(はじめに)
この章以降は、赤石山脈(狭義)の山々の地質と地形について、
北から順に紹介していきます。
まずこの章では、塩見岳、荒川三山について説明します。
北から順に紹介していきます。
まずこの章では、塩見岳、荒川三山について説明します。
1)塩見岳
白根三山の間ノ岳から西へと小さい尾根が分岐しています。その尾根をたどると、三峰岳(2999m)に至ります。ここは白根山脈と赤石山脈(狭義)とのジャンクションになっており、さらに北西へは仙丈ヶ岳へ続く尾根が続いています。
三峰岳から南へと赤石山脈(狭義)の山並みが続きますが、標高は2600m台で、高低差の少ない樹林帯の尾根が続きます。
次の3000m峰が塩見岳(3052m)です。
塩見岳はその前後の尾根から標高差 300mほど盛り上がった山で、山頂部の東側に北俣岳(2920m)、西側に天狗岩(約2950m)という衛星峰を持ち、遠方からも、3つのコブでできているその特徴的な姿が良く目立つ山です。
三峰岳から塩見岳までの地質は、前章でも述べた、四万十帯 「白根層群」ユニットに属します。白根層群は主にメランジュ相でできていますが、ところどころに硬い岩石群が分布しています。塩見岳も山頂部は硬い岩石群でできており、山頂部への登りにかかると急に岩がちの稜線となり、山頂部の北面は険しい岩壁を形成しています。
産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山頂部を形成しているのは、玄武岩です。それ以外にチャートも分布しています。玄武岩もチャートも、メランジュ相の部分よりは浸食に強いために、浸食に抗して3000m峰を形成しているものと思われます。
なお(文献1)の地質ガイドのうち、塩見岳の項でも、塩見岳の山頂部はチャートと緑色岩類(玄武岩が多少変質した岩石)で出来ていることで、険しい山頂部を形成している、と説明されています。
三峰岳から南へと赤石山脈(狭義)の山並みが続きますが、標高は2600m台で、高低差の少ない樹林帯の尾根が続きます。
次の3000m峰が塩見岳(3052m)です。
塩見岳はその前後の尾根から標高差 300mほど盛り上がった山で、山頂部の東側に北俣岳(2920m)、西側に天狗岩(約2950m)という衛星峰を持ち、遠方からも、3つのコブでできているその特徴的な姿が良く目立つ山です。
三峰岳から塩見岳までの地質は、前章でも述べた、四万十帯 「白根層群」ユニットに属します。白根層群は主にメランジュ相でできていますが、ところどころに硬い岩石群が分布しています。塩見岳も山頂部は硬い岩石群でできており、山頂部への登りにかかると急に岩がちの稜線となり、山頂部の北面は険しい岩壁を形成しています。
産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山頂部を形成しているのは、玄武岩です。それ以外にチャートも分布しています。玄武岩もチャートも、メランジュ相の部分よりは浸食に強いために、浸食に抗して3000m峰を形成しているものと思われます。
なお(文献1)の地質ガイドのうち、塩見岳の項でも、塩見岳の山頂部はチャートと緑色岩類(玄武岩が多少変質した岩石)で出来ていることで、険しい山頂部を形成している、と説明されています。
3)荒川三山(悪沢岳)
荒川岳あるいは荒川三山と通称される山は、主峰の悪沢岳(「東岳」とも呼ばれる)(3141m)、中岳(3083m)、前岳(3068m)の3つのピークで構成され、主稜線上にある前岳から東へと延びた枝尾根上に三つのピークが並んでいます。
前節の塩見岳から三伏峠を経て、荒川岳までの稜線は、標高が2600-2700m級の稜線となりますが、この一帯の地質は、四万十帯「赤石層群」ユニットに属しており、主に砂岩、泥岩で出来ています。
私は実はこの間を歩いたことが無いのですが、地形図を見ると、稜線の西側は割と急斜面になっており、ガイドブック(文献2)によると、西側斜面はガレ場が多いようです。砂岩、泥岩は比較的浸食に弱いため、尾根筋まで浸食が進んでガレ場が多いのでは、と思います。
さて、荒川岳(荒川三山)の地質についてですが、前岳と中岳は、四万十帯 「赤石層群」ユニットに属します。中岳と悪沢岳との間に2973mの小ピークがありますが、「地質図」によるとここが地質境界となっており、これから東、悪沢岳を含む部分は、四万十帯 「白根層群」ユニットに属します。
前岳は、西側から延びてきている荒川の源頭部にあたり、荒川の浸食により、西側は大きな崖状地形となっています。ここは「荒川大崩壊地」とも呼ばれており、南アルプスでも有数の崩壊地形です(文献2)。
