(はじめに)
(文献1)では、新生代(注1)における「アルプス造山運動」について多角的な観点から説明されています。3−2章では、新生代の各時代における推定「古地理図」に基づいて説明しましたが、この3−3章では、(文献1−1)に図として示され、説明されている、新生代の各時代における推定「地質断面図」を元に、「アルプス造山運動」の説明をします。
なお、「アルプス地域」全体でみると、「東部」、「中部」、「西部」という、3分割される地域ごとに、新生代の「造山運動」の進展の様相は、かなり違っていた、ということが、最近の研究論文では明らかになってきています。また(文献1)でも、地域ごとに説明されています。
が、そこに深入りすると解りにくくなるばかりなので、この章では、(文献1―1)の図6−12に示されている、「中部アルプス・東部」(the Central Alps of eastern Switzerland)における推定地質断面図(cross-section)を、代表例として説明します。
また、ここで示す「推定・地質断面図」は、地質学の専門書(1992年 刊)(文献2)からの引用で、それをもとに過去の地下深部の様子を、色々な地質学的証拠も交えて、(文献1)の筆者が推定、考察したものです。従って、以下の説明は、推定されたモデルの一つであり、かなり不確実性を含むことをご了承ください。
実際、ネットで検索すると、2000年代以降でも、「アルプス造山運動」に関しては、様々な研究論文が発表されており、様々な造山運動のモデルが提案されているようです。
それらの多数の論文の例として、シュミッド博士(S. M. Schmid)ら、による2008年の論文(文献3)と、ハンディ博士(M. R. Handy)による、2025年の論文(文献4)を挙げておきます
(但しこの章では、(文献3)、(文献4)の説明は省きます)。
なお、「アルプス地域」全体でみると、「東部」、「中部」、「西部」という、3分割される地域ごとに、新生代の「造山運動」の進展の様相は、かなり違っていた、ということが、最近の研究論文では明らかになってきています。また(文献1)でも、地域ごとに説明されています。
が、そこに深入りすると解りにくくなるばかりなので、この章では、(文献1―1)の図6−12に示されている、「中部アルプス・東部」(the Central Alps of eastern Switzerland)における推定地質断面図(cross-section)を、代表例として説明します。
また、ここで示す「推定・地質断面図」は、地質学の専門書(1992年 刊)(文献2)からの引用で、それをもとに過去の地下深部の様子を、色々な地質学的証拠も交えて、(文献1)の筆者が推定、考察したものです。従って、以下の説明は、推定されたモデルの一つであり、かなり不確実性を含むことをご了承ください。
実際、ネットで検索すると、2000年代以降でも、「アルプス造山運動」に関しては、様々な研究論文が発表されており、様々な造山運動のモデルが提案されているようです。
それらの多数の論文の例として、シュミッド博士(S. M. Schmid)ら、による2008年の論文(文献3)と、ハンディ博士(M. R. Handy)による、2025年の論文(文献4)を挙げておきます
(但しこの章では、(文献3)、(文献4)の説明は省きます)。
3−3章―(1)節 古第三紀「始新世」(40Ma)における 「アルプス地域」の推定断面構造
図1に、古第三紀「始新世」後期(40Ma)における、「アルプス地域」の推定断面構造を示します。これ以降の図も含め、「アルプス地域」における、これらの推定断面構造図は、(文献1−1)の、図6-12シリーズの各図を引用しました。
詳細説明の前に、この章の各図(原著の図6-12)では各「地質グループ」(注2)、地質体が色分けされていますので、その説明をしておきます。
[図1〜3の凡例(詳細版)]
(1) 紫色、うす紫色;「ペニン系地質グループ(1)」
(堆積岩由来の変成岩、上部地殻)由来の基盤岩体; “upper crust”)(注3)
(2) 濃い緑色;「ペニン系地質グループ(2)」
(主に海洋プレートの海洋地殻(“ocean crust”)由来の地質体、
一部はオフィオライト岩体;”ophiolite”)(注3)
(3) 左側(北側)の黄緑色;「ヘルベチカ系地質グループ」
(中生代の堆積岩と基盤岩体)
