昭和44年秋、高校1年の中間試験が終わった後の試験休みに登った時のことです。ワンダーホーゲル部の友人達と５人でＫ山に一泊二日登りました。初日宿泊地のＳ湯にはU川に沿った林道が通っていますが、その林道より200〜300ｍほど高いところにも平行している登山道があり、その道からＳ湯に行く計画でした。その道は現在の国土地理院の地図でも道として表示されていますが、当時は廃道か廃道同然になっていました。しかし私たちには、そんな状態であるとは知る由もありませんでした。
U川はT川の支流ですが、我々はOバス停で下車し、上級生のいない同期のみ男子５人だったので和気あいあいに楽しい出発でした。歩き始めて直ぐに学生服に下駄をはいた大学生らしい人が我々を追い越して行きました。追い越されてから少しして、上部が扇型に広がった要の箇所に着きました。その要からは、上部の顕著な尾根に達するまで斜面に作られた段々畑の広がる様が一望に見渡せました。道はその段々畑の中央をジグザグに登っていますが、不思議なことに、先ほど追い越していった人が見えません。途中に道が分かれていないので、何処に行ってしまったのだろうと不思議でした。こんな山奥で大学生風というのも不思議でした。これが最初の不可解なことでした。
そして段々畑の中間箇所で最初の休憩をとりました。段々畑の石垣が丁度良い腰掛になりました。最後尾に座った私の隣に、突然小柄な老人（男）が座り込んできました。何処から現れたのか、この見通しの良い扇状の斜面に気配はありませんでしたから、とても不思議でした。さらに、私が挨拶をしても、道など尋ねても、ただただ黙ったままでニコニコしていて、とても気味が悪く思いました。そして２ピッチ目を歩きだしてから、後ろを見ると、そのサル顔の老人が居ません。何処に消えてしまったのだろうと思いました。これが二番目の不可解な出来事でした。
それから、段々畑の最上部、尾根に達したあたりに着くと、２〜３軒の古い家屋がありました。この先の道について尋ねようと『こんにちは』と大きく声掛けしたのですが、しーんと、人の気配がありませんでした。誰も居ないのか仕方ないなと思っていたら、急にお婆さん出てきたので、Ｓ湯に行けるか聞くと、手で進行方向を示すだけで、言葉がありませんでした。なんかもやもやした思いで、尾根の斜面にあるU川沿いの道に入って行きました。やはり、あのお婆さんも何だったのだろうと不可解でした。これで朝から３人の不可解な人と遭遇したことになります。
その後、道は雑草が生い茂り、土砂崩れなどで寸断された箇所が何か所かあり、小さな沢を横断する橋が壊れていたような箇所もあり、林道ができたために廃道になったのではないかと思いました。仲間が４人もいたので、多少の不安もありましたが、恐怖にかられることはありませんでした。なんとか無事にＳ湯に到着した後は、楽しい山行を続けることができました。
家に帰り、不可解なことを母に話したら、『キツネやタヌキが化けていた』と言われました。そう言えば、私は背負子に梨２０個（４個ｘ５人）を担いでいて、それ欲しさに老人に化けて私の傍に座りに現れたのかもしれません。その後、不可解な３人が立て続けに現れたので、『O川の３妖怪』と名付けましたが、A妖怪が３人に化けたのか、A,B,Cという妖怪が現れたのかは知る由もありません。
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