(文献1)によると、荒川の浸食の影響で、すでに前岳の山頂部まで浸食、崩壊作用が及んでいるとのことですが、この一帯の地質が、砂岩、泥岩を主体とする地質(赤石層群)のために、河川浸食への抵抗性が弱いためではないかと思います(私見です)。
(1)節の塩見岳の項でも述べましたが、白根層群では、ところどころに玄武岩、チャートといった比較的硬くて浸食に強い岩体が分布しています。悪沢岳も「地質図」によると、稜線上は玄武岩で出来ており、さらに山頂部とその周辺はチャートで構成されています。割と険しい悪沢岳の山頂部は、このような浸食に強い岩石でできているためだと思われます。
なお(文献1)の荒川三山稜線の地質ガイドの項でも、荒沢岳の稜線は、玄武岩(が変化した緑色岩)と赤色チャートが稜線上に続いていると、説明されています。
なお、悪沢岳からさらに東へと行くと、山頂直下に千枚小屋という山小屋もある、千枚岳(2880m)という山があります。(文献3)によると、千枚岳付近は、千枚岩と呼ばれる、泥岩が弱い変成作用を受けて、スレート状に平べったく割れる性質を持つ地質になっており、それが山の名前の由来になったということです。
なお、泥が固まってできた泥岩は、地下深くに沈み込んだ場合、熱や圧力で変成作用を受け、いろいろな岩石に変化します。変成度の順でいうと、
「泥岩」−>「頁岩(けつがん)」−>「粘板岩(ねんばんがん)」
−>「千枚岩(せんまいがん)」 −>「泥質片岩(でいしつへんがん)」
です。(文献4)
このうち、頁岩、粘板岩、千枚岩は、薄く平べったい形ではがれやすい性質を持っています。
荒川岳(荒川三山)は地形的にも特徴があります。それは三山の南面にあるカール群です。
(文献5)によると、南面には3個のカールが認められています。
それぞれ、「前岳南東カール」、「中岳南東カール」、「悪沢岳南西カール」と名付けられています。カール面は岩質の硬いチャート、玄武岩(緑色岩類)で出来ており、そのために流水浸食があまり進まず、きれいなカール形状が現在でも保たれているようです。
(文献5)の研究によると、これらのカール群は、約6万年前(MIS=4)と、約2万年前(MIS=2)に形成されたと推定されています。
南アルプス北部では、仙丈ヶ岳に3つの顕著なカール群がありますが、南アルプス南部では氷河地形は少なく、かつ研究もほとんどされていません。この荒川三山のカール群は、南アルプス南部では貴重な氷河地形といえます。
※ ”MIS”は、酸素同位体ステージを意味する用語。
前節の塩見岳から三伏峠を経て、荒川岳までの稜線は、標高が2600-2700m級の稜線となりますが、この一帯の地質は、四万十帯「赤石層群」ユニットに属しており、主に砂岩、泥岩で出来ています。
私は実はこの間を歩いたことが無いのですが、地形図を見ると、稜線の西側は割と急斜面になっており、ガイドブック(文献2)によると、西側斜面はガレ場が多いようです。砂岩、泥岩は比較的浸食に弱いため、尾根筋まで浸食が進んでガレ場が多いのでは、と思います。
さて、荒川岳(荒川三山)の地質についてですが、前岳と中岳は、四万十帯 「赤石層群」ユニットに属します。中岳と悪沢岳との間に2973mの小ピークがありますが、「地質図」によるとここが地質境界となっており、これから東、悪沢岳を含む部分は、四万十帯 「白根層群」ユニットに属します。
前岳は、西側から延びてきている荒川の源頭部にあたり、荒川の浸食により、西側は大きな崖状地形となっています。ここは「荒川大崩壊地」とも呼ばれており、南アルプスでも有数の崩壊地形です(文献2)。
(文献1)によると、荒川の浸食の影響で、すでに前岳の山頂部まで浸食、崩壊作用が及んでいるとのことですが、この一帯の地質が、砂岩、泥岩を主体とする地質(赤石層群)のために、河川浸食への抵抗性が弱いためではないかと思います(私見です)。
(1)節の塩見岳の項でも述べましたが、白根層群では、ところどころに玄武岩、チャートといった比較的硬くて浸食に強い岩体が分布しています。悪沢岳も「地質図」によると、稜線上は玄武岩で出来ており、さらに山頂部とその周辺はチャートで構成されています。割と険しい悪沢岳の山頂部は、このような浸食に強い岩石でできているためだと思われます。
なお(文献1)の荒川三山稜線の地質ガイドの項でも、荒沢岳の稜線は、玄武岩(が変化した緑色岩)と赤色チャートが稜線上に続いていると、説明されています。
