(はじめに)
現世の「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体は種々あり、かつ複雑な分布をしています。
この1−3章では、その「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体について、(概要版)として、大まかに説明します。より詳しくは、第2部の(詳細版)にて説明します。
なお、「ヨーロッパアルプス」全体の概要を説明した1−1章や、「アルプス地域」の地史の概要を説明した1−2章でも、「ヨーロッパアルプス」を構成する地質体について、ある程度説明を行いました。
なので、この1−3章の説明は、それらの説明と重複する部分もありますが、総まとめという感じとして捉えてもらえればと思います。
さて、現世の「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体を、形成された時代別に大まかに区分すると、以下の3グループに分けることができます。
グループA) 基盤岩類(古生代の地質体を含む)
グループB) 中生代の地質体
グループC) 新生代の地質体
以下、(1)〜(3)節で、この3グループの地質体について、概要を説明します。
また(4)節では、これらの地質体の、現世における地理的分布状況を説明します。
この1−3章では、その「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体について、(概要版)として、大まかに説明します。より詳しくは、第2部の(詳細版)にて説明します。
なお、「ヨーロッパアルプス」全体の概要を説明した1−1章や、「アルプス地域」の地史の概要を説明した1−2章でも、「ヨーロッパアルプス」を構成する地質体について、ある程度説明を行いました。
なので、この1−3章の説明は、それらの説明と重複する部分もありますが、総まとめという感じとして捉えてもらえればと思います。
さて、現世の「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体を、形成された時代別に大まかに区分すると、以下の3グループに分けることができます。
グループA) 基盤岩類(古生代の地質体を含む)
グループB) 中生代の地質体
グループC) 新生代の地質体
以下、(1)〜(3)節で、この3グループの地質体について、概要を説明します。
また(4)節では、これらの地質体の、現世における地理的分布状況を説明します。
1−3章―第(1)節 基盤岩類(古生代の地質体を含む)の概要
「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体のうち、(はじめに)の項で、グループA)とした地質体は、(文献1―2)では、“pre-Triassic basements”(トリアス紀より前の基盤岩類)、あるいは “crystalline basements”(結晶質基盤岩類)と呼んでいて、ひとまとめに扱われていることが多いのですが、詳しくはさらに、以下3つのサブグループに分けられます。
この連載では、以下3つのサブグループを区別して扱いますが、全部をまとめて言う場合は「基盤岩類」と呼ぶことにします。
(A−1) 複数回の変成作用を受けた古い変成岩類(主に片麻岩類)。原岩の形成時代、
変成年代は不詳だが、原岩が形成されたのは、原生代〜太古代の可能性がある。
しばしば、“Alt crystallin”「アルトクリスタリン」(独)と呼ばれる
(文献1−2)、(文献2)。
(以下、本連載では、「アルトクリスタリン」と呼ぶ)
(A−2) 古生代後期、主に「石炭紀」、「ペルム紀」の堆積岩類(文献1−2)
(以下、本連載では、「古生代の堆積岩類」と呼ぶ)
(A―3) 古生代後期、主に「石炭紀」の火成岩類(主に花崗岩などの深成岩類)
(文献1−2)、
(以下、本連載では、「古生代の火成岩類」と呼ぶ)
これらの「基盤岩類」は、元々は、その名の通り、地下深くで「ヨーロッパアルプス」の基盤となっているものですが、「アルプス造山運動」による隆起と浸食により、現世では、あちこちで地表に顔を出しており、特に「西部アルプス」、「中央アルプス」では、グループB)の地質グループ(中生代の地質体)の中に浮かぶ小島のような分布をしています。また「東部アルプス」では、比較的広範囲に分布しています。
