昭和５３年秋、学友のA君のルーツの地（山梨県身延町）を訪ね、七面山に登りました。急登の表参道で、白装束をまとい太鼓の連打に合わせ「南無妙法蓮華経」を唱える大集団と遭遇し、この山が日蓮宗の信仰の対象であることを知りました。大宗派の団体に加え家族など様々なグループも加わり、延々と信者が続いていました。単独行が多かった当時の私は、山と静かに向き合いたかったのに、彼らの巨大なエネルギーにその思いをかき消されてしまいました。太鼓のリズムと題目唱和は、彼らの心身に作用し確たる信念をもたらしているように見えました。それが幻想や自己洗脳の類であったとしても、人として良い方向に進もうとする登拝は尊いと思いました。
登り始めて４時間ほどで標高1700ｍにある宿坊のある敬慎院に着きました。登山道での喧騒が嘘のように、寺院は厳粛な雰囲気の中にありました。宿坊の大浴場では登拝修行を終え安堵した信者達が生き生きと輝いて見えました。翌朝、朝食前の荘厳な勤行に参加し、読経に没頭する彼らに混じっていると、身が入らない自分がとても優柔不断であることを知らされたように思います。
敬慎院から出立して七面山へ向かう途中で大崩壊地の全貌を見渡せる地点があります。通称ナナイタガレと呼ばれる崩壊地は高低差５００ｍ南北の幅は800ｍ程でしょうか、衝撃を受ける大きさです。全てを飲み込む蟻地獄、諸行は無常であり全ては滅びてしまう法則を実感する眺めです。生物はその法則（エントロピー増大）に抗う為に細胞の新陳代謝を行い生きています。人間も同じく生きていますが、自然に対してやりたい放題に妄動していないか？妄動で自然の崩壊を誘発させていないか？自分はどうか？と問われてくる光景です。
一方、信仰を持つことによって妄動せず生きる力を養えるのではないかと解釈しています。私は信仰というものに憧れを抱くのですが、平和な戦後生まれだからか、理屈っぽいからか、今でも自分が信仰を持つということが想像できません。ただ七面山の登山で、信仰で至る境地に登山という行為で立ってみたいと思うようになりました。
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