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11月26日と27日、北海道安平町の猟師と共に、巻狩りと忍び猟に赴いた。
まだ冬には遠いが、森はすでに初冬の気配に包まれ、空気には針のような冷たさが漂っていた。
宿を出たのは、夜の名残が空に残る午前5時半。車を走らせながら、東の空にわずかな紅が滲むのを見た。夜明けは6時41分、夕暮れは16時02分。光の短い一日に、どれほどの気配と出会えるだろうか。
初日の猟場は苫小牧の私有地と、そこに連なる森の山々だった。
3人の猟師がそれぞれの持ち場へ散り、私は鹿が逃げ込むであろう沢を見下ろす、麓の小高い場所に身を潜めた。巨木の陰に身を寄せ、風の音すら耳に響く静寂のなかで待つ。気温は5度。指先がかじかむほどの冷えのなか、ただ音もなく座していると、遠くに一発の銃声が轟いた。
沢の奥からの発砲。しばらく息を潜めて待ったが、気配は現れない。鹿は、おそらく尾根を越え、別の方角へ逃れたのだろう。
続いての猟場は、三つの山を繋ぐY字の尾根。
それぞれが麓から山頂へと登り、獲物の動きを読んで位置を定める。撃ち損じた鹿が尾根伝いに逃げれば、他の者がそれを仕留める段取りだ。やがて三人の歩みは尾根の分岐点で交わる。
その後は、沼へ向かう尾根をたどりながら、谷を縫うように進む。
腰まで生い茂る笹をかき分けて歩くその道は、まるで夢のなかを進むようだった。
耳に届くのは、自分が踏みしめる音だけ。背後でふと笹が揺れると、熊か──と錯覚するほど、感覚は研ぎ澄まされていた。
倒れた笹をいくつも見つけた。そこは、数時間前まで鹿が身を横たえていた寝床の跡。彼らの世界に、自分が今、確かに入り込んでいるという実感が胸に迫る。
呼吸を整え、音を立てぬように薬室に弾を装填する。
己の存在を、森に溶け込ませるかのように。
そのとき、別の方向から違和感のある音が届く。
風ではない、枝でもない、生き物の音。
耳を澄まし、気配を探ると、右前方で笹の向こうに角が揺れた。
一瞬にして身体が反応し、銃を構える。しかし、鹿は尾根を越えて姿を消し、視界からも、スコープからも外れた。
それでも、森はまた新たな気配を差し出してくれる。
今度は左手。藪の先に、メスジカの姿を見つけた。
一呼吸して、引き金を絞る。
わずかに反応しながらも、鹿は駆け抜けていった。
命中はしている。だが仕留めきれず、半矢となった。
急いで追いかけたが、姿は森の奥へと消えていた。
気づけば16時。
太陽は山の端に姿を隠し、森は深い静けさを取り戻していた。
この日の歩数は約17,000、移動距離はおよそ15km。
笹の海をかき分け、静寂と気配を追いかけた一日。
疲労は濃いが、不思議なことに、心は澄みきっている。
ただ、森の時間の中に身を置いていた──その満足感が、体の奥からじんわりと湧いてきた。
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