なお、悪沢岳からさらに東へと行くと、山頂直下に千枚小屋という山小屋もある、千枚岳(2880m)という山があります。(文献3)によると、千枚岳付近は、千枚岩と呼ばれる、泥岩が弱い変成作用を受けて、スレート状に平べったく割れる性質を持つ地質になっており、それが山の名前の由来になったということです。
なお、泥が固まってできた泥岩は、地下深くに沈み込んだ場合、熱や圧力で変成作用を受け、いろいろな岩石に変化します。変成度の順でいうと、
「泥岩」−>「頁岩(けつがん)」−>「粘板岩(ねんばんがん)」
−>「千枚岩(せんまいがん)」 −>「泥質片岩(でいしつへんがん)」
です。(文献4)
このうち、頁岩、粘板岩、千枚岩は、薄く平べったい形ではがれやすい性質を持っています。
荒川岳(荒川三山)は地形的にも特徴があります。それは三山の南面にあるカール群です。
(文献5)によると、南面には3個のカールが認められています。
それぞれ、「前岳南東カール」、「中岳南東カール」、「悪沢岳南西カール」と名付けられています。カール面は岩質の硬いチャート、玄武岩(緑色岩類)で出来ており、そのために流水浸食があまり進まず、きれいなカール形状が現在でも保たれているようです。
(文献5)の研究によると、これらのカール群は、約6万年前(MIS=4)と、約2万年前(MIS=2)に形成されたと推定されています。
南アルプス北部では、仙丈ヶ岳に3つの顕著なカール群がありますが、南アルプス南部では氷河地形は少なく、かつ研究もほとんどされていません。この荒川三山のカール群は、南アルプス南部では貴重な氷河地形といえます。
※ ”MIS”は、酸素同位体ステージを意味する用語。
(参考文献)
飯田市美術博物館のサイト
飯田市美術博物館のサイト
文献1)飯田市 美術博物館」ホームぺージのうち
「南アルプスの山旅 −地形・地質観察ガイド−」の章、(作成;村松 武氏)
「塩見岳」の項、「赤石岳」の項、 2020-10 閲覧
https://www.iida-museum.org/user/nature/pics/shiomi.htm
https://www.iida-museum.org/user/nature/pics/akaishi.htm
文献2)「アルペンガイド 南アルプス」山と渓谷社 刊 (1994)
文献3)小泉 著
「日本の山ができるまで」 エイアンドエフ社 刊 (2020)
のうち、第11章「一億年前の付加体 四万十帯からなる山々」
文献4)西本 著
「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
のうち、「千枚岩」の項
文献5)長谷川、青山、佐々木、増沢
「南アルプス、荒川三山南面圏谷群における
最終表記以降の氷河・周氷河地形発達史」
国士舘大学地理学報告 第22巻 p23-37(2014)
「南アルプスの山旅 −地形・地質観察ガイド−」の章、(作成;村松 武氏)
「塩見岳」の項、「赤石岳」の項、 2020-10 閲覧
https://www.iida-museum.org/user/nature/pics/shiomi.htm
https://www.iida-museum.org/user/nature/pics/akaishi.htm
文献2)「アルペンガイド 南アルプス」山と渓谷社 刊 (1994)
文献3)小泉 著
「日本の山ができるまで」 エイアンドエフ社 刊 (2020)
のうち、第11章「一億年前の付加体 四万十帯からなる山々」
文献4)西本 著
「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
のうち、「千枚岩」の項
文献5)長谷川、青山、佐々木、増沢
「南アルプス、荒川三山南面圏谷群における
最終表記以降の氷河・周氷河地形発達史」
国士舘大学地理学報告 第22巻 p23-37(2014)
このリンク先の、4−1章の文末には、第4部「南アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第4部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2020年10月29日
△改訂1;文章見直し、一部修正。5−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
△改訂1;文章見直し、一部修正。5−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
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