山道を歩いていると時々蛇に遭遇して『ドキリ』とします。山行がだいぶ減った近年でも年に一度は遭遇してドキリとします。そのドキリのなかでも飛び切り超ドキッとしたことが１９７０年代（２０歳代前半）によく通った谷川岳でありました。
谷川岳南面、赤谷川鷹ノ巣沢Ｃ沢の単独遡行で、中流部を過ぎた辺りで水流の右岸の岩床部を登っていた時でした。足元でワサワサ・ザワザワと雑音が聞こえてきましたが、最初は何だか分かりませんでした。『なんだろう、え』、岩床の凸部を歩いている私から左へ右へと蛇が動き逃げていくではありませんか。最初のうちは『多いな』程度だったのが、歩を進めれば進むほど次から次へ湧いてくるように増えていきました。蛇はとても苦手なので、とっても気持ち悪い思いでした。しかし水流は滑りやすそうなスラブを流れており、それを避けてルート取りをしているので嫌でもその凸部を進むしかありませんでした。昔テレビでお笑いタレントが透明な箱に入れられて天井から１００匹ほどの蛇が降ってくるという番組がありました。そのタレントの恐怖におののく姿を見て楽しく観るという非情極まる番組でした。テレビの蛇が１００匹なら、私が遭遇した蛇の数はそれ以上だと思います。人に話す場合は一応３００匹くらいと話をしています。少し盛り過ぎでしょうか。推定計算では５０ｃｍ毎に２匹いたとして、５０ｍでは２００匹と計算されます。蛇が岩肌と似ている灰色っぽい色（シマヘビ？）だったので、蛇が生々しく見えなかったのが幸いしたのか、ドキドキと嫌な思いはしたものの脚と心臓は止まらず無事に切り抜けました。その後は稜線に達し谷川岳を回り西黒尾根から無事に下山できました。神の使いとしても大集団で来られたら誰だって大喜びはできないと思います。
また同時期、単独ではなくザイルパートナーが一緒だったと思います。しかし、だいぶ昔なので誰であったか情けないことに思い出せないのですが、幽ノ沢Ｖ字状岩壁右ルートを登った時のことです。正確なピッチ数は覚えていませんが、数ピッチ以上は登っていたでしょう。急傾斜の壁からやや緩傾斜のルンゼ状になる処では小テラスになっていました。ルンゼの周りには草付きも現れてきた終了地点の近くだったと思います。頭上のその小テラスに這い上がろうとした時です。私の眼の前に思いもしない生き物が突如現れました。小テラスにとぐろを巻き鎌首を３０ｃｍほど立てた蛇（ヤマカガシ）、私の顔と鎌首の間は５０ｃｍほど、正に眼の前で対峙し睨めっこになりました。今でも思い出し、驚いてホールドを離して転落していたらと想像するとぞっとします。いつ飛び掛かってくるか緊迫の間があり、私は蛇を刺激しないようゆっくりゆっくり小テラスに上がりました。蛇はじっとしていましたが、いつ飛び掛かるかヒヤヒヤしていました。蛇は鎌首を立てていたので身構え攻撃態勢にあったと思いますが、幸い飛び掛かられることはありませんでした。時期が晩秋（１０月下旬）で降雪もある時期だったので、冬眠手前で動きが鈍かったのでしょう。この蛇がどうして岩壁の真っただ中にいるのか理解できないことでしたが、上部の草付きからルンゼを這っているうちに不覚にも迷い込んだのでしょう。小テラスに立ち上から目線で観てみると、冬眠にとても不適な処で寒さに耐えている蛇がとっても不憫に感じ、一瞬その蛇に手を貸して冬眠適地に移してやりたいと頭に浮かんだのですが、やはり蛇を持つなど想像しても恐ろしく、結局置き去りにしてしました。なお、夏の産卵時期に遭遇したら顔面に嚙みつかれたと思います。噛みつかれなかったのは本当に良かったと思います。その後は稜線に出て中芝新道を降りたのですが、雨が降り出し、途中から踏み跡を見失い、名も知らない沢を下る破目になってしまいました。草鞋など無いので、雨の中で一枚岩のナメや滝を革製登山靴で下るのは難しく、滑らないように両岸の草を掴んだり、何度か懸垂下降も交えなければなりませんでした。このような下山の苦労は、神の使いの蛇を刺激して鎌首を立てさせたことに対する、さらにその場に見捨てたことへの神からの仕返しだったのでしょうか。
