(はじめに)
前の連載までは「第1部」として、「ヨーロッパアルプス」の地史、地質構成などについて、概要説明を行いました。
今回の分から「第2部」ですが、これ以降は「ヨーロッパアルプス」の地史、地質構成、テクトニクスなどについて、「詳細版」として、やや専門的な内容を説明していきます。
「第1部」と内容的に重複する部分もありますし、やや細かすぎたり、解りにくい点もあるかと思いますが、悪しからずご了承ください。
さて、1−3章でも説明しました通り、「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体は大きく分けて、以下の3グループに分類できます。
このうち、基盤岩類、古生代の地質体、中生代の地質体までを、この第2部で説明します。
新生代の地質体については、「アルプス造山運動」と関連が深いので、「アルプス造山運動」を説明する、第3部にまとめる予定です。
グループA) 基盤岩類、古生代の地質体 ・・・・ 2−1章(基盤岩類)で説明
2−2章(古生代)で説明
グループB) 中生代の地質体 ・・・・ 2−3章(トリアス紀)で説明
2−4章(ジュラ紀)で説明
2−5章(白亜紀)で説明
グループC) 新生代の地質体 ・・・・第3部「アルプス造山運動」にて説明
今回の分から「第2部」ですが、これ以降は「ヨーロッパアルプス」の地史、地質構成、テクトニクスなどについて、「詳細版」として、やや専門的な内容を説明していきます。
「第1部」と内容的に重複する部分もありますし、やや細かすぎたり、解りにくい点もあるかと思いますが、悪しからずご了承ください。
さて、1−3章でも説明しました通り、「ヨーロッパアルプス」を構成している地質体は大きく分けて、以下の3グループに分類できます。
このうち、基盤岩類、古生代の地質体、中生代の地質体までを、この第2部で説明します。
新生代の地質体については、「アルプス造山運動」と関連が深いので、「アルプス造山運動」を説明する、第3部にまとめる予定です。
グループA) 基盤岩類、古生代の地質体 ・・・・ 2−1章(基盤岩類)で説明
2−2章(古生代)で説明
グループB) 中生代の地質体 ・・・・ 2−3章(トリアス紀)で説明
2−4章(ジュラ紀)で説明
2−5章(白亜紀)で説明
グループC) 新生代の地質体 ・・・・第3部「アルプス造山運動」にて説明
2−1章 「基盤岩類」、「アルトクリスタリン」について
(はじめに)
第2部のうち、最初となるこの2−1章では、まず、「基盤岩類」と総称される古生代の地質体などの分類などについて述べたのち、「基盤岩類」のうち、「アルトクリスタリン」と呼ばれる地質体について説明します。それ以外の古生代の地質体(火成岩、堆積岩、変成岩)は、次の2−2章で説明します。
2−1章―第(1)節 「基盤岩類」(古生代の地質体を含む)の分類
1−3章でも説明しましたが、ヨーロッパアルプスにおける「基盤岩類」
(pre-Triassic basements/crystalline basements)とは、その名の通り、「ヨーロッパアルプス」の基盤として、古生代あるいはそれ以前に形成され、地下深くに存在していたものであり、新生代における「アルプス造山運動」によって、その一部が隆起して地表に顔をだしているものです。
なお(文献1―1)では、古生代の地質体(火成岩、堆積岩、変成岩など)を含めて「基盤岩類」(pre-Triassic basements)として扱っているので、1−3章と同様に、狭義の「基盤岩体」に加え、古生代の地質体も含めたものを「基盤岩類」と呼ぶこととします。
また、「基盤岩類」が地質図上、島状にまとまったものを、「〇〇地塊」と呼ぶことします。
この第(1)節では、まず「基盤岩類」の この連載での分類と、地理的分布状況について説明します。
まず分類ですが、1−3章では、「基盤岩類」を3つに分けましたが、ここでは、以下のように、より詳しく、4つに分類します。
この2−1章では、これらのうち、A)の「アルトクリスタリン」についても説明します。
((B)、C)、D)については、次の2−2章で説明します)
[基盤岩類]の分類
A)「アルトクリスタリン」(Alt-kristallin(独))
原岩は原生代〜古生代前期が起源と推定され、それ以降、複数回の変成作用を
受けた変成岩類(主に片麻岩類)。変成年代や回数は不明。
(“poly-methamorphic crystalline rocks”(英)とも呼ぶ)。
B) 「古生代の変成岩類」