図1に、現世の「アルプス山脈」における、それら「基盤岩類」の分布状況を図示します。これは、(文献1)の、図2−1を引用したものです。
この図では、「アルトクリスタリン」を含む、(文献1)の原図では結晶質基盤岩類(crystalline basements)と呼んでいる「基盤岩類」の分布域を赤い線で示し、「古生代の堆積物類」(palaeozoic sediments)の分布域を青い線で示しました。
以下、地域ごとの「基盤岩類」について、もう少し詳しく説明します。
まず「中央アルプス」における基盤岩類は、グループB)の中生代の地質体の中に、海に浮かぶ島のように分布しています。
(文献1)によると、これら島状に分布している地塊の一部は、「モンブラン地塊」(the Mont Blanc massif)、「アール地塊」(the Aar massif)などと、固有名詞で呼ばれています。
そのうち「モンブラン山群」(モンブラン地塊)では、「古生代の火成岩類」(主に花崗岩類)が広く分布しています。また「ベルナーオーバーラント山群」(アール地塊)では、「アルトクリスタリン」(主に片麻岩類)が広く分布し、「古生代の火成岩類」(主に花崗岩類)も含まれています。
次に「西部アルプス」では、「ベルドンヌ地塊」(Belledonne)、「ペルビュー地塊」(Pelvoux)などが、島状に分布しています。これら「西部アルプス」の地塊群は、「アルトクリスタリン」、「古生代の火成岩類」、「古生代の堆積岩類」などからなる複合岩体となっています。
また「東部アルプス」では、比較的標高の高い「ホーエ・タウエルン山群」(タウエルン地塊;Tauern)に大きな地塊状に分布しているほか、「東部アルプス」の東部にも広範囲に分布しています。「東部アルプス」では、「アルトクリスタリン」のほか、「古生代の堆積岩類」も広く分布している点が特徴となっています。
これらの「基盤岩類」が、「西部アルプス」、「中央アルプス」では、島状のように分布している理由ですが、元々は地下深くにあったものが、「アルプス造山運動」による、局所的な(ドーム状の)隆起により、島状に地表に露出していることによります。従って、地表には別の地質体が存在する場所でも、その地下深くには、この「基盤岩類」が分布していると推定されています。
(文献1)では、これら島状に分布している「基盤岩類」を手掛かりとして、「アルプス地域」の古地理の復元に利用しています。
この連載では、以下3つのサブグループを区別して扱いますが、全部をまとめて言う場合は「基盤岩類」と呼ぶことにします。
(A−1) 複数回の変成作用を受けた古い変成岩類(主に片麻岩類)。原岩の形成時代、
変成年代は不詳だが、原岩が形成されたのは、原生代〜太古代の可能性がある。
しばしば、“Alt crystallin”「アルトクリスタリン」(独)と呼ばれる
(文献1−2)、(文献2)。
(以下、本連載では、「アルトクリスタリン」と呼ぶ)
(A−2) 古生代後期、主に「石炭紀」、「ペルム紀」の堆積岩類(文献1−2)
(以下、本連載では、「古生代の堆積岩類」と呼ぶ)
(A―3) 古生代後期、主に「石炭紀」の火成岩類(主に花崗岩などの深成岩類)
(文献1−2)、
(以下、本連載では、「古生代の火成岩類」と呼ぶ)
これらの「基盤岩類」は、元々は、その名の通り、地下深くで「ヨーロッパアルプス」の基盤となっているものですが、「アルプス造山運動」による隆起と浸食により、現世では、あちこちで地表に顔を出しており、特に「西部アルプス」、「中央アルプス」では、グループB)の地質グループ(中生代の地質体)の中に浮かぶ小島のような分布をしています。また「東部アルプス」では、比較的広範囲に分布しています。
図1に、現世の「アルプス山脈」における、それら「基盤岩類」の分布状況を図示します。これは、(文献1)の、図2−1を引用したものです。
この図では、「アルトクリスタリン」を含む、(文献1)の原図では結晶質基盤岩類(crystalline basements)と呼んでいる「基盤岩類」の分布域を赤い線で示し、「古生代の堆積物類」(palaeozoic sediments)の分布域を青い線で示しました。
以下、地域ごとの「基盤岩類」について、もう少し詳しく説明します。
まず「中央アルプス」における基盤岩類は、グループB)の中生代の地質体の中に、海に浮かぶ島のように分布しています。
