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更新日:2014年08月28日 訪問者数:95169
クライミング/沢登り 技術・知識
シャントをバックアップに使った懸垂下降の方法(事故防止)
懸垂下降での事故を防止するためにシャントをバックアップにする方法をノートにしてみました。
懸垂下降時の事故は多い
懸垂下降の失敗は簡単な場所でも死亡事故に直結してしまいます。

本番(本チャン)で難易度の高い壁を登ったとしても、ごく簡単な場所で失敗して命を落としたら何にもなりません。

それらの事故を統計的に細かく分析した訳ではありませんが、支点の構築が悪くてロープがすっぽ抜けたり、下降器やロープの取り扱いを間違っていたり、バランスを崩してパニックになって握る場所を間違えたり、その他さまざまな要因で事故が発生していると思われます。
やっぱりバックアップは必要
懸垂下降という技術はある程度やれば確立します(繰り返しの訓練は必要ですが)。
若くて元気で朝から晩まで登攀のことしか考えていない人なら、難易度の高い空中懸垂であろうとリッジ上での強風時であろうと降雪時であろうと「懸垂下降は簡単だ」と言ってもいいかも知れません。ゆえに、そういう人にとっては、「懸垂下降は最も安心できる登山技術」ですし、その意味では通常は「バックアップ」は必要ないかも知れません。まあ、ヨーロッパの山岳ガイドのようなレベルの人たちであればですが。

しかしながら、私のように昔山を真剣にやっていたけれど久しく遠ざかっている中高年であったりすれば、やっぱり懸垂下降のときの「バックアップ」は必要だと私は考えます。

この「バックアップ」というのは、いわば、「フェイルセーフ(fail safe)」とか「フールプルーフ(fool proof)」の具現化そのものです。
魔が差すということもある
山での事故は、「魔が差した」としか思えないこともあります。
しかしながら、それは、不可抗力ということではなく、人的要因を主体とした様々なことが複合的に結びついて事故に至らしめるという不幸を意味します。

最初にも書かせてもらったように、懸垂下降の失敗は簡単な場所でも死亡事故に直結してしまいます。つまり、失敗は許されません。どんなベテランでも「魔が差す」こともあり得ます。それらを防止する考え方が「バックアップ」です。「自分の命は自分で守る」と言い換えられると思います。
■懸垂下降のバックアップの方法
前書きが長すぎますね(^-^;
ともあれ、正しい懸垂下降のバックアップはどういう方法なのか?
バックアップは下降器の下が望ましい
バックアップを下降器(ディッセンダー)の上か下かということですが、左図(アルテリア技術情報)のように、下降器の下が望ましいと私も思います。

そのもっとも分かりやすい理由は、わずかな力で途中停止出来るし、ロック(途中停止)したあと少ない力でロックが解除できるからです。逆に言えば、下降器の上にバックアップを設置した場合、ロックしてしまうとロックが解除しにくくなります。
バックアップは、下降器(ディッセンダー)と干渉しないような位置にする必要があります。
バックアップは、上図のようにシャントかフリクションノットのオートブロック(マッシャー)が良いと思います。

下降器を上に付けてバックアップを下に付けた場合、バックアップが下降器と干渉してしまえば嚙んでにっちもさっちも行かないという窮地に陥ることもあります。
そのために、下降器をシュリンゲなどで上の位置に設置するようにするか、フリクションノットのバックアップをレッグループに付けるという方法もあります。

※ゲレンデなどでは、8環やATCの上に長めのプルージックでバックアップを付けて練習したり指導している団体が多いように思います。しかしながら、傾斜が緩い斜面だからそれでいい場合が多いですが、本番で空中懸垂になってロックしてしまうと初心者なら脱出不能になってしまうケースも想定されます。つまり、最終的な本番を想定して自己脱出が可能な位置に下降器やバックアップをセッティングする必要があると思います。最終的な本番というのは、厳しい環境下での荷物を背負った状態での空中懸垂のことです。(※この部分は少し難しいことなので初心者の人はまだ完全理解されなくてもいいかと思います。)
プルージックは固まると困ってしまう・・・
バックアップにはフリクションノットを使ったりシャントを使ったりしますが、フリクションノットの一つであるプルージックを使う場合は固まると解除ができなくなる場合もあります。