(変成時期が古生代と明確なもので「アルトクリスタリン」は除く)
C) 「古生代の火成岩類」(主に「石炭紀」のもので、主に花崗岩類)
D) 「古生代の堆積岩類」(主に「石炭紀」、「ペルム紀」に堆積)
(pre-Triassic basements/crystalline basements)とは、その名の通り、「ヨーロッパアルプス」の基盤として、古生代あるいはそれ以前に形成され、地下深くに存在していたものであり、新生代における「アルプス造山運動」によって、その一部が隆起して地表に顔をだしているものです。
なお(文献1―1)では、古生代の地質体(火成岩、堆積岩、変成岩など)を含めて「基盤岩類」(pre-Triassic basements)として扱っているので、1−3章と同様に、狭義の「基盤岩体」に加え、古生代の地質体も含めたものを「基盤岩類」と呼ぶこととします。
また、「基盤岩類」が地質図上、島状にまとまったものを、「〇〇地塊」と呼ぶことします。
この第(1)節では、まず「基盤岩類」の この連載での分類と、地理的分布状況について説明します。
まず分類ですが、1−3章では、「基盤岩類」を3つに分けましたが、ここでは、以下のように、より詳しく、4つに分類します。
この2−1章では、これらのうち、A)の「アルトクリスタリン」についても説明します。
((B)、C)、D)については、次の2−2章で説明します)
[基盤岩類]の分類
A)「アルトクリスタリン」(Alt-kristallin(独))
原岩は原生代〜古生代前期が起源と推定され、それ以降、複数回の変成作用を
受けた変成岩類(主に片麻岩類)。変成年代や回数は不明。
(“poly-methamorphic crystalline rocks”(英)とも呼ぶ)。
B) 「古生代の変成岩類」
(変成時期が古生代と明確なもので「アルトクリスタリン」は除く)
C) 「古生代の火成岩類」(主に「石炭紀」のもので、主に花崗岩類)
D) 「古生代の堆積岩類」(主に「石炭紀」、「ペルム紀」に堆積)
2−1章―(2)節 「基盤岩類」の現世における地理的分布状況
「基盤岩類」の地理的分布状況ですが、(文献1−1)に「アルプス地域」全体にわたる地質図があり、(文献1―2)には、「アルプス地域」の各地域のより詳しい地質図があります。それらから、「基盤岩類」の分布状況を、添付の図1,図2,図3,図4に示しました。
これらの図を見ると、「西部アルプス」、「中央アルプス」では、「基盤岩類」からなる地塊群は、海に浮かぶ島のように、あちこちに数10〜約100kmサイズで点在しています。
一方で「東部アルプス」では、「古生代の堆積岩」も含めた「基盤岩類」が広範囲に分布している、という違いがあります。
また(文献1−1)によると、「ヨーロッパアルプス」が弧状をなしていることから、「ヨーロッパアルプスの地質学」では慣習的に、イタリア側を弧の内側、フランス、スイス側を弧の外側とみなしています。
「西部アルプス」、「中央アルプス」では、イタリア側からみて遠いゾーン(「ドフィーネ系」、「ヘルベチカ系」地質グループ分布域)を弧の外側とみなして、その地域にある地塊を、「外側地塊」(the external massifs)と呼んでいます(注1)。
一方、イタリア側に近いゾーン(主に「ペニン系」地質グループ分布域)にある地塊群は、「外側地塊」に対応するような名称はなさそうですが、この連載では区別のために「内側地塊」と呼ぶことにします。これはあくまで、この連載での説明のためのものです。
なお「東部アルプス」では、「外側」/「内側」といった区別はないようです。
「外側地塊」群は、「アルトクリスタリン」を含む古い基盤岩体で、元々はその上を被覆した中生代の堆積物層である「ドフィーネ系」、「ヘルベチカ系」地質グループの下位にあって、まさに「基盤」となっていたものです。それが、新生代の「アルプス造山運動」によって局所的に隆起して、構造的上位の中生代の堆積物層を突き破ったように、地表に顔を出しているものです。
一方、「ペニン系」地質グループ分布域にある「内側地塊」群は「アルトクリスタリン」を含まず、成り立ちや地史に違いがあります。詳細は後の章で説明予定ですが、中生代から新生代にかけ、地下深くに潜ったり、隆起して地表に現れたりと、複雑な地史を持っています。
さて、(文献1―2)に記載されている地質図によると、以下のような基盤岩類からなる地塊が分布しています。添付の図2、図3,図4もご参照ください。
