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Yamareco

記録ID: 31677
全員に公開
積雪期ピークハント/縦走
アジア

カムチャッカ アルネイ(2581m)、シヴェルーチ(3335m) ‌

1997年03月03日(月) 〜 1997年03月24日(月)
 - 拍手
コース状況/
危険箇所等
1997年3月3日−24日

隊長 銭谷竜一(90入部)

登攀隊長 石崎啓之(90入部)

隊員 

吉田みゆき(93入部)

小野寺純(93入部)

山崎真実(95入部)

深田直之(山スキー部94入部)

新井英二郎(水産WV部)
経緯 ‌
1996年4月;第三次隊結成 ‌

隊の方針

・アプローチに犬橇を使用する。

・1997年春を登山期間とする。

・現役部員をメンバーとする。

・半島北部地域を登山対象とする。

第一次、第二次の遠征では極東山岳研究会以来の千島・カムチャツカ山岳地域研究と情報収集の成果を実践し、また今後継続的に同地域での登山を行うための先駆的役割を果たした。この2度の遠征が行われた9月や6月は天候が最も安定した時期ではあるが、広大な湿地、森林やツンドラを通過する陸路でのアプローチは困難であり、ヘリコプターを使用せざるを得なかった。しかしそれは「広大な大地での山旅」といえないだろう。そこで、隊の基本方針として、アプローチはできるだけ地上を進むこと、荷物は犬橇を使って運搬することとした。
9月;Kamchatka Adventures社とcontactをとる。 ‌

以降、電子メールで交渉を進める。交渉を進める中で、カムチャツカの犬橇事情がわかってきた。

・カムチャツカでも荷物を引く犬ぞりはもう使われていない。

・スポーツとしての犬橇レース用の犬なら揃えることはできる。

・犬では樹林帯のラッセルはできないので、雪上車もしくはスノーモービルで圧雪したトレースを使わなければならない。

・犬はヘリコプターで運搬しなければならない。

以上のような事情では当初想定していた「山旅」とは異なったものになってしまう。どうせ機械を使わなければならないなら、潔く使おうではないか、とあきらめることになった。

半島北部のクリュチにはロシア軍の基地があり、この町より北は未だ外国人立ち入り禁止区域らしい。そこで対象を中央山脈のアルネイと、クリチェフスカヤ山群南方のトルバチクとした。
12月;山岳部以外にもメンバーを募集し、深田、新井両名が加わる。 ‌
行動記録(石崎) ‌
ハバロフスク〜ペトロパブロフスク〜アルネイB.C.まで ‌

3/3

極寒の地ハバロフスクをあとに、ペトロパブロフスクへ向かう。ハバロフスクでこの寒さでは、カムチャツカはどれだけ冷え込むことか、内心やや不安である。しかしそれは取り越し苦労というもの。ペトロパブロフスクの空港のあちこちに出来た水たまりは凍っていなかった。気温は札幌とそう変わらないのだ。空港にはアドベンチャーのミーシャが出迎えてくれた。荷物を受け取るとさっそくホテルに向かう。ホテルで夕食前に、ミーシャと今後の行程についての打ち合わせをする。アルネイの登頂ルートやなんかを拙い英語でああだこうだと言ってたら、シベルーチも登れる可能性があるなんていう話しも出てきてびっくりする。シベルーチは入山許可がおりないとかで、諦めていたのである。

3/4

カムチャツカは大陸性の気候で雪はあまり降らないなんて話を聞いていたのだが、この日は湿雪のそぼ降るなか出発である。ミーシャが用意したトラックはいかにもロシアという味わい深いもので、基本的に人間を運ぶようには出来ていない。満載された荷物の上を越えると、かろうじて人が座れるスペースがある。入り切れなかったコックのゲナは荷物の上に寝転んでいる。車窓から見える山々は、十勝や東大雪を思わせる山容である。夜も更けた頃コズィレフスクに到着。村の民家のひとつが今夜の宿である。