そのために、バックアップとしてのフリクションノットは、オートブロック(マッシャー)の方が良いかと思われます。

ただし、プルージックは、「プルージックに始まりプルージックに終わる」とも言える重要な結びですので、「迷ったらプルージックで逃げる」という考え方はマチガイではないと思います。
プルージックには方向性がない
クレイムハイスト(フレンチノット、ヘッドオン)は方向性がありますが、プルージックには方向性がありません。それもプルージックの特徴の一つです。
■シャントを使ったバックアップの方法
ペツルのシャントはものすごく古い道具です。私がもっている古い登攀教本にも載っていてビックリしました。それでも今もなお使われているということは完成された信頼性の高い道具だと思っていいと考えます。
ルベルソ4+シャントのセッティング
左の写真が私の方法です。これはペツルの取説とほぼ同じシステムです。

懸垂で下降するときは、シャントのレバーを上に上げながら下っていきます。当然ですがスピードは出ません。懸垂下降において重要なことは静荷重でバランスを崩さないように降りることですから無理にスピードを出す必要はありませんね。

ちなみに、下降器のルベルソ4の部分は、ATCでも8環でもムンター(半マスト)でも全く大丈夫です。ただし、ロープ径に対する適合性はあります。
シュリンゲの長さ
左の写真のように、私はエーデルワイスの7ミリの補助ロープで内径約11センチのシュリンゲにしています。結び方はダブルフィッシャーマンです。使用開始時には当然のこととして体重を掛けて結びを固めています。
シュリンゲをこの長さにした理由は、万一、登り返す場合など、下降器の上にプルージックなどでセッティングしても一発で手が届きやすいからです。

←左の写真は予備のものです。上の写真は常用のものです。
カラビナは何とも言えないですが・・・
私が使っているカラビナは、
・ハーネスに付けているのは、「ペツル・オーケー・スクリューロック(75g)」
・シャントに付けているのは、「カンプ・ニトロベットロック (55g)」
・下降器に使っているのは、「カンプ・ピクトベットロック (79g)」
です。

以上のうち、シャントに使っているカラビナは今後変更する可能性があります。他の物は何年も使っていくと思っています。
空中停止でのストップは少し注意が必要
シャントをバックアップで使うと、最初の降り出しの時や、空中停止でスピードを付けた状態で止まったあと、ロックの解除がしずらい場合があります。

岩に足が着いている状態なら体重を岩に移動してシャントのレバーを上に上げるだけでいいですが、空中停止の場合は登り返しのようにしなければ難しい場合があるので、それを予防する意味でも空中停止は徐々に止まるようにすればいいかと思います。

尚、ロック解除用の穴に細引きでループを付けてシュリンゲに足で乗って体重を掛けてロックを解除すると、一気にロックが解除してしまい、ロープを正しく握っていないと墜落の危険性があります。これはシャントを取り扱うもっとも重要な危険性です。そのためには、なるべくロック解除用の穴は使わない方がいいかと思います。あるいは、実際に安全を確かめながら鉄棒にぶら下がって体験してみるといいかと思います。
懸垂下降は出来るならなるべく本番でも使うとよい
懸垂下降は慣れていれば難しい技術ではありませんが、間違えば死亡事故に直結してしまいます。
そのためには、ゲレンデなどで繰り返し色々な想定で練習するといいかと思います。
あるいは、実際にアルプスの山でも時間があればあえて懸垂下降で降りてみるような練習意識はあった方がいいと思います。
←マッターホルンヘルンリ陵中間あたり(敗退でしたが)
←前穂北尾根67のコル付近
 樹木はもっとも信頼が高いアンカーです。
ムンター+シャント
ムンターヒッチは下降器が無くても有効な方法です。
いざとなったら使えるように色々なカラビナやロープでテストする習慣をつけておけば万一の非常時に役に立つと思われます。
8環+シャント
懸垂に関してはエイト環はとてもスムーズだと思いますが、今の時代だと段々と使われる頻度が少なくなっていく道具ですかね?
仮にルベルソ4やATCガイドを落として無くしてもムンターで降りてくることが出来るわけですから。
ATCガイド+シャント
ATCガイドの方がルベルソ4より少しだけ太いロープに対応しているように思います。
(よく見ると間違った使い方のテストの写真でした。ATCガイドが反対です)
おまけ
グリグリ2は単独かな?
余談ですが、グリグリ2+シャントの組み合わせで懸垂下降をしたことがありますが、片方ずつの手でそれぞれをロック解除しながらですので無理がありました。
そのために、グリグリ2やシンチを使った懸垂下降はやっぱり単独で利用するものですね。
長い懸垂下降は時として危険
余談ですが、長いロープを使う場合、長い距離を一気に降りられるというメリットがありますが、ロープが途中で引っ掛かってしまって回収不能になる場合は悲惨です。
降りながら、ロープが引っ掛からないコースを降りてくるとか、場合によっては捨て縄で下降コースをコントロールすることも必要な場合があります。
セルフレスキューを練習してみる
シャントを無くした想定で、ミュールノットによる仮固定からの自己脱出等の非常時想定の練習は必要です。
おまけ2
↑オートブロックを利用したバックアップの方法
英語ですが、英語が分からなくても理解できる内容ですので追記してみました。
最後に
以上の方法は、シャントの取説にも載っている方法ですが、参考にされる場合は自己責任でお願いします。
また、自分の安全は自分で守るために、必ず目で確認して、違和感が少しでもあったらセッティングをし直すようにしてください。
初心者に指導される場合は、念のためにバックアップのロープで確保するぐらいの念を入れてください。