また解る範囲で、「外側地塊」と「内側地塊」との区別も記載しました。
1)「西部アルプス」(添付の図2も、ご参照ください)
・「アルゲンチーラ」地塊(Argentera);「西部アルプス」南部 (「外側地塊」)
・「ペルビュー」地塊(Pelvoux);「西部アルプス」中部 (「外側地塊」)
・「ベルドンヌ」地塊(Belledonne);「西部アルプス」中部 (「外側地塊」)
・「ドーラ・マイーラ」地塊(Dora Maira);イタリア、ポー盆地の西側
(「内側地塊」)。
・「グラン・パラディーゾ」地塊(Gran Paradiso);イタリア、トリノ西部の山塊
(「内側地塊」)。
2) 「中部アルプス」(添付の図3も、ご参照ください)
・「モンブラン」地塊(Mont Blanc);「モンブラン山塊」に対応(「外側地塊」)。
・「エギーユ・ルージュ」地塊(Aiguilles Rouges);「モンブラン山塊」の北西に隣接、
(「外側地塊」)。
・「アール」地塊(Aar);スイスのベルナーオーバーラント山群を中心とした地塊、
(「外側地塊」)。
・「ゴッタルト」地塊(Gotthard);「アール地塊」の南東側に隣接した地塊
(「外側地塊」)。
・このほか、「中央アルプス」の「ペニン系」地質グループ分布域には、
”crystalline basements”に分類された、多数の「地塊」(「内側地塊」)がある。
例えば「ベルンハルト」地塊(Bernhard)、「モンテローザ」地塊
(Monte Rosa)、「「ジヴィーズ・ミシャベル」地塊(Siviez-Michabel)
などが、図3の原図に記載されている。
3) 「東部アルプス」(添付の図4も、ご参照ください)
・「タウエルン」地塊(Tauern);オーストリア西部のチロル地方、「タウエルン山群」
に対応。なお「タウエルン」地域の周辺は、ナップパイル構造をしており、
隆起と浸食により、基盤岩体も含む構造的に下位にある地質体が、
地窓(フェンスター/fenster)注2) として表れている。
・「ジルブレッタ」地塊(Silvretta);スイス東部(図4の右端)
・その他;「東部アルプス」では、結晶性基盤岩類(crystalline rocks)や、古生代堆積物層(Paleozoic sediments)を含めた「基盤岩類」が、広範囲な分布を示す。
地塊として島状にまとまった分布はしておらず、地塊としての固有名詞が付けられていない。
これらの図を見ると、「西部アルプス」、「中央アルプス」では、「基盤岩類」からなる地塊群は、海に浮かぶ島のように、あちこちに数10〜約100kmサイズで点在しています。
一方で「東部アルプス」では、「古生代の堆積岩」も含めた「基盤岩類」が広範囲に分布している、という違いがあります。
また(文献1−1)によると、「ヨーロッパアルプス」が弧状をなしていることから、「ヨーロッパアルプスの地質学」では慣習的に、イタリア側を弧の内側、フランス、スイス側を弧の外側とみなしています。
「西部アルプス」、「中央アルプス」では、イタリア側からみて遠いゾーン(「ドフィーネ系」、「ヘルベチカ系」地質グループ分布域)を弧の外側とみなして、その地域にある地塊を、「外側地塊」(the external massifs)と呼んでいます(注1)。
一方、イタリア側に近いゾーン(主に「ペニン系」地質グループ分布域)にある地塊群は、「外側地塊」に対応するような名称はなさそうですが、この連載では区別のために「内側地塊」と呼ぶことにします。これはあくまで、この連載での説明のためのものです。
なお「東部アルプス」では、「外側」/「内側」といった区別はないようです。
「外側地塊」群は、「アルトクリスタリン」を含む古い基盤岩体で、元々はその上を被覆した中生代の堆積物層である「ドフィーネ系」、「ヘルベチカ系」地質グループの下位にあって、まさに「基盤」となっていたものです。それが、新生代の「アルプス造山運動」によって局所的に隆起して、構造的上位の中生代の堆積物層を突き破ったように、地表に顔を出しているものです。
一方、「ペニン系」地質グループ分布域にある「内側地塊」群は「アルトクリスタリン」を含まず、成り立ちや地史に違いがあります。詳細は後の章で説明予定ですが、中生代から新生代にかけ、地下深くに潜ったり、隆起して地表に現れたりと、複雑な地史を持っています。
さて、(文献1―2)に記載されている地質図によると、以下のような基盤岩類からなる地塊が分布しています。添付の図2、図3,図4もご参照ください。