3/5

クリュチに向かう途中で、クリチェフスカヤが雲の合間に顔を出す。噴煙をもくもくとあげた姿はなかなか愛敬がある。はじめ人間ギャートルズに出てきそうな感じだ。お昼頃クリュチに到着。ここから先は雪上車に乗り換えて前進するものとばかり思っていたのだが、どうもトラックで強行突破するらしい。雪解けでところどころ顔を出した湿原の中をのびる林道をつたって、トラックはうんうんと唸りをあげる。車体は激しく揺れ、荷物の上に寝転がったゲナは、傍目には危なっかしいのだが、本人は「なーみーはどんぶらこっこ」てな感じの歌を歌って平気なものである。途中でスノーモービルのアンドレと合流して、さらに先へと進み、日も暮れかかろうという頃ついにトラックでの前進は不可能となる。

ここからは、荷物はモービルでピストンして、空身でベースキャンプを目指すことになる。この先の温泉小屋をベースにするという話である。「4〜5キロだから一時間もあればつくよ」というガイドのバレリィの言葉をまにうけて、ラテルネひとつぶらさげてスキーをはいて歩き出す。ところが、行けども行けども温泉などありもせず、へとへとになって辿り着いたのはすでに10時も回った頃か、荷物の運搬はなおも夜っぴいて続けられ、飯も居合わせたハンターに分けてもらうような始末。温泉には小屋が三つあるが、そのうちひとつは傾いて使い物にならなくなっている。残りの二つを我々とロシア人スタッフが別々に陣取った。
アルネイ峰 ‌

3/6

昨夜の到着が遅かったので、今日は軽い偵察のみとする。空身でルートを探り、今日中に装備と食料をモービルで途中まで運んでしまうつもりである。昼頃出発してキレフナ川沿いに適当に進んでいく。天気は上々、ジャンパーでは暑いぐらいである。両岸の急斜面は遠く、かなり開けた平地上をしばらく行くと、前方に白い峰々が見えはじめる。このあたりはカンバの疎林帯だが、小さいながらタンネもちらほら見える。二時間ほど歩いたところで口をあけた枝沢に行き当たる。これは橋架けして渡る。ここからはミーシャ、小野寺、深田、新井の四人でさらに先へ進み、残りのメンバーはモービルを待ちここに荷物をデポしたのち引き返すことにした。結局、先行隊は次の徒渉点を見つけたところで引き返してきた。漏れ聞いたところによると、徒渉点の発見に気を良くしたミーシャは「グッドジョブ!」を連呼していたという。

夜、温泉にはいる。温泉は小屋からはやや隔たっていて、100メートルぐらい歩いたところにあるのだが、湯は小さな湿地からぽこぽこと湧いており、いくつか簡単な小屋が掛けてある。湯殿の闇は濃密で、ろうそくの灯りも湯けむりにのまれたか、天井までは届かない。水音が親密な感じだ。外は満天の星空、湯上がりの小道を辿れば、小屋の窓から灯りが漏れ、煙突から煙がのぼる...しかしこれはランプの灯ではない。なんと発電機がぶんぶんと働いているのであった。

3/7

前進キャンプを建設すべく出発する。天気は順調に晴れまくっている。ミーシャとバレリィはモービルで出来るだけ進めるようにルート工作をしてくるといってアンドレとともにさっさと行ってしまった。我々もほとんど空っぽのザックを背負ってぼちぼちとトレースを辿っていく。昨日の徒渉点まで来るとデポした荷物はすでにモービルに積まれて行ってしまったようだ。彼らもどこか適当なところで我々が追い付くのを待っているだろうと思ったのだが、行けども行けども無愛想なトレースが続いている。照りつける日差しは灼熱の地獄である。やれやれだ。誰が書いたか、トレースのかたわらには「アト5km Aha?」などと雪に書き残されていたが、いい加減うんざりしてきて、最後尾が追い付いてくるのをぼんやり待っていると、先行していた小野寺がお茶をもって様子を見に来る。どうやら天場はもうすぐそこらしい。おそらく451点付近であろう。このアタックキャンプへの中継点は、フォレストキャンプと呼ばれていた。全員無事到着ののち、バレリィ、ミーシャ、銭谷、石崎の四人でピークの遠望できるところまでいく。明日のルートを検討しようというのだ。双眼鏡で眺めて見るとピーク直下は雪壁になっているようで、なかなか手強そうな山である。正面の緩い尾根を右へ行くか左へ行くかでもめたが、結局結論は良く解らぬまま、まぁ、行って見て決めようというようなことになった。思えばこれが最初で最後のピークの展望であった。

