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『博士の愛した数式』
小川洋子が執筆時点での自分の持てる技術の全てをこの美しい物語にひたすら捧げ、奉仕しているように読めて、とても素晴らしいと思いました。
淡いんですが、フレームのしっかりしたすごく強度の高い小説だと思います。
ルートのつく優しい嘘の場面がとても好きでした。図書館で一生懸命江夏の情報を仕入れるシーンはとても微笑ましくて、そのひたむきな優しさがとても眩しかったです。
そして55の秘密を発表した後、深い沈黙からのスタンディングオベーション!
とても映画的でその場面が鮮やかに目の前に立ち上がるようでした。暖かくてとても良いシーンでしたね。
登場人物が皆とても優しくて、相手に寄り添い迷いながらも懸命に善きことをしようとする。
その優しさは決して向こう側が透けて見えるような薄っぺらいものではなくて、もはや深い慈しみであり強い愛なんですよね。
そして、その慈しみや愛がそれぞれの過去の傷や痛みによるものだというところに深く共感しました。
輪が閉じられて行くラストがとても好きです。
ルートと博士のキャッチボールの情景のどこまでも穏やかな美しさを、僕はずっと忘れないと思います。
時間の描写はありませんが、あれはきっと日が落ちて暗くなるまでのほんの短い時間、柔らかい光の中、マジックアワー、での出来事だったんだと僕にはそんなふうに思えます。
ありえたはずの過去は記憶の中でいつも美しいのかもしれないけれど、それでもそれぞれに痛みや想いを抱えながら寄り添う姿はとても感動的でした。
だからこそ人生には生きていく意味や価値があるんだって心から思いました。
安易なクリシェに逃げず、小さな描写でもベストを尽くしてふさわしい表現を探そうとする小川洋子の誠実さが僕はとても好きです。
そして「実生活の役に立たないからこそ数字の秩序は美しい」っていう博士の言葉にとても勇気づけられました。
僕もそうです。
子供の頃から浴びるように映画を観たりレコードを聴いたり本を読んだりしてきて、もちろんここ数年ではせっせと山にも登っていて、それが一体人生の何の役に立つのか未だによく分からないです。
だけど、心の襞をどのくらい震わせたかが、結局はその人の人生の価値を決めるんじゃないかってこの小説を読んでそう思えました。
少なくとも僕はこの小説にたびたび訪れる美しい瞬間をはっきりと捉えて、そのたびに心の襞が震えるのを感じ取ることができたけれど、そういう瞬間は必ずしも誰にでも訪れるってわけじゃないはずです。
それってやっぱり、人生に於いてささやかだけどとても幸運で幸せなことだと僕は思います。
それはきっと山を愛し日々山の風景に心震わせてる登山者の皆さんにとっても。
a small good thingってカーヴァーの小説みたいだけど(笑)
"博士の愛した数式"映画を数年前に観ました。
ワタシの中では、時々、また観たくなる映画のひとつです。(Amazon primeで観ています)
mount-torioさんが感銘を受けた様、その表現力から温かく純粋な光を感じて…
とても素敵だなぁ〜という思いから、思わずお気に入りにしてしまいました。
こちらの本を手に取ってみたくなりました。
ありがとうございました😊
コメントどうもありがとうございます。
雲ノ平の圧倒的な風景の中、前日の朝露でびしょびしょに濡れたテントを日に当てて乾かしている間、ビールを飲みながらこの小説を読みました。
とても素晴らしい小説でしたので、是非JUNKOさんも読んでみてくださいね。
感想など聞かせていただけるとうれしいです😊
映画の方は未見ですので僕も見てみますね。
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