(文献1)によると、これら島状に分布している地塊の一部は、「モンブラン地塊」(the Mont Blanc massif)、「アール地塊」(the Aar massif)などと、固有名詞で呼ばれています。
そのうち「モンブラン山群」(モンブラン地塊)では、「古生代の火成岩類」(主に花崗岩類)が広く分布しています。また「ベルナーオーバーラント山群」(アール地塊)では、「アルトクリスタリン」(主に片麻岩類)が広く分布し、「古生代の火成岩類」(主に花崗岩類)も含まれています。
次に「西部アルプス」では、「ベルドンヌ地塊」(Belledonne)、「ペルビュー地塊」(Pelvoux)などが、島状に分布しています。これら「西部アルプス」の地塊群は、「アルトクリスタリン」、「古生代の火成岩類」、「古生代の堆積岩類」などからなる複合岩体となっています。
また「東部アルプス」では、比較的標高の高い「ホーエ・タウエルン山群」(タウエルン地塊;Tauern)に大きな地塊状に分布しているほか、「東部アルプス」の東部にも広範囲に分布しています。「東部アルプス」では、「アルトクリスタリン」のほか、「古生代の堆積岩類」も広く分布している点が特徴となっています。
これらの「基盤岩類」が、「西部アルプス」、「中央アルプス」では、島状のように分布している理由ですが、元々は地下深くにあったものが、「アルプス造山運動」による、局所的な(ドーム状の)隆起により、島状に地表に露出していることによります。従って、地表には別の地質体が存在する場所でも、その地下深くには、この「基盤岩類」が分布していると推定されています。
(文献1)では、これら島状に分布している「基盤岩類」を手掛かりとして、「アルプス地域」の古地理の復元に利用しています。
1−3章―第(2)節 中生代の地質体の概要
中生代のうち最初の時代である「トリアス紀」(約2.5〜2.0億年前)の地質体は「アルプス地域」での分布は限定的です(文献1−3)。
この時代の「アルプス地域」はまだ「超大陸・パンゲア」の内陸部だったようで、海洋性の堆積物層はほとんどなく、内陸で閉鎖された海水域が干上がってしまって形成された、「蒸発岩類」(evaporate)(文献3)(文献4−1)と一括して呼ばれる、「岩塩」や「石こう」が、代表的な地質体です。詳細は第2部で説明します。
中生代のうち、「ジュラ紀」(約2.0〜1.45億年前)と、続く「白亜紀」(約1.45億年前〜約6500万年前)は、現在の「ヨーロッパアルプス」に広く分布する、海洋性の堆積物層が形成された時代です。具体的な堆積岩の種類としては、泥岩、砂岩、石灰岩類(ドロマイトを含む)です(文献1−3)。
それ以外に、海洋プレート由来の、いわゆる「オフィオライト岩体」(ohiolite)も点在しています。
それら中生代の地質体の一部は、「アルプス造山運動」の影響によって変成作用を受け、変成岩となっているものも多く(文献1−5)、また褶曲、断層による変形作用も受けていますが(文献1−4)、詳しい研究によって、元々の堆積物(堆積岩)や当時の堆積環境がかなり解っています。
また中生代の地質体のうち、「ジュラ紀」、「白亜紀」のものは、当時の形成場所(地質区)の違いや形成過程の違いによって、いくつかの地質グループに細分化されています(文献1−1)、(文献5)。
文献によって分け方が若干異なりますが、(文献1)では、以下5つの「地質グループ」(注1)に分けています。
このうち、「ヘルベチカ系」と「ドフィーネ系」は、中生代の「アルプス地域」のうち、「ヨーロッパ大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
また「オーストロアルパイン系」と「サウスアルパイン系」は、「アドリア大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
「ペニン系」地質グループは、海洋プレート断片である「オフィオライト」(文献4−2)などを含む点や、高度な変成作用を受けている点で、他の地質体とは大きく異なります。これは、1−2章の地史の項でも説明した、上記2つの大陸ブロックの間に形成された「ペニン海」由来の地質体です。またこのグループは、(文献1)ではさらに細かく3つのサブグループに分けて説明されています。詳しくは第2部で説明します。
(1)「ヘルベチカ系」(Helvetic)地質グループ
(2)「ドーフィネ系」(Dauphinous)地質グループ (注2)
