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更新日:2013年09月25日 訪問者数:54130
ジャンル共通 技術・知識
静荷重と動荷重について
静かにジワジワと荷重をかけることを「静荷重」といいます。動いている状態の荷重を「動荷重」と言います。このことについて考えてみましょう!
静荷重と動荷重について
登山では、「静荷重」と「動荷重」の違いを意識することは、とても大切なことです。

「静荷重」というのは、簡単に言えば、体重計に静かに乗っている状態が静荷重です。
体重計に乗っていても少しでも動けばアナログ体重計の針は大きく動きます。60キロの人でも簡単に100キロオーバーとなる一瞬があるかと思います。これが「動荷重」です。(※デジタルの体重計の場合はあまり動きませんね。)
一般登山道でも静荷重を意識することは大切
急斜面で木の根をつかんだりロープにつかまって登ることは一般登山道でもあると思います。その場合、グイ!と腕力で体重を持ち上げようとすると腐った木の根が抜けて仰向けに転落する危険性があります。

また、大きな岩だと思ってグイ!と腕力で体重を持ち上げようとすると岩が動いて岩を抱きかかえたまま谷底に転落する事故も起きています。

これらの場合は木の根や岩に対する「過信」が事故のもとです。絶対に大丈夫と思われる木の幹や一枚岩なら大丈夫ですが、少しでも不安がある場合はジワジワと体重をかけていけば危険が回避できます。そういう場所を登る場合、木の根などが抜けたり岩が動く可能性をイメージとして持つことで大切です。
静荷重静移動による歩き方
あらためて「静荷重 登山」という言葉をGoogleで調べてみると、検索で引っ掛かるのは殆どが「静荷重静移動」ということに関するものです。「静荷重静移動」という歩き方は疲れにくい歩き方と説明されています。

「静荷重静移動」で私がふと思ったのが、春山などでの「踏み抜き」です。
初心者を「踏み抜き地獄」の山に連れていくと、案の定、「地獄の踏み抜き」となり根を上げてしまいます。一方、ベテランの人はあまり踏み抜きません。「静荷重静移動」というのは、技術というより経験なんでしょうね。

このノートのテーマに対しては逆説的ですが、疲れない歩き方は長く山を登っていると自然に出来るようになってくると私は思っています。大げさな「静荷重静移動」で歩く意識は個人的には最初は不要と考えています。意識しすぎて逆に疲れてしまうんじゃないかと…(?)
違っているよとお叱りを受けるかもしれませんが。
破断強度について
カラビナなどの登攀道具には「KN」という単位が刻まれています。これは「破断強度」を示します。

この「KN」は「キロニュートン」と読みます。昔のカラビナには「KG」と刻まれています。これは「キログラム」です。数字の桁数が違いますが意味は今のものと同じです。

具体的には、KN<>30というのは縦方向(カラビナの正常な向き、メジャーアクシス)での破断強度3000kg、つまり3トンまで耐えられるという意味です。カラビナを横向きに荷重をかけたとき(マイナーアクシス)の破断強度の数字もあって、たぶんメジャーアクシスの3分の1ほどの破断強度と思います。そして、カラビナのゲートが開いた状態(オープンゲート)での破断強度も刻まれているかと思います。この場合は動荷重というより衝撃荷重と言うべきもんでしょうね。

破断強度が30KN(すなわち3000キログラム)であっても、人間がある高さから墜落したら簡単に3000キログラムを越える場合もあります。これが衝撃荷重(動荷重)を知らない場合の怖さです。カラビナが破壊されるケースはよっぽどですので普通に売られているカラビナを使う場合は心配する必要はありませんが、知識としては知っておく必要があります。

余談ですが、その昔、私はカラビナの破断強度をプライベートで調べたことがあります。知り合いの造園業の人に頼んで庭石をクレーンでつり下げてどれだけの重さの石でカラビナが壊れるかテストしてみたことがあります。石の重さはクレーンと石の間に計りを入れて計量しました。その時の結果は、カラビナに書かれた数値を大きく上回っていました。

実験の誤差はあると思いますが、カラビナ製造業者としては安全係数というのも配慮していると思います。私が興味本位で実験したのはこのときのカラビナだけでして他の道具はやったことがありません。このテストを通じて他の登山道具も信じても良いと思ったのが実験の成果と言えば成果でした。
カラビナの破断強度
 
左のものだと、
メジャーアクシスが25KN(2500kg)
マイナーーアクシスが8KN(800kg)
オープンゲートが8KN(800kg)
です。
懸垂下降では特に静荷重の意識が必要
先日のことです。どこかのグループが懸垂下降の練習をしているのを登山中に少しだけ見学していました。そこの岩壁の傾斜角は結構きつくて80度近くありました。

打ってあるピン(ボルト)が1本なのか2本なのかよく見えませんでしたが、下降者(初心者と思われる)がブレーキを急にするために、結構な力がアンカーにかかっているように見えました。もしもピンが1本で衝撃が強くて抜けてしまえば墜落→死亡というケースです。指導者は大きな声を出しておりましたが、これくらいの角度で初心者が懸垂下降の練習をする場合は、私だったらもう1本のロープで初心者を確保して万一の事故に備えます。(初心者はプルージックをしており、よく見えないながらもピンは2本だったとは思いますが…。)

既にお気づきの人は多いと思いますが、懸垂下降で重要なのは、「静荷重で下降する」という意識です。レスキュー隊や映画などでスルスルとロープで下降をすることを普通の登山者が真似する必要はありません。どんくさく見えてもいいので、アップザイレン(懸垂下降のこと)で下降する場合は、あくまでも「静荷重」を意識して慎重にゆっくり下降すべきなのです。これが懸垂下降の鉄則です。
ヨーロッパアルプスでは多くの死亡事故が懸垂下降中に起きていると言われています。
人間の体重は静荷重でも重い
岩壁や氷壁を登る場合のロープによる確保の技術はほぼ確立されていると思いますが、基本となるのは、「肩がらみ」と「腰がらみ」です。これらは直接ビレイと呼ばれるものであって、確保器やグリップビレイを使っての確保は間接ビレイ(あるいは間接確保)と呼ばれます。

さて、直接ビレイ(肩がらみ)で空中に宙づりになっている人間を確保したことがあるでしょうか?

実際にやってみると、これがどれほど厳しいものかよく分かります。人間がぶら下がった状態(つまり0メートルの墜落)でもしっかりと座って確保していないと自分も墜落してしまいます。別の言い方をするとセルフビレーのテンションをいっぱいいっぱいにしておかないとしっかりと確保が出来ません。

人間の体重は静荷重でも非常に重いのです。

ましてや、墜落(動荷重での墜落)がどれほど大きい衝撃であるかをイメージトレーニングすることは必要なことだと思います。
最後に余分な話ですが…(おんぶについて)
最後に静荷重と動荷重とは関係のない余分な話です。

バテた人を”おんぶ”したことがあるでしょうか?これが物凄く重いのです。
不思議なことに元気な人を”おんぶ”するよりも遥かに重いのです。

そんな訳で、バテた恥ずかしさがあっても、なるべく気をしっかりとして”おんぶ”されて欲しいと思います。
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