アイゼンを考察してみる　その３

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2012年12月30日 10:35やまのぼり全体に公開

フラットフッティングはアイゼン歩行の基本か？？

今日も、ウダウダぐだぐだの考察を続けてみる。

よくアイゼン歩行の基本動作として
『フラットフッティング』
という言葉を見聞きする。

図入りＨＰがあったのでリンク
 http://www.yamakei-online.com/beginners/step08_2.php

まぁ確かに、アイゼン歩行の基本動作なのかも知れない。

とはいうものの、
当たり前の事を改めて考えてみると、
本当に当たり前なのか疑問が沸いてくる。

フラットフッティングは、
足裏全体の摩擦力を最大限に利用して歩く方法だから、
アイゼンに限った歩き方ではなく、

地下足袋だろうが、運動靴だろうが、
雪面だろうが、泥道だろうが、
そんなことに関係なく、
傾斜地を歩く時、
一番消耗しない歩き方だと思っている。

だから、アイゼンを付けたからといって、
初めて練習して、体得するというよりは、

夏道でも沢登りでも、場数を踏んでいけば、
自然と出来るようになる筈のものだ。

では、何故、
フラットフッティングがアイゼンワークの基本と言われるのか？？

と、それを考える前に、
最近の登山靴とアイゼンの進化を考えてみる。

プラスチックの２重靴が普及したのは、もう２０年以上前の事だし、
最近では足首がしっかり固定されたバックル留めの山スキー兼用靴もかなり出回っている。
それでなくても、冬靴は、夏靴に比べて、足首の自由度は低い。

一方のアイゼンは、前爪さえなかったＸ字４本や８本は３０年以上昔の話で、
今では、前爪が両サイドにもついた１２本爪が主流になってきている。

靴もアイゼンも進化したのに、
『フラットフッティングが基本』
というのは、いささかの疑問が残る。

さて、『フラットフッティング』であるが、
これは、足首がある程度自由に動けばこそ可能な動作であって、
地下足袋とか運動靴だと楽にできるのだが、

足首ガチガチのゲレスキーのブーツなんぞにアイゼンを付けてみると、
フラットフッティングどころではない。

ハードブーツになればなるほど、
フラットフッティングをしようとすると、
身体の重心は、足の位置より谷側になってしまう筈で、
安定した姿勢など取れない。

斜面で安定した姿勢をとるには、
前爪に立ち込むか、エッジを使うように山側の爪に立ち込むか
のどちらかになる。

これは、逆説的かも知れないが、
昔ながらの革製冬登山靴の時代であればこそ、
フラットフッティングは容易に可能であったと推察され、

また同時に、当時の靴では、
エッジを使うような歩き方をするには、
相当、足首の筋肉がないと安定しなかった。
とも言える。

つまりは、
『フラットフッティングがアイゼンワークの基本』
というのは、３０年前の装備に即した考え方であると
思って良いんじゃなかろうか

最近の冬靴は、布製や革製のものでも、芯材が入っているようで、
昔に比べるととてもしっかりした作りになっていると思う。
ソール（底）も固く、シャンク（本体）も固い。

固くなった分、キックステップも容易になったし、
前爪を蹴り込むのも随分と簡単になった筈だ。

そして、しっかり足首が固定される分、
自由度は下がるけど、前爪やサイドの爪に立ち込む時に、
筋力を必要としない。

ここで、改めて考えてみると、
そういう立ち込み方・登り方は、
『フラットフッティング』
とは言わない。

じゃぁ、最近の靴だとフラットフッティングをしないのかというと、

『比較的平坦な場所では、
　やはりフラットフィッティングが基本でしょ？！』

という方がいるかも知れないが、
そもそも、フラットフッティングは、最初に記述した通り、
斜面の歩き方（足の置き方）であるから、
平坦な場所では、フラットもクソも無いのである。

そういう背景を考えてみると、
最近、１２本爪アイゼンが主流というのも頷ける。

靴の剛性が向上し、足首の自由度が無くなると、
斜面を歩く場合、エッジングが有効になる。

エッジを効かしながら歩く為には、
片側（サイド）の歯が４本よりは５本の方が安定するわけで、
しかも、軸足のつま先側に下爪があった方が、
最後まで安定した１歩が踏み出せる。