(3)「ペニン系」(Penninic)地質グループ
(4)「オーストロアルパイン系」(Austro-alpine)地質グループ
(5)「サウスアルパイン系」(South-alpine)地質グループ
この時代の「アルプス地域」はまだ「超大陸・パンゲア」の内陸部だったようで、海洋性の堆積物層はほとんどなく、内陸で閉鎖された海水域が干上がってしまって形成された、「蒸発岩類」(evaporate)(文献3)(文献4−1)と一括して呼ばれる、「岩塩」や「石こう」が、代表的な地質体です。詳細は第2部で説明します。
中生代のうち、「ジュラ紀」(約2.0〜1.45億年前)と、続く「白亜紀」(約1.45億年前〜約6500万年前)は、現在の「ヨーロッパアルプス」に広く分布する、海洋性の堆積物層が形成された時代です。具体的な堆積岩の種類としては、泥岩、砂岩、石灰岩類(ドロマイトを含む)です(文献1−3)。
それ以外に、海洋プレート由来の、いわゆる「オフィオライト岩体」(ohiolite)も点在しています。
それら中生代の地質体の一部は、「アルプス造山運動」の影響によって変成作用を受け、変成岩となっているものも多く(文献1−5)、また褶曲、断層による変形作用も受けていますが(文献1−4)、詳しい研究によって、元々の堆積物(堆積岩)や当時の堆積環境がかなり解っています。
また中生代の地質体のうち、「ジュラ紀」、「白亜紀」のものは、当時の形成場所(地質区)の違いや形成過程の違いによって、いくつかの地質グループに細分化されています(文献1−1)、(文献5)。
文献によって分け方が若干異なりますが、(文献1)では、以下5つの「地質グループ」(注1)に分けています。
このうち、「ヘルベチカ系」と「ドフィーネ系」は、中生代の「アルプス地域」のうち、「ヨーロッパ大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
また「オーストロアルパイン系」と「サウスアルパイン系」は、「アドリア大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
「ペニン系」地質グループは、海洋プレート断片である「オフィオライト」(文献4−2)などを含む点や、高度な変成作用を受けている点で、他の地質体とは大きく異なります。これは、1−2章の地史の項でも説明した、上記2つの大陸ブロックの間に形成された「ペニン海」由来の地質体です。またこのグループは、(文献1)ではさらに細かく3つのサブグループに分けて説明されています。詳しくは第2部で説明します。
(1)「ヘルベチカ系」(Helvetic)地質グループ
(2)「ドーフィネ系」(Dauphinous)地質グループ (注2)
(3)「ペニン系」(Penninic)地質グループ
(4)「オーストロアルパイン系」(Austro-alpine)地質グループ
(5)「サウスアルパイン系」(South-alpine)地質グループ
1−3章―第(3)節 新生代の地質体の概要
グループC)の、新生代の地質体の大部分は、「アルプス地域」のうち、「ヨーロッパアルプス」主要部ではなく、山麓部や、「モラッセ盆地」(the Molasse Basin)と呼ばれるスイス北部の平野部、またイタリア側の「ポー盆地」(the Po-Basin)などに分布しています(文献1−4)。
新生代に入って、「ヨーロッパ大陸ブロック」と「アドリア大陸ブロック」との衝突が始まって、その結果、その境界部分が隆起し、山地、山脈を形成しました。そして、浸食によって削られて出てきた、礫、砂、泥などが、周囲の海洋域や淡水湖に、あるいは陸上の扇状地として堆積したものです(文献1−4)、(文献6)、(文献7)。
これら新生代の地質体(破砕性堆積物)は、19世紀初頭に始まる「ヨーロッパアルプス」の地質研究の初期に付けられた用語である、「モラッセ」(molasse)(文献4−3)や、「フリッシュ」(flysch)(文献4−4)と呼ばれています。
新生代の「アルプス地域」は、大部分が隆起と浸食の時代であり、新生代に新たに形成された地質体は少ないため、「アルプス造山運動」の解明はなかなか困難な面がありますが、上記の「モラッセ」、「フリッシュ」といった破砕性堆積物よりなる地質体は、「アルプス造山運動」の解明に、ヒントを与えてくれる地質体と言えます。
