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今年も天候ばかりは人間業では如何ともしがたく、ひたすら「天よ、我を見捨てたまうな」と早い時節から願ってはいた。
加うるに今年は更にもう一つの問題があって、「北岳山行」はどうすべきかと悩んだ。しかし、この計画は、一年前から高校時代の悪友との約束山行でもあったのだが・・。
悩みとは、どうもこの一年、山へ行くと脚が痙りやすく、その回数が増えてきたのである。原因は概ね推測が出来た。歩き不足もあるが、「尿酸値」の高さである。まあ、原因の「酒」を止めればいいのであるが、是ばっかりはそうはいかない。山と酒と、もうひとつおまけのバッハは、小生の山行「三拍子」であるが故に・・。
「北岳の小屋で夕日を見ながら、酒を飲みつつバッハを聴きたい！」
そして、この願望を叶えんと、脚力不足の方を「階段歩き」と事前山行でそれを補った。あとは、当日の状況次第と、日程の三泊四日を「北岳＆バッハ：三昧」と銘打って、行程を欲張らない事に決めたのである。（そうそう、そんな約束で友人と決めていたのだが、仕事があって、結局は単独行とはなったのではありますが）。
と言うわけで、八月の二十三日からのお天気を待ったのである。
天気予想通り、麓の「広河原」は早朝六時は曇っていたが、これからの好天を期待させてくれた。
問題は何処まで脚が痙らずに持つかであった。コースは大体決めてあったが、文字通り「二股」決めで、「大樺沢二股」での調子次第と心積もりしていた。
「大樺沢二股」までは、３時間とのガイドブック記載ではあったが、摩訶不思議、２時間１５分位で着いてしまったようである。
それに気をよくし、最悪案「御池小屋」泊を端っこに退かせ、一気に「八本場コル」まで行き、何とか「北岳山荘」迄行く事にした。
２３日の朝は涼しくかつ調子の良し出足であった。まあ、万全を期し、痙り予防の「芍薬甘草湯」「パンダリン」を事前服用かつ塗りまくりをも施した。塗る勢いが余って腿の奥まで塗ったお陰で、雪渓降ろしの風がプラスしてか、やたらに股間がひんやりとして困ってしまった。
「バットレス」が嗚呼の近くに眺められる「八本場のコル」にも、脚をだましだまし、何とか到着したら、ひんがし（東）の方面かに雲上のお富士さんが、それを祝福してくれているかの様に顔を覘かしていた。
予想通りいい天気であった。「北岳」の右肩には「甲斐駒ヶ岳」それに続いて「八ヶ岳（阿弥陀岳⇒権現岳⇒赤岳）」と眺められ、その右つ方の遠方には「日光白根山」も、特徴ある頂を望眺できた。
「骨さ折って来ただけ！の甲斐！があるなあ〜」
と、此処で一発、開口一声の見事？な「洒落」をワチキはぶちかましたのではありました。
頭上には、御ん「山頂」が手招きをしているのではありますが、我がお脚はそろそろ限界。そして好都合にも、「山頂⇒肩の小屋」よりは、「北岳山荘⇒生ジョッキ」が強烈に喉元を刺激し誘い込むのでアリンスよ。もうワチキのアタマの吹き出しに生ジョッキの絵が浮かんだらもうお仕舞い。まっしぐらに「目指すは本所吉良上野（キラコウズケ）の屋敷」ならぬ「目指すはキタダケの屋敷なるぞよ」と、背嚢（即ちザックの事でありますな）を背負い込むのでござんした。（この辺から、脚がグンと柔になり始めたのと時を同じうし、文章もドンと砕け始めてきましたざんすよ。よって、ひとつこのあとはこの調子でお付き合いの程を）。
矢張り「北岳山荘」に向かうトラバースの梯子辺りで、吾がおみ脚は痙り始めたでござ候よ。即座の「パンデリン」が功を奏してか、難なく山荘へと到着の次第でありました。
此処でも、吉良邸討ち入りの合い言葉「山！川！」ならぬ、「生ビール！生ジョッキ！」「生ビール！生ジョッキ！」が、小屋の屋根裏部屋で寝具（と言う程の代物ではないが）を引く間も、うわごとの如く出てくる。
