同行者がある集団での歩行は、一番弱い者（体力と技術）に合わせるのが基本ですが、分かっているはずなのに、この鉄則から外れていることがあります。一番遅い者にペースを合わせても、遅い人は遅れまいと目いっぱいに頑張ってしまっています。こういう場合、遅い人より遅く無理のないペースに落とし、且つ荷物の負担を軽くすることが必要だと思います。
某大学山岳部の１年だった夏合宿で、初日上高地から涸沢への歩行は、とても苦しかった。受験で運動不足、体重55ｋｇのひ弱な新入部員が57kgのキスリングを担ぎ上げるのは苦行でしかありません。ペース配分のセオリー通り歩行50分に休憩10分でしたが、歩き始めて5分もすると両腕が痺れ、次第に感覚がなくなります。待望の休憩では、締め付けられていた両肩から一気に血流が両腕に向かい、痺れが切れていくので強い痛みが走ります。経験と体力がある上級生が一年生より軽く、ＣＬが一番軽いというのは全く合理的ではありません。『ＣＬは非常事態に対応できるように軽くしているのだ』と言われても、好天で整備された登山道でどのような危険が待ち構えているのか腑に落ちません。必死の歩行でフラフラしていると、個人装備だけ背負ったOBが、やおら私の頭を冷やせとばかりに川の流れに押さえつける。清流に見えて、大腸菌に汚染された梓川ですから、頭が冷えてすっきりさっぱりどころか、ますます意気消沈し、初日にして夜逃げしたい気分でした。
このような理不尽な経験から、学年、年齢、職位などという忖度要素を排し、強い者が重い物を担ぎ、弱い者も苦しくないペースで歩くことが、信条となりました。プラス思考なのか、偏屈な性格なのか自分では分かりませんが、社会に出てからも、『どんな偉い人でも人間としては対等である』を信条としてきました。（話が寄り道してしまいました）
話を戻して本題に、歩くペースは、ゆっくりでできるだけ長くしています。水分補給が必要になるタイミングで小休憩をとっています。ですから、歩行２時間以上になって水分補給に小休憩をとるようなペースも度々あります。
また当方には、自閉症で重度知的障碍者のペーターがいるので、ペーターのペースに合わせることになるのですが、隙があれば直ぐぺったんこして休むこと数えきれず、その度に褒めたり脅かしたりしてなんとか立ち上がらせるので、ペースがどうのこうのなんてものではなくなってしまう。さすがにイラつきますが、しかしここが肝心で、『イラっとしないことが修行なのかもしれん』と思うようになりました。『自分という時空の中でイラつくより、他者の時空に合わせてしまえば、逆にすべての時空が自分のものになってしまう』のではないか思います。
追記：ここでは、次のような意味で使っています
時空は歩行ペース
すべての時空は、山と私と他者すべてを包み込む時空
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