雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム
夏山で気がかりなのは、雷雲の発生による突然の気象変化。雷恐怖症の気象予報士である著者が、雷雲の発生・発達のメカニズムを概説した。本拙稿が少しでも気象災害から身を守る一助になれば、この上ない幸せである。
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雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム
いよいよ、本格的な夏山シーズンの到来です。夏山でもっとも警戒すべきことは、なんと言っても、突然襲ってくる雷や豪雨等の激しい気象現象でしょう。私自身も幼い頃から雷に異常な恐怖心を抱いており、この世で最も恐ろしい自然現象の一つとして捉えています。なぜ、こんな恐ろしい自然現象がこの世に存在するのだろうか?その発生メカニズムを知りたいという思いから、独学で気象予報士の勉強をいたしました。その強い思いのおかげで、1年間の勉強で、試験に1発合格することができました(1996年10月)。資格を取得してからすでに20年近くが経過し、今ではすっかりペーパー気象予報士になってしまいましたが、その当時に勉強した内容を思い出して、僭越ながら夏の雷雲(積乱雲)の基本的な発生・発達メカニズムを概説させていただきます。一方で、私は気象の専門家ではありませんし、今までの勉強不足もあります。今回、報告させていただく稚拙なレポートは、付け焼刃的に昔の教科書を読み返し、勉強し直して書いたものです。したがって、大筋では間違った記述はないと思いますが、細かな部分で誤った記載箇所があるかもしれません。その箇所を見つけられた方は、どうかご指摘をお願いいたします。
1. 雷雲(積乱雲)が発生する条件
雷雲(積乱雲)ができる条件としては、
(1)上空に寒気が入っていること
(2)下層部に湿った空気があること(水分の供給源)
(3)下層部の空気が上層部に運ばれやすい条件(下層の風条件や地形など)があること
(1)については、皆さんはTVやラジオ等で、「今日は、上空に強い寒気が入って、大気が不安定になっていますから、突然の大雨、雷、突風などにご注意下さい」云々の文言をよく耳にするのではないでしょうか。専門用語としては「条件付不安定(又は絶対的不安定)な成層」といいます。(2)は、雲の水分の供給源となります。そして(3)により、その水分を含んだ下層の空気が上空に運ばれやすい(上昇気流を起こしやすい)状態を作ることになります。
2.雷雲(積乱雲)の成長メカニズム
2.1.上昇気流の発生(図1)
一般に、標高が100メートル上がる毎に、気温は0.6〜0.7℃下がると言われています。下層にある湿った空気は、上昇気流に乗れば、上空で冷やされ、その空気の温度が露天温度より下がった位置で雲ができます(雲が出来る高度を「凝結高度」という)。上昇気流が起きる条件として、主なものは、
(a) 地面が太陽光により暖められ、その部分の空気が軽くなり浮力を得て上昇気流を起きる(図1(a))
(b) 異なる方向から吹く風同士がぶつかり合い(収束という)、行き場の失った空気が上空に向かう推進力を得ることにより上昇気流を起きる(図1(b))
(c) 海の方から吹いてきた風が、山岳に当たり強制的に上昇させられる(図1(c))
(d) 水蒸気凝結時の発熱反応による浮力の発生:露天温度より下がり、空気中の水蒸気が凝結し始めると(すなわち雲が生み始めると)、凝結熱が発生します。自由対流高度(後述)以上の高さになると、雲の中の温度が、周りの温度より高くなり、雲中の単位体積当たりの空気の重さが、周りの空気の重さより軽くなります。すなわち、浮力が生まれます(図1(d))。目安として、雲中の高度100メートル当たりの温度減率(湿潤断熱温度減率)0.4℃程度、一般的な周りの空気の湿潤断熱温度減率は0.6〜0.7℃程度です。
上昇気流を得て発生した小さな雲は、次に示す各段階を経て、雷雲(積乱雲)に成長します。雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズムの概要を図2に示します。
