サンティアゴ巡礼ポルトガルの道 Camino Portugués - Day 1

- GPS
- 05:08
- 距離
- 13.6km
- 登り
- 91m
- 下り
- 97m
コースタイム
- 山行
- 5:08
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 5:08
過去天気図(気象庁) | 2023年04月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
2023年4月6日午前10時、サンティアゴ巡礼道「ポルトガルの道」踏破へ向けリスボン大聖堂から歩き始めた。
大聖堂は昨日来た時とは様子が違い、正面入口の上には紋章柄の巨大な幕が掲げられていた。中では礼拝か式典か何かがちょうど始まったようで、多くの人が着席しており観光客は両側の暗い通路で静々と拝観している。
サンティアゴ巡礼者用のスタンプ帳、通称カミーノ・パスポートにスタート記念でこの大聖堂のスタンプを押してもらおうと思っても、どうもこの状況では対応が無理なのか「午後3時以降」と言う。昨日来た時にもらっておけばよかったのだが、スタンプのことなどすっかり忘れていた。
ま、サンティアゴ巡礼では日本の四国や西国巡礼のように決まった寺院を通らないと行けないという決まりはない。スタンプだって最後にサンティアゴの大聖堂で「踏破証明書(Credential)」が欲しい場合のみ、最低100kmの道を来ましたという「証明」として1日最低2個のスタンプを店やカフェ、宿泊施設から貰わないといけない。また、巡礼者用の超格安宿(アルベルゲ)に宿泊するには、巡礼者である証明としてこのカミーノ・パスポートが必要なようだ。
私達は主に普通のホテルに宿泊する予定に加え、サンティアゴ手前100kmなどまだ遙か先なので、リスボン大聖堂のスタンプは気にせず歩き始めることにした。
サンティアゴ巡礼道の道標といえば、ホタテ貝マークと黄色の矢印。これはどの地域をまたがるどのルートを歩こうと共通だ。
「ポルトガルの道」の出発点、しかもポルトガルを代表するリスボン大聖堂前となればさぞかし立派な道標があるに違いない…と思いきや、なんと正面入口の横の石壁の下の端にこそっとペンキで手書きの黄色い矢印のみ。これは聞いていなければ本当にただの落書きにしか見えない。しかも入口前の石段には観光客がけっこう座り込んでいるので、この前に座られていたら全く見えなかっただろう。
なんだかいろいろと締まりのないスタートになってしまったが、歩き出す。まずは昨日上から見ていた丘の斜面に沿って古い家々が張りついて立っている旧市街地を抜けていく。車一台がやっとという細い石畳の路地がくねくねと続き、三叉路・四差路・五差路が当たり前のまさに迷路だったが、手書きペンキの黄色矢印がちゃんと分かれ道ごとに正しい方向を示してくれている。
多くの場合、黄色の矢印とともに青い矢印もついている。こちらは「聖地ファティマ巡礼」用の道標だ。
このファティマ巡礼ルートは、特にポルトガル国内部分では、サンティアゴ巡礼「ポルトガルの道」ルートと同じ道になっている箇所が多いようだった。
リスボンの北方に位置するファティマ村で、比較的最近(?)の1917年に「ファティマの奇跡」が起こった。以来、カソリック信者には国際的に有名な巡礼地になっているらしい。
ちなみに「ファティマの奇跡」とは、ざっくり言うと「村の3人の幼い子供たちの前に、天使や聖母マリアが出現した。しかも何回も」というものだ。それならば四国遍路にだってやれ弘法大師をみただの龍を見ただのと言う人は何人もいて、道沿いには記念の石碑まで立ててたりするが、こちらはれっきとしたバチカン公認。
ちなみに記念日は最初に聖母マリアが出現した5月13日で、この日が近づくとファティマ村や巡礼道はものすごい人出になるらしい。全くそんなことは知らなかった私達だったが、幸い5月頭には歩き終わる予定だったので宿争奪戦は避けられそうだ。
