中学の時、同級生のＳ君と二人で、西丹沢・同角沢遡行に出掛けた。玄倉より同角沢出合でツエルトビバーク、早朝遡行開始、僕らにとっては安易な沢ではないので緊張して眠れず、また薄明りの中の出発なので現実感を欠いて夢うつつのような感じだった。そして何やら周囲から威圧されているようだった。それでも流れが早く冷たい玄倉川を対岸の出合への渡渉をしたら少し落ち着いてきた。出合にかかる１０ｍ程の滝を右手から超えてやっと現実感が戻ってきたようだった。その後１０分位で三重ノ滝（注記）の下に着いた。水流に磨かれツルツルの岩肌だったが、右手に鎖も敷設されていたので難なく超えられた。
三重ノ滝の上に立った時、Ｓ君が中途退却すると言い出した。
Ｓ君：「俺は戻るよ」
私 ：「何で？」
Ｓ君：「ズボンが破れた」
私 ：「えっ」
ズボンの股の部分の縫製の糸が切れパンツが見えてしまっていた。私は前泊してここまで来たのだから諦めきれず、Ｓ君は一人下山。私は遡行続行と決った。出合の滝まで１０分程だったのでＳ君一人でも大丈夫だろう考えて、三重ノ滝の落ち口で分かれた。その後、同角沢を登った私は、東沢乗越しで道に迷い、未知の沢（小梅沢）に迷い込み沢下りの果てに懸垂下降でミスを犯して転落、九死に一生を経験する破目になった。死ななかったのは軌跡としか思えない。道迷いと転落でズボンとシャツが複数切れ手首にも多数の擦過傷を負うも軽症だった。
翌日学校に登校したら、Ｓ君に大変なことが起きていた。Ｓ君の顔の左半分がザクロ色に変色し痛々しかった。聞けば三重ノ滝で滑落して顔を岩に強打したとのこと。ヘルメットを被らない時代に運が悪ければ頭を痛打し死亡事故になっても不思議ではなかった。二人してアクシデントに見舞われてしまったと思うと、安易に別々の行動をとったことは思慮に欠けた痛恨の誤断を犯したと思う。
苦労も楽しみも共に友情を深め信頼を醸成していくというのが登山パーティーを組む意味だとするなら、僕らは同好の友だったが一人より二人の方が安心という関係だけにとどまっていたように思う。それ以後、遭難一歩手前のこの強烈な教訓から、パーティーを組んでの登山では別行動はしないよう心がけている。
（注記）三重ノ滝は三段になっていて下段には左岸に鎖が設置されていた。当時、どうしてこんな山奥の登山道でもない沢に鎖があることの不思議さに驚いた。
ひょっとすると修験道のひとがつけたのかもしれませんね。
それにしても中学生が沢登をするとは相当進んでいますね。（当時としては）
沢って岩登りよりもリスク高く自分としてはあまり好きになりませんでした。
その層雲峡の沢で転倒してあばらをやってしまい、痛みを我慢しながら登山道の下りを走りました。
コメントありがとうございます。
丹沢も大山に代表される修験道の地ですが、玄倉川の奥地辺りでは修験道の痕跡（石仏など）を見たことがありませんので、修験者が付けたとは考えづらいと思います。ただ地誌に全く詳しくありませんので一概には否定できません。
手元にある資料ですが、昭和34年発行の「丹沢の山と谷」（川崎吉蔵）では鎖の存在の記載はありませんが、唱和43年発行の「丹沢の山と谷」（川崎吉蔵／東京雲稜会）では鎖の存在の記載があります。ということは戦後の登山ブームの間に付けられたと断定はできませんが考えられます。少し言いにくいことですが、遭難された方の慰霊供養のために設置されたとも考えられます。近くのモチコシ沢のＦ1大棚（60ｍ）の滝壺の右横には慰霊碑がありました。
子供（中学生）は怖さ知らずに面白がって何でもやってしまいます。自分もそうでしたが、歳を重ねれば重ねるほど怖さが判ってきました。中学では怖くなくロープなしで登れたところが高校生になってロープで確保をしてないと登る気がしませんでした。若いとはいろいろな意味で素晴らしい時ですね。今一度戻ってやり直すことができればやり直したいですね。
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