記録ID: 4639376
全員に公開
アルパインクライミング
南アメリカ
日程 | 2022年06月25日(土) ~ 2022年07月09日(土) |
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メンバー | , |
コースタイム [注]
現役のときから、何となくアンデスの山に憧れがあった。入部してわりと早い段階で、山下さん勝亦さんの記録を読んでいたからかもしれないし、ルームでたまたまアンデスのトポを手にとって白く尖った格好いい山々の写真を見たからかもしれない。ルームで山を学ぶうちに、僕はいつしか「クライミング、それもアイスクライミングをして山の頂に立ちたい」という願望を持つようになった。去年のカシンリッジでその願望は果たされたが、デナリはノーマルルートを登れば一切クライミングをしなくても立てるピークであり、もっと純粋な「アイスクライミングをしなければ立てない頂」に立ちたいと思った。今回、ペルーアンデスのBlanca山群を遠征先に選んだのには、その欲求を満たしてくれる山を数多く擁していると思ったからだ。
ルームのトポをぱらぱらと眺めていると、ある山が目に留まった。それは、まるで氷を纏った花崗岩の城塞のように荘厳な山だった。僕達はこの山、Taulliraju(タウイラフ)の南西壁に魅せられ、ここを登ることにした。様々なルートがあるようだが、全てのルートはTD(6段階中の5、結構難しい)かED1~3(6段階中の6、超難しい)とグレーディングされており、容易なルートはない。僕の求める目標としてぴったりだ。登るラインは現地で見て決めよう。
Piscoで高所順応、Ranraparca北壁で足慣らしの簡単なクライミングをして本命のTaullijuへいざ、と言いたいところだったが、竹中の記録を参照すればわかるように、この2つでも大分痛い目に遭った。Ranraparca下山後、どうするかを話し合った。この山は僕達には難しすぎるんじゃないか。登りきれるのか。でも、ペルーまで来たんだからTaullirajuを実際に見たい。そのときに何を感じるかで決めたい。難しすぎたとしても、ピークまでたどり着けなかったとしても、生きて帰ってこれる自信はある。行こう。
6/25 晴、強風 Huaraz(7:00)Caraz(8:30-9:30)Cashapampa(11:30-12:30)LlamacorralCo3700=C1(15:45)
Huarazからいつも通りColectivoに乗ってCarazまで。ここで現金が足りなさそうな予感がしたので銀行でドルをソルに換えた。トゥクトゥクをつかまえてCashapampa(Santa Cruz谷の入り口の村)と連呼すると、Cashapampa行きのColectivo乗り場へ連れて行ってくれた。バスに乗ってCashapampa村へ到着。今回は登攀装備と2週間分の食料で荷物が超重く、絶対にロバを雇おうと考えていたが、村でアリエロ(ロバ使い)がつかまるか心配だった。が、バス降車地のSanta Cruz谷トレッキングルート入り口に暇そうなアリエロっぽいおっちゃんが!地図を見せ、TaullirajuベースキャンプのTaullipampaまで荷物を運んで欲しいというと、快諾。ロバ2匹とアリエロで2日(と彼らの帰り1日)で500ソル。最近物価が高騰していると聞いていたが、確かに過去の記録で見ていた相場よりもかなり高い。ダメ元で値切ってみると、450ソルでいけた。何でもやってみるもんである。
アリエロのおっちゃんがいそいそと準備するのを待ち、いざ出発。犬(アリエロの飼い犬?)もずっとついてきた。相変わらず谷の側壁がすごい。日本にあったら一大クライミングエリアになるだろう。雰囲気は宮崎の比叡山とか行縢とかに近い気がする。ロバは流石に強く、最初はついていこうとがんばったが、あっという間に引き離された。以降は谷の風景を楽しみながらのんびりトレッキング。PiscoとRanraparcaでは重荷がつらくてトレッキングを楽しめなかったが、今回はいい感じ。ロバさまさまである。途中から風が強くなり、C1のLlamacorralについても強風で寒かった。C1からは谷の奥にそびえるTaullirajuが見え、その威風堂々たる佇まいに釘付けになる。食事はアリエロの分も用意するのだが、僕らの食事はパスタにトマトや玉ねぎやソーセージを炒めたやつを乗せただけの質素なものなので、なんだか申し訳なくなる。
6/26 曇、強風 C1(7:00)Taullipampa=C2(11:00)
トレッキングを続行。進むにつれて、AlpamayoやArtesonrajuなどの名峰が視界に飛び込んできてテンション上がる。ベースキャンプとなるTaullipampaは、Taullirajuの名前の由来となった花Taulli(ルピナス)の咲き誇る平野で、Taullirajuが目の前にそびえている。午前中で着いてしまったのでアリエロとロバは颯爽と帰っていった。双眼鏡で壁を偵察するが、昨日今日降雪があったらしく、壁が今まで見たどんな写真よりも白い。そして氷は薄く細そうに見える。更に取り付きの氷河はズタズタだ。果たして登れるのだろうか。
6/27 晴 C2(7:00)Punta Union峠(9:00-12:00)Taulliraju南西壁基部(13:30-14:30)C2=C3(18:00)
