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更新日:2019年08月12日 訪問者数:731
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どのコースが厳しいのか?(黒戸尾根vs早月尾根、谷川馬蹄形vs谷川主脈、4コースの比較)
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日帰りコースとしては、日本屈指の厳しさとして知られるこれら4コース。これらコースの厳しさを各種指標を用い統計学的に解析し、どのコースがより厳しいのかを比較検討しました。
白峰三山縦走や越後三山縦走などを日帰りでこなしてしまう超人は例外として、体力に自信のある登山者で、黒戸尾根ピストンや早月尾根ピストン、谷川馬蹄形縦走や谷川主脈縦走を日帰りでやった方、またはやってみたいと考えている方も多いと思います。
日本でも屈指のこれら厳しいコースを日帰りでこなすことは、健脚登山者の目標にもなっています。

これら4コースのうち、ピストンコースでは、南アルプスの黒戸尾根と北アルプスの早月尾根がよく比較されます。

黒戸尾根は、日本三大急登の中でも最も厳しい登りとして知られています。前半は樹林帯の一本調子の登り、後半は梯子や鎖場の連続する苦しい登りが続きます。深田久弥も「日本アルプスで一番つらい登りは、この甲斐駒ヶ岳の表参道(黒戸尾根)かもしれない」(日本百名山「甲斐駒ヶ岳」)と記しています。

早月尾根は、北アルプス三大急登の一つです。馬場島から剱岳までの標高差2,200メートルを一気に登りつめ、特に早月小屋から剱岳にかけては、鎖場が連続し苦しめられるそうです(私はまだ登ったことはありません)。

谷川連峰では、馬蹄形縦走路と主脈縦走路がよく比べられます。日帰りで縦走するなら、両者とも実に厳しい行程になります。

谷川馬蹄形では、時計回りや反時計回りではそれぞれ、西黒尾根や白毛門の登りという日本でも有数の急登から始まります。その後は、大小無数の上り下りがあります。特に、コースの半ばを過ぎると、時計回り、反時計回りとも、標高差約500メートルの登りが待っています。更に最後には、両コースとも土合に向けての激下りが待っています。

谷川主脈では、最初に日本三大急登である西黒尾根を登り、万太郎山やエビス大黒ノ頭、仙ノ倉山、平標山といった、標高差200〜300メートルの顕著なピークを次々と越えていく厳しいコースです。

それでは、これらのコースの中では、どのコースがより厳しいのでしょうか?
ピストンコースの黒戸尾根と早月尾根ではどちらの方が厳しいのでしょうか?
縦走コースの谷川馬蹄形と谷川主脈ではどちらの方が厳しいのでしょうか?

そのような疑問から、ヤマレコユーザーの山記録のデータを基に、統計学的にこれらのコースの厳しさについて考察してみました。
写真1 黒戸尾根(五合目付近)
黒戸尾根は歴史ある修験道。五合目から先は、梯子や鎖場が連続する険しい登山道となります。
写真2 早月尾根の岩稜
早月尾根の上部は、剣岳へ一直線に向かう厳しい鎖場の連続となります。
(写真:kazumi_hiさん提供)
写真3 谷川馬蹄形縦走路
ジャンクションピーク付近から見る清水峠、七ッ小屋山(左)、大源太山(右)。反時計回りでは、まだ全体の1/3の行程。まだまだ苦しい縦走が続きます。
写真4 滝雲が流れる谷川主脈縦走路
苦しい西黒尾根を登り切って到達した谷川岳は主脈縦走の出発点。写真奥の平標山に向けて長い長い山旅の始まりです。
1 解析するための定義及び方法

コースの厳しさは、距離、累積標高差(上り、下り)、歩行時間、EK度、コース定数といった指標から検討しました。

各コースの定義としては(標準コースタイム(CT)は、山と高原地図(昭文社)による)、

・黒戸尾根ピストン
尾白川渓谷駐車場(竹宇駒ヶ岳神社)〜刃渡り〜七丈小屋〜甲斐駒ケ岳(往復)
(CT:14時間40分)

・早月尾根ピストン
馬場島〜早月小屋〜剱岳(往復)
(CT:13時間50分)

・谷川馬蹄形縦走
土合〜(西黒尾根経由)〜谷川岳〜茂倉岳〜蓬峠〜清水峠〜朝日岳〜白毛門〜土合
(時計回り、反時計回りとも、累積標高差(上り、下り)が同じであることから、どちらのコースデータも関係なくピックアップしました)
(CT:17時間45分)

・谷川主脈縦走
土合〜(西黒尾根経由)〜谷川岳〜万太郎山〜仙ノ倉山〜平標山〜(松出山コース)〜元橋
(逆コースは、上りの累積標高差が低値になるため、本コースのみのデータをピックアップしました)
(CT:14時間15分)

これらのコースを日帰り(トレラン以外)で行ったヤマレコユーザーの山行記録から、歩行距離、累積標高差(上り、下り)については、無作為に選んだ10件のデータについて、歩行時間については無作為に選んだ20件のデータについて統計処理を行いました。
さらに、ピストンコースの比較として、平均勾配(%)(累積標高差(km)/片道歩行距離(km)×100)も求めました。

また、総合的な指標として、ヤマレコユーザーが数値化したEK(えらいきつい)度と、鹿屋体育大学の山本正嘉教授(運動生理学)が提唱しているコース定数をこれらのデータから計算し、統計処理を行いました。

EK度とコース定数は、次のように定義します。

・EK度=歩行距離(km)+10×累積標高差(上り)(km)+5×累積標高差(下り)(km)

・コース定数=1.8×歩行時間(h)+0.3×歩行距離(km)+10.0×累積標高差(上り)(km)+0.6×累積標高差(下り)(km)

