〔「今日は日暮れぬ。勝負を決すべからず」
とて引退く処に、おきの方より尋常にかざ(ッ)たる小舟一艘、・・・
「あれはいかに」
と見る程に、
舟のうちよりよはい十七八ばかりなる女房の、まことに優にうつくしきが、
柳の五衣(いつつぎ)に紅の袴着て、みな紅の扇の日いだしたるを、舟のせがいにはさみたてて、陸(くが)へむいてぞまねいたる。〕
〔「射よとにこそ候めれ。・・・」〕
〔「上手どもいくらも候なかに、下野の住人、那須太郎資高(すけたか)が子に与一宗高こそ小兵で候へども手ききで候へ」〕
〔「さらば召せ」
とて召されたり。〕
*[尋常に]=りっぱに。
*[柳の五衣]=表は白、裏は青。五衣は袿(うちき)を五枚かさねたもので、表着と単衣の中間に着用する女子の正装。
*[みな紅の扇の日いだしたる]=真紅に塗った地の中央に金色の日の丸を描いた扇。
*[舟のせがい]舟の両側の舷(ふなばた)に渡した板、ふなだな。
[*]は、いずれも【語釈】より。
(知られたる那須与一のこのシーン。扇を立てた矢表の女子)居彷人
【写真】ネジバナ
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