壁とアプローチの氷河と下降ルートを偵察。まずはPunta Union峠(Santa Cruz谷トレッキングの最高地点。ここからトラバースしてTaullirajuへアプローチする。)まで行き、そこから峠を越えた反対側へ下りて下降ルートを偵察。いまいちよくわからなかったが、何となくここを下りられそうという見当はついた。次に氷河と壁の偵察。Punta Union峠の少し手前から北へトラバースして、スラブ帯を歩く。ケルンが所々積んであった。氷河末端で装備を換えて氷河歩き。ズタズタの氷河のクレバスの合間を縫って歩き南南東稜へ突き上げるFrench Guide's Route基部までトレースをつける。諸ルートへはとりあえず取り付くことはできそうだ。陽が当たって壁の雪化粧は落ち、氷の筋がよくわかる。しかしながら、全体的に氷が薄かったり繋がっていない。登ろうと考えていたItalian RouteやJaeger Routeも氷が薄く可能性は低く見えた。BCに戻り、どこを登るのかを話し合う。Italian Routeの隣に何本かある氷の筋はまだ登れそうに見えたので、そのうちの一本(おそらくQuebec Route)を登ることにする。また、古いトポを見るとQuebec Routeは途中の雪田で左へトラバースしてItalian Routeのリッジへ合流しているが、ここを直上してItalian Routeのロックセクション下に合流するクーロアールの方がルートとして自然に見えた。おそらく未登だしこれを登ってやろうということで話がまとまる。
6/28 晴 C3=C4
BCでレスト。
6/29 晴 Taullipampa(6:00)Punta Union峠(9:00)Taulliraju南西壁基部=C5(12:00)
トレースをたどって、そこからさらに進みFowler-Watts Route下の氷河上の壁からの落下物から守られているABCへ移動。縦穴を掘ってツェルトを被せて寝た。
6/30 晴 C5(5:30)南西壁取付(6:30)南西壁途中=C6(18:30)
雪壁を登りQuebec Routeへ取り付く。やはり氷は例年より薄そうだ。氷下のベルグシュルンドを避けて0ピッチ目竹中リードで左トラバースで氷に取り付く。1,2ピッチ目は80°までの氷雪壁で快適。3ピッチ目は成田リード。ここは下から見て最初の核心だとにらんでいたところだ。傾斜が徐々にきつくなり垂直の浅いオープンブックに張った薄氷を登る。厚さは10cmスクリューが決まるか決まらないかくらい。抜け口は傘のようなハングが覆いかぶさっており難しい。半分しか刺さらなかった13cmスクリューにタイオフでランナーを取り、ベルグラの張った凹角に足を張って何とか乗っこす。ハング上も30cm程のグズグズの雪が乗っかっており奮闘的だった。続く4,5ピッチ目は70~80°、部分的に垂直の氷雪壁だが、スクリューのきまる厚さや強度のところがあまりなくプロテクションは掘り起こした岩やスノーバーが主体となってペースが落ちる。6ピッチ目の途中で未登クーロアールの入り口に着くが、その時何故このクーロアールが未登だったのかを察した。入り口の露岩帯はハング帯となっていたのだ。これは登れない……と露岩帯を左にトラバースして薄い氷壁を登り、左手のアンデス襞の小リッジのコルに出る。可能性として考えられるのは、この先アンデス襞のリッジをいくつも越えながらトラバースしてItalian Routeへ合流(Quebec Routeと完全に同じ)か、左手から右上する狭い氷のクーロアールを登って未登クーロアールへ合流するか、すぐ右の露岩帯をM7~9くらいのミックスでトラバースして合流するかだ。どれも困難そうだ。先行きが怪しくなったが、ここで時間切れなので6ピッチ目をフィックスして降り、ハング帯の下の氷を2時間かけて削って2人が足を伸ばして座れるスペースを造り出してビバーク。意外と快適に眠れた。
(1p目竹中WI3+、2p目成田WI3、3p目成田WI5+、4p目竹中WI3+、5p目成田WI4、6p目竹中WI4)
7/1 晴 C6(5:30)9p目終了(16:30)C6=C7(18:00)
6ピッチ目をユマーリングし、とりあえず小リッジのコルを乗っこしたところにある右上する浅く狭い薄氷クーロアールを登ってみる。しかし氷は非情にもどんどん薄くなり、更に上の方ではスラブに雪のようなものが乗っかっているだけのように見えたので諦める。何とか右へトラバースして未登クーロアールへの侵入を試みるが、急なスラブにベルグラといった感じで危険。諦めてアバラコフ作って降りる。このときアックスをベルグラに引っ掛けながら強引に斜め懸垂したところ、何とかクーロアール内の支点を作れる氷雪壁パートへ到達できた。あとは快適に氷を登るだけと思ったがそんなことはなかった。氷は見た目よりも薄くスカスカで、アックスすら決まらないことも。傾斜は70~85°でこの氷質だときつい。スクリューはほとんど信用できないので、所々岩を掘り起こしてカム、トライカム、ハーケンを決めてランナーを取る。結局この日は2ピッチ登ったところで時間切れとなり、60m×2ピッチ分ロープをフィックスして昨日のビバーク地に戻りビバーク。
(7p目成田WI4+、斜め懸垂、8p目竹中WI4+、9p目成田WI4+)
7/2 晴 C7(4:30)南西稜合流(13:00)14p目終了点=C8(17:00)
