子供の頃から憧れている腕時計がある。
時計の名はオメガ スピードマスター。
数ある時計の中でNASAによる過酷なテストを唯一クリアし、アポロ13号の乗務員を救ったという伝説に少年だった僕の胸を鷲掴みされた。
『大人になったら身に付けたい』
時は流れ…
新婚旅行先の免税店で長年憧れ続けたスピードマスターを購入した。
すぐにホテルに戻り、初めて左腕に付けた時の感動は一生忘れられない。
時はまた流れる…
登山にハマり、テントと大型ザックが欲しい僕がいた。
しかし、逆立ちしてもお金がない。
買えない。
『何とかならないか…』
数日後、僕は購入したばかりのテントが入った大型ザックを背負い白馬岳を目指して歩いていた。
左腕には10数年間、連れ添ったスピードマスターの代わりに直前に購入した安い時計が巻かれている。
テントと大型ザックが欲しいばかりに僕は何を血迷ったか長年連れ添ったスピードマスターを売ったのだ。
職場の話になる。
毎日、僕はある男性の左腕を意識してしまう。
男性の左腕には威風堂々としたスピードマスターが付けられている。