三段峡本流
honmasaki
その他4人 - GPS
- 32:00
- 距離
- 5.6km
- 登り
- 186m
- 下り
- 16m
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22日（左俣） 8:00出発 12:00遊歩道着 13:00葭ケ原到着
23日 豪雨により撤退
| 天候 | 22日 晴れ（夕立あり） 23日 晴れ（夕方から豪雨） |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2013年08月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関：
自家用車
|
| コース状況／ 危険箇所等 |
遊歩道は快適です。 |
写真
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感想
昨年、川浦谷本流に味をしめたメンバーは、狙いを広島の三段峡に眠るゴルジュに定めた。
メンバーは東海大学探検会OB3名、現役1名、中央大学探検部OB1名の計5人パーティーだ。昨年の12月から、芦廼瀬川や柿其川等の本流系ゴルジュをこなし、8月21日の最終便で広島駅に乗り込んだ。前日から現役1名は広島入りして、レンタカーを手配し、既に三段峡入口で待機中のため、新幹線車内で既にできあがったサブリーダーのT氏をレンタカーの車内に押し込めて、東屋で就寝。
8/22
初日の下流部は、相当の距離を歩かされることを予想し、6時ころから準備し、7時前には出発。
三段峡は今でこそ、二谷、奥三段峡が登られている記録が散見されるが、宇部山岳会に所属されていた故三浦章氏が『西中国山地の沢』に詳細がまとめられている。この本はすごい。西中国山地の沢のパイオニアワークの集大成とも言えるべき本だ。今でこそ中流域のゴルジュ遡行はメジャーな活動になっているが、当時から決して高山のないこの地域において、先見的な沢登りを行っていた三浦氏には敬服する。巷で発行されているガイドブックに「中国山地には遡行に値する沢がない」等と書かれているが、きっとこの本の存在を知らないのだろう。また、三浦氏は最近、山でお亡くなりになったと聞いているが、ご存命の間に是非お会いしたかった。
今回の合宿もこの遡行図に則って、記録を書いていくことにする。
三段峡のバス停を過ぎると、すぐに三段峡駅の跡地に到着する。ここは数十年前に写真家の熊南峰が世に知らしめた名勝地であり、以前は電車が走っていたそうだ。跡地を超えて、土産物屋を過ぎると、赤い欄干の長渕橋から入渓。すぐに長渕と呼ばれる30m程度の淵が現れる。水量はコケのつきかたからして、約15cmほど低いだろうか。しかし、背が立つはずもなくしっかりと泳がされる。この日に備えて当然ライフジャケット着用は怠らない。渓相はミニ南紀といった感じであるが、中流域のためコケが滑る。（アクアステルスはあまりむいていない）水量が少ないことから寺ヶ瀬は気づかないうちに通過してしまった。多少のアブが寄り付くが、不快なほどではない。水温も概して高く、ファイントラックで固めたウェアリングで充分だった。
約30分も遡行すると、竜の口（たつのくち）と呼ばれるゴルジュに到着。呼び名のとおり、70mもある淵の先には、ポッカリと竜が口を開けている。故三浦氏の本にも『10回入って4回しか突破できなかった』との記述がある。唯一ネットで見つけた遡行記録も見切りをつけて巻いている。ってことで、絶対に突破してやると意気込むパーティー。しかし、バッカスT氏は魚に撒き餌を与えながら歩く始末で先行きは不安だが、ただこの日のために元水泳部を2人も連れてきているので、とりあえず紐をつけて切り込み隊長のオギを突っ込ませる。左岸側の白波が立つ部分まではたどり着くも、流芯部は相当な水圧なようで苦労している。2、3度トライして首をかしげているので、唯一ホールドがある場所まで全員移動して浮かびながら作戦会議。オギがトライした感覚だと、「左岸側から流芯を超えて右岸側にエディ（流れの巻き返し場所）があり、そこから出っ張った岩を超えさえすれば抜けられる」とのこと。しかし、両岸ともにつるつるでホールドは皆無。クラックが走る左岸側の場所まではヘツリも不可能であり、そもそも流れが強すぎて水中に止まっていられないときている。そこで、水泳部のオギとスガを投入し、エディで立ち泳ぎの姿勢で後ろから押し出す作戦を実行する。これは、川乗谷の聖滝で成功させた作戦でもある。更に、オギにはこの日のためにT氏が購入したフィンを装着させる。いざトライしてみると、エディに入るところまではいいが、出っ張った岩を超えた瞬間、瀑流で押し流されてしまう。その後、私もトライしたが前から瀑流で、後ろから押されるとバランスを崩して沈んでいってしまう。（ライジャケつけて溺れました）その後、何度かトライしたものの、押し流されるメンバー達。戻って遊歩道から高巻くのはものの数分だが、既に30分以上水と格闘している我々は、喉元まで「巻いちゃおうぜ」と出かかっていたが、1人でも口から出せば諦めムードになるのは必須であることが分かっていた。メンバーも表情には出ていたが、口には出さなかった。
