「結ばれたロープ」は、モンブランのまわりの山々と、麓の町シャモニーを舞台にした、心ゆさぶられる物語。名ガイドの父親を山で亡くした青年ピエール。凍傷で足先を失ったガイド見習い、畜産や農業や林業で生計をたてながらも山への情熱にかりたてられる若者たちが、困難や障害を乗り越えて生きてゆく物語です。（裏表紙から抜粋）
1941年に発表された同小説は古典と言えるかもしれませんが、現在にも通ずる普遍的な本だと思います。長編にも関わらず、スラスラと読め、何しろフランスの小説家であり映画監督のフィリップ・クローデルが３０回くらい読み返したという感動の物語でした。
第一部では、ガイド（ピエールの父）がドリュ峰で落雷にやられ即死、残された顧客とガイド助手の二人は風雪の岩壁を降って行かなければならないという窮地（遭難）に陥った時、ガイド助手・ジョルジュが奮起し自らの命を顧みず顧客を生還させることが描かれています。その犠牲的行為が恐怖を克服し勇気と力を生みだしていました。また救助（遺体回収）に向かったガイドの息子ピエールが空中落下した模様が描かれており、同じような臨死体験がある私もその通りだと納得してしまいました。小説全体から、クライミングの臨場感はもとより、自然の描写、山々の景色、牧歌的な街の様子、人々のやさしさや生き様などが伝わってきて、シャモニー谷に生きる人々が昔も今も変わっていないように思われ、人が生きるということは愛おしいことだなと思わずにはいられませんでした。
第二部に入り、物語の展開は、父の遭難死と自らの滑落でのトラウマや挫折を乗り越え克服していく様を描いていきます。今の言葉を使えばＰＴＳＤからの精神的な回復（レジリエンス）というものでしょう。それには家族や友人といった周りの人たちのサポートがいかに大切であることかと思いました。しかしながら日本の現在を考えると、核家族化し地域のつながりも希薄になっていては、残念なことにサポートも十分に得られない状況ではないかと思います。この小説の中では、再びクライミングに挑み山岳ガイドになることを「再生」としています。どうやら、挫折（トラウマ、ＰＴＳＤなど）には、心の中に「呪い」があって、克服するにはその「呪い」を消す必要があり、それは挫折した対象（登攀）と同じ対象の登攀としています。しかし、登攀が困難あるいは不可能になってしまった人はどうしたらよいのか、仕事や人間関係で挫折した人はどうしたらよいのか、「呪い」に真面に向かうのではなく、逃げること、他の対象に向かうこともありではないかと思います。また「結ばれたロープ」のピエールとジョルジュは見事にガイドとして再生（回復）しますが、友人たちのサポートの存在だけではなく、場所やタイミングというものもとても大きな要素ではないのかと思いました。私の経験上で考えると、いまさら言っても仕方ありませんが、あの時あの場所で幾多のチャンスを逃がしてきたことか（笑＆涙）。
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