また解る範囲で、「外側地塊」と「内側地塊」との区別も記載しました。
1)「西部アルプス」(添付の図2も、ご参照ください)
・「アルゲンチーラ」地塊(Argentera);「西部アルプス」南部 (「外側地塊」)
・「ペルビュー」地塊(Pelvoux);「西部アルプス」中部 (「外側地塊」)
・「ベルドンヌ」地塊(Belledonne);「西部アルプス」中部 (「外側地塊」)
・「ドーラ・マイーラ」地塊(Dora Maira);イタリア、ポー盆地の西側
(「内側地塊」)。
・「グラン・パラディーゾ」地塊(Gran Paradiso);イタリア、トリノ西部の山塊
(「内側地塊」)。
2) 「中部アルプス」(添付の図3も、ご参照ください)
・「モンブラン」地塊(Mont Blanc);「モンブラン山塊」に対応(「外側地塊」)。
・「エギーユ・ルージュ」地塊(Aiguilles Rouges);「モンブラン山塊」の北西に隣接、
(「外側地塊」)。
・「アール」地塊(Aar);スイスのベルナーオーバーラント山群を中心とした地塊、
(「外側地塊」)。
・「ゴッタルト」地塊(Gotthard);「アール地塊」の南東側に隣接した地塊
(「外側地塊」)。
・このほか、「中央アルプス」の「ペニン系」地質グループ分布域には、
”crystalline basements”に分類された、多数の「地塊」(「内側地塊」)がある。
例えば「ベルンハルト」地塊(Bernhard)、「モンテローザ」地塊
(Monte Rosa)、「「ジヴィーズ・ミシャベル」地塊(Siviez-Michabel)
などが、図3の原図に記載されている。
3) 「東部アルプス」(添付の図4も、ご参照ください)
・「タウエルン」地塊(Tauern);オーストリア西部のチロル地方、「タウエルン山群」
に対応。なお「タウエルン」地域の周辺は、ナップパイル構造をしており、
隆起と浸食により、基盤岩体も含む構造的に下位にある地質体が、
地窓(フェンスター/fenster)注2) として表れている。
・「ジルブレッタ」地塊(Silvretta);スイス東部(図4の右端)
・その他;「東部アルプス」では、結晶性基盤岩類(crystalline rocks)や、古生代堆積物層(Paleozoic sediments)を含めた「基盤岩類」が、広範囲な分布を示す。
地塊として島状にまとまった分布はしておらず、地塊としての固有名詞が付けられていない。
2−1章―(3)節 「基盤岩類」からなる「地塊」の地質構造(例)
「西部アルプス」、「中央アルプス」には、「基盤岩類」からなる「地塊」(外側地塊)が多数あり、(文献1−1)には、それらのうちいくつかの地塊について、詳細説明があります。但し、内容が細かすぎるので、代表的な地塊の概略地質図のみ例示します。
図5は「モンブラン地塊」と「エギーユ・ルージュ地塊」、図6は「タウエルン地塊」(フェンスター)の概要地質図です。
各地塊には、「アルトクリスタリン」が含まれ、それに加えて古生代の深成岩、火山岩、堆積岩、変成岩などが組み合わさって複雑な地質構造を持つ、複合岩体となっていることが解ります。
図5は「モンブラン地塊」と「エギーユ・ルージュ地塊」、図6は「タウエルン地塊」(フェンスター)の概要地質図です。
各地塊には、「アルトクリスタリン」が含まれ、それに加えて古生代の深成岩、火山岩、堆積岩、変成岩などが組み合わさって複雑な地質構造を持つ、複合岩体となっていることが解ります。
2−1章―第(4)節 「アルトクリスタリン」について
「アルプス地域」における最も古い岩体が、古い起源を持つ変成岩である「アルトクリスタリン」(Alt-kristalln(独))です(文献1−1)、(文献2)。
(文献1−1)では、「多回変成・結晶質(基盤)岩類」(poly-morphorphic crystalline rocks(英))や、「複変成堆積岩」(meta-sediments(英))とも呼んでいます。
(文献1―1)には、「アルトクリスタリン」についてまとまった詳しい説明がありませんが、断片的な説明を元に、以下のようにまとめられます。
1) 原岩の種類;
(文献1−1)、(文献2)によると、原岩は、主に堆積岩と推定されており、(文献1−1)では「アルトクリスタリン」とは「複変成堆積岩」(meta-sediments)である、とも説明されている。また一部は、(海洋地殻由来の)玄武岩質の岩石も含まれるとされている。
