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車の窓を開ければアカシアの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
もうこんな季節か。
やっと確保できた時間。天気は今一でも、早く訪れたかった弥彦山頂へ。
ここは父と母にとって特別な場所。
半世紀以上前、ここで出会った二人。
山頂で父が母からラジオを借りて、返し忘れたので、後日、最寄りの駅まで届けたのが付き合いの始まったきっかけらしい。
季節は春だったのか、秋だったのか。佐渡は見える天気だったろうか。
もう、知ることができなくなってしまった。(親父は景色なんて目に入っていなかっただろうけど。)
お彌彦様に問う。
「若い二人が出会った時はどんな感じでした?私の父と母なんですけど。」
応えはないけど、大体察しがつく。
「お父さんの方は、口数が少なかったかな。」
居合わせた時間が30分ずれていたら。今日のように天気が悪かったら。
恐らく二人は出会うこともなく、私も存在していない。
父と母への感謝と、二人が再び仲良くしていることを祈念して手を合わせる。
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