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左）防鹿柵内登山道横に枝を広げた状態で枯死したオオヤマレンゲ 2025年
中）防鹿柵内登山道横でほぼ枯死状態のオオヤマレンゲ 2024年
右）防鹿柵内登山道横に枝を広げ、上部に食害を免れた葉を残すオオヤマレンゲ 2024年（位置からみて、2024年に新しい防鹿柵で保護された株と推定）
昨年も報告しましたが、2022年以来、八経ヶ岳山頂北のオオヤマレンゲ自生地が極端に衰亡しています。それにも関わらず、環境省の対策は小手先のもので、いま遺存するものを確実に保護しようとする気概さえみえません。そこで再び日記として公開し、皆さんのお考えもお尋ねしたいと思いました。ご意見をお寄せください。
1．八経ヶ岳山頂北のオオヤマレンゲ自生地の指定・管理
八経ヶ岳（奈良県吉野郡天川村）山頂北に位置するオオヤマレンゲ自生地は、南の明星ヶ岳（奈良県五條市大塔町）西のオオヤマレンゲ自生地とともに、吉野熊野国立公園（1936年指定）の特別保護地区として保護されてきた。二つのオオヤマレンゲ自生地は国指定天然記念物（1928年指定）であり、世界遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』の構成資産（2004年登録）でもある。
吉野熊野国立公園特別保護地区は環境省が管理する（八経ヶ岳・明星ヶ岳周辺の管理は、近畿地方環境事務所吉野管理官事務所／吉野町上市2294−6）。一方、天然記念物としてのオオヤマレンゲ自生地の管理団体は、指定時に指定がないことから奈良県管理となり、世界遺産管理としては五條市・天川村である。
2．近3年余で衰亡した八経ヶ岳山頂北のオオヤマレンゲ自生地
2022年4月、環境省は防鹿柵内に鹿4頭が侵入していることを確認した。後日、これらの鹿は環境省職員によって防鹿柵外へ放逐されたという（拠：環境省アクティブレンジャー日記近畿地区2023年2月14日）。
2022年5月28日、保護区北部の複数の株はほぼ枝だけの状態となり、わずかに小さな葉がついているにすぎない。同年７月2・３日、保護区南部のオオヤマレンゲの複数の株（2024年に新たな防鹿柵が設置された場所と推定）は、高い位置に葉を残し、その中に数輪の花をつけていたが、下部の葉は失われて、枝の広がりが露出している状態であった（拠：ヤマップ／活動日記）。また同年7月9日には、防鹿柵内では活動する鹿２頭が撮影された（拠：ヤマレコ／山行記録）。公開されている他の登山者の記録を参考に加えて推定すると、環境省は防鹿柵に侵入した鹿を柵外へ放逐する作業を継続的には実施せず、同年の積雪のない期間を通して、鹿は防鹿柵内で継続して食害を及ぼしていたようだ。
（2022年、国道309号線は土砂崩れによって3月28日〜10月7日の間、天川村北角小坪谷〜上北山村西原行者還トンネル東口の区間が通行止であった。そのために登山距離が長くなり、老齢の筆者は入山を諦めた。同年のオオヤマレンゲの姿は、インターネット上の登山者の記録写真によって確認した）
2023年7月のオオヤマレンゲ自生地には、ほとんどの株が葉を失って枝を露出している中、食害をうけた後に再生した小さな葉が僅かにみられた。このことからみて、同年春にも鹿の侵入は繰り返されていた。
2024年7月のオオヤマレンゲ自生地は、ほとんどの株が枯死状態となり、鹿の口が届かない位置に枝を広げていた4〜5株だけに生気が残っていた。この鹿の食害をかろうじて免れた株に対して、環境省は同年のうちに周囲を取り囲む防鹿柵を設置したようだ（登山者の記録から11月15日以前と推定）。
2025年7月のオオヤマレンゲ自生地では、前年に防鹿柵で囲まれた4〜5株のなかで、最も背の高い株に2個の花が確認できた。一方で、新しい防鹿柵で護られることのなかった株の多くは枯死状態であったが、一部に小さな葉をつけている株がいくつかあった。それらの株では、外へ開く枝は枯れていながらも、株の中心部の枝にわずかに葉がついていた。葉のサイズからみて、今年の春にも鹿の食害を受け、その後に再生した葉である。鹿の食害は2025年春も続いていた。