しかし、突破口がない中で隊長である私も焦っていた。そこで、イチかバチか秘技『投げハンマー』を提案。プレ合宿で練習してコツは掴んでいたが、目標の岩まで、相当な距離があり、不安定な状態から投げるので、かなり難しいことが予想されたが、とりあえず投げてみる。1投、2投・・・・・10投はしただろうか、目標よりだいぶ手前の川底に突き刺さる私のミゾーハンマー。いや、確かにかかった。かかったが、そんな手前の瀑流に刺さっても、全く意味がない。紐を引いてもゴールは川底。でも、悩んでいても仕方がないので引いて進んで見るが全く可能性がない。いや待て待て、これは俺のハンマーが永遠に川底に突き刺さっているということか。それだけは避けたいので何とか外そうとするもがっちりとハマるハンマー。もはやハンマーの回収が目的となっていたが、その時『僥倖』にめぐり合う。なんと左岸側の白波の中にかすかに岩が見えた。ゴルジュ突破の必需品であるゴーグルのおかげである。更には左岸側のクラックが走る壁の直近であることから、紐を引いて強引に岩に立ち込み、クラックにカムを突っ込んで、拠点を作ることに成功した。この時既に1時間が経過。
しかし、川底に刺さったハンマーの回収はまだできていない。とりあえず探検部先輩特権でオギに川底まで潜らせて回収に成功。この時オギはライジャケを脱いで潜っていったのだが、後に「本当に死ぬかと思いました。」と語った。こうなればカムでセルフを取って全力で投げハンマーができる。よっしゃー、と勇んで投げると、今度はやけに手応えがない。あれ、ハンマーがついてないぞ。そうです、私、ハンマーと紐をただのカラビナで連結していたのです。まさに後悔。環付きにしておけば・・・・。この時ほど、泉にいる女神の存在を強く信じたことはない。「あなたの落としたハンマーは金のハンマーですか？銀のハンマーですか？」いや金とか銀とか使えないから、ミゾーだから。誰かこの記録を見た人、回収願います。
というわけで、既に私は不退転の決意である。おもむろに、オギの腰からアイスハンマーを無理やり取り出して、今度は環付きにセットする私。不安そうな顔のオギ。問答無用で放った3投目。微妙な位置にかかる。この落口は直爆ではなく3段くらいの段差であるため、その下段の岩にかかったものと思われる。これで行けるだろうとオギに行かせるが爆流の直下までは行くものの、岩に立ちこんだ瞬間に右に流されて、沈みながら戻されてくる。私や、カメラを撮ってくれていたユウジロウも挑戦するが、紐を引いてもまったく進めずに押し返されてしまった。あと一歩である。ゴールはすぐそこなのに、手が届かない。だが、この状況を打破したのはやはりオギであった。この男、一流大学を卒業後、お堅い職につきながらも中二病のため未だ独身という男である。しかし、ひとたび先輩から「行け」と言われると絶対服従という、悲しい性を持つ漢（おとこ）でもある。
この沢で学んだことは、白波を突き進む時は、一度潜るしかないということだ。表面の流速はものすごいが、少し潜るとその流速をかわすことができる。オギはまさにそれを体現するように息継ぎの時だけ大きく頭を出して、匠に瀑流直下まで進み、岩に立ちこんだ。私もオギが右側に落ちないようにロープを張ってサポート。しかし、直上は流石に厳しいらしく、右岸側の壁に飛びついて突破していいかと身振りで伝えてくる。こうなったら後は、オギに全てを託す。
そして、オギが飛びつく。
一旦ははがされそうだったものの、何とか持ちこたえて岩に立ちこむ。
そして、するすると壁を攀って行く。
ゴルジュに突入して2時間後の出来事だった。
はっきりいって、このあとのことは殆ど記憶にない。後から、動画を見てみるとぐるの瀬までは結構泳いだりしているが、マイナス15cmの水量ではとりたてて困難という箇所はなく、黒淵で渡船がある関係で遊歩道に一旦上がってしまうと、完全に気持ちが切れてしまい、所々遡行するものの、殆ど遊歩道を使って一気に葭ヶ原まで歩いてしまった。途中で夕立があったのもテンションを下げてしまった要因だろう。葭ヶ原から入渓点までは休日や紅葉時期ならばバスがあるものの、平日はないので公衆電話からタクシーを呼んで入渓点まで戻り、デポした車を回収。翌日の左俣遡行に備えて、駐車場にタープを張って就寝した。スガが作ったカレーがうまかったのは記憶に残っている。