暗いうちにユマーリング開始。ハングの空中ユマーリングなので細いハーフロープが擦り切れないか恐ろしい。10ピッチ目は傾斜は垂直近くなり難しい。疲れないよう一定の速度で登り、少しでもマシな氷質のところにスクリューを打ち込んでいく。11ピッチ目は80°のミックス。傾斜の強いところがスカスカの雪氷となり、きわどいクライミング。12ピッチ目で竹中が雪壁からの厳しいミックスの後、イタリアンルートのリッジに上がろうとするも、猛烈な除雪の雪壁に阻まれる。ここは成田が交代して右にトラバースして岩と氷のチムニーを登ったら楽に上がれた。クーロアール内は一日中陽の光が当たらなかったので、3日ぶりの太陽が眩しく暖かい。そのままリッジを少し登るが、このリッジも悪かった。厚さ3~40cm程のグズグズの氷を破壊しなければまともな氷にありつけない。じわじわと登るがしまいにはグズグズ氷を破壊した挙げ句に岩にへばりついた厚さ1cm程の氷の破片にフッキングして登るという始末。このセクションを切り抜けて左へリッジをまたぐとようやくまともな氷にありつけた。上にはイタリアンルートの初登の際のものと思われるフィックスロープがある。14ピッチ目で氷を少し登ってからグズグズの氷を右へトラバースしてボロボロのフィックスのあるエイドセクションまで。15ピッチ目、ハングしたクラックをエイドで登る。トポには1~2ムーブのエイドとあったが、氷があまりにないのか10ムーブぐらいのA1だった(キャメロット#0.1~0.75使用)。このピッチにロープをフィックスして下の岩陰を少し整地してビバーク。横になれたので快適。
(10p目成田AI4+、11p目成田M4+、12p目竹中AI4,M5、13p目成田WI4+,AI4+、14p目竹中WI4+、15p目成田A1)
7/3 ガスガス C8(5:30)頂稜合流(12:30)頂稜西端付近=Ω9(15:00)
起きるとガスっていて萎える。1ピッチユマーリングして氷を少し登ってから左トラバースして氷柱基部まで。下からは簡単そうに見えたが、氷質がボロボロ悪かった。17ピッチ目、氷柱を登るしかないのだが、氷柱の集合体でハングしている。しかも中間部に横クラックが入っていて折れそう。標高5600mくらいで登る代物ではない。暫し逡巡するが、入念に氷をチェックした末、意を決して登る。フリーは早々に諦めスクリューにテンションをかけながらエイドで。諸々のコンディション(身体含め)を考えるとこれが妥当な判断だったと思うが、何だか負けた気分になってモヤモヤとした。このピッチからリードは全て成田、竹中は重荷でのフォローと完全分業制にする。続く18,19ピッチ目はクーロアールを登り氷塔の基部まで。基部に上がるあたりがグズグズで手も足も決まらない垂直氷で悪かった。氷塔基部で「そばが食いたい」「僕はうどんがいいですね」などと気の抜けた会話をする。氷塔を右に回り込むとハングしたグズグズ氷壁を10mトラバースしなければ先に進めないので諦め、左に回り込むとスパッと切れ落ちたリッジに出た。ガスガスで自分達がどこにいるのかよくわからないが、方角からしてどうやら北壁側に回り込んだようだ。頂稜は上を行かずに北壁側へ下降してトラバースするのがセオリーらしいが、ほとんど視界のない中未知の壁へ下降するのは恐ろしい。あまり高度を変えずに行けそうな所をトラバースすることにする。リッジからハングしたみじかしい氷壁を登り、氷塔を北壁側に回り込む。更に北壁側をトラバースしてボロい氷の垂直の凹角を登ったあと、グズグズの氷を登ると頂稜の西端らしき場所に出た(20~22ピッチ目)。しかしこの視界ではこれ以上どう進めばいいのかわからないので、ここにイグルーを作って泊まることにする。
(16p目竹中AI4、17p目成田WI6(A0)、18p目成田WI3+、19p目成田AI4+、20p目成田WI5+、21p目成田WI4+、22p目成田WI4+)
7/4 ガス Ω9=Ω10
起きると成田の目に違和感が。昨日ガスっていたので油断してサングラスをかけなかったが、どうやら軽い雪盲になってしまったらしい。外では風の音が聞こえ、天気は良くなさそうだ。連日の疲れもあり、イグルーという快適かつ強固な砦を得ているのでこの日は停滞とする。しかし心配なのは食料だ。今回4.5日分しか持ってきていないので既に尽きかけている。このペースではピークへ行ってBCに戻るまであと3日はかかりそうなので、全く足りない。とりあえずこの日はお湯やお茶で我慢して飯は一切食べなかった。明日雪盲が治らなかったら……、シャリバテで動けなくなったら……とどんどん弱気になっていく。今なら同ルート懸垂で2日あれば敗退もできる……と弱気発言の成田。いや、まだ諦めたくないですと竹中。夜、成田は腹痛と下痢で死が一瞬頭をよぎった。なんでこんなことをやっているんだろうと本気で思った。
7/5 晴時々ガス Ω10(7:00)Taullirajuピーク=C11(17:00)
