2泊3日・上高地から西穂〜奥穂・ジャンダルム
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コースタイム
8月25日 5:40西穂山荘-8:00西穂高岳-10:45天狗ノ頭-13:30ジャンダルム-15:10奥穂高岳-15:40穂高岳山荘(泊)
8月26日 7:00穂高岳山荘-8:30涸沢-9:30本谷橋-14:00上高地
天候 | おおむね晴れ時々くもり、午後にわか雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2010年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
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コース状況/ 危険箇所等 |
西穂から行く方がキツいとのことで、奥穂から来る人の方が圧倒的に多かったです。長丁場の最後の最後に核心部があるからとの理屈はわかるけど、最初にクライマックスってのはどうなんだろ。 西穂独標直下の崖下りが、まず最初のヒヤヒヤドキドキ。それ以降は西穂頂上までそれなりの岩場が続くが、これといった問題なし。西穂頂上からのクサリ場では険しい下りにヘルメットをつけた先行パーティが苦戦しているのが見えて、こちらも人生初のアンザイレンしましたが、腰にロープをくくりつけて、降りて、ほどいて、ロープを降ろしてたたんで、のプロセスが思いのほか時間がかかる&消耗するので、安心感というより、鬱陶しい。ロープ、ぶっちゃけいらないと思います。 進むにつれて、大キレットの時程の高度感による恐怖はないものの、つかんだ岩がボロッと落ちたりするのが嫌な感じ。何度か浮き石を谷間に落としてしまった。カラカラカラとすごーく嫌な音を立てて、はるか眼下まで落ちて行く。間の岳の下りも振り返るとすさまじい。天狗の頭に着く頃には、もろい岩場を登っては降りての繰り返しに疲れていたので、逆層スラブが登りやすく感じた。 西穂から行くと、写真で見慣れてる姿とは違うのでどれがジャンダルムなのかなかなかわかりにくく、「ジャン↑オクホ→」の手書きのサインを見てやっと気がつきます。懸垂下降しない人はザックをデポして空身でピストンするということを初めて知りました。基部からピークまではクサリもあるしあっという間です。しかし、そこからロバの耳だ馬の背だと凄まじい高度感に緊張感の続く難所が奥穂まで連続し、体力の限界近くまで来ていたこともあって確かに神経がすり減りました。 |
写真
感想
ちょうど去年の8月。後立山の八峰キレットと不帰の嶮でスリルのある岩場の魅力にハマったワタシは、次なるターゲットに大キレットと下の廊下を決め、段階を踏んで剱岳とジャンダルムも踏破してやろうとたくらんでいた。しかし、いろいろ調べて行くうちに、どうもジャンダルムだけは一人で行ってはいけないところらしいということがわかった。西穂〜奥穂間は9時間の長丁場のコースでその間に小屋はおろか水場もトイレも一つもなく、登山地図上でも難路とされて破線になっているため通る人も少ない。本には初心者は必ず経験者かガイドをつけて行けと書いてある。おまけに去年は滑落遭難者を救助しにいったヘリコプターが墜落するという事故まで起きている。どうしよう。
そんな時、前の職場にクライマーがいたのを思い出した。かつて、かの平山ユージや山野井泰史とヨセミテの岩に登っていたという人。しかし同じ部署の人とはいえ、在宅勤務エンジニアのサトウさんとは机を並べて仕事した訳じゃないのでいきなり誘いづらいし第一連絡先も知らない。そんなとき、タイミングよくサトウさんと仲良しの山ちゃんと久々にごはんでも食べようよという話になって、サトウさんにも声をかけてもらうことになったのだ。1年ぶりにサトウさんに会って、ビールを飲みながら「ところでお願いがあるんですけど」と切り出したところ、思いのほか二つ返事で「いいよ」と1年後のガイド役を引き受けてくれたのであった。
時は流れ、今年の春になってリマインドのメールを打ってみたところ、ちゃんと覚えていてくれて、しかも「鷹取山で一度練習をしよう」と言ってくれて嬉しかった。サトウさんが「20年以上ぶり」といいつつ、スイスイと垂直の壁をよじ登って行くのを見て、心強く思った。ジャンダルムでは本当のクライミングをするわけではないけど、自分より圧倒的に技術のある人と一緒に行動できるのは何よりの保険だ。
そしていよいよその時が来た!