8/23
翌日の左俣は工程も短いのでゆっくりと準備をしてからスタート。本流から言えば右俣だが、左俣を先に登るのはワケがある。それは、猿飛と言われるゴルジュは休日になると観光客が渡船で往来するため、船頭さんの邪魔になってしまうのだ。そのため平日に登っておく必要がある。
「高速道路」と名付けた遊歩道を進み、猿飛手前のゴルジュから飛び込みで入渓。朝一であるが、水温は以前高めである。すぐに猿飛ゴルジュに到着すると、観光客用の東屋があり、船がロープで空中に釣り上げられている。もちろんその先には猿飛の深淵。幅は最狭部で3mほどだろうか、高さは50mのゴルジュが150mぐらいは続く。泳ぎのトップはスガ。フィンを履いて、クロールに背泳ぎとメドレーリレーで楽々と紐を引いていく。後は4人ともロープに引かれるだけで快適だ。今回唯一の現役であるスガは、我儘なOB4人を同時に引っ張り上げるという荒業を見せてくれた。
そして着いたのが、二段滝である。といっても今は滝の後退現象で1段になっている。高さにして約25mといったところか。しかし、高さもさることながら、水量による爆風が凄い。直瀑であるため、その音、風、飛沫、どれをとっても一流の滝である。ここでしばし作戦会議を実施。ここは隊長である私の出番と思っていたが、ここで一人の男が立ち上がる。そう、バッカスT氏である。一昨日の新幹線から飲み続け、竜の口でまったく参戦できなかったことが相当答えたようである。彼は私の3年先輩で、クライミングを教えてもらった師匠でもある。現役時代には私と一緒にタイのプラナンまでクライミングに行ったこともある。冷静な判断力と抜群の知識を持ち合わせ、合宿では常に頼れる存在である、酒さえ飲まなければ。彼を語る時、末尾に『酒さえ飲まなければ』と入れるのは探検会では常識である。『いやあ飲みすぎた』というセリフは既にデフォルトとなっており、酒で残した伝説は数知れず。世の中に酒さえなければ、既に2児のパパになっていたかもしれない、最狂の漢である。しかし、昨日は程々に切り上げたようで、岩魚にコマセを巻くこともなく、体調は万全のようだ。
『人間は登るようにできてるんだ』
そんな意気込みを残して、さっそうと淵を泳いで壁に取り付くT氏。やる気である。
遡行図には左の滝身のラインと右のチムニーラインの2通りのルートが示されている。左は高度感があり、さらにコケのヌメリも気になることから、チムニーラインを選択、カムでランナーを取って体を入れ込むT氏。途中、チムニー内に挟まった岩でランナーを取って、見事にトップアウト。流石である。グレード的には�掘椶箸い辰燭箸海蹐�。ほかのメンバーもずり上がり、左俣の核心は抜けた。しかし、遡行図にもあるように、その先も綺麗な水を湛えた淵が連続し、水中散歩を楽しんだりして遊ぶ。その先は、すぐに二股となり今回の終了点だ。沢で稲庭うどんを茹でて食べる。まだ12時を回ったところで、遡行時間も正味4時間程度である。
高速道路を戻って、明日の右俣に備えて葭ヶ原にベースを作ってから、買い出しに出かける。すると帰り際から猛烈な雨が降り出す。だが快適なベースで大宴会＆焼肉は最高のひとときを提供してくれた。酒に弱い私はここで就寝。
夜中、あまりのブヨの多さに目を覚ますが、まだ雨は降り続いていた。
8/24
タープを叩くものすごい雨は以前やまず、停滞を決め込んでタバコを更かしてのんびりしていたが、そのうち目の前の川が茶色く濁りだし、明治のコーヒー牛乳のような色になり始めた。増水のスピードも早く、高台に設置したベースも飲み込まれる勢いがあったため、ここで撤退を決める。荷物を畳んで、逃げるように葭ヶ原をあとにした我々は、入渓点の三段峡ホテルで温泉に使って、在りし日の三段峡の写真を眺めて過ごした。
その後も雨は止まず、結局右俣は登れずに広島をあとにして、山口に移動して観光。翌25日も観光して、26日に関東に戻った。
感想
三段峡は素晴らしい。源流部にあるように、狭いゴルジュ帯ではないので、簡単に巻くこともできるし、遊歩道も使える。しかし、原始の姿に思いを馳せて、水流に突っ込めば、忘れえぬ思い出になることは間違いない。
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