なお、この章では詳細説明を省きますが、「アルプス地域」では、わずかながら新生代の深成岩体が分布しています(文献1−4)。
同じプレート衝突型の造山帯である「ヒマラヤ山脈」には、深成岩体の一種、花崗岩体が比較的広範囲に分布していますが(文献8)、「アルプス山脈」では、造山運動の過程で火成活動(火山や深成岩体の形成)が非常に少なかったことは、特徴の一つと言えるかもしれません。
新生代に入って、「ヨーロッパ大陸ブロック」と「アドリア大陸ブロック」との衝突が始まって、その結果、その境界部分が隆起し、山地、山脈を形成しました。そして、浸食によって削られて出てきた、礫、砂、泥などが、周囲の海洋域や淡水湖に、あるいは陸上の扇状地として堆積したものです(文献1−4)、(文献6)、(文献7)。
これら新生代の地質体(破砕性堆積物)は、19世紀初頭に始まる「ヨーロッパアルプス」の地質研究の初期に付けられた用語である、「モラッセ」(molasse)(文献4−3)や、「フリッシュ」(flysch)(文献4−4)と呼ばれています。
新生代の「アルプス地域」は、大部分が隆起と浸食の時代であり、新生代に新たに形成された地質体は少ないため、「アルプス造山運動」の解明はなかなか困難な面がありますが、上記の「モラッセ」、「フリッシュ」といった破砕性堆積物よりなる地質体は、「アルプス造山運動」の解明に、ヒントを与えてくれる地質体と言えます。
なお、この章では詳細説明を省きますが、「アルプス地域」では、わずかながら新生代の深成岩体が分布しています(文献1−4)。
同じプレート衝突型の造山帯である「ヒマラヤ山脈」には、深成岩体の一種、花崗岩体が比較的広範囲に分布していますが(文献8)、「アルプス山脈」では、造山運動の過程で火成活動(火山や深成岩体の形成)が非常に少なかったことは、特徴の一つと言えるかもしれません。
1−3章―第(4)節 各地質グループの「現世」の地理的分布状況
図2(文献1―1の、図1−10を引用)には、第(2)節でも説明したように、中生代の地質体を5つの地質グループに分けた際の、各地質グループの、現世における分布域(簡略化した地質平面図)を示します。
(1)「ヘルベチカ系」(Helvetic)地質グループ
(2)「ドーフィネ系」(Dauphinois)地質グループ
(3)「ペニン系」(Penninic)地質グループ
(4)「オーストロアルパイン系」(Austro-alpine)地質グループ
(5)「サウスアルパイン系」(South-alpine)地質グループ
なお、図2では示していませんが、(3)の「ペニン系」地質グループは、(文献1―3)では、更に細分化して、以下3つに分けられています(詳細は第2部で説明します)。
3−a) 「ピエモンテ海系」(Piemont Ocean)地質グループ
3−b) 「ブリアンソン・ライズ系」(Brianson Rase)地質グループ
3−c) 「ヴァリストラフ系」(Valais trough)地質グループ
これら(1)〜(5)の地質グループは、中生代のうち、おもに「ジュラ紀」(200〜145Ma)から「白亜紀」(145〜66Ma)にかけて、主に海洋域で堆積した堆積物です。
第(2)節でも説明したので繰り返しになりますが、これらの地質グループのうち、(1)「ヘルベチカ系」と、(2)「ドフィーネ系」は、中生代の「アルプス地域」のうち、「ヨーロッパ大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
また(4)「オーストロアルパイン系」と、(5)「サウスアルパイン系」は、「アドリア大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
なお(3)の「ペニン系」地質グループは、海洋プレート断片である「オフィオライト」(文献4−2)などを含むやや特異な地質グループです。これは、1−2章の地史の項でも説明した、上記2つの大陸ブロックの間に形成された「ペニン海」由来の地質体です。
これらの地質グループは、新生代に生じた「アルプス造山運動」の影響で、元々あった場所から、数10km〜100km以上も移動しているものが多い、というのが「ヨーロッパアルプス」の地質学としての、大きな特徴です(文献1−6)。
この地質グループのまとまった移動は、スラスト(断層)(thrust)(注3)(文献4−5)と呼ばれる、低角の断層によって、断層の上盤側が水平方向に移動したものであり、地質学用語で「ナップ」、「ナッペ」(nappe)、あるいは「スラストシート」と呼ばれる地質構造体です。なお浸食によりサイズが小さくなって孤立した岩体は、「クリッペ」(klippen)と呼ばれます。