1. 雷雲(積乱雲)が発生する条件
雷雲(積乱雲)ができる条件としては、
(1)上空に寒気が入っていること
(2)下層部に湿った空気があること(水分の供給源)
(3)下層部の空気が上層部に運ばれやすい条件(下層の風条件や地形など)があること
(1)については、皆さんはTVやラジオ等で、「今日は、上空に強い寒気が入って、大気が不安定になっていますから、突然の大雨、雷、突風などにご注意下さい」云々の文言をよく耳にするのではないでしょうか。専門用語としては「条件付不安定(又は絶対的不安定)な成層」といいます。(2)は、雲の水分の供給源となります。そして(3)により、その水分を含んだ下層の空気が上空に運ばれやすい(上昇気流を起こしやすい)状態を作ることになります。
2.雷雲(積乱雲)の成長メカニズム
2.1.上昇気流の発生(図1)
一般に、標高が100メートル上がる毎に、気温は0.6〜0.7℃下がると言われています。下層にある湿った空気は、上昇気流に乗れば、上空で冷やされ、その空気の温度が露天温度より下がった位置で雲ができます(雲が出来る高度を「凝結高度」という)。上昇気流が起きる条件として、主なものは、
(a) 地面が太陽光により暖められ、その部分の空気が軽くなり浮力を得て上昇気流を起きる(図1(a))
(b) 異なる方向から吹く風同士がぶつかり合い(収束という)、行き場の失った空気が上空に向かう推進力を得ることにより上昇気流を起きる(図1(b))
(c) 海の方から吹いてきた風が、山岳に当たり強制的に上昇させられる(図1(c))
(d) 水蒸気凝結時の発熱反応による浮力の発生:露天温度より下がり、空気中の水蒸気が凝結し始めると(すなわち雲が生み始めると)、凝結熱が発生します。自由対流高度(後述)以上の高さになると、雲の中の温度が、周りの温度より高くなり、雲中の単位体積当たりの空気の重さが、周りの空気の重さより軽くなります。すなわち、浮力が生まれます(図1(d))。目安として、雲中の高度100メートル当たりの温度減率(湿潤断熱温度減率)0.4℃程度、一般的な周りの空気の湿潤断熱温度減率は0.6〜0.7℃程度です。
上昇気流を得て発生した小さな雲は、次に示す各段階を経て、雷雲(積乱雲)に成長します。雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズムの概要を図2に示します。
2.2.安定層と自由対流高度の突破(図2(a), (b))
上空の温度分布は、必ずしも上空に行くほど温度が下がるわけではなく、高度とともに温度が上がる層がある場合もあります。この層を安定層(逆転層)と呼びます。この層では、これまで発達してきた雲が押し返され、その高度より上に発達することができなくなります。周囲の気温が上がると、雲中の温度も露点温度よりも高くなり、水分が気体となるためです。雷雲のような発達した雲になるには、その安定層を突き破るほどの大きなエネルギー(上昇気流の強さ)が必要になります。通常、雲が出来たとしても、この安定層で押し戻され、大きくなったり、小さくなったりを繰り返します(図2(b))。しかし、強い上昇気流が起こっている場合は、この安定層を突き破るエネルギーを持っています。特に、上空に強い寒気の入っている時は、この安定層はできにくい(または、ない)ので、突破するには有利な状況と言えます。
次の関門は、自由対流高度です。自由対流高度とは、雲中の温度と周囲の温度が同じになる高度です。この高度より高くなると、常に雲中の温度が周囲の温度より高くなり、その温度差による浮力により、何もしないでもどんどん発達していけます(自由上昇)。この高度まで達せられる強い上昇気流がないと、雲の垂直方向に発達する勢いは力尽きて、その高度に達する前で減衰してしまいます(図2(b))。
2.3.雷雲(積乱雲)の発達(図2(c)〜(e))
