Ｓ君と別行動をとって共にアクシデントに見舞われたことが中学校の先生方に知られてしまった。私の懸垂下降の失敗は相当危なかったが外見上はその形跡はなかった。しかし、Ｓ君の顔半分がザクロ色の内出血していたのだから隠しようがなかった。Ｓ君から怪我の顛末を聞いた先生方は、私の方に糾弾の矛先を向けた。糾弾の趣旨は『友達同士で遠出をしたこと』『それも危険な山登りに』だった。ついでに『勉強もしないで』と言われたと憶えている。もし私が学校でトップクラスの成績優秀な生徒なら、非難の軽重や言葉使いが違っていたのかかもしれないが、残念ながら勉学にはとんと関心が無かった。
空いている教室で３人の先生に囲まれて人格を否定する言葉を浴びせられた。しかしながら、どうしても理不尽で納得できなかった。Ｓ君と別々に行動したことは良くないことだと思っていたのだが、『何やっている』と山登りに出掛けたこと自体を悪いことだと言っていた。先生方の本心は遭難騒ぎや死亡事故でも起こされたら担任や学校が非難されるのを恐れたのだと思う。もし僕たちの身を案じて危険なことはするなと指導的なことを言われれば呑み込むことができたかもしれないが、悪者呼ばわりされたのでは子供心にも納得できなかった。恭順の意をあまり示さず平謝りしない私に、業を煮やしたのか、親が呼び出されることになった。
翌日の放課後、呼び出された母と二人で先生方と卓を囲んだ。母が同席しているので先生方は穏やかな言い方だったが、前日と同じ趣旨の話を一通り行った。母はこの座を収めようと先生方の話しを受け止めていた。と同時に大正生まれで封建的な社会に育った母が、『親が許可して行かせたことです』及び『山歩きは悪いことではないと思います』と最後に付け加えた。それは私にとって実に嬉しく晴れ晴れとする言葉だった。
それ以降も、私は山登りを両親から制限されることも無く続けることができた。それから年月が経って、母が私に何百万円かの郵便局の簡易保険（捜索費として）を掛けていたことを知った。山岳遭難の捜索費用が何百万とかかると言われていた当時、両親は山登りを認めていた一方でとても心配をしていたのだ。親とは有り難いものだと思う。
私が同じ立場で同じ事が言えるかどうか？
でも私も不承不承乍ら子供の意思を尊重するという、同じ道を取ったと思います
というのも人間禁じられると隠れて行動します、しかも隠密行動は危険を伴います
内容は違いますが我が子が中学生~高校生の頃、もし煙草を吸いたいのなら隠れて吸わずに目の前で吸うように、と言いました
子供の身を心配してというより隠れて吸う事で火事を出す可能性があるから隠れて吸うのはやめるように、と理由も言いました
父親の煙草の臭いを嫌がって結果、煙草を吸う事はありませんでした
禁止してもやる気の人間は止められない、それは自身が一番良く分かっています
それでも考え得る手立てを尽くす、お母様の簡易保険の話しを伺い強く感じました
コメントありがとうございます
九死に一生の後、玄倉川を渡渉し対岸の林道に這い上がったら、運よくダンプに乗せてもらい、夕暮れ真直に家に帰りつくことができました。ほとんど口を利かない父が、少し離れた所からズボンやシャツが破れ茫然自失状態の私を見て、「なにかあったな」と母に呟いたとのことです。この時、子供の山登りが危ないものであることを知ったのでしょう。それでも何も言わず静観するのは。自分が親になってみるとなかなかできるものではないことだと思います。両親は兵役（父）や空襲（母）の戦禍を生き抜いてきたので、少々のことには動揺しなかったのかもしれません。
私も山で遭難しかけた事が数回ありました。
両親には何も言わずに平常心を装おっていましたが、今思えば「何かあったな…」と見抜かれていたのではと思います。
私の父も兵隊上がりで母は空襲も体験してます。
この平和な時代に、なぜ命を賭けるような登山などという危ない遊びをするのかと、きっと心配していたに違いない。
でも「事故だけは起こすな」とはよく言われましたが、「山はやめろ」とは一切言われませんでした。
押さえつけようとすればするほど反発する性格も見抜かれていたのだと思います。
そして一人前の男が自己責任でやっている事なのだと、認めてくれていたのだろうと思います。
山で死んではならない。お互いに十分に注意しながら登山を楽しみましょう！
コメントありがとうございます。
戦前戦中の教育を受けた親たちは、自由であることの大切さを身をもって分かっていて子供を束縛するのではなく自発的な行いを尊重してくれていたように思います。
おおいに安全に山を楽しみましょう！
私も、親を心配させた娘だったと思います。
ワンゲルの新人合宿の時、母が心配して20kgのキスリングを自転車に乗っけて駅まで送ってくれました。女の子なのに、なんで山になんか行くのかと思っていたのでしょう。
長期合宿に行けば行ったで、その延長で旅をしてくるので、いつ帰って来るかもしれない。
ちょっと風来坊だった若い頃
山岳会の岩屋のにーさんたちに誘われて、北岳日帰りの暴挙に出て、体力不足で道端ビバーク・・朝、家に電話をしたら、父が一言『お前には、無理だと思ったよ』
でも、山に行く事、旅に出る事は止められなかった。
良い親に、育てられました
こんばんは
コメントありがとうございます。
子は親を選べず、親も子を選べない。
そういうことわりの中で現在「良い親に、育てられました」と語られるのは、
当時が幸せであったと振り返り、そして今も幸せがあると感じられているばかりでなく、これからも幸せに歩むことができるということかもしれませんね。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する