更には、単に移動しただけではなく、地質グループどうしが折り重なって、断面図的には重層構造(ナップパイル構造)をとっている場合も多いのも、「ヨーロッパアルプス」の地質構造が解りにくくなっている要因の一つです。
また、形成時点では重層構造となっていたものが、浸食によって構造的上位の地質グループが失われている場合も多く、その為に見かけ状の地質体の分布状況は非常に複雑化しています。
「ヨーロッパアルプス」の地質グループどうしの重なり合い構造については、別の章で改めて説明します。
(1)「ヘルベチカ系」(Helvetic)地質グループ
(2)「ドーフィネ系」(Dauphinois)地質グループ
(3)「ペニン系」(Penninic)地質グループ
(4)「オーストロアルパイン系」(Austro-alpine)地質グループ
(5)「サウスアルパイン系」(South-alpine)地質グループ
なお、図2では示していませんが、(3)の「ペニン系」地質グループは、(文献1―3)では、更に細分化して、以下3つに分けられています(詳細は第2部で説明します)。
3−a) 「ピエモンテ海系」(Piemont Ocean)地質グループ
3−b) 「ブリアンソン・ライズ系」(Brianson Rase)地質グループ
3−c) 「ヴァリストラフ系」(Valais trough)地質グループ
これら(1)〜(5)の地質グループは、中生代のうち、おもに「ジュラ紀」(200〜145Ma)から「白亜紀」(145〜66Ma)にかけて、主に海洋域で堆積した堆積物です。
第(2)節でも説明したので繰り返しになりますが、これらの地質グループのうち、(1)「ヘルベチカ系」と、(2)「ドフィーネ系」は、中生代の「アルプス地域」のうち、「ヨーロッパ大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
また(4)「オーストロアルパイン系」と、(5)「サウスアルパイン系」は、「アドリア大陸ブロック」のマージン部の海洋域で堆積したものです。
なお(3)の「ペニン系」地質グループは、海洋プレート断片である「オフィオライト」(文献4−2)などを含むやや特異な地質グループです。これは、1−2章の地史の項でも説明した、上記2つの大陸ブロックの間に形成された「ペニン海」由来の地質体です。
これらの地質グループは、新生代に生じた「アルプス造山運動」の影響で、元々あった場所から、数10km〜100km以上も移動しているものが多い、というのが「ヨーロッパアルプス」の地質学としての、大きな特徴です(文献1−6)。
この地質グループのまとまった移動は、スラスト(断層)(thrust)(注3)(文献4−5)と呼ばれる、低角の断層によって、断層の上盤側が水平方向に移動したものであり、地質学用語で「ナップ」、「ナッペ」(nappe)、あるいは「スラストシート」と呼ばれる地質構造体です。なお浸食によりサイズが小さくなって孤立した岩体は、「クリッペ」(klippen)と呼ばれます。
更には、単に移動しただけではなく、地質グループどうしが折り重なって、断面図的には重層構造(ナップパイル構造)をとっている場合も多いのも、「ヨーロッパアルプス」の地質構造が解りにくくなっている要因の一つです。
また、形成時点では重層構造となっていたものが、浸食によって構造的上位の地質グループが失われている場合も多く、その為に見かけ状の地質体の分布状況は非常に複雑化しています。
「ヨーロッパアルプス」の地質グループどうしの重なり合い構造については、別の章で改めて説明します。
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(注釈の項)
注1) 「地質グループ」という用語について
「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体のうち、中生代の地質体をグループ化して
区分する場合、それぞれのグループの接尾語をどう表現するか、文献、資料によって
まちまちです。
例えば(文献1)では (nappe systems)、(complex)、(units)が使われ、
(文献5)では (units)、(domain)、(zone)、(nappes)などが使われています。
