【フライパンで焼いた豚バラスライスに大根おろしとネギのみじん切りを載せて、軽く醤油を垂らし、豚バラで肉で包むようにして口に入れた瞬間のことである。
うまい、と思ったそのとき、あまりに直接的でシンプルなうまさに、逆に山で食べたイワナの「複雑なうまさ」のことが唐突に思い出された。
山でイワナを自分で殺して食べたときは、複雑な感情とともに、本来の食べ物とはこういうものなのだ、と思ったのに、いま食べている豚肉には、複雑な感情はみじんもなく、ただただおいしい、それゆえ逆にその豚肉のうまさが私には不自然だった。
本来の肉は、ただうまいものではなく、もっといろいろと複雑な感情が混じるものではないか？イワナを殺して、本来の食べ物とは命なのだということを実感し、その複雑な味を知っているのに、私は肉に関してはただうまいと思って食べている。この先、ずっと肉を食べ続けるとして、私はそれでいいのだろうか。
私の中で筋が通らなかった。イワナと同じく、肉の元の動物を自分で殺し、肉は命であることをちゃんと実感しなくてはならない。このままそれを感じずに食べ続けるわけにはいかない。そのどちらかしか私の中で筋が通らない。】
『お金に頼らず生きたい君へ』服部文祥著(河出書房新社)
https://bigislandyamaguide.com/2024/05/06/niwatori-1/
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