(4) 左手(北側)の水色;
「ヘルベチカ系地質グループ」の続きとなる、中生代堆積物と、
「アルプス造山運動」に伴う、新生代の堆積物(Mesozoic-Cenozoic sediments)
(5) 左側(北側)のベージュ色;
「ヨーロッパ大陸ブロック」の地殻(” crust”)
(6) 薄いオレンジ色、濃いオレンジ色;「オーストロアルパイン系地質グループ」
(古生代〜中生代の堆積岩、+地殻(基盤岩体)の一部)
(7) 右側(南側)の表層近くの薄い黄色;「サウスアルパイン系地質グループ」
(8) 右側(南側)の、薄いベージュ色;
「アドリア大陸ブロック」の上部地殻(”upper crust”)
(9) 朱色の塊状のもの(局所的);貫入岩体
(新生代の深成岩;”Cenozoic intrusive/pluton”)
(10) 全域の下層にあるミントグリーン色;
「リソスフェアマントル」(”lithospheric mantle”)
なお、左手(北側)は「ヨーロッパ大陸ブロック側」、
右手(南側)は「アドリア大陸ブロック」側
(11) 地下深くに描かれている、点々模様部分;マグマ(メルト;”melt”)
まずこの図1で目立つのは、紫色、うす紫色、濃い緑色で示される「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が、図の中央部の地下深くに横たわっている点です。
これは、前の第2部の「アルプス地域」の地史で説明したように、「白亜紀」後期から「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が、南側の「アドリア大陸ブロック」の下へと沈み込んでいっていたことによるものです。これら「ペニン系地質グループ」は、小さいブロックに分かれながら、最大で地下70km以上の深さまで沈み込んでいたと推定されています(注4)。
これは「ペニン系地質グループ」に属する地質体が、「エクロジャイト相」(eclogite facies)に至るような「高度な変成作用」(注5)を受けていることから、推定されているものです(文献1−2)。
この「始新世」の時代には、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」は地下深くに位置していますが、「白亜紀」から開始された「アドリア大陸ブロック」の下への「ペニン系地質グループ」の沈み込みは、「始新世」(の後期?)まで続いて、その後、沈み込みは終わり、逆に急速に上昇に転じた、と推定されています。
上記の「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の構造的上位には、黄色、薄いオレンジ色で表示されている「オーストロアルパイン系地質グループ」が乗っかっています。
「オーストロアルパイン系地質グループ」は元々、「アドリア大陸ブロック」のマージン部で形成された、古生代〜中生代の堆積岩類からなる地質体で、その下位には元々、上部地殻の一部である基盤岩体がありますが、この推定断面図によると、この40Ma(「始新世」後期)の時代には既に、「オーストロアルパイン系地質グループ」は、ナップ群として北側へと移動して、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の上に、のし上がっていたと推定されています。
「オーストロアルパイン系地質グループ」と、その南側(図の右側)との間には垂直方向の線が描かれていますが(図では「PAF]と注記)、これは「ペリ・アドリアティック断層系」(peri-Adriatic fault system)(文献5)の一部である、現世の「インスブルック断層」(Innsbruck fault;原図では“IF”と記載)を示しています。
この断層系は地質境界線ともなっており、これより南側は、「オーストロアルパイン系地質グループ」とともに、中生代までは「アドリア大陸ブロック」のマージン部で形成された、「サウスアルパイン系地質グループ」があります。(この図1では明確に描かれていません)。
一方、「ヨーロッパ大陸ブロック」側の地表に近い部分も、この図1では明確に描かれていませんが、「ヘルベチカ系地質グループ」があったと推定されます。
詳細説明の前に、この章の各図(原著の図6-12)では各「地質グループ」(注2)、地質体が色分けされていますので、その説明をしておきます。