強い上昇気流により上昇する雲が、ひとたび安定層を突き破り、自由対流高度以上まで達すると、あとは何もしないでも雲の自らの力(凝結熱による浮力)で垂直方向にどんどん成長していけます(図2(c)〜(e))。特に、上空に強い寒気が入っている成層状況であれば、大気の温度減率が高いため、自由対流高度も低くなります。これは、たとえ弱い上昇気流しかなくても、雲は簡単に自由対流高度を突破できる状況が作れます。ひとたび、上空へ下層の空気が運ばれる道ができれば、掃除機に様に、下層の湿った空気をどんどん吸い上げていきます。上空に強い寒気が入ってきている状況であれば、雲中と周りの空気との温度差はますます大きく、その分の浮力(上昇気流の速度)も増大して(言い換えれば、掃除機の様な吸引力も強くなって)、下層部の湿った空気中の大量の水分が供給され、巨大な積乱雲ができます。
一般に、(自由対流高度を突破した)発達中の積乱雲の中の上昇気流速度は、10 m/s程度と言われます。この速度で単純に計算しますと、僅か20 min足らずで、高さ10 km以上に達する巨大な積乱雲が生成される計算になります。登山をされる皆さんは、たとえ今この時が、雲一つない快晴であっても、条件さえ整えば、20 min足らずで巨大な雷雲が発生する可能性があることを肝に銘じるべきです。高度10 kmより高い所(圏界面という)は温度が上昇するので、雲の垂直方向への成長は止まり、水平方向へ成長することになります。このような横にのびた雲は、かなとこ雲と呼ばれます。積乱雲の最大の特徴の一つは、このかなとこ雲の存在です(図2(e))。
3.雷雲(積乱雲)内部の状態と気象現象
3.1.発達中の雲の内部と降雨が開始するまでの状態(図2(d),(e))
このとき雲の中は、いったいどうなっているのでしょうか?凝結高度で生成した雲粒(ごく小さな水滴)は、上昇気流に乗って、他の雲粒と合わさりながら大きくなっていきます。上空に行くと小さな氷の粒(氷晶)となり他の氷粒と合わさってさらに大きくなります(図2(d))。かなり大きな粒となって、上昇気流が弱まった時は、その落下と上昇のエネルギーバランスによっては、落下するようになります。上昇気流と落下速度とのバランスによって、その氷粒は上昇や落下を繰り返し、さらに大きくなります。かなり大きくなった氷粒は、ついには上昇速度よりも落下速度の方が勝るようになり、地上まで落下してくるようになります(図2(e):7 m/sおよび10 m/sの上昇気流速度を凌駕するには、それぞれ雨粒の直径が2 mm以上および5 mm以上といわれます)。落下の途中で氷粒が溶ければ大粒の雨、溶けなければあられやヒョウという形で地面に到達します。
3.2.降雨に伴う気象変化(図3)
降雨が開始されると、雨粒が落下する際、空気分子との摩擦により周りの空気を引きずり下ろす流れができ、雲の中層から下層にかけて大きな下降流ができます。さらに、落下してきた雨粒が凝結高度(雲底)から離れると、周りの空気は水蒸気で飽和してないため、雨粒は表面から盛んに蒸発が起きます。その際に周りの空気から蒸発熱を奪うため、全体の空気の温度が下がります。下降流は多くの落下する雨粒によってますます大きくなります。この下降流の速度があまりにも大きくなった現象はダウンバーストと呼ばれ、電車や航空機などを転覆させるなどの大きな被害をもたらせます。雨粒の蒸発によって生成した冷気は雲底下に溜まり、局地的な高気圧ができます(雷雨性高気圧、メソ・ハイとも呼ばれる)。この高気圧から冷気は、地表面に沿って流れだし(冷気外出流)、周りの蒸し暑い空気と衝突します。この衝突した面をガストフロントとか陣風前線と呼ばれます(小型の寒冷前線な様なもの)。この面が到達すると、気温は急激に下降するので、雷雲が近づいてきたということがわかります(TV等の気象情報でも、「冷たい風が吹いて来たら、雷雲が近づいてきている」という文言をたびたび耳にします)。冷気外出流が地表面に広がると、下層の湿った空気が雲の中に侵入することが妨げられ、雲の中は下降流に伴う降雨のみとなり、やがて雲は消滅します(図2(f))。一方で、ガストフロントでは、新たに強制的な上昇気流が発生し、次世代の雷雲が発生する例がよくあります。