以上、事故のないようにお願い致します。
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コメント

懸垂下降
murrenさん、とても参考になります。
私の場合は、もっぱら最初の説明図であるペツル方式で懸垂下降しています。蓬莱峡のゲレンデなどで、レッグループでバックアップをとっている方をよく見かけますが、危険だと感じています。
 プルージックに関しては、ブリッジプルージックを多用しています。万能ではありませんが、かなり用途が広くて重宝しています。
クマ
2014/8/25 9:55
ゲスト
Re: 懸垂下降
kuma-sanさん、こんにちは。
蓬莱峡のゲレンデでのバックアップの方法は、どのような方法なのか想像だけですが、レスキュー講習で指導されている動画では、オートブロック(マッシャー)をレッグループにセッティングしています。
下の動画の3分前後あたりにその方法が紹介されています。
https://www.youtube.com/watch?v=y9w1iLrKQo8
私も試したことがありますが、下降器との干渉(距離間)の問題ですので、緩い傾斜ならこれでもいいかと思っています。時間があったら確認ください。蓬莱峡は違う方法ですかね?

この動画の後半はオートブロックとクレイムハイストの違いを利用した3分の1のシステムが紹介されていて参考になりますが実際にやってみたことは私はありません。

あと、ブリッジプルージックは確かに少し固まりにくいというメリットがありますね。私はどっちかというと普通のプルージックですが状況に応じて巻き数を考えて使っています(いました)。プルージックは片手でつくることができますのでその意味では重宝する結びですね。
コメントありがとうございました。
2014/8/25 12:04
Re[2]: 懸垂下降
murrenさん、動画とても参考になりました。
特に前もってロープダウンしないで、徐々にロープを繰り出していく方法は、見知ってはいたものの、実際にはやったことがありませんでした。今後、練習して自分のやり方に取り込んでいければと思っています。

まず最初に確認したいのですが、ここで出てくるバックアップという意味ですが、意図している/意図していないにかかわらず、下降器の下側のロープを握る手が離れてもいいように補償する・・・という意味でよろしいでしょうか? もし、このバックアップなしで下降器の下側のロープを握る手を離せば、下降器を通るロープはS字型ではなく、U字型になってしまって、下降器とロープとのフリクションが得られず墜落してしまうということですね。

さて、私が最も危険だと思っているバックアップは、下降器より上側のロープにフリクションノットしたスリングをレッグループにセットしているケースです。下降器と干渉しそうで恐いです。動画では下降器より下側のロープにフリクションノットしたスリングをレッグループにセットしていますが、スリングの長さ次第では同様の干渉が発生します。また、いくらオートブロックであってもスリングのフリクション性能によっては、片脚のレッグループが持ち上げられるような不安定な感覚を何度か経験したこともあります。