その堆積岩の種類としては、珪質岩(quartzite)、変成泥質岩(meta-pelites)、変成砂岩(meta-greywacke)などが例示されている。注3)
2) 原岩の形成年代;
「原生代」後期(late Proterozoic;約10〜5.5億年前)〜「古生代」初頭(early Palaeozoic)、と推定されている。
3) 変成作用を受けた時期;
「アフリカ大陸ブロック」が形成されたイベントである「パン・アフリカン造山運動」(Pan-African orogeny;約9〜5.5億年前)(文献3)、
「古生代」前期〜中期の「カレドニアン造山運動」(Caledonian orogeny;オルドビス紀〜デボン紀初頭;約5〜4億年前)(文献4)、
「古生代」中期〜後期の、「ヴァリスカン造山運動」(Variscan orogeny、デボン紀末〜石炭紀;約3.5〜3.0億年前)(文献5)などが考えられ、
更には新生代の「アルプス造山運動」も影響している、と推定されている。
4) 具体的な岩石の種類;
「アルトクリスタリン」として一括されている変成岩類の具体的な岩石について、(文献1−1)にはほとんど記載がありません。
そこで、スイスのオンライン地質図である(文献6)で、各地塊の「アルトクリスタリン」相当の岩石を読み取ると、「アール地塊」(Aar massif)での変成岩類としては片麻岩類(gneisses)が多く、その他には、ミグマタイト(migmatite)、角閃岩(amphibolite)、雲母片岩(mica schist)といった変成岩が記載されています。注3)
(文献1−1)では、「多回変成・結晶質(基盤)岩類」(poly-morphorphic crystalline rocks(英))や、「複変成堆積岩」(meta-sediments(英))とも呼んでいます。
(文献1―1)には、「アルトクリスタリン」についてまとまった詳しい説明がありませんが、断片的な説明を元に、以下のようにまとめられます。
1) 原岩の種類;
(文献1−1)、(文献2)によると、原岩は、主に堆積岩と推定されており、(文献1−1)では「アルトクリスタリン」とは「複変成堆積岩」(meta-sediments)である、とも説明されている。また一部は、(海洋地殻由来の)玄武岩質の岩石も含まれるとされている。
その堆積岩の種類としては、珪質岩(quartzite)、変成泥質岩(meta-pelites)、変成砂岩(meta-greywacke)などが例示されている。注3)
2) 原岩の形成年代;
「原生代」後期(late Proterozoic;約10〜5.5億年前)〜「古生代」初頭(early Palaeozoic)、と推定されている。
3) 変成作用を受けた時期;
「アフリカ大陸ブロック」が形成されたイベントである「パン・アフリカン造山運動」(Pan-African orogeny;約9〜5.5億年前)(文献3)、
「古生代」前期〜中期の「カレドニアン造山運動」(Caledonian orogeny;オルドビス紀〜デボン紀初頭;約5〜4億年前)(文献4)、
「古生代」中期〜後期の、「ヴァリスカン造山運動」(Variscan orogeny、デボン紀末〜石炭紀;約3.5〜3.0億年前)(文献5)などが考えられ、
更には新生代の「アルプス造山運動」も影響している、と推定されている。
4) 具体的な岩石の種類;
「アルトクリスタリン」として一括されている変成岩類の具体的な岩石について、(文献1−1)にはほとんど記載がありません。
そこで、スイスのオンライン地質図である(文献6)で、各地塊の「アルトクリスタリン」相当の岩石を読み取ると、「アール地塊」(Aar massif)での変成岩類としては片麻岩類(gneisses)が多く、その他には、ミグマタイト(migmatite)、角閃岩(amphibolite)、雲母片岩(mica schist)といった変成岩が記載されています。注3)
【他の連載へのリンク】
この連載の各項目へのリンクがあります
一つ前の連載へのリンクです
次の連載へのリンクです
【注釈の項】
注1) (文献1―1)で、”the external massifs” と書かれている単語について、
「地学事典」などを見てもオーソライズされた訳語はなさそうだったので、
ここでは「外側地塊」と訳した。
注2) 地窓(じまど)とは、「フェンスター」(fenster(独))や、
「(テクトニック)ウインドウ」(tectonic window(英))とも呼ばれる地質構造で、
局所的な隆起や浸食などによって、構造的下位にある地質体が、構造的上位の
