メキシコ最高峰 ピコ・デ・オリサバ(5699m)

コースタイム
天候 | 1/2 晴れのち雪 1/3 小雪のち晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2013年01月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
アクセス拠点はプエブラが便利。プエブラはメキシコシティの東120キロほどにある大都市で、バスターミナル(CAPU)へはメキシコ各地からバスの便がある。登山拠点のあるトラチチュカの村まではCAPUから2等バスが出ている。VALLES(ヴァレス)という会社が運行。ターミナルの隅っこにありわかりにくいので、見つからなければAU社の窓口でもチケットを取り扱っているのでここで聞くと良い。バスの本数は45分に1本と多いが、非常に混むので寸前だと乗れずに1本後になる(なので、早めに並んでおいた方が良い)。料金はプエブラ⇔トラチチュカで片道N$58(約350円)。所要時間は2時間。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
[ルート概要] ピエドラグランデ小屋から目の前にある大きな涸沢をつめる。沢のどん詰まり(4900m)からハマペ氷河末端のある上部台地(5000〜5200m)まで部分的に氷で覆われたアイス帯を登る。台地を歩きハマペ氷河に取り付く。氷河は頂上へ向けてひたすら直登するだけで、外輪山にある山頂(5699m)に到達する。以前とられていた氷河の末端を時計回りに巻くルートは氷河が後退しているため閉鎖されている(地球温暖化によるとのこと)。標準タイムは小屋から往復12時間おとのこと。午後に天候が崩れることが多いとのことなので、夜間に登山を開始する。 注意する箇所としては、アイス帯の処理(ここが一番危険)と、ハマペ氷河上部で斜度が45度ほどにもなるため、滑落に十分配慮のこと。また、下部の涸沢はひっきりなしに崩れているため、道が安定しておらず迷いやすい。アタック前日、明るいうちに十分下見をしておいた方が良い。また、山頂部は非常に寒い(-20℃)ので防寒対策は十分に。 [登山手配] トラチチュカのバスターミナルから歩いて2分のところにセルヴィモント(Servimont)というエージェンシーがあり、ここに手配を頼むのが便利。アメリカ人のレイエス氏が経営しており、親切に相談に乗ってくれる。登山口のピエドラグランデ小屋(4260m)までのジープ送迎、ガイドの手配、ガスカートリッジの購入(日本のEPIやプリムスと同じタイプも有り)、飲み水の入手なども世話してくれる。また、セルヴィモントには古い石鹸工場を改造したドミトリーを併設していて、宿泊出来る。ちなみに私の場合、ジープ往復、ドミトリー1泊、夕食×2、朝食×1で合計US$160だった。 [買い物] トラチチュカの村でチョコレート・ビスケット・野菜程度の食料品は入手可能。マンダリンやパパイヤなど果物がとてもおいしいので、村で仕入れてゆくことをお勧めする。 [その他] ピエドラグランデ小屋の水場は乾期は枯渇している。水はすべて下から持ってゆく必要がある。 |
写真
感想
12/31(月) 登山拠点のトラチチュカまで: 晴れのち曇り
前日までオアハカ周辺を観光していたので、この日はバスでオアハカからプエブラに入った。プエブラの巨大なバスターミナル(CAPU)でトラチチュカ行きのバスをなんとか探し出し乗車。このバスは2等車なので、途中で物売りが乗ってきたり、ギターを持ちこみで歌を歌ってゆく人がいたりして楽しい。2時間ほどでトラチチュカにあっさり到着してしまった。
ピコ・デ・オリサバに登るにはトラチチュカにあるセルヴィモント(Servimont)というエージェンシーに頼むのがよいとの情報を得ていた。到着して早速その辺の人にセルヴィモントはどこだ?と聞いてみるが誰も知らない。仕方が無いので適当に歩き回ってみるとすぐに看板を発見。バスターミナルから見える距離だった(なぜみんな知らんのだ?)。呼び鈴を鳴らして中に入れてもらう。早速レイエス氏が現れたので、山に登りたい、でもガイドをつけるか迷っている、と率直に相談してみる。氏いわく、氷河を登った経験があればガイドは不要、一人でも大丈夫だろうとのことだった。多少不安はあったが、自力で登ることにして、ピエドラグランデ小屋までのジープの往復のみ手配をお願いすることにした。十分注意するよういわれたのは2点。氷河下の4900mのところにあるアイス帯の処理と、氷河上部の急斜面である。この2箇所は滑落要注意とのことだ。アポ無し訪問にもかかわらず、レイエス氏はコース全般から小屋での生活面に関してまで、親切にアドバイスをしてくれた。何より今までたくさんの登山者を見てきたであろう人柄が信頼でき、登山に対する不安もだいぶ解消された。
