UとRの軍事紛争が収束の見えない中、紛争の渦中にある人々の思いを知りたいと、学生時代に読んだ「人間のしるし」（Ｃ・モルガン著）」を再読した。Ｃ・モルガンがナチス・ドイツに支配されたフランスで自己の過酷な捕虜体験を基に書いた小説である。主人公ジャンと愛妻クレールを中心にレジスタンス運動に身を投じた仲間たちのあり方が、読者に人生に対する姿勢を問うているようだ。ジャンの愛はクレールとの生活を重視するものであったが、思想的に生きるジャックやクレールの崇高な精神に打ちのめされ葛藤し、やがてジャンも真の愛に目覚め抵抗運動に同化していく。ストーリーは簡単だが、緻密な心理描写に引き込まれた。UとRの紛争だけでなく、世界の遠くで起きている紛争地帯にある人々に心を寄せるには、参考になる本ではないかと思う。
Ｃ・モルガンは、大切なことは利己的愛（エゴ）ではなく死をも超越する利他的愛であると言っている。誰かのために死んで逝くことは自己を生かすことと言わんばかりだが、冷静に考えれば他者のため国のために死を掛けるという最高の犠牲的精神を持つことなどできるのかなと思う。自国には全く非がないなら理不尽に立ち上がるかもしれないが、自国にも非がある場合には犠牲になるより安全地帯に逃げ延びて、侵略者の内部崩壊を待つだろうと思う。悲劇に見舞われたことで精神的な向上があるとしても、精神的な向上が無くても悲劇が起きない方がよほど良いと思う。しかしこれは今の私の頭で考えたことで、もし現実に紛争に巻き込まれた当事者になったら頭より肌感覚で反対の行動するのかもしれない。現場とはどう転ぶか分からないものだと思う。
「人間のしるし」を読んだ１９７０年代、ＴＶでは「木枯し紋次郎」が人気を博していた。決めセリフ「あっしにゃぁ関わりのねぇこって」と他者との関りを持たない渡世人・紋次郎がそう言いながらも事態や事件に関わり、弱い者を助け悪人を成敗して木枯しと共に去っていく、映画「シェーン」を虚無的にした「木枯し紋次郎」に毎週魅了され視聴者は主人公に同化したような錯覚を起こし鼓舞もされていたと思う。紋次郎は社会や周囲のしがらみから遠く離れた立場に居たからこそ、善悪の判断ができたのかもしれない。その「木枯し紋次郎」のようなドラマが無くなった日本が、さて侵略を受け我が身のアイデンティティを否定され支配された状況になったら日本人はどう振る舞うのであろうか。私の予想は自分の生活に奔走し享楽化が進んだ現在の日本人には大きなレジスタンス運動は起きないと思う。もう既に侵略されているかさえ分からなくなっているかもしれないのだが、紋次郎に憧れた私自身に問えば侵略者の非も自国の非も同じ目線で冷静に見極め考え行動できることが必要だと思う。
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