地質体の間から、地質図上、窓のように顔をだしているゾーンのこと(文献4)
注3) 岩石の種類について、
本文では色々な岩石名称が記載されているが、馴染みのない岩石も多いので、
(文献7−2)、(文献8)を元に調べ、以下のとおりまとめた。
・「珪質岩」(quartzite);(文献7−2)では「珪岩」という名称で説明されている。
石英を多く含む岩石全般を指し、色々な意味あいで使用され、定義はやや不明瞭。
(文献1)では、「石英の多い砂岩由来の変成岩」、という意味あいで使用されている。
なお近年では、「珪岩」、「珪質岩」という用語より、「クオーツアイト」という
用語が良く使われている感じ
・「ペライト」(pelite);「ペライト」という用語は、本来、岩石の名前ではなく、
鉱物の一種の名前(文献7−2)。
(文献1)では、泥質岩という意味で使用されている感じ
・「グレイワッケ」(greywacke);堅い砂岩の一種で、泥質成分を15%以上含むもの。
色あいは名前の通りダークグレー。「グレーワッケ」とも書く。
元々は、ドイツ中部の「ハルツ山地」に産する砂岩に付けられたローカルな岩石名称。
その後、この用語の使用方法に混乱が生じたので、最近はあまり利用が
推奨されていないというが、(文献1)では良く使用されている。
・「片麻岩」(へんまがん;gneiss(英)、Gneis(独));白っぽい部分と暗い色の部分
が縞模様状をなす外観(片麻状構造/組織、縞状構造)を持った変成岩の総称。
(結晶片岩類との違いは、縞状構造に沿って割れやすい、ということが無い)
地下深くの高温高圧化で変成したもので、石英、長石のほか、ザクロ石などの
変成鉱物を伴うことも多い。
なお実際には、図鑑にあるようなきれいな縞状構造がはっきりしないものもある。
下位分類として、花崗岩類が原岩と推定される「正・片麻岩」(ortho-gneiss)と、
堆積岩が原岩と推定される、「パラ片麻岩」(para-gneiss)に分類される。
(文献1)や(文献3)では、この下位分類も使われている。
・「ミグマタイト」(migmatite);片麻岩状、あるいは結晶片岩状の組織構造を
持つ部分と、花崗岩状の組織構造を持つ部分が入り混じった見た目の変成岩。
原岩の種類や変成、変形作用の違いにより、見た目は様々。
片麻岩より更に高温の条件化で、原岩がなかば溶けかけたような変成岩であり、
(文献8)では「溶けかけの片麻岩」、「火成岩(マグマ)になりかけの変成岩」
とも書いてある。
・「角閃岩」(かくせんがん; amphibolite); 中〜高圧型の変成岩。
変成相図の「角閃岩相」の条件化で形成される変成岩のうち、
原岩が玄武岩、ハンレイ岩などの苦鉄質岩のもの。
主な構成鉱物は有色鉱物である「角閃石」であり、見た目はダークグレーが多い。
しばしば、主要構成鉱物である「普通角閃石」の英語名の「ホルンブレント」
(hornblende)が、「角閃岩」の意味あいで使用される。
・「雲母片岩」(mica-schist);結晶片岩類のうち、雲母(白雲母、あるいは黒雲母)
が多い結晶片岩。原岩は、主に泥などの堆積物で、「泥質片岩」とほぼ同義。
(文献8)では、「白雲母片岩」という名称で説明されている。
「結晶片岩類」は、「片麻岩類」とともによく見られる変成岩で、
どちらかというと「高圧型」変成岩に分類される。
「地学事典」などを見てもオーソライズされた訳語はなさそうだったので、
ここでは「外側地塊」と訳した。
注2) 地窓(じまど)とは、「フェンスター」(fenster(独))や、
「(テクトニック)ウインドウ」(tectonic window(英))とも呼ばれる地質構造で、
局所的な隆起や浸食などによって、構造的下位にある地質体が、構造的上位の
地質体の間から、地質図上、窓のように顔をだしているゾーンのこと(文献4)
注3) 岩石の種類について、
本文では色々な岩石名称が記載されているが、馴染みのない岩石も多いので、
(文献7−2)、(文献8)を元に調べ、以下のとおりまとめた。
・「珪質岩」(quartzite);(文献7−2)では「珪岩」という名称で説明されている。
石英を多く含む岩石全般を指し、色々な意味あいで使用され、定義はやや不明瞭。
(文献1)では、「石英の多い砂岩由来の変成岩」、という意味あいで使用されている。
なお近年では、「珪岩」、「珪質岩」という用語より、「クオーツアイト」という
用語が良く使われている感じ