セルヴィモントには宿もあるため、この日はここに宿泊した。古い石鹸工場をそのままドミトリーにしてしまったというヘンテコリンな宿泊所である。博物館にそのまま泊まりこんでいるような感じで妙だったが面白かった。食事はレイエス氏の娘さんが作ってくれ、この日はクリスマス特別料理とのことで海老とホタテのパスタだった。大変美味で登山前に英気を養うことが出来た。
この日は大晦日のため、町中が新年のお祭り騒ぎで夜3時くらいまで花火や音楽で大騒ぎとなって参った。あまりにうるさく、ようやく眠りにつけたのは朝方になってからだった。
1/1(火) 登山口のピエドラグランデ小屋まで: 晴れのち曇り
朝10時にジープで出発。砂だらけの埃っぽい悪路を1時間半ほどで標高4260mのピエドラグランデ小屋に到着。ここが登山口になる。シーズン中なので小屋は混雑しているかと思ったがそうでもなく、この日は明日登るというドイツ人パーティ2人と、私と同じ日に登るというロシア人女性(+メキシコ人ガイド+コック)だけで余裕があった。
この日は何もせず高度順応に徹したが、非常に寒くてほとんど寝袋に包まっていた。高山病の症状は出なかったが、どうも風邪を引いて発熱してしまったようだ。ガッツリ着込んでいるのに寒気で震えが止まらなかった。
1/2(水) 高度順応日: 晴れのち雪
10時間以上たっぷり寝たため、体調は回復傾向。高山病の症状も相変わらず出ず、頭痛も全く無い。いい傾向である。この日は4900mのアイス帯まで往復する簡単なハイキングを行った。翌日の夜間登山の下見も兼ねてだが、道がはっきりしないところも多くて暗い中では難しそうだった。アイス帯もレイエス氏が指摘したように確かに危険そうだ。雪は完全に氷化しているため歩行用のピッケルでは歯が立たない。危険なところをうまく避けるルートファインディングが試されるところだ。ルートをどう取るかのイメージは頭に十分叩き込めたが、暗い中で大丈夫だろうかという不安は残った。登っている途中に、下山してきたドイツ人パーティとすれ違った。山頂まで行ってきたそうで、上機嫌だった。今日は天気がよくすばらしい景色だったそうだ。
小屋までの下り。何故かとてもつらかった。やはり体調がまだおかしいみたいで、腰から太ももにかけて筋肉に力が入らない。結局、登りとあまり変わらない時間がかかって息も絶え絶えに小屋に戻ってきた。明日こんな状態だとやばいなと思った。更に昨日からずっと食欲も無いまま。何も食わないと体に良くないと思い、ご飯とレトルトカレーを無理やり食べた。軽い吐き気もする。ただ、何故か頭痛の症状が全く無いのは救いだった。
ドイツ人が予告していた通り、天気が夕方になって悪化してきた。小屋周りでもガスがかかってホワイトアウトになり、雪も降ってきた。体調の悪さも考えると明日は登るのは無理かもしれないなと思いながら眠りに付いた。せっかくメキシコくんだりまで来ながら、なんて運が無いんだろうと呪いたい気分だった。
1/3(木) アタック日: 曇りのち晴れ: ピエドラグランデ小屋01:45〜05:50上部台地06:15〜08:05山頂08:20〜12:20ピエドラグランデ小屋
1時前に起床。驚いたことに昨夜の悪天はあっという間に回復して月も見え始めている。ロシア人+メキシコ人ガイドは躊躇無く出発した。自分も20分遅れで後を追う。時折雪が舞ってくるものの天気は回復傾向。そして昨日に比べて体は明らかに軽く、快調に進む。どうやら体調も回復したみたいだ。4900mアイス帯手前でロシア人を抜かし、クランポンを装着してそのまま登り続ける。幸いにもアイス帯のルートファインドはうまくいき、危ない目には遭わず上部台地に出ることが出来た。いったんクランポンは外し、そのまま前方に白く浮かび上がっている氷河を目指して進む。台地の踏跡は明瞭で、氷河末端までたどり着くことが出来た。ここでクランポンを再装着。広大なハマペ氷河を登り始めた。氷河の上はガスが発生しており時々ホワイトアウトになる。日の出もまだなので真っ暗の中のホワイトアウトは恐怖以外の何者でもない。不安に襲われるたびに後ろを振り返りロシア人たちのヘッドライトの明かりを確かめる。彼女らも登頂を諦めていないようで安心する。だが登りはまだよいが、この天気のまま下らなければならないと道迷いの危険が高くなる。果たして無事に下山できるだろうか?