3/8

・451点の二股から尾根をすこし上がって様子を見てみる。Co1500辺りから上はガスの中である。左股の支沢を詰めて行こうということで話が決まる。下りてくるとバレリィが小さな焚火をはじめている。山崎がカンバの皮でラブレターを送ったとかでえらくご機嫌である。支沢を少し上がると、沢が口を開けていて水の取れるところがあって、そこをアタックキャンプとする。ここより上は視界も悪く先へ進めるのは危険であろう。すぐ上流は氷瀑が行く手を阻んでいる。右岸を巻いて偵察してみるが、この上は視界なくうろうろしても無駄なようなので、ルート上にデポ旗を残して引き返した。ミーシャ曰く「ジャパニーズ・ミステリアス・バンブー」である。

3/9

ミーシャとバレリィが来た早々、一度引き返そうなどと言い出す。天気が回復しないことによほど強い確信を持っているようだ。確かに停滞は一日しか持ってこなかったのであまり粘るわけにもいかない。トルバチクの為の日数をここで使おうということになって、ひとまずフォレストキャンプまで下りることにする。ベースと交信してアンドレに迎えにきてもらおうとするが、無線は通じなかった。食料をデポしてフォレストキャンプに引き返した。

3/10

バレリィとミーシャは当分天気は回復の見込みはないのでひとまずベースまで戻ろうなどといっている。風向き、気圧などからそうなのだそうだ。もちろん我々としてはそんなことはしたくない。2〜3人の伝令を走らせて、食料を積んでモービルで帰ってくればすむのである。ミーシャとバレリィはすでにスキーをはいて「君らはどうする?」なんて言っている。ジャンケンで負けた小野寺と新井が下ることになったのだが、この二人、いさぎ悪く駄々をこね出して、何故か銭谷も一緒に下るということで妥協する。残りの四人は翌日天気に変化がみられなければベースに戻る、ということにしてひねもす焚火をして遊ぶ。

3/11

前日と同じ様な天気なので、残りの四人も仕方なく温泉に向かう。ベース付近はそれほど天気は崩れなかったらしく、ずいぶんと雪解けが進んでいる。

3/12

小春日和の穏やかな一日。こんなときは「山はきっとガスガスさ」と納得しておくしかない。笛をピーヒャラやったり、ビーコンをいぢくったり、各自思い思いの休日を過ごす。夜は満天の星空で、ヘールボップ彗星もばっちり見える。

3/13

再びフォレストキャンプに向かう。何だかんだと日数を食ったので我々の用意した食料だけでは足りなくなって、ベースキャンプの食料を適当に見つくろってしこたま担ぎ上げる。ベースもにわかに食糧難である。

3/14

再びアタックキャンプを目指すが、今回はモービルをさらに先まで利用する。スノーブリッヂの切れているところがあったが、小枝をまぶしたかなり怪しげな橋で何とか通過。荷物だけ先に渡すなんていう小賢しいまねはしない。全員のザックを満載した橇を引いてスノーモービルも渡ってしまった。やるもんだ。

支沢の入り口の少し手前までモービルを利用する。ここでアンドレに別れを告げて重荷でひーこらいいながらアタックキャンプまで。前回同様低い雲が垂れ込めている。

3/15

湿雪。フライのない我々のテントは最悪の状態である。停滞を利用してかまぼこイグルーを作る。沢のそばの吹きだまりを利用したらどうやら下には水が流れていたらしい。夜、耳をすませば、枕元からかすかな水音が聞こえてきたという。