・「ペライト」(pelite);「ペライト」という用語は、本来、岩石の名前ではなく、
鉱物の一種の名前(文献7−2)。
(文献1)では、泥質岩という意味で使用されている感じ
・「グレイワッケ」(greywacke);堅い砂岩の一種で、泥質成分を15%以上含むもの。
色あいは名前の通りダークグレー。「グレーワッケ」とも書く。
元々は、ドイツ中部の「ハルツ山地」に産する砂岩に付けられたローカルな岩石名称。
その後、この用語の使用方法に混乱が生じたので、最近はあまり利用が
推奨されていないというが、(文献1)では良く使用されている。
・「片麻岩」(へんまがん;gneiss(英)、Gneis(独));白っぽい部分と暗い色の部分
が縞模様状をなす外観(片麻状構造/組織、縞状構造)を持った変成岩の総称。
(結晶片岩類との違いは、縞状構造に沿って割れやすい、ということが無い)
地下深くの高温高圧化で変成したもので、石英、長石のほか、ザクロ石などの
変成鉱物を伴うことも多い。
なお実際には、図鑑にあるようなきれいな縞状構造がはっきりしないものもある。
下位分類として、花崗岩類が原岩と推定される「正・片麻岩」(ortho-gneiss)と、
堆積岩が原岩と推定される、「パラ片麻岩」(para-gneiss)に分類される。
(文献1)や(文献3)では、この下位分類も使われている。
・「ミグマタイト」(migmatite);片麻岩状、あるいは結晶片岩状の組織構造を
持つ部分と、花崗岩状の組織構造を持つ部分が入り混じった見た目の変成岩。
原岩の種類や変成、変形作用の違いにより、見た目は様々。
片麻岩より更に高温の条件化で、原岩がなかば溶けかけたような変成岩であり、
(文献8)では「溶けかけの片麻岩」、「火成岩(マグマ)になりかけの変成岩」
とも書いてある。
・「角閃岩」(かくせんがん; amphibolite); 中〜高圧型の変成岩。
変成相図の「角閃岩相」の条件化で形成される変成岩のうち、
原岩が玄武岩、ハンレイ岩などの苦鉄質岩のもの。
主な構成鉱物は有色鉱物である「角閃石」であり、見た目はダークグレーが多い。
しばしば、主要構成鉱物である「普通角閃石」の英語名の「ホルンブレント」
(hornblende)が、「角閃岩」の意味あいで使用される。
・「雲母片岩」(mica-schist);結晶片岩類のうち、雲母(白雲母、あるいは黒雲母)
が多い結晶片岩。原岩は、主に泥などの堆積物で、「泥質片岩」とほぼ同義。
(文献8)では、「白雲母片岩」という名称で説明されている。
「結晶片岩類」は、「片麻岩類」とともによく見られる変成岩で、
どちらかというと「高圧型」変成岩に分類される。
【参考文献】
(文献1) O. A. Pfiffer 著 “Geology of the Alps” second edition (2014)
(文献1−1) (文献1)のうち、第2部 “the pre-Triassic Basements of the Alps”
の項
及び、図2−5 「モンブラン」、「エギーユ・ルージュ」地塊の地質図
図2−8 「タウエルン」地塊の地質図
(文献1−2) (文献1)のうち、第5部 “Tectonic structure of the Alps”の項、
及び、図5−1−1 「西部アルプス」の地質概略図
図5−2−1 「中央アルプス」の地質概略図
図5−3−1 「東部アルプス」の地質概略図
(文献2) ウイキペディア・ドイツ語版の “Altkristallin” の項
https://de.wikipedia.org/wiki/Altkristallin
(2025年6月 閲覧)
(文献3) ウイキペディア英語版の、“Pan-African orogeny” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Pan-African_orogeny
(2025年6月 閲覧)
(文献4) ウイキペディア英語版の、“Caledonian orogeny” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Caledonian_orogeny
(2025年6月 閲覧)
(文献5) ウイキペディア英語版の、“Variscan orogeny” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Variscan_orogeny
(2025年6月 閲覧)
(文献6) スイスのオンライン地質図