山頂が近くなると死の世界に突入していることが如実に感じられてくる。氷河の斜度は45度ほどにもなる。いったん滑り出したらおそらく止まらないだろう。ロープ確保のない単独行ではスリップ=死である。一歩一歩につき細心の集中力が要求される。気温も低くなり、霧の粒子が付着して全身が真っ白になってしまった。何もかも凍りついている。標高も5500mを超え、息苦しさも半端ではない。10歩歩いてはピッケルで支点をとって休憩を繰り返す。行けども行けども景色は単調で精神的にもつらいが、頂上のない山はない!と言い聞かせ、頑張って登る。そして傾斜が緩み、いきなり頂上に出た。小さな噴火口の淵の一角が狭い山頂になっていた。ついにメキシコの最高点、ピコ・デ・オリサバ5699mの頂に立つことが出来た。そして、山頂に出たとたん晴れた。いままで霧に覆われていたため、これはうれしかった。遠くにメキシコ第2位のポポカテペトル5426m(登山禁止。昨年大噴火した)や、高度順応に使われる4461mのマリンチェ、そして登山口のピエドラグランデ小屋も遥か下に眺めることが出来た。何よりこの山は高度感が抜群である。山頂付近の斜度がすごいので、まるで空中に立っているかのようだ。写真を撮ると飛行機から撮ったようになってしまう。
太陽を浴びてはいるがあまりにも寒い。食べ物を食べてもアゴが凍り付いてちゃんと噛むことが出来ない。仕方ないのでテルモスのお湯で何とか流し込んだ。水筒の水やジュースも凍ってしまってシャリシャリだ。やはりここは死の世界。15分ほどで山頂を辞すことにした。すぐにロシア人とメキシコ人ガイドも登ってきた。メキシコ人は明るい人で、こんな状況でも「コンニチワ〜」と陽気に叫んでいた。彼らがいなかったらあの暗いホワイトアウトの孤独に耐えられなかったかもなぁ。天気はこのあと快晴になったため、氷河も迷わずに方向を見定めて降りてこられた。その後のアイス帯にはルートファインドで難儀させられた(結局、ここが一番の難所だった)が、安全第一でゆっくり下り、事故はなかった。昨日下りで筋肉に力が入らなかった症状も無く、快調に下りつづけ、小屋に着いたのは出発後10時間半後だった。終わってみればとても順調なアタックであった。
1時過ぎにジープが迎えに来たので、トラチチュカまで戻った。あまりに疲労が激しいので、この日は石鹸工場にまた泊まる事にした。熱いシャワーを浴びたら生き返った気持ちだった。この日、ワシントンDCから来たというアメリカ人のご婦人2人と食事で一緒になった。旦那たちはピコ・デ・オリサバに登りに行ったそうである(ひょっとして登山道で会っていたかも?)。メキシコにはたまに旅行に来るそうで、このセルヴィモントに泊まるのも2回目だそうだ。山から下ったらようやく食欲も戻ってきて、この日はたらふく食った。今回の登山は天気や健康面など色々な障害があったものの、モチベーションを低下させることなく登頂まで出来て本当に良かった。
1/4(金)
トラチチュカ→プエブラ→メキシコシティ→グアナファトとバスで移動。
1/5(土)
グアナファト観光(グアナファトの街はまるで中世欧州! ここは観光にぜひお勧め)
1/6(日)
グアナファト空港からロサンゼルス経由で日本へ帰国
相変わらず、精力的に登っていますネ!
感心した次第です。
私の方は最近は、静岡百山を精力的にやっています。
今回は健康面が万全でなく苦労しましたがピークハント充実した山旅でした。
静岡百山ぜひ登頂してください。応援しております。
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