ルートとアプローチの選択はワタシにまかされ、行き帰りの足の手配と小屋の予約とコースタイム管理も自分がしたので、連れて行ってもらう感じはない。特に持ち物とかの打ち合わせもなく、出発のバスの時間と場所だけメールで伝えて当日を迎えた。
【day1】8月24日 13:00上高地-15:30西穂山荘(泊)
新宿を朝7時に出発。松本と新島々で乗り換えて上高地のバスターミナルのひとつ手前、帝国ホテルで降りる。サトウさんは登山届など書いたことがないというが、ビビリなワタシは西穂登山口で届をポストに投函し、出発。上高地とはいえ猛暑のさなか、真っ昼間の樹林帯歩きに汗をしたたらせる。今回は小屋泊まり2泊なので荷物は軽いんだけど、サトウさんには50mのロープを担ぎ上げてもらってるので、その分おやつ担当はワタシという認識でこまめにゼリーやら巨峰やらトマトやら差し出す。山荘まで、これといった目印や水場、眺望がないまま標高を900m上げるのは精神的につらいので、ちょくちょく小休止。しかしサトウさん、ペース早い。55歳とは思えないね。普段テニスで鍛えているとはいえ、何年も山登りを全くしてないのに凄い。
途中、他の登山者に追いつくことも抜かれることもなく静かな山歩きだったのが救い。森林限界かな、と思ったら急に人の声がして、そこは西穂山荘だった。着いてみれば団体さんで大賑わい。ほとんどの人が飛騨側からロープウェーで上がって来ている模様。乾杯の生ビール800円ウマかった〜。おつまみポリポリやりつつ外のベンチで飲みながら、山の話、仕事の話などおしゃべりがはずんだ。約2年勤めた会社で、サトウさんとの会話は通算2時間ぐらいじゃないかと思うんだけど、今日1日で軽くそれを凌駕した。ぶっきらぼうで言葉を飾らないので怖がる人もいるけれど、裏表がなくて単刀直入なサトウさんとはワタシはウマが合う気がする。しかし小屋の受付で「本日は布団2枚で3人で寝ていただきます」と言われて内心恐々としていたが、結局布団6枚に4人の部屋で寝れた。ホッ。机すら並べたことのないおじさんといきなり布団シェアするのはちょっとね。
【day2】8月25日 5:40西穂山荘-6:35西穂独標-8:00西穂高岳-10:45天狗ノ頭-13:30ジャンダルム-15:10奥穂高岳-15:40穂高岳山荘(泊)
早朝、ガスってはいるものの雨の心配はなさそうで予定通り出発。どうやらジャンダルム方向を目指す人々はもっと早くに出発している模様。小屋を出てすぐの岩ゴロゴロの急登にあえぐ。コロンと名前通りの丸山で、飛騨側に見えるはずの笠が岳は雲に覆われ信州側もこれといって展望はない。が、薄日が射して来て小さくブロッケン現象ができた。やった。初めてだ。後光が射したキリスト像みたいな自分が雲の上に写るんです。幸先よさげ。
西穂独標で先行組3人に追いつく。日が高くなるにつれ晴れて来て、本日のコースが脈々とうねって続く様子が見渡せた。標高差にして200-300mのピークを5つも超えていくのだ。1時間登って、やっとスタート台に立った実感。そして独標直下の崖下りに、まず本日最初のヒヤヒヤドキドキ。何たって足もと切れ落ちてるんですよねー。リードしているサトウさんが距離を置いてしっかり見守ってくれているのが有り難い。なるべく自分の力で行きたいから、手取り足取りじゃなくていいんです。
それ以降は西穂頂上まで岩場が続くが、登り基調なのでこれといった問題なし。先の方に槍ヶ岳や、こないだ登った鷲羽・水晶が現れた。振り返ると焼岳が見えて来てちょっと嬉しい。なんたって、靴とザックを買って初めて登った山ですから、初恋の人みたいなもんでね。