適当に切り上げ、帳場ではなかった、フロント（！？）にて生ジョッキの大音声をあげて、ミドモはそれをば双手で受け取り泡のひとしずくもこぼさぬ様、既に用意した「つまみ＆飲酒グッズ」入れをば背負って、到着の凱歌を挙げたく小屋の表に出でたのではあります。
まずは、礼に則り、日本一の「富士に乾杯！」。そして日本二の「北岳に乾杯！」と順を踏む。
続いて、ではと、３・４の「穂高・槍」さんにもと、小屋裏の尾根筋に上がって探したザンスが、折悪しく「心なく雲の隠さうべしや」と本日はお休みの按配。
やむなく、３・４・５・６も飛んで何番目かも定かならぬが、それぞれの名峰、「乗鞍⇒木曽御岳⇒木曽駒ヶ岳⇒宝剣」へと乾杯を挙げるべく繰り返していると、ついにジョッキは底を着いてしまったじゃあ〜りませんか。ほんならばと、代わりにウイスキーで繰り返している内に些か酩酊の態とぞなりにけりでありました。
仕方なく小屋に引き上げ一眠り。
夕食後がいよいよ第一日目の見せ場。期待の「北岳でバッハ」なのであります。
そう、頃は六時頃でありましたでしょうか。中央アルプス連山の上空も見事に晴れ上がり、峰峰は、まるで落日の訪れを待ち受けている様な静けさを湛えておりました。
小生は尾根の宜しき場所に陣を取り、いざや「北岳でバッハ」の態勢にと、携帯にイヤホーンのコードを繋ぐ。勿論、側にはウイスキーとつまみ。
そしていよいよ大団円の幕開け。バッハの「管弦楽組曲第二番ロ短調」と落日との、将に組曲が始まるでありますぞよ。
５〜６年前のやはり夏にいった「宝剣岳」の辺りに夕日が沈んでゆくではありませんか。そして見事に「組曲第二番」のフルートがそれを追いかける。と言ふか、錦上に花を添えるが如くに日輪が輝きを増幅する。
久々に味わう、山での「夕日とバッハと酒」のかくも見事なアンサンブルに、小生は思わず目頭が熱くなり、涙がチョッチョびるのでありました。そう、「感動に咽（むせ）んだ」のでありますよ。
思い起こせば、ワンス アポンナ タイム アット驚くタメゴロー じゃなかったの「常念小屋」ざんすよ。昔々の１０何年前、その小屋のテラスから、槍ヶ岳の穂先に刺さるかの様に、丁度陽が沈んで行くのを目の当たりにした時、まさにその時初めて「感動の落涙」なるものを味わった。まあ、それからがワチキの「山とバッハと酒」の始まりなのでござ候ョ、のいきさつなのであります。
てな処で、本日は用事が出来たところで、第二話のおしまいざんす。
続きは後日と言う事で・・・。
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第三話
お陰というか、夕陽の大スペクタクルの感動で、はたまた、ほんのスコッチならぬ大「スコップ」程にしたたか飲んだウイスキーにか、更にはたまたと言うか、むしろそちらが正解かと言えるのでありますが、高度３０００メートルの気圧の関係で、すっかりおつむがヘッデイクになり、小屋の寝床に入っても、小生は眠りにつけなくなったでござんすよ。仕方ないから酔眼朦朧の中でひと捻りしましたよ。と云って「屁」のひと捻りじゃないざんす。見事な本歌取りの「都々逸（どどいつ）」でアリンス。
「親の意見とお山の酒は、気が効きすぎてか、目が廻る」てね・・・。
まあ、悶々とした酔いの内に夜が明け、今朝こそは、憧れの森林限界をぶっ越えた「間ノ岳」への稜線漫歩！
お空は昨日に増して絶好調。早朝の尾根吹く風は肌寒くはあるが、二日酔い気の小生にはいささかも気にならず、勇気凛々。六時半頃には出立せり、でありました。
「仙丈岳」が後方で「行ってらっしゃい」との挨拶を我が輩に送ってくれる。
途中「中白根」付近に近くなると、遙か右後方に「北アルプス山塊」と思しき連峰が雲間から顕れてきました。更に中白根の頂きに立つと、見紛わぬばかりにはっきりと、穂高岳・槍ヶ岳がくっきりとその山容を覗かせてくれたじゃありませんか。
小生は「中白根」山頂で、思わず「槍・穂高が見えたぞ、万歳！」と雄叫びを挙げてしまったざんす。そうでげす、「槍・穂高」が見えると見えないでは、此処へ来ての感動がまっこと違うジャキニ〜！なのです。