上空の温度分布は、必ずしも上空に行くほど温度が下がるわけではなく、高度とともに温度が上がる層がある場合もあります。この層を安定層(逆転層)と呼びます。この層では、これまで発達してきた雲が押し返され、その高度より上に発達することができなくなります。周囲の気温が上がると、雲中の温度も露点温度よりも高くなり、水分が気体となるためです。雷雲のような発達した雲になるには、その安定層を突き破るほどの大きなエネルギー(上昇気流の強さ)が必要になります。通常、雲が出来たとしても、この安定層で押し戻され、大きくなったり、小さくなったりを繰り返します(図2(b))。しかし、強い上昇気流が起こっている場合は、この安定層を突き破るエネルギーを持っています。特に、上空に強い寒気の入っている時は、この安定層はできにくい(または、ない)ので、突破するには有利な状況と言えます。
次の関門は、自由対流高度です。自由対流高度とは、雲中の温度と周囲の温度が同じになる高度です。この高度より高くなると、常に雲中の温度が周囲の温度より高くなり、その温度差による浮力により、何もしないでもどんどん発達していけます(自由上昇)。この高度まで達せられる強い上昇気流がないと、雲の垂直方向に発達する勢いは力尽きて、その高度に達する前で減衰してしまいます(図2(b))。
2.3.雷雲(積乱雲)の発達(図2(c)〜(e))
強い上昇気流により上昇する雲が、ひとたび安定層を突き破り、自由対流高度以上まで達すると、あとは何もしないでも雲の自らの力(凝結熱による浮力)で垂直方向にどんどん成長していけます(図2(c)〜(e))。特に、上空に強い寒気が入っている成層状況であれば、大気の温度減率が高いため、自由対流高度も低くなります。これは、たとえ弱い上昇気流しかなくても、雲は簡単に自由対流高度を突破できる状況が作れます。ひとたび、上空へ下層の空気が運ばれる道ができれば、掃除機に様に、下層の湿った空気をどんどん吸い上げていきます。上空に強い寒気が入ってきている状況であれば、雲中と周りの空気との温度差はますます大きく、その分の浮力(上昇気流の速度)も増大して(言い換えれば、掃除機の様な吸引力も強くなって)、下層部の湿った空気中の大量の水分が供給され、巨大な積乱雲ができます。
一般に、(自由対流高度を突破した)発達中の積乱雲の中の上昇気流速度は、10 m/s程度と言われます。この速度で単純に計算しますと、僅か20 min足らずで、高さ10 km以上に達する巨大な積乱雲が生成される計算になります。登山をされる皆さんは、たとえ今この時が、雲一つない快晴であっても、条件さえ整えば、20 min足らずで巨大な雷雲が発生する可能性があることを肝に銘じるべきです。高度10 kmより高い所(圏界面という)は温度が上昇するので、雲の垂直方向への成長は止まり、水平方向へ成長することになります。このような横にのびた雲は、かなとこ雲と呼ばれます。積乱雲の最大の特徴の一つは、このかなとこ雲の存在です(図2(e))。
3.雷雲(積乱雲)内部の状態と気象現象
3.1.発達中の雲の内部と降雨が開始するまでの状態(図2(d),(e))
このとき雲の中は、いったいどうなっているのでしょうか?凝結高度で生成した雲粒(ごく小さな水滴)は、上昇気流に乗って、他の雲粒と合わさりながら大きくなっていきます。上空に行くと小さな氷の粒(氷晶)となり他の氷粒と合わさってさらに大きくなります(図2(d))。かなり大きな粒となって、上昇気流が弱まった時は、その落下と上昇のエネルギーバランスによっては、落下するようになります。上昇気流と落下速度とのバランスによって、その氷粒は上昇や落下を繰り返し、さらに大きくなります。かなり大きくなった氷粒は、ついには上昇速度よりも落下速度の方が勝るようになり、地上まで落下してくるようになります(図2(e):7 m/sおよび10 m/sの上昇気流速度を凌駕するには、それぞれ雨粒の直径が2 mm以上および5 mm以上といわれます)。落下の途中で氷粒が溶ければ大粒の雨、溶けなければあられやヒョウという形で地面に到達します。
3.2.降雨に伴う気象変化(図3)