西穂頂上からのクサリ場で、険しい下りにヘルメットをつけた先行パーティが苦戦しているのが見えて、こちらも人生初のアンザイレン。腰にロープをくくりつけて、降りて、ほどいて、ロープを降ろしてたたんで、のプロセスが思いのほか時間がかかる&消耗するので、安心感というより、やや鬱陶しい。進むにつれて、大キレットの時程の高度感による恐怖はないものの、つかんだ岩がボロッと落ちたりするのが嫌な感じ。何度か浮き石を谷間に落としてしまった。カラカラカラとすごーく嫌な音を立てて、はるか眼下まで落ちて行く。誰もいないからいいようなものの。。。岩を見慣れているサトウさんはサクサクと切れ落ちている側を登っていくが、自分は着いて行くとひどい目に会うので途中からは当てにしないことにした。
間の岳からの下りも振り返るとすさまじい。天狗の頭に着く頃には、もろい岩場を登っては降りての繰り返しに疲れていたので、垂直な屋根瓦のような逆層スラブが登りやすく感じた。天狗のコルで見上げる長い長い登りは標高差にして300m。先に見えるのはそろそろジャンダルムか?ワタシの持っている北ア全部が載ってる地図ではそこまではわからない。サトウさんもコンパスは持っているけど地形図はもってないので、思わず2人して笑ってしまった。ま、目の前のピークを越えてみればわかることだよな。ビッグな壁を目の前にして、お弁当を広げてまずはお腹を落ち着けよう。
苦労して登った壁の上は、ナイフのようなとんがった岩が天に向かってそそり立つ稜線に、両側がスッパリ切れ落ちている。ビビるワタシに「ホールドとスタンスがしっかりしてるから平気だよ」とサクサク進むサトウさんにプチ切れ気味。そういう問題じゃないって。どいつもこいつも信用できないグラつきがちな岩をがっつりホールドできるかっつーの。ワタシはランドマークタワーのガラス窓に決して近寄れない高所恐怖症なんだぞぉ。気がつけば屏風のような前穂の稜線がジャジャーンと目の高さに見えて来て、はるか1000mほど眼下には岳沢の小屋の屋根が石を投げれば当たりそう。。。
そしていよいよ「ジャン↑オクホ→」のサインが目の前に。おお、いよいよジャンの取り付きまで来たか。サトウさんに言われて、ここからはザックをデポして空身でピストンするということを初めて知る。ロープで確保されつつ直登、あっという間にピークに立つ。なんだ、基部からジャンそのものはクサリもあるしなんてことはない。
しかし、そこからロバの耳だ馬の背だと凄まじい高度感に緊張感の続く難所が奥穂まで連続している。ちょうど目の前にいる学生らしきヘルメット姿の5人組がセミのようにピラミダルな岩にまたがったまま動かない。こんな岩場だというのに、デカザックにいろんなもんぶら下げて、揃って銀マ外付けしてるし、見るからにバランス悪そう。どうやら赤い服を着た男子1名があまりの恐怖に動けないらしい。「来るところ間違えた」だのブツブツ言ってるのが聞こえる。それはいいけど、周りの仲間が「ファイト!がんば!」というかけ声だけで乗り切ろらせようとしているのが脱力。見ている方が怖くて思わずうつむくワタシとサトウさん。体力の限界近くまで来ていたこともあって神経がすり減ったところだったので、前のアホたれガキパーティにじっくり時間をやることにした。お陰でサトウさん切れちゃって、若干ワタシのこと放置気味。あの〜、こんなナイフリッジ超える時こそ助けてほしいんですけど〜。奥穂の山頂はガスガスだったのでスルーして、穂高岳山荘に着いたらちょうど10時間経っていた。疲れた〜。
【day3】8月26日 7:00穂高岳山荘-8:30涸沢-9:30本谷橋-14:00上高地