つまり両サイドの前爪があるからこそ、
最後までエッジを効かせながら、
一歩一歩が踏み出せるのである。

うーむ

我ながら書いていてややこしいが、
理屈で考えるなら、

最近のしっかりした冬靴、特に、スキー兼用靴の場合、フラットフッティングよりも
エッジングが基本的な雪面の歩き方になるんじゃなかろうか。

そして、１２本爪は、エッジングに適したアイゼンだと言えるんじゃなかろうか

一方、前爪が２本しかない１０本爪アイゼンや、
古風な８本爪、あるいは６本の軽アイゼンと呼ばれる物の場合、

歩き出す軸足で、最後に後方へ蹴り出すつま先部分に、
エッジを効かせられるような爪は無い。

だから、エッジングでの歩き方は危険である。

そういうアイゼンの場合は、
やはりフラットフッティングが基本になると思う。
足を後ろに蹴り出しながら歩くのではなく、
前足を着地させた後に、
後ろ足を、アイゼンの爪を雪面から抜くように持ち上げる

どちらが、自然な歩き方かと言えば、
エッジングで後ろ足を蹴り出しながら歩く方が自然で、
疲れない歩き方だと思われる。
それに早く歩けるし

とはいえ、それを可能にしているのは、
足首をしっかりと固定できる冬靴と
両サイドの前爪のある１２本爪だからこそ
と、いうわけで。

ここまでグダグダ書いてきたけれど、
結局のところ、

ハードな兼用靴に１０本や６本とか、
ソフトなトレッキングブーツに１２本とか、
そういうのは、ナンセンスな訳で、

ごく当たり前の話だが、
靴に合ったアイゼン、アイゼンに合った靴。
を使わないと宝の持ち腐れになってしまうし、

さらに言うと、
ルートや目的に合った装備、
その装備に応じた基本技術、
を持たないと、

うっかり常識だけに捕らわれて、
本当の意味を考えないまま使用してしまうと、
危険といえば危険ってことなんじゃ無かろうか

道具の進歩とは凄い物で、
レルヒ少佐がスキーを伝えたころは、
一本杖で、パウダーを滑り下りるのが常識だった。
圧雪車なんて存在しない時代の話だ。

いつのころからか、
ストックは２本になり、
板にはエッジやキャンバーがついた。
ブーツや締め具の進化も然りである。

そして、スキーといえば圧雪のゲレンデを
エッジを効かせながらカッ飛ばすもの
と常識は変化した。

２１世紀の今、歴史は繰り返し、
パウダーを求めてスキー屋は山に分け入り、
ついにはロッカースキーなるものを生み出して、
ひと回りもふた周りも大きく成長して、
レルヒ少佐の元に帰ってきた。

そう、圧雪車もリフトも必要のない時代の再来だ

なんぞと浮かれてみると、
『スキーの基本はボーゲン』
っていう常識さえもいまでは疑わしい

パウダーをロッカーで滑る連中がボーゲンをするのか？
長靴スキーの基本はボーゲンじゃねーぞ！

ボーゲンってのは、圧雪＆エッジ板という条件において基本になりうるが、
ロッカーやＸＣだとほとんど意味が無いのだ

なーんて毒づいてみたり

似たような話は、
どこにでも当てはまるもので、

登山靴で岩場をよじる時の基本は、エッジングだが、
地下足袋クライミングをするときは、スメアリングを重宝する。

近代的なクライミングシューズでは、
エッジングもスメアリングもどちらでも、
登山靴や地下足袋よりも簡単に出来るけど、

それでも、やはりエッジング向きの靴と
スメアリング向きの靴があり、
どちらがクライミングの基本かというのは愚問で。

どちらも、基本は、
ルートに合った靴＆靴に合った登り方
という点では、アイゼンの場合と同じ話だと、

我ながら堂々巡りで、あほらしい説教なのだが、
まぁそういう結論に戻ってくる。

『フラットフッティングはアイゼンワークの基本』

という言葉自体を否定する気はないが、
アイゼン歩行に限らず、
山歩きするなら、フラットフッティングとエッジングは、
上手に使い分けられるようになっておいて損はない。

長文ながながと失礼いたしました