まああっしの好きな「カツカレー」に例えりゃ、その上にもう一つ目玉焼きが乗っているかいないかの位に、その差が大きく違うのでありますな。さしずめ、仙丈や甲斐駒・中央アルプスはカレーとカツ。富士山はまあ、その上の目玉焼の更にてっぺんにドンと乗った「日の丸」の旗みていな貫禄でげすな。どうもなんだか、はなしが「お子様ランチ」みていになってしまいまして、「ごめんねごめんね」でありますが。
まあほんなもんで、たたずむことしばし、後から登ってきた御仁にお節介にも伝えまくるのの、はしゃぎ様。その形（なり）はまるでガキでげした。
そして、後ろ髪を引かれながら、目的地の「間ノ岳」へと、「ちんたら山行」を続けたのであります。誠に良い稜線漫歩であります。
「間ノ岳」は何とも伸びやかなゆったりとした頂でありやした。風で寒くさえなければ、此処で昼寝を決め込みたいくらいな・・・。
しかし残念ながら此処に着いたら、ガスってきて肌寒くのんびりしてられなくなった。しかし３０分はいたでしょうか。デジカメで 「塩見岳」「赤石岳」他、南アルプスの名峰をキャッチ致しましたでござんす。
北岳〜間ノ岳の山容は、特徴があり遠くからでも見つけやすく、中央沿線の山や大菩薩峠・奥秩父等から過去に何回も拝んだ。その度にあの稜線にいつか歩を刻んでみたいと、このワチキのつぶらな胸が痛めつけられたものでありました。そう、初恋のメッチェン（独語で云う「お嬢さん」でげすな）を憧れるが如くに！なんちゃって。
そんな「間ノ岳」への往復のお散歩を楽しみ、しかも帰りにはオマケに「雷鳥」のお出ましなんぞも花を添えてくれた次第であります。
小屋に戻っても、まだお時間は午前の１０時半。そうそう、午前と云えば「巴御前」かアマゾネス、そんな形容がピッタリな女性（にょしょう）が、でけいザックを背負って途中歩いていたっけさ。
そう云や、こちとらも「お昼御膳」はまだだったのに気が附いた。ほんなもんで、外はガスって寒いので小屋の食堂を借りて、缶ビールで弁当をつかうことにしたズラよ。
微醺を帯びて、よか氣持になったところで小生は、「バッハ」第二幕をと思いついた。塩梅良く、表は晴れ上がっていたではありませんか！
「バッハと酒」グッズの入った小型背嚢（ナップザック？）を肩に、小屋裏の尾根筋の具合のいい場所にレジャーシートをおっぴろげたザンス。そう此処に「トカゲを決め込む」（山用語：最近は使っている吾人がいるや否や？トカゲが岩なんかにひっついて寝てる樣を、人間様にも適用したのでありますな）つもりざーます。
スコッチのお水割りと、今度は洒落込んで、そして曲はと云うと、なにせ晴れ上がって陽はカンカン。中央アも仙丈も、当然「北岳」嬢のお顔も良く見える。とくりゃあ、此処はやっぱすバッハの「フルートソナタ」が聴けば最高の気分にさ、させてくれるダッペチャ〜！
スコッチとバッハ様は、期待に違わず何とも心地よい世界にいざなってくれたダベス。いつの間にか、ワチキは「白河夜船」、うたた寢の子守歌とソナタは変じてしまったダッシャ〜。
そうそう、２４日の午後は「趣味人倶樂部」の吾がコミュの相棒達と、此処「北岳山荘」でランデブーの約束なのでアリンシタ。それをばうっかり、ほろ酔い気分で忘れそうになっておりました。まあ、昼下がりの１４時頃が相場と、しばしそれまで、今度は小屋の中でと、寝る事にしたザンス。
やおら起きだし、小屋のお外で待つ事しばし。
勿の論、「スコッチ」は離しはしない。ほんのスコッチ（！）でもミドモの側に身を寄せて、旅のお伴に頼もしき奴でござんす。てな具合で待つこと暫しの無聊を慰むことと致す。
約束の刻限が半時も過ぎ、コミュの相棒「うー氏」と「○○嬢」に何か出来（しゅったい）せしやと気を揉んで飲んでいると、その御方々が、やおら「八本歯コル」から顔を覗かすやいなや、「トラバース」道をば、弁慶と牛若丸の如くにお手々つないで仲良く、「六方」を踏んでやって来たではありませんか！