ファティマ巡礼道に関しては、青いペンキの矢印に加えて青色のロゴステッカーが頻繁に道路標識の柱に張られていて、LisbonからPortoまでのマイナー区間では、黄色と青の道標対決で完璧にサンティアゴ巡礼道を食っていた。
旧市街地の迷路を抜け、両側から路地に倒れかかるように立ち並ぶ古い家々の日陰から出ると、急にあたりが明るくなった気分になる。ここからしばし港近くの倉庫や工場がならぶエリアを通るので、周囲の光景はいきなり300年ぐらいタイムスリップしたようだ。古い倉庫のいくつかは内部を改装してシアターやアートギャラリーにしているようだ。数年後には「古い倉庫街がいまやおしゃれなエリア」になる過渡期といったところだろうか。
朝からずっと何も食べていないので、通り沿いの適当なカフェに入った。超地元御用達の店のようで、常連ぽいおじいさんやおばあさんの注目を浴びながら、サンドイッチとコーヒーで遅い朝食をとった。
道はもはや感動的レベルでアスファルト舗装はなく、ひたすらぼこぼこした石畳みの道が続く。そこだけ歴史がさかのぼった感じなのだが、周囲の建物は現代風寄りになっているので、あまり「古道を歩く」という気分にはならない。
昨日観光でリスボン中心地をあちこち歩いた時と同様、繁華街であろうと住宅地であろうと、通りやちょっとした空き地にゴミが落ちていない。店の隅や目立たない場所に使っていないものや古びた廃棄物がごちゃっと置かれているようなことがまったくない。これには心から感嘆した。
日本でロングトレイルや巡礼道歩きをしていると、どうしても缶やペットボトルのポイ捨てや、山の中の不法投棄が目に入る。
これは明らかに、ポルトガル(そして他の欧州諸国でも同様に)ではそこらじゅうにゴミ箱があること、家庭や事業ゴミを捨てるのも通りの角々に大型の収集箱があり毎日いつでも捨てられることといった「ごみ捨てが非常に簡単」な事が大きく関係しているに違いない。いつでも目の前にゴミ箱があれば、それをわざわざ避けてあえて道に落とすだろうか?
ゴミ以外でも、今のところポルトガルの人達は総じてマナーが良いと感じている。
例えば混んでいる店の中や、狭い路地で私達が通り抜けようとしているのに気づくと、性別年齢関係なくさりげなく身体をずらして道を開けてくれる。
車の運転の荒さは有名なようだが、では東南アジアの国のように車最優先で歩行者の群れに突っ込んでくるかと言うとそうではない。私達が横断歩道の前に立つとどんな車も絶対に止まる。横断歩道にまだ達してなくて車が走り抜けられるぐらいの時間があったとしても、止まる。その辺りの交通ルールは徹底して守られているようだ。
列車の線路沿いにしばらく歩いた後、ある地点から突然周辺が一気に近代化した。新しいオフィスビルや高級マンションが立ち並び、ここは日本の幕張か?と思うような街並みにくるりと変わったのだ。「ここからおしゃれな街です」という境界線でもあるのだろうか?海岸沿いにはロープウェイまで走っている。
ここは1998年に、ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見500周年を記念してリスボン万博が開催された場所だった。
その当時に一大開発され、万博会場の跡地も今では海沿いにボードウォークが続き、ロープウェイの他にも多くのレストランやカフェが並ぶ公園になっている。
海の上を横切る一筋の白い線は、全長17.2kmのヴァスコ・ダ・ガマ橋。もちろん万博に合わせて開通した橋で、2018年までは欧州最長の橋だったそうだ。
「ポルトガルの道」ルートは、まさにその公園内の海沿い遊歩道をまっすぐ進んでいく。いや、仮にルートがもう少し内陸よりで何の変哲のない道路だったとしても、私達はこちらを通っただろう。なにしろ景色も良く店も多く、歩いていて楽しい。