前日の疲れを引きずりつつまた奥穂山頂に登って前穂へと縦走し、岳沢までの激下り重太郎新道にて下山するのを懸念したサトウさんが、涸沢ルートで下山することを提唱。ワタシは前穂をまだ歩いたことがなかったので、今回穂高3兄弟をそろい踏みしたかったのだが、ここはリーダーの判断に素直に従う。
ゆっくり起きて、遅めに朝食を取り、ドリップコーヒーを入れてもらって、誰よりも遅く小屋を出た。といっても7時出発ですけど。怪獣の背のようなギザギザな岩場のザイテングラートを下る。涸沢までの下り1時間は疲れた膝にこたえたけれど、前日丸一日殺伐とした岩ばかり見て過ごしたので、カールの緑と雪とお花が目に優しく、何度も振り返っては奥穂から北穂の素晴らしい眺めを楽しんだ。ちえっ、被写体が良すぎて、こんなの誰がどのカメラで撮ってもキレイに決まってる。
今日は下山だけで余裕があるので、すれ違う人々をいちいち観察しては判定を下すサトウさん。「あの学生はなかなかしっかりした装備だ」「あのカップルはストックの使い方が全然わかってない」「彼は写真に力を入れているようだな、すごいレンズを持っていた」「足下だけ見ていると、そろいも揃ってタイツ履いて、あいつらは男なんだか女なんだか全くわからんな」ハイハイ、いつも良品と不良品を見極めて検品しているインスペクターの性ですかね。まず横目でチロッと見て通り過ぎてからパッと振り返って確認、そして一言。このサトウさんの観察を観察するのが面白かった。そのくせ、スカートを履いた女性が多いね、と言っても「全く気がつかなかった」って、いったい何を見てるんだ。。。ギアだけかい。
本谷橋で小休止。冷たい沢の水に足を浸すと、気持ち良くて足の痛さが飛んで行くようだ。サトウさんもやればいいのに、「いや、山岳部ではそういうことは禁止されてた」って。変な迷信。ここからは平坦な林道歩きの2時間半。ゆっくりと余裕を持って森林浴を楽しみつつ、お喋りしながら歩く。横尾でちょっと休んでまた歩き出すと、何やら前方からソロの年輩女性が。もしかして。。。やっぱり!剱岳で会った、剱の北方稜線とジャンダルムが今年の課題だと言っていた、彼女だった。嬉しくて色々聞いたら、なんとお盆の台風直撃の頃に剱で救出された8人の遭難者、彼らと同じ宿に泊まっていたのだと言う!もちろん優秀なガイドと2人だったので、無事に小屋で過ごして、台風が行った翌日に問題なく北方稜線を通過したのだとか。そしてジャンダルムは今回一人で奥穂からピストンでやるのだという。すごいなあ。是非とも頑張って欲しい。
次の徳沢で名物のソフトクリームを買い、幸福感漂う草地のキャンプ場をプラプラしていると、明日からの涸沢フェスに備えてなのか、色んなメーカーのテントが所狭しと張られている。ワタシが狙っているMSRのhabba habbaもあった。すぐさま「こんなのだめだ、風に弱い」とダメ出しされる。わかってるけどさあ、ワタシそんな風の強い日に稜線でテント張ったりしないと思うんだよね。しばらくあっちこっちの物件を覗いて係の人に話を聞いたりしていたら、明神橋に着く頃には雨が振り出した。雨具を着て上高地には温泉入浴リミットの14時ギリギリに到着。お風呂に入って人間に戻って、生ビールで喉を潤してがっつりトンカツのお昼ごはん。あああぁぁぁ。幸せ。
サトウさん、3日間お疲れさまでした、おかげさまで無事降りて来れました。ありがとう。来年はワタシも剱の北方稜線いってみたいっす!
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