降雨が開始されると、雨粒が落下する際、空気分子との摩擦により周りの空気を引きずり下ろす流れができ、雲の中層から下層にかけて大きな下降流ができます。さらに、落下してきた雨粒が凝結高度(雲底)から離れると、周りの空気は水蒸気で飽和してないため、雨粒は表面から盛んに蒸発が起きます。その際に周りの空気から蒸発熱を奪うため、全体の空気の温度が下がります。下降流は多くの落下する雨粒によってますます大きくなります。この下降流の速度があまりにも大きくなった現象はダウンバーストと呼ばれ、電車や航空機などを転覆させるなどの大きな被害をもたらせます。雨粒の蒸発によって生成した冷気は雲底下に溜まり、局地的な高気圧ができます(雷雨性高気圧、メソ・ハイとも呼ばれる)。この高気圧から冷気は、地表面に沿って流れだし(冷気外出流)、周りの蒸し暑い空気と衝突します。この衝突した面をガストフロントとか陣風前線と呼ばれます(小型の寒冷前線な様なもの)。この面が到達すると、気温は急激に下降するので、雷雲が近づいてきたということがわかります(TV等の気象情報でも、「冷たい風が吹いて来たら、雷雲が近づいてきている」という文言をたびたび耳にします)。冷気外出流が地表面に広がると、下層の湿った空気が雲の中に侵入することが妨げられ、雲の中は下降流に伴う降雨のみとなり、やがて雲は消滅します(図2(f))。一方で、ガストフロントでは、新たに強制的な上昇気流が発生し、次世代の雷雲が発生する例がよくあります。
3.3.雷(放電現象)の発生メカニズム(図4)
雷(放電現象)の発生メカニズムは、いまだ正確に解明されていませんが、有力な説をご紹介します。発達中の雷雲の中では、氷粒は、上昇気流にあおられながら、他の氷粒と互いに激しくぶつかり合い、擦れたり砕けたりすることにより、静電気エネルギーを蓄積していきます。そのうち、重力により、大きな氷粒(あられ)は雲の下方に、細かな氷晶は上方に集まります。同じ環境下にあられと氷晶が存在した場合、あられの方がより多くの雲粒(ごく細かい水滴や氷滴)が蒸発や昇華し、同時に吸熱が起こり、結果、あられの方が氷晶より温かくなります。水分子の水素イオン(正電荷を帯びたイオン)は、低温側に拡散しやすい性質があるので、低温側(氷晶)が正、高温側(あられ)が負に帯電します。すなわち、雷雲の上層側が正、下層側は負に帯電します。雲底が負に帯電して局在化してくると、地上では、これを中和しようとして正に帯電してきます(静電誘導)。上層と下層の電位差が拡大して空気の絶縁の限界値(約300万 V/m)を超えると、電子が放出され放電現象が観察されます(稲妻)。この放電現象が、雷雲の上層と下層に観察されれば、雲間放電と、雷雲の下層と地上の間に観察されれば、落雷と呼ばれます。放電の際に発生する熱量により、その放電路にあたる局所的な大気の温度は、2〜3万℃に達するといわれます。あの恐ろしい雷鳴は、雷が地面に落下したときの衝撃音ではなく、極所的な大気の急激な温度上昇によって引き起こされた急激な大気膨張による衝撃波であります。
雷(放電現象)の発生メカニズムは、いまだ正確に解明されていませんが、有力な説をご紹介します。発達中の雷雲の中では、氷粒は、上昇気流にあおられながら、他の氷粒と互いに激しくぶつかり合い、擦れたり砕けたりすることにより、静電気エネルギーを蓄積していきます。そのうち、重力により、大きな氷粒(あられ)は雲の下方に、細かな氷晶は上方に集まります。同じ環境下にあられと氷晶が存在した場合、あられの方がより多くの雲粒(ごく細かい水滴や氷滴)が蒸発や昇華し、同時に吸熱が起こり、結果、あられの方が氷晶より温かくなります。水分子の水素イオン(正電荷を帯びたイオン)は、低温側に拡散しやすい性質があるので、低温側(氷晶)が正、高温側(あられ)が負に帯電します。すなわち、雷雲の上層側が正、下層側は負に帯電します。雲底が負に帯電して局在化してくると、地上では、これを中和しようとして正に帯電してきます(静電誘導)。上層と下層の電位差が拡大して空気の絶縁の限界値(約300万 V/m)を超えると、電子が放出され放電現象が観察されます(稲妻)。この放電現象が、雷雲の上層と下層に観察されれば、雲間放電と、雷雲の下層と地上の間に観察されれば、落雷と呼ばれます。放電の際に発生する熱量により、その放電路にあたる局所的な大気の温度は、2〜3万℃に達するといわれます。あの恐ろしい雷鳴は、雷が地面に落下したときの衝撃音ではなく、極所的な大気の急激な温度上昇によって引き起こされた急激な大気膨張による衝撃波であります。