麻呂は感嘆随喜！思わずさっきから我慢してた「子キジ（山用語でお小水）」が、チョッチョビそうになったでおじゃ〜るよ（尾籠なお話で失礼）。
まずは弁慶ならぬ「う〜」殿に労をねぎらい、「お疲れ様！ほんのスコッチ」と我がマグカップを手渡したのは云うまでもござらぬワイな。
その後、早速幕営の準備を早々と切り上げ、テントの側で軽く第一次「オフ会」。
なんと「○○嬢」は逞しき列婦なり。２０キロ近くもあろうかと思しき大ザックの蓋を開けるや、色々の山海（？）の珍味を我々男の子にご提供下さった。まあ、これだけ仕込んだらかくも重くなるであろうと我が輩は驚嘆し、マグカップからも口を外して思わず唖然でげした。そうそう、翌朝は「手製プリン」まで食させてもらい、大感謝でありました。
よくも１５００メートルの標高差をこのどでかいザックを担いでこられたと、「う〜」氏共々驚嘆の態でありやした。
一方、牛若○○嬢をエスコートして来られた「う〜＠弁慶」殿と言えば、「武士道」を身に備えた武将。一騎当千の歴戦の勇士。ほんなもんで、我が輩「騎士道」のラマンチャの男「ドンキホーテ」も真っ青でありんす。うー殿は、この北岳にもすでに今回を数え、三〜四回であられますざんす。将に「つーといえばかー」「うーと言えば○―」の名コンビが此処に出来上がった次第なのであります。
その後は、しばし昼寝で休息し、第二次「オフ会」は小屋の夕食でおっぱじめたにて候よ。
ご両人はさすがお疲れのご様子。う〜氏もご酒は進まず、麻呂ひとり痛飲していたでおじゃるよ。そして、明日に鋭気を養うため、今夜はこの辺でお開きと、各位寝床へと向かったザンス。
明くれば二十五日、山はますます霊気を醸しだし、乱雲収まらず、ガスが辺りを睥睨し、山頂は雲に厚く覆われて、北岳は人跡未踏の感を恣にしていた！
と言うほどではなかったので、我々三人は足取りも軽く（否、○○嬢は前日の頑張りが祟り、重そうであったが）頂上３１９２だったか３の上に、辿り着いたのであった。
扶桑第二の名峰の展望はやはり第二の趣があり、遠くは南アルプス連峰を望ませ、首部（こうべ）を返せば、遙か彼方に北アルプスの両横綱「槍・穂高」が今日も遙けき笑顔を送ってくれている。
十分に北岳の存在感を楽しんだ後、我ら三奇人は下山の途に着いたのではあります。途中「肩の小屋」では、う〜氏より、コーヒーのお手前に与り、○○嬢には、グレープフルーツを馳走になったのであります。お二人の饗応に麻呂はただただ感動に咽びつつ、それにしても、しっかりとその全てを喉に通すことは忘れなかったのは、云うまでもないざんす。
てな訳で、晩夏「北岳」の我ら珍道中の巻きは、終いを告げたのではありました。
長らくのご静聴ありがとうございました。また、いつの日か皆さんと・・・。
いやいや、おみごと。
お酒の飲めない自分としては、なんとも言いようのないうらやましさで、でもよく急性アルコール中毒にならずによござんしたねぇ〜。
依然仙丈岳の馬の背ヒュッテでそいう騒ぎがあったとかで・・・
感服いたしておりますよ・・
バッハの音色はいかがでしたか・・・
私もマーラーでも聞きにいくかな〜
拍手パチパチ・・・
コメント、ありがとうございます。
是非、山で好きな曲を聴くといいです。
但し、ヲークマンでご他人様の迷惑にならずに・・。
そう言えば、
「仙丈岳の馬の背ヒュッテ」ではないですが、
、若かりし３６才の頃、仙丈岳頂上（３０００�叩砲妊Εぅ好�ー紅茶割りを飲んで、立ち上がったら、クラッと目まいがした事がありましたっけ。
しっかし、酒好きにとっては、
「山半分：酒半分」の醍醐味が山にはあります・・。
目頭が熱く・・・
そこだけで十二分に気持ち伝わります。
楽しい記事（本日2回目読む）これからもお願いします。
suikou3様
コメント、感謝申し上げます。
是非、山小屋のテラスからででも、携帯ミニSDに録音した好きな音楽を聴かれるといいです。
感動倍増です。
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