懸垂下降時にカラダを安定させるという目的で、最近は下降器をエクステンション(下降器をカラダから離してセットする)させる場合が多いです。murrenさんが最初に紹介されているペツル方式もこのエクステンション方式で、私も採用しております。離しすぎると万一のトラブル時に操作できなくなるといったデメリットなども報告されていますが、カラダが安定するのは実感としてありますし、なによりもバックアップを下降器に干渉させずにビレイループにセットできるというメリットがあります。両手を離したときの安定感も、レッグループからとった場合と全然違います。これらの状況を総合的に考えた場合、レッグループにセットする方式は”過去の遺産”ではないでしょうか? ちょっと言いすぎだったかも知れません。原則は、各個人が最も慣れた安全な方式で懸垂下降することが一番大切なのだということを知ったうえで、あえて言わせていただきました。

クマ
2014/8/26 10:52
ゲスト
Re[3]: 懸垂下降
kuma-sanさん、こんにちは。(しばらくヤマレコから離れるので最後のコメントになるかと思います。)
熱心に読んでいただいてありがとうございます。

確かに「バックアップ」は色々な意味で使いますね。パソコンの場合は内容を別の場所にコピーするとか、パラシュートやパラグライダーの場合は墜落時の予備のパラシュートを意味しますね。
kuma-sanさんが言われるように、懸垂下降のバックアップは、例えば落石が当たって意識を失っても「自動的に止まる」という意味で使っていますね。私は、中高年は脳卒中ということも考慮する必要があると思っております

kuma-sanさんが言われるように、シュリンゲなどで上方に伸ばして上方に下降器を設置した方が懸垂下降で重心が安定するのは確かですね。ただ、・・・

余談ですが、バックアップを使わない場合、私はハーネスのカラビナに直接下降器を付けて降りていました。傾斜が緩い場合は、昔はハーネスのカラビナにピッケルやハンマーのシャフトを差しただけでロープに制動をかけて降りていました。日暮れが迫り急がなければならない迅速な下降方法です。3秒でセットできますから。

下降器をシュリンゲなどでかなり上方に伸ばして設置した場合、イメージは空中懸垂ですが、登り返す場合とか何らかのトラブルで下降器を外さなければいけないとき、下降器が高い位置にありすぎると手が届きません。

下降器を空中懸垂の状態で外さなければならないとき、下降器の上にプルージックなどをセッティングして一旦体重をそこにあずけて下降器を取り外しますが、そういう想定だと、下降器はなるべくハーネスに近い所の方が都合がいいので、重心が安定することよりも、私はそういう感じを優先してイメージしています。

ここまで私の下手な説明で分かりますかね?

もう少し余談ですが、バックアップなしで両手ばなしで途中停止させる場合は、ミュールノットで仮固定しますが、その場合、レッグループに一旦カラビナを掛けて折り返してセッティングするととてもいい感じです。私がこの冬に撮った動画がありますので「レッグループにかける」という観点から時間があるときにでも見てください。
https://www.youtube.com/watch?v=yEwZdH2maVk

すこしこじつけていますが、レッグループを利用することにバランス的に違和感があるかどうかは「慣れ」の問題が大きいように思います。前時代的であるかどうかは問題ではありませんが、たとえば昔のグリップビレイは、ビレイディバイスを使うことは勿論ムンターヒッチでセカンドをビレイするよりも迅速だしロープも引っ張りやすいので、昔の技術も使える場所なら使える方がいいと思っています。上の私の動画もグリップビレイを利用しています。
ただ、中途半端な技術を数多く覚えていることよりも、種類は少なくても確実な技術をミスなくできる方が遥かに重要なことですね。

えっと、何か忘れたような気がしますが、そうそう、干渉の問題は大きいですね。
これ私も経験がありますが、ナイフがないと命取りになるケースもありますね。実際にナイフを使ってシュリンゲを切断したことがあります。

蓬莱峡の人たちの方法は何を根拠にしているのかメリットがさっぱり分からないですね。kuma-sanさんが言われるように危ないですね。懸垂下降一つでこうなら他にも間違っていることが多い可能性があるように思います。
2014/8/26 15:21
ゲスト
オートブロック(マッシャー)をバックアップに使った方法の動画
https://www.youtube.com/watch?v=OodydJiaXUo
↑ヤマノート本文にも追加しておきましたが、英語でも分かりやすく説明されていましたので追記しておきます。
最後のコメントと書きましたが、気になったので追記させてもらいました。
2014/8/28 2:03
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