統計処理は、二者の比較では一元配置の分散分析法、四者の比較ではTukeyの多重分析法を用いました。


2 結果及び考察

(1) 黒戸尾根と早月尾根

両者の厳しさ指標を表1に示します。

距離については、黒戸尾根が21 kmに対して、早月尾根が16 kmで、黒戸尾根の方が5 kmあまり長いことがわかりました(p<0.001)。

累積標高差については、黒戸尾根が2600 mに対して、早月尾根が2300 mで、黒戸尾根の方が300 mあまり大きいことがわかりました(p<0.001)。

ヤマレコユーザーの実際の歩行時間の平均値(平均歩行時間)を求めると、黒戸尾根の方は10時間48分で、早月尾根の方は10時間12分で、黒戸尾根の方が歩行時間は36分長いことを示しました。しかしp値は0.16で、有意差は認められませんでした。

EK度及びコース定数については、黒戸尾根がそれぞれ60及び53、早月尾根がそれぞれ53及び48と、黒戸尾根の方が有意に高い数値を示しました(両方ともp<0.001)。

また、平均勾配については、黒戸尾根が25%に対して、早月尾根が30%と、早月尾根の方が登山道は急であることがわかりました。

以上の数値の比較から、黒戸尾根の方が厳しいコースと考えられます。一方で、歩行時間には両者の間に有意差が認められなかったのは、登山道の平均勾配に関係があると推察されました。すなわち、黒戸尾根の方は適度な緩急があるのに対し、早月尾根の方は一直線に登っていく感じです。
表1 黒戸尾根と早月尾根の厳しさ指標
距離、累積標高差、EK度及びコース定数は、黒戸尾根の方が数値は有意に高いことを示しました。
一方、平均勾配は早月尾根の方が急でした。
(2)谷川馬蹄形と谷川主脈

両者の厳しさ指標を表2に示します。

距離については、谷川馬蹄形縦走(馬蹄形)が25 kmに対して、谷川主脈縦走(主脈)が21 kmで、馬蹄形の方が4 kmあまり長いことがわかりました(p<0.001)。

累積標高差(上り)については、馬蹄形が2380 mに対して、主脈が2440 mで、主脈の方がわずかながら大きいことがわかりました(p=0.046)。

累積標高差(下り)については、馬蹄形が2380 mに対して、主脈が2190 mで、馬蹄形の方が200 m近く大きいことがわかりました(p<0.001)。

平均歩行時間は、馬蹄形の方は11時間32分で、主脈の方は10時間20分で、馬蹄形の方が歩行時間は1時間12分長いことがわかりました(p=0.024)。

EK度及びコース定数については、馬蹄形がそれぞれ60及び54、主脈がそれぞれ56及び51と、馬蹄形の方が有意に高い数値を示しました(EK度:p<0.001,コース定数:p=0.026)。

以上の数値の比較から、馬蹄形の方が厳しいコースと考えられます。
表2 谷川馬蹄形と谷川主脈の厳しさ指標
距離、累積標高差(下り)、歩行時間、EK度、コース定数は、谷川馬蹄形の方が数値は有意に高いことを示しました。
一方、累積標高差(上り)は、谷川主脈の方が数値は有意に高いことを示しました。
(3)4コースの厳しさ比較

以上、4コースを厳しさの総合的指標(平均歩行時間、EK度、コース定数)から比較してみました。その結果を表3に示します。

平均歩行時間は、馬蹄形>黒戸尾根>主脈>早月尾根となり、馬蹄形と早月尾根には有意差(p<0.05)が認められました。

EK度は、黒戸尾根=馬蹄形>主脈>早月尾根となり、黒戸尾根と馬蹄形は、主脈より有意に高い値でした(p<0.05)。また、主脈は早月尾根より有意に高い値でした(p<0.05)。

コース定数も、黒戸尾根=馬蹄形>主脈>早月尾根となりました。黒戸尾根と馬蹄形と主脈の値の間には有意差はなかったものの、早月尾根の値は他の3コースの値より有意に低いことが示されました(p<0.05)。

以上、コースの厳しさは、黒戸尾根と馬蹄形はほぼ同程度に厳しく、次いで主脈、その次に早月尾根という順番になりました。
表3 4コースの総合的な厳しさ指標
歩行時間は、谷川馬蹄形が長く、早月尾根が短かいことを示しました。
EK度及びコース定数は、黒戸尾根と谷川馬蹄形が同程度で、次いで谷川主脈、早月尾根と続きました。
3 結論

各指標の解析結果から、
・黒戸尾根と早月尾根の比較では、黒戸尾根の方が厳しい。
・谷川馬蹄形と谷川主脈の比較では、谷川馬蹄形の方が厳しい。
・これら4つのコースの厳しさは、黒戸尾根=谷川馬蹄形>谷川主脈>早月尾根
となりました。


4 おわりに

以上、日本でも代表する4コースの厳しさについて、各指標を用い統計学的に比較しました。
厳しさの違いはあれ、今回挙げたどのコースも累積標高差は2000 m以上あり、歩行時間も10時間以上に及ぶ厳しいコースです。コース定数は、どのコースも40以上と通常なら1泊以上が必要なコースばかりです。これらのコースを日帰りでこなすことは、日頃の鍛錬を怠らずなおかつ山慣れた健脚登山者だけが許された世界と考えます。

もし、体力に少しでも自信がなければ、躊躇なく途中の小屋に1泊するべきと考えます。黒戸尾根なら七丈小屋。早月尾根なら早月小屋。馬蹄形なら蓬ヒュッテや谷川肩の小屋。主脈なら谷川肩の小屋や平標山の家。このような山小屋を利用して歩けば、難易度も随分下がります。

あまり背伸びせず、自分の体力に似合った山歩きをしていきたいものです。
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