成田の目は回復。外も晴れたので僅かなフリーズドライパスタを口にしてイグルーを後にする。昨日の弱気はどこへやら、今日はなんだかいける気がする。いや、行くしかない。北壁へ下降してトラバースするのは微妙に見えたので、できるだけ頂稜を行き、無理そうなら小さめに北壁側を巻くという方針で行く。23ピッチ目、きわどいナイフリッジを行き、氷塔の基部から北壁側の氷のバンドへ。24ピッチ目、氷と岩のミックスしたバンドを這うようにしてトラバース。25ピッチ目、ハングしたボロボロの氷を登り氷塔に空いた穴まで。26ピッチ目は穴から左トラバース気味にハング氷を越え、簡単な氷の斜面をトラバース。ナイフリッジに合流する手前まで。このままナイフリッジを行くと微妙そうなので北壁側へ斜め懸垂30m程で岩と氷のミックスの斜面へ。27ピッチ目、氷とクラックをM5くらいのドライツーリングで左上。横スリットにアックスをトルキングなどの千代士別のミックスクライミングでやったようなそれっぽい動きをして楽しい。28ピッチ目、更にトラバースすると積み木のような岩の重なったハング地帯に出て面倒そうだったので、リッジに上がってしまうことに。ハングした氷の後、スラブとクラックから再び氷へ。氷質はボロボロスカスカでスクリューの効きは良くない。そして当然のごとくハングしている。断食していて身体のコンディションは悪いはずなのだが、気合で越える。途中、マシな氷のところにいつのものかわからないアバラコフスリングがあった。リッジに出てスノーバーでビレー。ここからようやくピークが見えた。あと一段、ハングした氷壁を越えたらもうピークまで簡単なリッジのようだ。29ピッチ目、ナイフリッジを60mいっぱいで氷壁の下まで。30ピッチ目、ハングした氷壁を左上気味に登る。プロテクションはスノーバーのみ。リッジに上がって思わず叫ぶ。31ピッチ目、簡単なリッジを行き、ピーク。竹中を迎えて握手を交わす。時間的に懸垂中に暗くなりそうで、ピーク直下にいい感じのアイスケーブがあったので、スノーバーで懸垂してそこへ行き、拡張して泊まる。ツェルトで入り口を塞いだが、すきま風がひどく寒い夜だった。
(23p目成田AI3、24p目成田M3+、25p目成田WI5+、26p目成田WI5+、斜め懸垂、27p目成田M5、28p目成田WI6-、29p目成田AI3-、30p目成田WI5+、31p目成田AI3)
7/6 ガスガス C11(6:30)C12(17:00)
起きて外に出るとガスガスビュービュー。何で?とにかくもう食料はないので降りるしかない。スノーバーを回収してボラードで懸垂。南東壁を1ピッチクライムダウンするとアバラコフを作れる氷があったので懸垂。しかし視界がないので懸垂のピッチを短く切らざるを得ない。4ピッチの懸垂(支点は1ピッチ岩角意外はアバラコフ)で雪壁に出た。ガスガスでよくわからないがとりあえず南へトラバースしてみると、南南東稜と思われるリッジに出た。下降支点を作りづらそうだったので戻り、アバラコフ懸垂4ピッチで南東氷河に降り立つ。1ピッチロープが凍りついて引けなくなったので登り返した。身体が限界を迎えようとしているのか、登り返しが死ぬほどつらかった。コンテに切り替えてしばらく雪壁を下降。やがてクレバス地帯に差し掛かり、明るいうちにこれを抜けるのは無理そうなので、少し上に戻ってシュルンドの下を整地してビバーク。食料は底をつきたのでお湯で我慢する。この日はBCに帰れると思っていただけに、精神的落胆が大きい。しかし久々にプレッシャーの少ないところで泊まれて快適だった。
7/7 晴 C12(7:00)Punta Union峠(15:00)BC=C13(17:30)
成田の誕生日だがそんなことより早く帰りたいという感情しか湧かない。アバラコフ懸垂で懸崖を降り、クレバスの合間を縫って歩く。振り返るとTaulliraju東壁。こちらも登られているようだがより岩の要素が強くクライミングシューズに履き替えて5.10のクライミングなどが出てくるようだ。南東ピラーの下降点について岩角懸垂×4で下部氷河へ。モレーン帯に降り、よたよたとスラブ帯を歩きトレッキングルートに合流。Punta Union峠を越えてBCへ帰着したのは夕方。生きて帰れてよかった。久々のまともな食事を楽しんだ。 BCに残したコーラとビールが死ぬほどうまかった。
7/8 曇時々晴 C13=C14
BCで爆睡。極上。
7/9 雨→晴 C14(9:00)Llamacorral(12:00-13:00)Cashapampa(16:00)
朝起きるとまさかの雨。これには苦笑。というかこの日に山の上にいなくてよかった。ビチョビチョになりながらテントをたたみ、BCの牛たちに別れを告げて下山。少し下りると雨が止んだ。Llamacorralでは昼間からビールを飲むおっちゃん達に絡まれた。「Alpamayo登ったのかい?」「いいえ、Taulliraju登りました」と答えると驚かれ、ビールを無限にご馳走になる。ごっつぁんです!彼らは現地のガイドだそうだが、Taullirajuはまだ登ったことがないらしい。言葉はあまり通じないが陽気で楽しい人達だった。すっかり酔っ払ってしまったが帰国のフライトの都合で今日は町に下りたいのでがんばって歩く。帰りの乗り合いバスに揺られながら、何でこんなつらくて死にそうな思いをしてまで山登りをするのかボーっと考えていた。
Huarazに無事帰着し、もはや家と言っても過言ではないDream House B&Bへ。晩飯はPollo(鶏)一匹食う!と意気込んでいたが、ウェイターが何を勘違いしたのか1/4サイズを持ってきやがった。仕切りなおして別の店で豪遊した。
7/10は思い思いにHuarazで過ごし、竹中は10夜発の夜行バスでにLimaへ移動、12日のフライトで帰国。成田は少し観光をしてから14のフライトで帰国。
厳しい登攀だった。正直何度も家に帰りたいと思ったし、生きて帰れないんじゃないかと恐怖に押しつぶされそうにもなった。出発前にBCからタウイラフを眺めながら、「あの山と一つになりたい。友達になりたい。」と思ったが、友達どころかボコボコにされてしまった。ハードな山と仲良くなるには、まだまだ実力が足りないということを痛感した。