ここまで書いてきて、やっとザイルパートナーが誰であったか分かってきました。高校同級のＳ.Yoshio君だったのですが、中芝尾根から迷い込んで伴に沢下りした記憶にあるだけで、岩登り中での彼の記憶は全くありません。岩登りでは、あの蛇との遭遇が強烈過ぎてその他の記憶が薄まり時とともに消えてしまったようです。その沢の下りはとっても難儀だったので、一緒に下った彼が記憶に残っているのだと思います。これから年齢とともに、記憶から無くなっていくことが多くなるのでしょうか。宇宙や地球の時の流れからみれば、人の一生なんて一瞬パット光ったほどもないのに、一生を終えるまでにその一瞬の記憶さえ無に帰してしまうというのは人間というのは何と小さな存在だと思ってしまいます。であればこそ、これからでもいいから、一瞬一瞬出合う輝きをを大切に感じていきたいと思います。そう考えたら、蛇たちとの遭遇は、消えない記憶を残してくれた、やはり『神の使い』だったと考えてもいいかなと思います。
《おまけ》
これから夏季に向かい蛇に遭遇することが多くなりますので、何処の山にも蛇はいますからお気を付けください。特に場所によって蛇が密集する場所があるようですので、キャンプを張る際はご注意ください。そうそう、南アルプス・鳳凰三山の石空川の河原で家族キャンプをした処が蛇の巣窟でした。テントの外に出るとガサゴソと蛇が何匹も動く、川には蛇が泳いる。蛇たちの存在に気が付いたのは、テントを張り荷物を車から運び込んでからでした。強雨であったため、テントを撤収し別な場所に移動は諦め、テントの中に入り込まないよう、主のような大蛇が襲ってこないよう祈りながら、恐怖の一夜を明かすことになりました。しかし、子供たちは意外に怖がらず、私ども親の方が異常に怖がっていました。（笑）
こんにちは
突然ですが失礼いたします。
３００匹ものヘビ群
（いくら蛇は平気でもそりゃ腰抜かします）
山ではそういう時期もあるのでしょうね。
凄まじい光景だったと想像します。
日本、本州で警戒すべきはマムシとヤマカガシ（本来は大人しい）
でナミヘビなどはいくら大きくても人は襲いません。
祖母は家の守り神だからいじめてはならぬ、と言っていました。
それは農家にとってはネズミから米や蚕を守るのは
家の主となるアオダイショウだったからです。
昔の人は自然の食物連鎖を尊重していたのでしょう。
それから、いきものは安全なところに住み着きます。
なので生きものがいるような場所は縁起がよろしいかと😅
hobbitさん はじめまして
コメントありがとうございます。
腰が抜ける一歩手前だったので良かったです。
３００匹は数えた数字ではありませんが、何しろ沢山いました。重なったり大きな蛇もいてうじゃうじゃいました。仰るように襲ってくることはありませんでしたが、足に触られるのも嫌だったのに、蛇たちも慌てていたのか、草鞋を履いた私の脚を蛇たちが掠めて行ったり、間違えて私の足に乗って越えていったりして、とても気持ち悪かったです。３００は盛りすぎかもしれませんが、２００匹は確実にいました。
『神の使い』の所以、なるほど縁起の良い理由に納得です。いいお話を教えていただきありがとうございました。
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