https://map.geo.admin.ch
(説明はドイツ語、2025年6月 閲覧)
・なお、スマホアプリ版の「swiss topo」というスイスの地図アプリのうち、
地質図レイヤーも参照した。
(基本的には上記のオンライン地質図とソースは同じだが、
説明が英語なので、解りやすい)
(文献7) 地学団体研究会 編 「新編・地学事典」 平凡社 刊 (1996)
(文献7−1) (文献7)のうち、「フェンスター」の項
(文献7−2) (文献7)のうち、「珪質岩」、「ペライト」、
「グレイワッケ」、「片麻岩」、「ミグマタイト」、
「角閃岩」、「雲母片岩」の各項
(文献8) 西本 著 「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
のうち、「片麻岩」、「ミグマタイト」、「角閃岩」、「白雲母片岩」の各項
(文献1−1) (文献1)のうち、第2部 “the pre-Triassic Basements of the Alps”
の項
及び、図2−5 「モンブラン」、「エギーユ・ルージュ」地塊の地質図
図2−8 「タウエルン」地塊の地質図
(文献1−2) (文献1)のうち、第5部 “Tectonic structure of the Alps”の項、
及び、図5−1−1 「西部アルプス」の地質概略図
図5−2−1 「中央アルプス」の地質概略図
図5−3−1 「東部アルプス」の地質概略図
(文献2) ウイキペディア・ドイツ語版の “Altkristallin” の項
https://de.wikipedia.org/wiki/Altkristallin
(2025年6月 閲覧)
(文献3) ウイキペディア英語版の、“Pan-African orogeny” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Pan-African_orogeny
(2025年6月 閲覧)
(文献4) ウイキペディア英語版の、“Caledonian orogeny” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Caledonian_orogeny
(2025年6月 閲覧)
(文献5) ウイキペディア英語版の、“Variscan orogeny” の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Variscan_orogeny
(2025年6月 閲覧)
(文献6) スイスのオンライン地質図
https://map.geo.admin.ch
(説明はドイツ語、2025年6月 閲覧)
・なお、スマホアプリ版の「swiss topo」というスイスの地図アプリのうち、
地質図レイヤーも参照した。
(基本的には上記のオンライン地質図とソースは同じだが、
説明が英語なので、解りやすい)
(文献7) 地学団体研究会 編 「新編・地学事典」 平凡社 刊 (1996)
(文献7−1) (文献7)のうち、「フェンスター」の項
(文献7−2) (文献7)のうち、「珪質岩」、「ペライト」、
「グレイワッケ」、「片麻岩」、「ミグマタイト」、
「角閃岩」、「雲母片岩」の各項
(文献8) 西本 著 「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
のうち、「片麻岩」、「ミグマタイト」、「角閃岩」、「白雲母片岩」の各項
【書記事項】
初版リリース;2025年6月27日
お気に入りした人
人
拍手で応援
拍手した人
拍手
ベルクハイルさんの記事一覧
-
「ヨーロッパアルプスの地質学」;2−3章 「トリアス紀」における「アルプス地域」のテクトニクスと、地質体 6 更新日:2025年07月13日
-
「ヨーロッパアルプスの地質学」;2−2章「ヨーロッパアルプス」における、古生代の地質体(その2);変成岩 6 更新日:2025年07月04日
-
「ヨーロッパアルプスの地質学」;2−2章「ヨーロッパアルプス」における、古生代の地質体(その1);火成岩類、堆積物層 5 更新日:2025年07月04日
※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
どなたでも、山に関する知識や技術などのノウハウを簡単に残して共有できます。
ぜひご協力ください!
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する