3/16

相変わらずさえない天気である。日程の都合上明日が最後のチャンスになるのだが、今日中に下山すればシベルーチにいくことも出来るという話があってしばしもめる。「シヴェルーチは許可が取れないのではないか?」「許可は取れないが登ることは出来る。ノープロブレムだ。」ただしロシア国内ではこのことを口外してはならないということだ。けったいな話である。しかし、結局はこの怪しげな話に乗ることにする。そうと決まれば長居は無用だ。さっそく荷物をまとめて下りはじめる。フォレストキャンプからはモービルで荷物を運んで温泉まで一気である。敗退だというのに、何故か一部で熱いデッドヒートが展開される。逃げ足は早いほうがいい?
シヴェルーチ峰 ‌

3/17

トラックの迎えがあるところまでは空身で歩く。例によって、ザックはアンドレにおまかせだ。何故か天気も穏やかで、シヴェルーチがばっちり見えたという。こんなときは「アルネイはオホーツクに近いから影響が残っているさ」と納得しておくしかない。行きでトラックを降りたのと同じところまで歩くとお出迎えが来ている。ここで焚火をして軽い食事とウォッカで腹ごしらえをしてからクリュチに向かう。したたか酔ってラーラー歌いながら、星空の下クリュチまで。

3/18

シヴェルーチに向かうには、まず、軍隊のゲートを通過しなくてはならない。「我々は荷物だから決して声をあげてはならない」何てことを言われて、我々は薄暗いトラックの荷台の中で息を殺してことの成り行きをうかがっていた。幌からは雪解けの滴がハードボイルドタッチにしたたっている。スパイ大作戦、てな感じである。

ここを無事通過して水浸しの林道をしばらく行くと、今度はスノーモービルに乗り換える。二台のモービルを駆使してアタックキャンプを目指すのだが、一台にはザックとミーシャとバレリィの二人、もう一台には我々七人が鈴なりとなって、水上スキーよろしく疾走していくのである。これはかなり痛快な遊びだが、転倒すると後続を巻き込んで大変なことになる。最近出来た溶岩流の跡だという沢筋をしばらく進んでいく。やがて沢筋を離れて登りにさしかかるとさすがにモービルも辛そうだ。雪はあまり積もらないようで、たたかれて固く、かなり岩も出ている。モービルが通れるルートを探すのにてこずったが、二人づつのピストンで緩やかな尾根の傾斜の変わり目までいき、そこをアタックキャンプとした。一応ブロックを積んだが、こんなところで吹かれたらひとたまりもないだろう。この天場のすぐ上までガスがかかっていて、明日のルートを見ることは出来なかった。

3/19

思いがけず晴天がめぐってきた。気温は-15度程度だが、久々の冷気はえらく身にしみる。ぼろぼろの岩場の合間の単調な雪面を延々と進んでいくと、かなり広い台地上に出る。ミーシャがクリュチで仕入れてきた写真で見るとピークまではまだかなりある。届きそうもないが、タイムリミットを決めて行けるところまでいくことにする。ちょっとした急斜面を越えて溶岩流の崖っぷちを辿っていくと、尾根は次第に細く急になっていく。この辺りで引き返すことにする。ピークはこの先の急斜面を越えた台地のさらにはしっこのほうにぽこっとのっかっているはずだが、ここからでは見ることは出来ない。上空にかかりはじめた絹のような薄雲はバレリィによれば悪天の前兆らしい。潮時ということだ。

広い台地まで下ってくると、粉雪がハラハラと落ちてくる。日差しに輝いてなんともきれいだ。天場までかけっこして下り、例によってザックはモービルにお任せして、絶叫スキーで下山開始。緩やかな雪原を一直線に下っていく。沢筋に下りたところでモービルが追い付いてくるのを待つが、スキーをはけば幸せな深田はそのままトラックのところまで走り通したという。残った連中もモービルにぶら下がって夕日を浴びつつ颯爽と下山。この日はクリュチには泊まらずに、コズィレフスクまであわただしく歩を進める。何しろ翌日中にはペトロパブロフスクに着いていないと大変なことになるからだ。見送りに来たアンドレと涙の抱擁を交してクリュチをあとにする。

3/20

マイクロバスでペトロパブロフスクへ。

3/21

ハバロフスクへ向けて出発。

3/22,23

ハバロフスクにて飛行機待ち。各自市内観光に向かう。

3/24

新潟着。
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