2022〜2024年の間に、管理者がオオヤマレンゲの各株の生育状態（生死確認を含む）を継続観察しなかった結果、生き残っている株までが見殺しの状態におかれ、2025年春を過ごしたのである。現状のままでは来春も再び鹿の食害を受けて、現在遺存している数少ない株まで失われかねない。
3．八経ヶ岳山頂北のオオヤマレンゲ自生地の保護事業のながれ（抄）
1996〜7年 防鹿柵緊急設置
2005〜7年 防鹿柵大規模設置
2008年7月 弥山周辺防鹿柵（延長1�辧棒瀉�
2011年8月 弥山周辺防鹿柵設置立会
2022年4月 柵内に鹿4頭。職員で追い出し作業を実施
2023年12月 防鹿柵出入口カーテン式扉を追加（冬季は雪による破損防止のため開放）
2024年 食害をのがれた株を保護するために、防鹿柵南部内に部分的な防鹿柵を設置
2021年以前の開花期にみた八経ヶ岳山頂北のオオヤマレンゲの姿は、1996年以来の防鹿事業によって、鹿の食害から群落が回復していく過程であった。ちなみに、菅沼孝之氏（元奈良女子大学教授・元奈良県文化財保護審議委員）の1990年代の記録写真には、鹿の食害によって衰亡した大台ヶ原のオオヤマレンゲ群落の写真がある（奈良植物研究第45 号／令和6 年）。大台・大峯の両山域は、同時に鹿の食害が進行し、同様に防鹿柵が設置された。わたし達が2021年開花期のオオヤマレンゲの姿を再び見るためには、防鹿体制を整えても25年以上の年月がかかることになる。ましてや天然記念物指定時のオオヤマレンゲ群落の姿に戻るには、大峯・大台ヶ原を含む広域において鹿の食害を防止する必要があり、どれほどの時間がかかるかは窺い知れない。
4．オオヤマレンゲ管理者をとりまく状況
オオヤマレンゲ群落の危機は2022年春にはじまった。同年4月には大峯（八経ヶ岳・弥山等）担当のアクティブレンジャーが交代した(レンジャーの交代については情報が得られていない)。2023年には、特別保護区地区の管理をサポートしてきた天川村運営の弥山小屋の管理人も交代した。新型コロナによる社会閉鎖の影響が残っていた2022・3年は、オオヤマレンゲ管理関係者が蓄積してきた知恵を継承するには困難な時期であった。このこともオオヤマレンゲの急速な衰亡に影を落としていると想像する。
＊近15年間の弥山・八経ヶ岳担当アクティブレンジャー（環境省アクティブレンジャー日記より作成）
朝倉和紀（吉野管理官事務所／2009年4月〜2012年3月）
杉本正太（吉野管理官事務所／2012年4月〜2014年10月）
早川諒介（吉野管理官事務所／2020年5月〜2022年3月）
土屋佳秀（吉野管理官事務所／2022年4月〜）
＊近25年間の弥山小屋管理人（宿泊者SNSをもとに作成）
西岡 満 〜2012年（約20年間）
坂口孝文 2013〜2022年
渡辺諒介 2023年〜現在
5．オオヤマレンゲ自生地を保護するための応急的措置について
八経ヶ岳山頂北のオオヤマレンゲ自生地の復活を図るには、管理者自らが繰り返し足を運んで、継続的な現地作業をおこなうことが肝要である。ただちに生き残っている株を確認し、それらが鹿の食害を再び受けないように、保護することが求められる。また、鹿の防鹿柵への侵入が残雪期に開始されていると推定されることから、早春に防鹿柵の閉塞を確認する必要がある。その際に、既に鹿が侵入している場合もあるから、鹿の追い出し作業をおこなうための冬山登山の技術をもつボランティア組織の立ち上げも要検討である。
一方で、インターネット上の八経ヶ岳登山映像には、防鹿柵扉の閉塞に無関心なものがある。オオヤマレンゲ開花期の登山者は防鹿柵の意味を熟知しているが、開花期以外の時期の登山者に対しては、防鹿柵扉閉塞の重要性をいまいちど周知・徹底する必要がある。
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