4.巨視的な雷雲(積乱雲)の発生・発達についての考え方
以上、雷雲の発生、発達メカニズムを経て激しい気象現象が起こる経緯を概説いたしました。これを巨視的に捉えると、すべての現象は自然界の大法則である熱力学第2法則に即していると考えられます。熱力学第2法則とは、断熱系において不可逆変化が生じた場合、その系のエントロピーは増大するという法則で、数式ではΔS≧ΔH / T(ΔS:エントロピーの変化,ΔH:エンタルピーの変化,T:絶対温度)と表します。簡単に言うと、不安定な状態から安定な状態に変化しようとする力が働くという法則です。例えば、水の中にインクを垂らすとインクは水の中に拡散しますよね。また、隔離されている部屋で、一方が直射日光で暑くなっており、一方はエアコンが利きすぎて寒くなっているとき、しきい(雷雲の発達過程においては「安定層」や「自由対流高度」のようなもの)を外すと、各部屋の空気が混合してちょうどよい温度になったりします。このような現象と同様に、雷雲の発生やそれによる激しい気象現象は説明できます。上空に寒気が侵入するということは、上空と地上の温度差が通常より大きな差となることを意味し、大気の状態が通常の状態より不安定な状況となるということです。まるで、頭でっかちな人が、か細い足で歩いているような不安定さです。この不安定さを解消するには、頭を軽くして、下半身がどっしりと安定しなければなりません。それと同様に、大気の不安定さを解消するためには、上空の空気と下層の空気が入れ替わる(混合する)働きが必要です。それは、雷雲の発生、発達を通して、雲中の対流活動が盛んになることにより、激しい降雨や強力なダウンバーストの発生、静電気エネルギーの蓄積による放電の発生、時には竜巻の発生などにより余分なエネルギーを発散させることにより、より安定な状態に変化しようとする力が働くことです。
5.おわりに
雷雲(積乱雲)から繰り出される激しい気象現象をはじめとした、熱力学第2法則等で表現される大自然の営み。いくら科学技術が進歩しても、人間が決して支配することのできないどうしようもない大きな力。我々ちっぽけな人間は、自然の力にもっと畏敬の念を払うべきと考えます。山をこよなく愛するわれらは、決して自然に対抗すべきではありません。対抗したところで勝ち目はないのです。それより、もっと自然を恐れてほしい。その恐れる心を持った上で、従順で謙虚であってほしいと思います。そうすれば、きっと大自然は、あなたに穏やかで素晴らしい心のプレゼントを与えてくれるはずです。「自然に逆らわず生きる」ことが、登山に限らず、人生を送る上でも最も大切なことと感じております。
(付記)
以上、基本的な「雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム」について述べてまいりました。
しかし、実際の雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズムは、気象条件によってかなり複雑なものとなります。
雷雨は3種類の雷雨(気団性雷雨、マルチセル型雷雨及びスーパーセル雷雨)に分類できます。
どの型の雷雨になるかは、気象条件によって決まります。
そして、雷雨を構成する雷雲(積乱雲)の発生・発達プロセスもその型によって大きく異なります。
今回、このことについて、「雷雨のでき方〜事例による雷雨生成プロセスの考察〜」という表題で記事を作成しましたので、併せてご覧いただければ幸いです。
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=2768
(2020.07.02 記)
文献等
小倉義光,「一般気象学」,東京大学出版会,(1995)
小倉義光,「お天気の科学 気象災害から身を守るために」,森北出版,(1994)