海に向かってすっくと立つ白亜のミリアド・ホテルとタワーを通り過ぎた後、海の見えるカフェで時間潰しがてら長い休憩を取った。
さんさんと明るい陽光の下、ランニングやサイクリングにいそしむフィットな人達が駆け回り、おまけにどうもすぐ裏にある警察学校の生徒の皆さんまで集団ランニング訓練か何かで駆け回っている。
もはや巡礼道を歩いてる気分は皆無。だがそれもよし。気持ちよく晴れた午後の海沿い街散歩も、普通に楽しい。
今日は初日でもあり、宿泊場所の関係もあり、距離は短めの14kmと計画していた。
古いガイドブックを見ると、以前はリスボン出発後20km地点ぐらいに巡礼者用アルベルゲがあったが、閉業して今はない。ルート通り進むとその次の宿泊施設は30km地点を越えた場所にしかなく、初日からそこまでぶっ飛ばしてしまうと、まず身体を壊してしまう恐れ120%だ。なにより固く表面が均等ではない石畳みの道は、地味にかかとを痛めつけてくる。
今回の「ポルトガルの道」ハイクでは、できる限りその日歩き終わる場所がその夜の宿泊場所にしたかった。
というのも、日本の遍路道やロングトレイルは大部分が過疎化の進む地方を歩くため、宿泊場所も限られているため、電車やバスを使って行ったり来たりせざるを得ないことが多いからだ。
宿泊場所の選択によっては連泊して重い荷物を置いて歩けたりと便利な反面、路線図や時刻表を必死で探したり、日に数本しか運行していない便なら何が何でも発車時刻に間に合わなければならない等と、正直面倒くさいのも確かだ。
なにより「歩き旅」なればこそやはり、毎日ひたすら前へ前へと歩いて進み続けたい。
現状、件のリスボンから20km地点の宿がもはや存在しない以上はハイカーは40km近い距離を歩き抜くか、電車やタクシーでリスボン中心街に戻って宿泊するかの選択にならざるを得ず、後者を採るのはごく一般的のようだ。
私達も身体第一、初日に40kmはあり得ない。大聖堂から14km辺りで「ポルトガルの道」ルートがSacavem駅の真横で線路を横切るので、この駅で今日は歩き終わりと決めた。
ただし、ギリギリ「来た方向に戻りたくない」という感情を満たす妥協案として、リスボン中心地ではなく、電車で2駅先のSanta Iria駅近くにホテルが数件あるのを見つけた。
Sacavem周辺はまだ全然都会なので、Uberのような配車アプリで車を探してみるとどうやら楽々捕まえられそうだ。ホテルまでの料金も電車利用とほぼ変わらないので、配車依頼をクリックした。
5分でここに来るという車を駅前で待っていると、健康ウォーキング中らしきおじいさんが通りがかった。ぼけっと立っている私達の出で立ち見て「カミーノ?カミーノ?」と元気な声で話しかけてきた。私達がスマホを見ていたので道を探していると思ったのだろう、ポルトガル語をバババっと喋り続けながら身振り手振りで「こちらに行って、ここを通り抜けたらあちらの方に曲がって」らしき事を言ってくれてるのだと推察できた。
もちろん私達は一言だっておじいさんの言っていることはわからないが、ニュアンスはわかった。そもそも今日はこれで終わりで明日行く道筋もわかっていたが、おじいさんの親切な気持ちをありがたくお受けした。「オッケー。助かりました。ありがとうございます」と頭を下げお礼を言った。
おじいさんは「頑張ってね。はっはっは。ボン・カミ〜ニョ〜」と颯爽と歩き去った。
ポルトガルのおじいさんおばあさんは、雰囲気といい物怖じせず旅人を助けてくれるところといい、四国遍路の道沿いのおじいさんおばあさんたちに良く似ている。
ほどなく車が到着し、ハイウェイで10分、あっとう言う間にホテルに到着した。ちょうどチェックイン開始時間の午後3時だ。
すぐ隣にスーパーがあるのでおやつや飲み物を買いに行き、夕食はホテル内のレストランで食べたので、初日の夜はゆっくりと休むことができたのだった。
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