適切な訳語がないので、この連載では、「地質グループ」という用語に統一しました。
注2) (Dauphinois)という単語について
この単語はフランス語で、フランス南東部の地域名称が、その由来です。
(文献1)は英語の本ですが、そのまま(Dauphinois)と表記されています。
フランス語での発音は良く解りませんが、ここでは「ドーフィネ系」と訳しました。
なお、パソコンの翻訳機能を使うと、「ドーフィネ」のほか、「ドーフィノワ」、
「ドーフィノア」、「ドフィノワ」などと出てきます。
注3) (thrust)/「スラスト」という用語について
(thrust)とは、低角の逆断層を意味し、日本語では通常、「スラスト」あるいは
「衝上断層(しょうじょうだんそう)」と呼ばれます(文献4−5)。
この連載では、断層であることを明確化するため、あえて「スラスト断層」と
表記することにします。
注4) “Ma”は、「百万年前」という意味の単位です。
「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体のうち、中生代の地質体をグループ化して
区分する場合、それぞれのグループの接尾語をどう表現するか、文献、資料によって
まちまちです。
例えば(文献1)では (nappe systems)、(complex)、(units)が使われ、
(文献5)では (units)、(domain)、(zone)、(nappes)などが使われています。
適切な訳語がないので、この連載では、「地質グループ」という用語に統一しました。
注2) (Dauphinois)という単語について
この単語はフランス語で、フランス南東部の地域名称が、その由来です。
(文献1)は英語の本ですが、そのまま(Dauphinois)と表記されています。
フランス語での発音は良く解りませんが、ここでは「ドーフィネ系」と訳しました。
なお、パソコンの翻訳機能を使うと、「ドーフィネ」のほか、「ドーフィノワ」、
「ドーフィノア」、「ドフィノワ」などと出てきます。
注3) (thrust)/「スラスト」という用語について
(thrust)とは、低角の逆断層を意味し、日本語では通常、「スラスト」あるいは
「衝上断層(しょうじょうだんそう)」と呼ばれます(文献4−5)。
この連載では、断層であることを明確化するため、あえて「スラスト断層」と
表記することにします。
注4) “Ma”は、「百万年前」という意味の単位です。
【参考文献】
(文献1) O. A. Pfiffer 著 “Geology of the Alps” second edition (2014)
(文献1―1) (文献1) のうち、
第1部 “The Alps in their Plate Tectonic Flamewark” の項
特に、図1-10 “simplified tectonic map of the Alps”
(文献1−2) (文献1)のうち、
第2部 “The pre-Triassic basement of the Alps” の項
特に、図2-1 ”tectonic map of the Alps ; pre-Triassic crystalline
basements and Palaeozoic sediments”
(文献1−3) (文献1)のうち、
第3部 “The Alpine domain in the Mesozoic” の項
(文献1−4) (文献1)のうち、
第4部 “The Alpine domain in the Cenozoic” の項
(文献1−5) (文献1)のうち、
6−1章 “Alpine Metamorphism” の項
(文献1−6) (文献1)のうち、
第5部 “Tectonic structure of the Alps” の項
(文献2) ウイキペディア ドイツ語版の、“Altkristallin” の項
https://de.wikipedia.org/wiki/Altkristallin
(2025年6月閲覧)
(文献3) ウイキペディア英語版の、“Evaporite”の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Evaporite
(2025年6月 閲覧)
(文献4) 地学団体研究会 編 「新編 地学事典」 平凡社 刊 (1996)
