BEGGUYA ハンター北壁ムーンフラワー
コースタイム
天候 | 晴れ 最後雪 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス タクシー 自家用車
飛行機
|
コース状況/ 危険箇所等 |
ヒドンクレバスアリ |
感想
【総括】
今回のアルパインクライミングで特徴的だったのが、連日における長時間行動(20時間→12時間→20時間半→14時間)と、その原因ともなったアイスピッチの状態の悪さだろう。特に象徴的だったのが、ルート中最大の核心部とも言える”シャフト”の1ピッチ目を通過するのに、氷結の悪さから3時間40分もかかってしまったためだ。敗退もよぎる内容のピッチであったが、二人掛かりでなんとか突破するので精一杯で、その日は目標の第3バンドまででなく、第2バンドでビバークとなった。一方、事前情報では第2バンドは傾斜がきつく、氷も固くて、満足なビバークポイントがないのではとの事だったが、尾根上に溜まった雪が良い感じに充分あり、しっかりとテントを広げて休養できたのが、次の日の20時間行動を可能にした。これは嬉しい誤算であった。事実、第2バンドにやっとのことで辿り着いた頃には、再び敗退の空気も過ぎっていたが、一晩ぐっすり眠ると、心身ともにある程度まで回復していた。アルパインの大きな壁でビバーク経験の無い我々だったが、壁でしっかり休むことの大切さが身に染みて分かった一つの経験である。今回、日本での準備山行として、滝谷で3泊、富士山頂で1泊、2-3人用の小さなテントで、シュラフ2つを繋げて3人で眠る練習をしていた。当然狭くなるが、重量に対する暖かさは抜群で、尚且つ、元々広々と寝られるような環境がないハンターのような壁では有効だった。しかし、敗退トライ時のように、3人が横になれないときは、半シュラフ+パタゴニアグレードセブンのようなキットがベストかもしれない。シュラフ連結戦法は、3人横になれる場所を何としても見つけて、やっと機能する方法といえる。</p>
一方、これだけ登攀に時間をかけてしまったことは、大きな反省点とも言えるが、今回の壁の状態と、我々の登攀能力を天秤にかけると、ある程度のビバークを覚悟し、伸ばして4日ほど耐えられる食糧を用意したのは良い選択だったと言える。サードはユマーリングでの荷揚げに徹し、20キロ程度の装備を担ぎ上げた。その間にセカンドが次のリードをビレイし、待機している人間がなるべくでないようにタクティクスを考慮した。かつてギリギリボーイズが24時間で壁を抜けているが、今の我々の登攀技術とこのルート(壁の状態も含めて)を考慮すると、それは到底不可能に思えた。しかも彼らはデナリダイヤモンドを登った2日後にそれを成し遂げたというから、心底驚きだ。引き続き、難しいセクションを素早く突破することは大きな課題といえる。ルートファインディングやピッチを切るタイミングに戸惑う時間もまだあり、そのあたりを洗練させれば、時間短縮=&体力節約の余地は大いにある。また、大きな冬壁でハンギングビレイなどすると、ビレイ中に回復どころか消耗していくので、良い足場が有ればロープが余っていても早めに切るなど、その辺りの感覚も養いたい。もしも悪いビレイ点だったら、硬くて少し面倒でも、青氷を削って3センチでも水平な足場を作ると大分ラクになると学んだ。</p>
とはいえ、難所、特にP11 Ice Dagger, P20 Shaftを氷がなくとも何とかエイドで突破することができたのは、主に北海道で蓄積したアイス・ミックスクライミングの経験があったからこそと言える。例えば、白岩シャフト2p目(こちらも状態極悪だった)を2時間以上かけて何とか這い上がった経験や、千代士別スペクターを初めはチョンボ棒無しでトライしたこと、斬鉄剣のRPトライ、トレーニングを通してパンプ耐性を上げたことなどは、Shaftの2ピッチ目以降の若干ハングした氷を通過する際にも自信となった。P10のプラウM6-7のレッドポイントには、層雲峡の銀河伝説(こちら未だワントライ、RPしてない)のトライが大変役にたった。日頃から、アルパインルート・スポート系のルート問わず、トップアウトをしておくことが重要だと感じた。また、今回のような数日間の行動に抵抗がなくなるように、例え一度家に帰ってヌクヌクと休んでも良いので、4日や5日連続の行動を日本にいる時からしておくと良い。例えば今年は、2/26道北笠山バックカントリー、2/27層雲峡開拓、2/28悪天で比布スキー場、3/1単独で層雲峡簡単なアイス、3/2銀河伝説、3/3石狩伝説、3/4プリンセスストーリー、3/5チトカニウシ東面初滑降、3/6チトカニウシホワイトアウト、1日休んで3/8.9石狩岳東面初滑降、3/10.11佐藤裕介さんをアテンドしつつカムイ岩と層雲峡でしっかりMIXと、連続行動をしており、こういった経験が、海外での大きな壁を連日登ることに繋がりそうだ。北海道での連日行動5日目以降の鉛のように重い身体を叩き起こし、翌日も無理して早起きするサイクルは、ハンターでのそれに非常に似ていたと感じている。例え強度が低くても、例えアクティビティーが若干異なっても、連日動き続けることが大切だ。
また、一見関係なくも思えるが、北海道のリモート山スキー(石狩岳、富良野、知床など)でテントなしでビバークをしつつ行動した経験も、極寒の環境下で体を動かす良い経験になっていたと感じている。事実、正確な気温計で計れた訳ではないが、ハンターでは一番寒くてマイナス27,8度程度だったのに対し、厳冬期の富良野では、スキー出発前の気温がマイナス30度という事もあった。大したことではないかもしれなが、「この気温なら富良野のあれくらいか」と思えたこと自体が、心理的にはアドバンテージとなっていた気がする。
話は変わり、今回ベースキャンプに新鮮な野菜や肉を沢山持って行ったのは正解だった。普段下界で自炊している時の倍くらいの値段を出して、栄養のある食材を惜しみなく沢山持って行ったので、短いスパンで3回ものトライをできる心身の状態に回復させることができた。氷河ではしっかりと埋めれば、生野菜も肉も、殆ど腐らなそうだ。
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