若い頃は、年越しをアウトドアで過ごすことが多かったのですが、1984年12月31日から入山した鹿島槍ヶ岳東尾根での出来事が記憶に深く刻まれています。
30日、私とハイジが車で大谷原にある高校山岳部の小屋に向かい、高校の山友S（山岳部OB）と合流し一泊、翌朝から取付きました。確かそのシーズンは暖冬という予報に反し、30日の長野県は降雪で信濃大町市街地でも積雪が50ｃｍ位もあり、降り続いていました。しかし31日午前中は穏やかであった天気が、徐々に雲が厚くなり午後になると降雪が酷くなりました。二ノ沢の頭まではトレースがあり楽な登りでしたが、同頭に出ると、腰まで没して遅々と進まないラッセルの行列を見通すことになり、一気に気楽な気持ちが失せました。遅々としたラッセルの歩みに、早々とテント設営をするパーティーもありましたが、我々は隊列の最後尾に加わり、交代でラッセルを行うことにしました。我々がラッセルの先頭に出たのは第一岩峰手前の急な痩せ尾根で、S君、yasuji-、ハイジの順にラッセルしました。急斜面にフワフワ雪がたっぷり乗っかっていたので、先ず横穴を掘り、次に天井の雪を崩しながら進むような状態でかなり消耗しました。私の次、小柄なハイジでは殆ど進まず停止のようなものだったので、次のパーティー”川崎柴笛クラブ”の方が『僕たちがやります』と言って、彼らが先頭になり、我々は最後尾に廻りました。それから小一時間か、最後尾に位置していた我々も第一岩峰の基部（取付き）に達しました。川崎柴笛クラブの面々が登攀準備をしているようでした。第一岩峰下部は凹んだ箇所が雪で埋まり、支点作りやホールドスタンスの掘り出しなどでかなり時間が掛かるように思えました。増々降雪が厳しくなる中、午後１時になっており、二番手で岩峰に取付くのを断念し、基部で雪洞やテント設営に取り掛かるパーティーがあちこちに見られました。広い場所ではないので、我々の露営スペースは無く、二ノ沢の頭まで戻りました。テント設営後、これからの行動について話し合いました。この深雪では１泊や２泊では越せないだろうと予想しました。前途多難な状況と、記憶ではコンロ不調（燃料が足りない？持って来なかった？だったかもしれませんが）が決定的な判断要素となり翌日下山することにしました。翌元旦の下山は朝から晴天でした。下山後、近くのスキー場でスキーを楽しみ帰郷しました。あまりにも晴れているので入山を少し遅らせたら良かったと後悔気味な気持ちでしたが、数日後、なんということでしょう、川崎柴笛クラブ６名が行方不明になっていることを知りました。後に分かったことですが、第一岩峰を越えた辺りで露営中の彼らは雪崩に巻き込まれてしまったとのことでした。12月前半に南岸低気圧による湿った雪が氷化し、その後その氷の上に冬型寒波による乾いた雪が降り積もって表層雪崩になったようです。
運命はあるのでしょうか。私は無いと思います。すべて偶然だと思います。運命があるとすれば、人が後付けで思いたいのです。もしも31日のラッセルの順番が先頭で第一岩峰基部に達したら、僕らはどう判断したか、登攀したか？、断念したか？、分かりません。ただ、当日は入山人数が多かったので、後続に廻ると遅れてしまうということも判断の中に含まれていたかも知れません。
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