インターネット検索:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%B7
以上、雷雲の発生、発達メカニズムを経て激しい気象現象が起こる経緯を概説いたしました。これを巨視的に捉えると、すべての現象は自然界の大法則である熱力学第2法則に即していると考えられます。熱力学第2法則とは、断熱系において不可逆変化が生じた場合、その系のエントロピーは増大するという法則で、数式ではΔS≧ΔH / T(ΔS:エントロピーの変化,ΔH:エンタルピーの変化,T:絶対温度)と表します。簡単に言うと、不安定な状態から安定な状態に変化しようとする力が働くという法則です。例えば、水の中にインクを垂らすとインクは水の中に拡散しますよね。また、隔離されている部屋で、一方が直射日光で暑くなっており、一方はエアコンが利きすぎて寒くなっているとき、しきい(雷雲の発達過程においては「安定層」や「自由対流高度」のようなもの)を外すと、各部屋の空気が混合してちょうどよい温度になったりします。このような現象と同様に、雷雲の発生やそれによる激しい気象現象は説明できます。上空に寒気が侵入するということは、上空と地上の温度差が通常より大きな差となることを意味し、大気の状態が通常の状態より不安定な状況となるということです。まるで、頭でっかちな人が、か細い足で歩いているような不安定さです。この不安定さを解消するには、頭を軽くして、下半身がどっしりと安定しなければなりません。それと同様に、大気の不安定さを解消するためには、上空の空気と下層の空気が入れ替わる(混合する)働きが必要です。それは、雷雲の発生、発達を通して、雲中の対流活動が盛んになることにより、激しい降雨や強力なダウンバーストの発生、静電気エネルギーの蓄積による放電の発生、時には竜巻の発生などにより余分なエネルギーを発散させることにより、より安定な状態に変化しようとする力が働くことです。
5.おわりに
雷雲(積乱雲)から繰り出される激しい気象現象をはじめとした、熱力学第2法則等で表現される大自然の営み。いくら科学技術が進歩しても、人間が決して支配することのできないどうしようもない大きな力。我々ちっぽけな人間は、自然の力にもっと畏敬の念を払うべきと考えます。山をこよなく愛するわれらは、決して自然に対抗すべきではありません。対抗したところで勝ち目はないのです。それより、もっと自然を恐れてほしい。その恐れる心を持った上で、従順で謙虚であってほしいと思います。そうすれば、きっと大自然は、あなたに穏やかで素晴らしい心のプレゼントを与えてくれるはずです。「自然に逆らわず生きる」ことが、登山に限らず、人生を送る上でも最も大切なことと感じております。
(付記)
以上、基本的な「雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム」について述べてまいりました。
しかし、実際の雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズムは、気象条件によってかなり複雑なものとなります。
雷雨は3種類の雷雨(気団性雷雨、マルチセル型雷雨及びスーパーセル雷雨)に分類できます。
どの型の雷雨になるかは、気象条件によって決まります。
そして、雷雨を構成する雷雲(積乱雲)の発生・発達プロセスもその型によって大きく異なります。
今回、このことについて、「雷雨のでき方〜事例による雷雨生成プロセスの考察〜」という表題で記事を作成しましたので、併せてご覧いただければ幸いです。
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=2768
(2020.07.02 記)
文献等
小倉義光,「一般気象学」,東京大学出版会,(1995)
小倉義光,「お天気の科学 気象災害から身を守るために」,森北出版,(1994)
インターネット検索:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%B7
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