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評価 ★★★★☆
金 邦夫(著)
単行本: 278ページ
出版社: 角川学芸出版 (2007/10)
ISBN-10: 4046519983
ISBN-13: 978-4046519986
発売日: 2007/10
商品の寸法: 18.6x13x2.4cm
良い点
1.素朴で情緒豊かな文章表現から人柄がジワリとにじみ出ていて、辛口レクチャーながらトゲトゲしさを感じない
2.専門用語、地名(危険地帯)、参考文献などが欄外で解説され、山の知識がない読者もとっつきやすい
3.重苦しい遭難救助活動記録と、ほのぼのとした人情味溢れる日記との掲載数のバランスが丁度いい
4.季節の移り変わりや動植物の様子が情緒豊かに表され、奥多摩の情景が頭に浮かぶ
5.舞台が近場の奥多摩であること
6.1レポート約10ページ、手軽にスラスラ読める
7.いわゆる"ヤマ屋の小言集"ではない。たとえ無謀な計画が生み出した遭難事故であっても、登山者の思いしっかりと推察し全否定していない。
悪い点
特になし
★総評★
日本ほど山がある国は少ない。つまりどのステージに臨むかよりどりみどりの、登山する者にとって恵まれた国。
そしてどこへ登ろうと自由だ。実力に合ってようがなかろうが、制約する権利なんて誰にもない。
それが登山というスポーツの魅力のひとつであり、怖いところでもある。
奥多摩山行を軽視する登山者が後を絶たない。ヘッドランプも雨具も持たず、タウンシューズを履いてくる。
「日帰りだし、天気はもちそうだし、それに何よりそこは東京都だし遭難事故など起こるはずがない」まるでこう言わんばかりのいでたちで。
「東京の山だって、観光の延長で登れるようなところじゃない。山をナメちゃいけないよ」※276ページ抜粋
山岳救助隊に属していた著者 金邦夫氏はこのようなトンデモ登山者予備軍に対し、こう呼びかけている。
また本書の位置付けを著者はこう綴っている。
この本は登山のガイドブックではない。また登山技術書でもない。ここ数年間に奥多摩の山で発生した、実際の山岳遭難事故を「山岳救助隊日誌」から拾い、現場で奮闘する山岳救助隊の活動を書いた。〜あとがきより抜粋〜
確かにガイドブックのように奥多摩の自然をいいことずくめで紹介してないし、登山技術を丁寧にイラスト添えて解説などしてない。
だが不思議なことに、読後は奥多摩に魅了され、そのうえ新たな登山技術を身につけることができた。
その理由を考えてみた。
筋金入りの奥多摩好きが、本気で奥多摩へ誘っているからではないか。
知り得る情報を惜しみなく紹介しつつ、山での身の置き方を学ぼうとする人間を排除せず、奥多摩で迎え入れようとしているから。
"<奥多摩>は楽しい、しかし危険もいっぱい"
奥多摩のもつ魅力は各地の名山に引けをとらないことを知ってもらいたい。
東京という土地柄から安易な姿勢で臨む"トンデモ登山者"に対し警鐘を鳴らす。
これら二つの意図が帯のキャッチコピーに込められている。
Report15"皇太子殿下と山"には、当時、警衛に就いていた著者と皇太子さまとの会話のやり取りが詳細に綴られている。
まだ歩かれたことのない鷹巣山までの2ルート(長沢背稜と千本ツツジから鷹巣山まで)に対する著者のアドバイスを熱心に聞かれた殿下は、最後に「私は奥多摩が好きなのです」と著者に話しておられたそうだ。
また雲取山からの眺望について「山渓」誌にこうお書きになられている。「(妻と)ふたりでこの光景を目の当たりにし、東京奥深くの晩秋の自然に接することができた喜びを味わった。私はこれからも妻とこのような登山の楽しみを見出せたらと思う」と。
ここを読んだだけで奥多摩への興味がMAX近くまで上昇した私は、人から「ホント影響されやすいよな」とよく言われる。
さて、東京の山で遭難するのはトンデモ登山者ばかりではない。
Report2"川苔山に消えたベテラン登山者"、Report22"ヒマラヤニストの雷撃死"ではベテラン登山者達が奥多摩において、通常では考え難い行動をとる、あるいは強大な自然の力によって奥多摩で生涯を終えている。
たとえベテランであっても決断を誤れば、山は容赦なく命を奪い去っていくことを、この2話からあらためて学んだ。
どんな山であっても無計画で臨むことがどれだけ無謀な行為であるかよくわかる。
こう書いてしまうと「奥多摩って危険なところなのか」と感じるかもしれないが、それは違う。奥多摩"も"危険なところなのだ。
楽しいけど危険もいっぱいある奥多摩。
本書を読めば奥多摩を通じて、もっと山を好きになるだろう。
奥多摩を知ってる人も、そうでない人も、筋金入りの奥多摩好きの誘いに乗ってみない?
※参考までに、下記URLに単独下見の記録ありマス
雲取山(子連れテン泊デビュー戦の下見) http://goo.gl/jU4P9
「じゃあみなさん、山で会わないようにしましょう」金邦夫(あとがき抜粋)
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