※本記録は、Rock&Snow 097にて短縮版が掲載されています。
文責:成田(2015入部)
ルームのトポをぱらぱらと眺めていると、ある山が目に留まった。それは、まるで氷を纏った花崗岩の城塞のように荘厳な山だった。僕達はこの山、Taulliraju(タウイラフ)の南西壁に魅せられ、ここを登ることにした。様々なルートがあるようだが、全てのルートはTD(6段階中の5、結構難しい)かED1~3(6段階中の6、超難しい)とグレーディングされており、容易なルートはない。僕の求める目標としてぴったりだ。登るラインは現地で見て決めよう。
Piscoで高所順応、Ranraparca北壁で足慣らしの簡単なクライミングをして本命のTaullijuへいざ、と言いたいところだったが、竹中の記録を参照すればわかるように、この2つでも大分痛い目に遭った。Ranraparca下山後、どうするかを話し合った。この山は僕達には難しすぎるんじゃないか。登りきれるのか。でも、ペルーまで来たんだからTaullirajuを実際に見たい。そのときに何を感じるかで決めたい。難しすぎたとしても、ピークまでたどり着けなかったとしても、生きて帰ってこれる自信はある。行こう。
6/25 晴、強風 Huaraz(7:00)Caraz(8:30-9:30)Cashapampa(11:30-12:30)LlamacorralCo3700=C1(15:45)
Huarazからいつも通りColectivoに乗ってCarazまで。ここで現金が足りなさそうな予感がしたので銀行でドルをソルに換えた。トゥクトゥクをつかまえてCashapampa(Santa Cruz谷の入り口の村)と連呼すると、Cashapampa行きのColectivo乗り場へ連れて行ってくれた。バスに乗ってCashapampa村へ到着。今回は登攀装備と2週間分の食料で荷物が超重く、絶対にロバを雇おうと考えていたが、村でアリエロ(ロバ使い)がつかまるか心配だった。が、バス降車地のSanta Cruz谷トレッキングルート入り口に暇そうなアリエロっぽいおっちゃんが!地図を見せ、TaullirajuベースキャンプのTaullipampaまで荷物を運んで欲しいというと、快諾。ロバ2匹とアリエロで2日(と彼らの帰り1日)で500ソル。最近物価が高騰していると聞いていたが、確かに過去の記録で見ていた相場よりもかなり高い。ダメ元で値切ってみると、450ソルでいけた。何でもやってみるもんである。
アリエロのおっちゃんがいそいそと準備するのを待ち、いざ出発。犬(アリエロの飼い犬?)もずっとついてきた。相変わらず谷の側壁がすごい。日本にあったら一大クライミングエリアになるだろう。雰囲気は宮崎の比叡山とか行縢とかに近い気がする。ロバは流石に強く、最初はついていこうとがんばったが、あっという間に引き離された。以降は谷の風景を楽しみながらのんびりトレッキング。PiscoとRanraparcaでは重荷がつらくてトレッキングを楽しめなかったが、今回はいい感じ。ロバさまさまである。途中から風が強くなり、C1のLlamacorralについても強風で寒かった。C1からは谷の奥にそびえるTaullirajuが見え、その威風堂々たる佇まいに釘付けになる。食事はアリエロの分も用意するのだが、僕らの食事はパスタにトマトや玉ねぎやソーセージを炒めたやつを乗せただけの質素なものなので、なんだか申し訳なくなる。
6/26 曇、強風 C1(7:00)Taullipampa=C2(11:00)
トレッキングを続行。進むにつれて、AlpamayoやArtesonrajuなどの名峰が視界に飛び込んできてテンション上がる。ベースキャンプとなるTaullipampaは、Taullirajuの名前の由来となった花Taulli(ルピナス)の咲き誇る平野で、Taullirajuが目の前にそびえている。午前中で着いてしまったのでアリエロとロバは颯爽と帰っていった。双眼鏡で壁を偵察するが、昨日今日降雪があったらしく、壁が今まで見たどんな写真よりも白い。そして氷は薄く細そうに見える。更に取り付きの氷河はズタズタだ。果たして登れるのだろうか。
6/27 晴 C2(7:00)Punta Union峠(9:00-12:00)Taulliraju南西壁基部(13:30-14:30)C2=C3(18:00)
壁とアプローチの氷河と下降ルートを偵察。まずはPunta Union峠(Santa Cruz谷トレッキングの最高地点。ここからトラバースしてTaullirajuへアプローチする。)まで行き、そこから峠を越えた反対側へ下りて下降ルートを偵察。いまいちよくわからなかったが、何となくここを下りられそうという見当はついた。次に氷河と壁の偵察。Punta Union峠の少し手前から北へトラバースして、スラブ帯を歩く。ケルンが所々積んであった。氷河末端で装備を換えて氷河歩き。ズタズタの氷河のクレバスの合間を縫って歩き南南東稜へ突き上げるFrench Guide's Route基部までトレースをつける。諸ルートへはとりあえず取り付くことはできそうだ。陽が当たって壁の雪化粧は落ち、氷の筋がよくわかる。しかしながら、全体的に氷が薄かったり繋がっていない。登ろうと考えていたItalian RouteやJaeger Routeも氷が薄く可能性は低く見えた。BCに戻り、どこを登るのかを話し合う。Italian Routeの隣に何本かある氷の筋はまだ登れそうに見えたので、そのうちの一本(おそらくQuebec Route)を登ることにする。また、古いトポを見るとQuebec Routeは途中の雪田で左へトラバースしてItalian Routeのリッジへ合流しているが、ここを直上してItalian Routeのロックセクション下に合流するクーロアールの方がルートとして自然に見えた。おそらく未登だしこれを登ってやろうということで話がまとまる。