(文献4−1) (文献4)のうち、「蒸発岩」の項
(文献4−2) (文献4)のうち、「オフィオライト」の項
(文献4−3) (文献4)のうち、「モラッセ」の項
(文献4−4) (文献4)のうち、「フリッシュ」の項
(文献4−5) (文献4)のうち、「衝上断層」の項
(文献5) ウイキペディア英語版の、“Geology of the Alps” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Geology_of_the_Alps
(2025年6月 閲覧)
(文献6) ウイキペディア英語版の、Alpine orogeny”の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Alpine_orogeny
(2025年6月閲覧)
(文献7) ウイキペディア ドイツ語版の、“Alpidische Orogenese” の項
(文献6よりも詳しい)
https://de.wikipedia.org/wiki/Alpidische_Orogenese
(2025年6月閲覧)
(文献8) 酒井 「ヒマラヤ山脈形成史」 東京大学出版会 刊 (2023)
(文献1―1) (文献1) のうち、
第1部 “The Alps in their Plate Tectonic Flamewark” の項
特に、図1-10 “simplified tectonic map of the Alps”
(文献1−2) (文献1)のうち、
第2部 “The pre-Triassic basement of the Alps” の項
特に、図2-1 ”tectonic map of the Alps ; pre-Triassic crystalline
basements and Palaeozoic sediments”
(文献1−3) (文献1)のうち、
第3部 “The Alpine domain in the Mesozoic” の項
(文献1−4) (文献1)のうち、
第4部 “The Alpine domain in the Cenozoic” の項
(文献1−5) (文献1)のうち、
6−1章 “Alpine Metamorphism” の項
(文献1−6) (文献1)のうち、
第5部 “Tectonic structure of the Alps” の項
(文献2) ウイキペディア ドイツ語版の、“Altkristallin” の項
https://de.wikipedia.org/wiki/Altkristallin
(2025年6月閲覧)
(文献3) ウイキペディア英語版の、“Evaporite”の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Evaporite
(2025年6月 閲覧)
(文献4) 地学団体研究会 編 「新編 地学事典」 平凡社 刊 (1996)
(文献4−1) (文献4)のうち、「蒸発岩」の項
(文献4−2) (文献4)のうち、「オフィオライト」の項
(文献4−3) (文献4)のうち、「モラッセ」の項
(文献4−4) (文献4)のうち、「フリッシュ」の項
(文献4−5) (文献4)のうち、「衝上断層」の項
(文献5) ウイキペディア英語版の、“Geology of the Alps” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Geology_of_the_Alps
(2025年6月 閲覧)
(文献6) ウイキペディア英語版の、Alpine orogeny”の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Alpine_orogeny
(2025年6月閲覧)
(文献7) ウイキペディア ドイツ語版の、“Alpidische Orogenese” の項
(文献6よりも詳しい)
https://de.wikipedia.org/wiki/Alpidische_Orogenese
(2025年6月閲覧)
(文献8) 酒井 「ヒマラヤ山脈形成史」 東京大学出版会 刊 (2023)
【書記事項】
・初版リリース;2025年6月23日
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