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旧制一高時代からの友人で、小林が1902年生まれ、深田が1903年生まれ。文芸評論家として今なお読み継がれている小林秀雄、登山も好んでよく深田に連れられて山に登っていた。
『様々なる意匠』『本居宣長』『無常といふこと』など様々な名批評を著した名批評家・小林秀雄は、登山についてどのような批評を遺しているのか、とふと気になっていろいろと調べてみた。
評論集『人生について』（中公文庫）に収められている「スポーツ」という短い評論の中で、登山について触れている。
「新聞を見ていると、近ごろ、山の遭難が非常に多い。まことに遺憾なことである、と世の識者は嘆いている。むろん、遺憾でないことはないのだろうが、貴い青春を、たかが山登りなぞというつまらぬ遊びで失うのは愚の骨頂だ、という意見には組することはできない。
考えてみれば人生、なんのために死ぬのが愚であるか、わかったものではない。そんな高踏的な意見を、私は持っていない。」
これが書かれたのは昭和３４年の日経新聞だったから、もう５０年以上前から遭難事故のニュースは世間を騒がせていたようだ。そして、それに対して「つまらぬ遊びで失うのは愚の骨頂だ」と意見する人がいる。この構図は今も昔も同じ。
でも小林はこういう意見に組しない。
このあと、この後小林自身が雲取山に登ってあやうく遭難しかけたエピーソードが披瀝される。
そのあとにこう続く。
「私の愚かな経験など取るに足りないが、山好きが慎重に行動して、しかも事故にあうことに、だれが文句をつけられよう。私は山好きを少しもロマンチストなどと思っていない。私の考えで、リアリストというものをひと口で定義するなら、好きなものは文句なく好き、嫌いなものは文句なく嫌いだという信条のうえに知恵を築いている人だ。
利害打算に追われ、現実的観察なぞに追われている人々が、実はどんなに不安定な夢想家であるかを見抜くのは、難しいことではない」
山好きをしてロマンチストではなくリアリストと評するあたり、小林らしい。
好きなものは文句なく好きと打ち込む。その信条の上に必要な知恵を築く。それがリアリストならば、山が文句なく好きで、そのために登攀技術を身につけたり地図を読み込んだり、あらゆる危険を想定したりして知恵をつけて望むという登山の姿勢は、リアリストの姿勢そのものではないか。
ちなみに小林が雲取山であやうく遭難しかけたときは、小雲取山を小さなコブくらいの大したことない山だと思い込んでいたら、いざ登るとなかなか堂々たる山で、「雲取山とはよくも名づけたものだ」と感心していた。ところが雲取山だと思い込んだ山が実は小雲取山で、そこから地図読みを誤って沢筋に迷い込んでいくというものだった。
今でも鴨沢から登っていくと、小雲取山の登りはけっこう急で登り応えがある。今と違って立て看板など皆無だったから間違えるのも無理はないだろう。
結局小林たちは谷川の洞穴でビバークして、途中で釣り師と会って命を救われるのだが、このエピソードが登山に懲りるどころかいっそう小林の登山熱を高めたというからこれも面白い。
こんにちは。
とても興味深いテーマですね。
氏の登山の意義とリスクについての考えには、共感出来るものが多々有りますね。
氏が著名な登山家だったら、どのような山岳作品を書いていたか〜それを想像するのも興味深いですね。
氏に関する古い日記ですが〜相仲
http://www.yamareco.com/modules/diary/8042-detail-25599
ainakarenさん
コメントありがとうございます。
小林秀雄が登山についてあまり作品を残さなかったのは、親交ある深田久弥の活躍の場を荒らさないためだった、というのはどうでしょうか。深田久弥の文学作品が実は北畠八穂の作品をなぞったものだと暴露されて深田が文壇の信用を失った後、山の文章を書くようにとアドバイスしたのが小林ですし。というのも妄想ですね。
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