6/28 晴 C3=C4
BCでレスト。
6/29 晴 Taullipampa(6:00)Punta Union峠(9:00)Taulliraju南西壁基部=C5(12:00)
トレースをたどって、そこからさらに進みFowler-Watts Route下の氷河上の壁からの落下物から守られているABCへ移動。縦穴を掘ってツェルトを被せて寝た。
6/30 晴 C5(5:30)南西壁取付(6:30)南西壁途中=C6(18:30)
雪壁を登りQuebec Routeへ取り付く。やはり氷は例年より薄そうだ。氷下のベルグシュルンドを避けて0ピッチ目竹中リードで左トラバースで氷に取り付く。1,2ピッチ目は80°までの氷雪壁で快適。3ピッチ目は成田リード。ここは下から見て最初の核心だとにらんでいたところだ。傾斜が徐々にきつくなり垂直の浅いオープンブックに張った薄氷を登る。厚さは10cmスクリューが決まるか決まらないかくらい。抜け口は傘のようなハングが覆いかぶさっており難しい。半分しか刺さらなかった13cmスクリューにタイオフでランナーを取り、ベルグラの張った凹角に足を張って何とか乗っこす。ハング上も30cm程のグズグズの雪が乗っかっており奮闘的だった。続く4,5ピッチ目は70~80°、部分的に垂直の氷雪壁だが、スクリューのきまる厚さや強度のところがあまりなくプロテクションは掘り起こした岩やスノーバーが主体となってペースが落ちる。6ピッチ目の途中で未登クーロアールの入り口に着くが、その時何故このクーロアールが未登だったのかを察した。入り口の露岩帯はハング帯となっていたのだ。これは登れない……と露岩帯を左にトラバースして薄い氷壁を登り、左手のアンデス襞の小リッジのコルに出る。可能性として考えられるのは、この先アンデス襞のリッジをいくつも越えながらトラバースしてItalian Routeへ合流(Quebec Routeと完全に同じ)か、左手から右上する狭い氷のクーロアールを登って未登クーロアールへ合流するか、すぐ右の露岩帯をM7~9くらいのミックスでトラバースして合流するかだ。どれも困難そうだ。先行きが怪しくなったが、ここで時間切れなので6ピッチ目をフィックスして降り、ハング帯の下の氷を2時間かけて削って2人が足を伸ばして座れるスペースを造り出してビバーク。意外と快適に眠れた。
(1p目竹中WI3+、2p目成田WI3、3p目成田WI5+、4p目竹中WI3+、5p目成田WI4、6p目竹中WI4)
7/1 晴 C6(5:30)9p目終了(16:30)C6=C7(18:00)
6ピッチ目をユマーリングし、とりあえず小リッジのコルを乗っこしたところにある右上する浅く狭い薄氷クーロアールを登ってみる。しかし氷は非情にもどんどん薄くなり、更に上の方ではスラブに雪のようなものが乗っかっているだけのように見えたので諦める。何とか右へトラバースして未登クーロアールへの侵入を試みるが、急なスラブにベルグラといった感じで危険。諦めてアバラコフ作って降りる。このときアックスをベルグラに引っ掛けながら強引に斜め懸垂したところ、何とかクーロアール内の支点を作れる氷雪壁パートへ到達できた。あとは快適に氷を登るだけと思ったがそんなことはなかった。氷は見た目よりも薄くスカスカで、アックスすら決まらないことも。傾斜は70~85°でこの氷質だときつい。スクリューはほとんど信用できないので、所々岩を掘り起こしてカム、トライカム、ハーケンを決めてランナーを取る。結局この日は2ピッチ登ったところで時間切れとなり、60m×2ピッチ分ロープをフィックスして昨日のビバーク地に戻りビバーク。
(7p目成田WI4+、斜め懸垂、8p目竹中WI4+、9p目成田WI4+)
7/2 晴 C7(4:30)南西稜合流(13:00)14p目終了点=C8(17:00)
暗いうちにユマーリング開始。ハングの空中ユマーリングなので細いハーフロープが擦り切れないか恐ろしい。10ピッチ目は傾斜は垂直近くなり難しい。疲れないよう一定の速度で登り、少しでもマシな氷質のところにスクリューを打ち込んでいく。11ピッチ目は80°のミックス。傾斜の強いところがスカスカの雪氷となり、きわどいクライミング。12ピッチ目で竹中が雪壁からの厳しいミックスの後、イタリアンルートのリッジに上がろうとするも、猛烈な除雪の雪壁に阻まれる。ここは成田が交代して右にトラバースして岩と氷のチムニーを登ったら楽に上がれた。クーロアール内は一日中陽の光が当たらなかったので、3日ぶりの太陽が眩しく暖かい。そのままリッジを少し登るが、このリッジも悪かった。厚さ3~40cm程のグズグズの氷を破壊しなければまともな氷にありつけない。じわじわと登るがしまいにはグズグズ氷を破壊した挙げ句に岩にへばりついた厚さ1cm程の氷の破片にフッキングして登るという始末。このセクションを切り抜けて左へリッジをまたぐとようやくまともな氷にありつけた。上にはイタリアンルートの初登の際のものと思われるフィックスロープがある。14ピッチ目で氷を少し登ってからグズグズの氷を右へトラバースしてボロボロのフィックスのあるエイドセクションまで。15ピッチ目、ハングしたクラックをエイドで登る。トポには1~2ムーブのエイドとあったが、氷があまりにないのか10ムーブぐらいのA1だった(キャメロット#0.1~0.75使用)。このピッチにロープをフィックスして下の岩陰を少し整地してビバーク。横になれたので快適。
