本多勝一は、著書の中で『ヒラリーがエベレストを初登頂してから、登山を辞めた』と述べていた。（勘違いなら申し訳ありません）世界最高峰を目指していた登山家には大変なショックであったのかもしれない。既存ルートを歩くのが精いっぱいの私などには想像できない思考転換だ。最先端のパイオニアとはそういうものかと思う一方、あまりに潔すぎるのだはないか。『ノーベル賞を受賞した学者が失敗を繰り返した中で素晴らしい発見をした』というエピソードとは真逆、もう少し他の8000ｍ峰やバリエーションルートからとか考えられなかったのかと思うが、その方向転換は見習うべきこともある。
大学１年生、正式名称は思い出せないが、線形代数学の授業があった。理系学生には必須科目で、これの習得はさらに高度な数学を理解するのに必要な分野。それなのに、担当講師が、半分以上を数学そっちのけで、『二酸化炭素濃度が増加して未来が危ない』との話を一年間続けた。大学にとっては怪しからんことかもしれない。個人的にも代数の知見が不足して、おかげでシュレジンガー方程式を理解しようとしても歯が立たなくなってしまったが、その後の生き方の上ではとても有意義な授業だった。1972年にローマクラブが『成長の限界』を発表した時期と重なり、当時から現在まで、環境問題に関心を寄せ続けている。
そんな時期、テレビで名前は忘れてしまった（芸能人）が、『最先端の冒険は、何もしないこと』と言い切っていた。これには、頭をガーンと殴られたような衝撃を受けた。この理解不能な言葉が、なぜか脳みその中で醸成して大きくなっている。人類のやりたい放題の経済活動がもたらしているいろいろな意味での危機を考えると、『何もしないこと』は大きく深い意味を持っている。外側へから内側へ向かう冒険が人類の最先端に行うべき冒険であると言いたかったのかもしれない。また、養老孟子が『人間は考えたことを何でもやってしまう』というニュアンスのことを書いているが、金言だと思う。人は考えているようで、自分に都合のよいように考えてしまう習性があるのだろうと思う。とりあえず何もしないで済むなら何もしないこと、やり出したことでも一旦やめて考え直してみること、そしてダメなら潔く止めてしまう勇気が大切だと思う。最先端ではなく煩悩も強い私は、勇気もないので山登りはやめられないが、それでもできるだけ環境に負荷が軽くなるように車の燃費や遠方は避けるなど、気にしながら登っている。経済成長と温暖化防止を同時に達成するなど絵空事に違いないが、なんとか登山ができる環境であってほしいと思う。地球よ、それで許してもらえないだろうか。
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