屋によっては石油を燃やす自家発電によってこの電力をまかなうようになってきている。
 上下水道が完備している都市で生活しているとなかなか気づかないことであるが、もし水道が止まったら、と考えるとその汚物処理だけでも人間自体が環境を汚染する存在であることに思い至るはずである。

6・慶応大学研究所の見学
 2001年に慶応大学が鶴岡市に開設した先端生命科学研究所を訪問した。いわゆるバイオ分野の研究所であるが、研究の他にも湘南藤沢にある環境情報学部の学部生の希望者が半年の間、付属の宿舎で宿泊しながら実験を中心に学んだり、付属高校や市内の高校生を対象に二泊三日のバイオ体験実習を実施しており、当日はその最終日ということで高校生がデータ解析を行っているパソコン室を見学することもできた。
 所長の冨田勝先生のお話によると、覚えるよりもじっくり考えてアイディアを出す学生を養成したいとの理由で都心とは離れた鶴岡市に設立し、実験の合間にリラックスできるビリヤード場やスパも設置したとのことである。この学部は早くからAO入試を取り入れており、発想豊かな学生を求めているとのことであった。

7・おわりに
 自然科学、特に地学と生物分野における現地での観察の重要性は論を俟たない、ということで自分自身は趣味である山歩きの傍ら地形・地層や植生に注意を払うようにしているところである。
 低山で表面が土壌に覆われているとなかなか地質は見えにくいものであるが、火山や褶曲山脈の基盤岩の風化・浸食・土壌形成の程度と、そこに生育する植生との関係は大変に興味深いものである。2002年以降では南アルプスの白峰三山や鳳凰山、日光方面の男体山・白根山・女峰山・高原山、尾瀬の燧ケ岳・至仏山や湿原、箱根の外輪山と中央火口丘、その他に筑波山、那須岳、榛名山、雲取山、金峰山や奥多摩・丹沢・奥武蔵の山々を歩いてきたが、今回は研究所の企画によって山形まで出かけることができた。
 なお、この月山以降も会津の磐梯山、谷川岳などを精力的に歩く計画であり、今後とも趣味と実益を兼ねて山歩きを続けていきたいと思っているところである。

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