(10p目成田AI4+、11p目成田M4+、12p目竹中AI4,M5、13p目成田WI4+,AI4+、14p目竹中WI4+、15p目成田A1)
7/3 ガスガス C8(5:30)頂稜合流(12:30)頂稜西端付近=Ω9(15:00)
起きるとガスっていて萎える。1ピッチユマーリングして氷を少し登ってから左トラバースして氷柱基部まで。下からは簡単そうに見えたが、氷質がボロボロ悪かった。17ピッチ目、氷柱を登るしかないのだが、氷柱の集合体でハングしている。しかも中間部に横クラックが入っていて折れそう。標高5600mくらいで登る代物ではない。暫し逡巡するが、入念に氷をチェックした末、意を決して登る。フリーは早々に諦めスクリューにテンションをかけながらエイドで。諸々のコンディション(身体含め)を考えるとこれが妥当な判断だったと思うが、何だか負けた気分になってモヤモヤとした。このピッチからリードは全て成田、竹中は重荷でのフォローと完全分業制にする。続く18,19ピッチ目はクーロアールを登り氷塔の基部まで。基部に上がるあたりがグズグズで手も足も決まらない垂直氷で悪かった。氷塔基部で「そばが食いたい」「僕はうどんがいいですね」などと気の抜けた会話をする。氷塔を右に回り込むとハングしたグズグズ氷壁を10mトラバースしなければ先に進めないので諦め、左に回り込むとスパッと切れ落ちたリッジに出た。ガスガスで自分達がどこにいるのかよくわからないが、方角からしてどうやら北壁側に回り込んだようだ。頂稜は上を行かずに北壁側へ下降してトラバースするのがセオリーらしいが、ほとんど視界のない中未知の壁へ下降するのは恐ろしい。あまり高度を変えずに行けそうな所をトラバースすることにする。リッジからハングしたみじかしい氷壁を登り、氷塔を北壁側に回り込む。更に北壁側をトラバースしてボロい氷の垂直の凹角を登ったあと、グズグズの氷を登ると頂稜の西端らしき場所に出た(20~22ピッチ目)。しかしこの視界ではこれ以上どう進めばいいのかわからないので、ここにイグルーを作って泊まることにする。
(16p目竹中AI4、17p目成田WI6(A0)、18p目成田WI3+、19p目成田AI4+、20p目成田WI5+、21p目成田WI4+、22p目成田WI4+)
7/4 ガス Ω9=Ω10
起きると成田の目に違和感が。昨日ガスっていたので油断してサングラスをかけなかったが、どうやら軽い雪盲になってしまったらしい。外では風の音が聞こえ、天気は良くなさそうだ。連日の疲れもあり、イグルーという快適かつ強固な砦を得ているのでこの日は停滞とする。しかし心配なのは食料だ。今回4.5日分しか持ってきていないので既に尽きかけている。このペースではピークへ行ってBCに戻るまであと3日はかかりそうなので、全く足りない。とりあえずこの日はお湯やお茶で我慢して飯は一切食べなかった。明日雪盲が治らなかったら……、シャリバテで動けなくなったら……とどんどん弱気になっていく。今なら同ルート懸垂で2日あれば敗退もできる……と弱気発言の成田。いや、まだ諦めたくないですと竹中。夜、成田は腹痛と下痢で死が一瞬頭をよぎった。なんでこんなことをやっているんだろうと本気で思った。
7/5 晴時々ガス Ω10(7:00)Taullirajuピーク=C11(17:00)
成田の目は回復。外も晴れたので僅かなフリーズドライパスタを口にしてイグルーを後にする。昨日の弱気はどこへやら、今日はなんだかいける気がする。いや、行くしかない。北壁へ下降してトラバースするのは微妙に見えたので、できるだけ頂稜を行き、無理そうなら小さめに北壁側を巻くという方針で行く。23ピッチ目、きわどいナイフリッジを行き、氷塔の基部から北壁側の氷のバンドへ。24ピッチ目、氷と岩のミックスしたバンドを這うようにしてトラバース。25ピッチ目、ハングしたボロボロの氷を登り氷塔に空いた穴まで。26ピッチ目は穴から左トラバース気味にハング氷を越え、簡単な氷の斜面をトラバース。ナイフリッジに合流する手前まで。このままナイフリッジを行くと微妙そうなので北壁側へ斜め懸垂30m程で岩と氷のミックスの斜面へ。27ピッチ目、氷とクラックをM5くらいのドライツーリングで左上。横スリットにアックスをトルキングなどの千代士別のミックスクライミングでやったようなそれっぽい動きをして楽しい。28ピッチ目、更にトラバースすると積み木のような岩の重なったハング地帯に出て面倒そうだったので、リッジに上がってしまうことに。ハングした氷の後、スラブとクラックから再び氷へ。氷質はボロボロスカスカでスクリューの効きは良くない。そして当然のごとくハングしている。断食していて身体のコンディションは悪いはずなのだが、気合で越える。途中、マシな氷のところにいつのものかわからないアバラコフスリングがあった。リッジに出てスノーバーでビレー。ここからようやくピークが見えた。あと一段、ハングした氷壁を越えたらもうピークまで簡単なリッジのようだ。29ピッチ目、ナイフリッジを60mいっぱいで氷壁の下まで。30ピッチ目、ハングした氷壁を左上気味に登る。プロテクションはスノーバーのみ。リッジに上がって思わず叫ぶ。31ピッチ目、簡単なリッジを行き、ピーク。竹中を迎えて握手を交わす。時間的に懸垂中に暗くなりそうで、ピーク直下にいい感じのアイスケーブがあったので、スノーバーで懸垂してそこへ行き、拡張して泊まる。ツェルトで入り口を塞いだが、すきま風がひどく寒い夜だった。
