１月６日は、北ア槍ヶ岳北鎌尾根で遭難死した加藤文太郎氏と松濤明氏の命日です。両氏についての書籍を読んでみると、加藤文太郎は超人過ぎて漫画の主人公のように感じますが、松濤明は、山への思慕や登山に対する真摯な姿勢はとても感動と共感を覚えます。
「風雪のビバーク」に、死を乗り越えた心境が記されています。「全身硬ッテ力ナシ 何トカ湯俣迄ト思ウモ有元ヲ捨テルニシノビズ 死ヲ決ス」とご存じな方も多いと思います。一緒に臨んだのだから、苦難は共に分かち合う、それも最期までという精神は、悟りの境地であるかのようです。この自分を捨て去り同行者と共にあろうとする精神は、なかなか真似のできることではないと思います。
中学３年の春、友人Ｓ君と沢登りに行った時の教訓があります。出合いから時間にして１０分ほどの処でＳ君が、ズボンが大きく破れてしまったため「もう帰る」と言うではありませんか。２時間もアプローチしてきたので中退などしたくなく、私は遡行続行、Ｓ君は引き返すことになりました。滝が２つあったものの１０分だし、困難な滝ではなかったので心配はしませんでした。しかし、翌日、学校で、彼が滝で滑って怪我をしていたことを知りました。顔面を岩にぶつけて、顔半分が濃い紫色になり痣が消えるまで何か月も掛かっていました。一緒に帰っていれば怪我はしなかったかもしれない、出会いまで一緒に降り再度遡行し直してもよかったかな、といろいろと考えました。それからは、当たり前ですが、同行者とは一緒に下山するのが私の流儀になりました。
高校で知り合った山岳部所属のＹ君とは、個人山行を沢山しました。
社会人となってからは、学生の時のようには山行もできませんでした。そんな折、山岳部のA君と街で偶然会い、久しぶりなので酒でも飲もうということになりました。酔った勢いか、A君が言うには、「Yが君と山へ行くと一人で登っているようだ」と言っているぞと。私は山岳部所属ではなかったのですが、Y君は私と一番多く個人山行をしたはず、そんなに信頼されていなかったんだと愕然としました。確かに、二人で行くと、私の方が何かと仕切っていたように思います。人の気持ちを分からない、他者の思いをくみ取らない人間だったのかと、自分が嫌にもなりました。それからは、ただ一緒に帰るだけでなく、松濤明が実践していたと想像されるような、一緒に楽しみ、信じあい、助け合っこその登山パーティーだと思うようになりました。
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