(23p目成田AI3、24p目成田M3+、25p目成田WI5+、26p目成田WI5+、斜め懸垂、27p目成田M5、28p目成田WI6-、29p目成田AI3-、30p目成田WI5+、31p目成田AI3)
7/6 ガスガス C11(6:30)C12(17:00)
起きて外に出るとガスガスビュービュー。何で?とにかくもう食料はないので降りるしかない。スノーバーを回収してボラードで懸垂。南東壁を1ピッチクライムダウンするとアバラコフを作れる氷があったので懸垂。しかし視界がないので懸垂のピッチを短く切らざるを得ない。4ピッチの懸垂(支点は1ピッチ岩角意外はアバラコフ)で雪壁に出た。ガスガスでよくわからないがとりあえず南へトラバースしてみると、南南東稜と思われるリッジに出た。下降支点を作りづらそうだったので戻り、アバラコフ懸垂4ピッチで南東氷河に降り立つ。1ピッチロープが凍りついて引けなくなったので登り返した。身体が限界を迎えようとしているのか、登り返しが死ぬほどつらかった。コンテに切り替えてしばらく雪壁を下降。やがてクレバス地帯に差し掛かり、明るいうちにこれを抜けるのは無理そうなので、少し上に戻ってシュルンドの下を整地してビバーク。食料は底をつきたのでお湯で我慢する。この日はBCに帰れると思っていただけに、精神的落胆が大きい。しかし久々にプレッシャーの少ないところで泊まれて快適だった。
7/7 晴 C12(7:00)Punta Union峠(15:00)BC=C13(17:30)
成田の誕生日だがそんなことより早く帰りたいという感情しか湧かない。アバラコフ懸垂で懸崖を降り、クレバスの合間を縫って歩く。振り返るとTaulliraju東壁。こちらも登られているようだがより岩の要素が強くクライミングシューズに履き替えて5.10のクライミングなどが出てくるようだ。南東ピラーの下降点について岩角懸垂×4で下部氷河へ。モレーン帯に降り、よたよたとスラブ帯を歩きトレッキングルートに合流。Punta Union峠を越えてBCへ帰着したのは夕方。生きて帰れてよかった。久々のまともな食事を楽しんだ。 BCに残したコーラとビールが死ぬほどうまかった。
7/8 曇時々晴 C13=C14
BCで爆睡。極上。
7/9 雨→晴 C14(9:00)Llamacorral(12:00-13:00)Cashapampa(16:00)
朝起きるとまさかの雨。これには苦笑。というかこの日に山の上にいなくてよかった。ビチョビチョになりながらテントをたたみ、BCの牛たちに別れを告げて下山。少し下りると雨が止んだ。Llamacorralでは昼間からビールを飲むおっちゃん達に絡まれた。「Alpamayo登ったのかい?」「いいえ、Taulliraju登りました」と答えると驚かれ、ビールを無限にご馳走になる。ごっつぁんです!彼らは現地のガイドだそうだが、Taullirajuはまだ登ったことがないらしい。言葉はあまり通じないが陽気で楽しい人達だった。すっかり酔っ払ってしまったが帰国のフライトの都合で今日は町に下りたいのでがんばって歩く。帰りの乗り合いバスに揺られながら、何でこんなつらくて死にそうな思いをしてまで山登りをするのかボーっと考えていた。
Huarazに無事帰着し、もはや家と言っても過言ではないDream House B&Bへ。晩飯はPollo(鶏)一匹食う!と意気込んでいたが、ウェイターが何を勘違いしたのか1/4サイズを持ってきやがった。仕切りなおして別の店で豪遊した。
7/10は思い思いにHuarazで過ごし、竹中は10夜発の夜行バスでにLimaへ移動、12日のフライトで帰国。成田は少し観光をしてから14のフライトで帰国。
厳しい登攀だった。正直何度も家に帰りたいと思ったし、生きて帰れないんじゃないかと恐怖に押しつぶされそうにもなった。出発前にBCからタウイラフを眺めながら、「あの山と一つになりたい。友達になりたい。」と思ったが、友達どころかボコボコにされてしまった。ハードな山と仲良くなるには、まだまだ実力が足りないということを痛感した。
※本記録は、Rock&Snow 097にて短縮版が掲載されています。
文責:成田(2015入部)
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感想/記録
by Takenaka2017
成田さんから遠征の誘いを受けてからタウイのピークに立ってBCに帰ってくるまでの10ヶ月間、山の技術的な部分では先輩にかなり頼りきりだった感があるけれど、自分はよく頑張ったと思う。ちょっと褒めてやってもいいかなと思った。
感想/記録
by nrtk7
下山してしばらく経って思うが、ピークに立った日のクライミングは、今までの人生で一番山と一つになれていたのかもしれない。
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