[図1〜3の凡例(詳細版)]
(1) 紫色、うす紫色;「ペニン系地質グループ(1)」
(堆積岩由来の変成岩、上部地殻)由来の基盤岩体; “upper crust”)(注3)
(2) 濃い緑色;「ペニン系地質グループ(2)」
(主に海洋プレートの海洋地殻(“ocean crust”)由来の地質体、
一部はオフィオライト岩体;”ophiolite”)(注3)
(3) 左側(北側)の黄緑色;「ヘルベチカ系地質グループ」
(中生代の堆積岩と基盤岩体)
(4) 左手(北側)の水色;
「ヘルベチカ系地質グループ」の続きとなる、中生代堆積物と、
「アルプス造山運動」に伴う、新生代の堆積物(Mesozoic-Cenozoic sediments)
(5) 左側(北側)のベージュ色;
「ヨーロッパ大陸ブロック」の地殻(” crust”)
(6) 薄いオレンジ色、濃いオレンジ色;「オーストロアルパイン系地質グループ」
(古生代〜中生代の堆積岩、+地殻(基盤岩体)の一部)
(7) 右側(南側)の表層近くの薄い黄色;「サウスアルパイン系地質グループ」
(8) 右側(南側)の、薄いベージュ色;
「アドリア大陸ブロック」の上部地殻(”upper crust”)
(9) 朱色の塊状のもの(局所的);貫入岩体
(新生代の深成岩;”Cenozoic intrusive/pluton”)
(10) 全域の下層にあるミントグリーン色;
「リソスフェアマントル」(”lithospheric mantle”)
なお、左手(北側)は「ヨーロッパ大陸ブロック側」、
右手(南側)は「アドリア大陸ブロック」側
(11) 地下深くに描かれている、点々模様部分;マグマ(メルト;”melt”)
まずこの図1で目立つのは、紫色、うす紫色、濃い緑色で示される「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が、図の中央部の地下深くに横たわっている点です。
これは、前の第2部の「アルプス地域」の地史で説明したように、「白亜紀」後期から「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が、南側の「アドリア大陸ブロック」の下へと沈み込んでいっていたことによるものです。これら「ペニン系地質グループ」は、小さいブロックに分かれながら、最大で地下70km以上の深さまで沈み込んでいたと推定されています(注4)。
これは「ペニン系地質グループ」に属する地質体が、「エクロジャイト相」(eclogite facies)に至るような「高度な変成作用」(注5)を受けていることから、推定されているものです(文献1−2)。
この「始新世」の時代には、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」は地下深くに位置していますが、「白亜紀」から開始された「アドリア大陸ブロック」の下への「ペニン系地質グループ」の沈み込みは、「始新世」(の後期?)まで続いて、その後、沈み込みは終わり、逆に急速に上昇に転じた、と推定されています。
上記の「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の構造的上位には、黄色、薄いオレンジ色で表示されている「オーストロアルパイン系地質グループ」が乗っかっています。
「オーストロアルパイン系地質グループ」は元々、「アドリア大陸ブロック」のマージン部で形成された、古生代〜中生代の堆積岩類からなる地質体で、その下位には元々、上部地殻の一部である基盤岩体がありますが、この推定断面図によると、この40Ma(「始新世」後期)の時代には既に、「オーストロアルパイン系地質グループ」は、ナップ群として北側へと移動して、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の上に、のし上がっていたと推定されています。
「オーストロアルパイン系地質グループ」と、その南側(図の右側)との間には垂直方向の線が描かれていますが(図では「PAF]と注記)、これは「ペリ・アドリアティック断層系」(peri-Adriatic fault system)(文献5)の一部である、現世の「インスブルック断層」(Innsbruck fault;原図では“IF”と記載)を示しています。
この断層系は地質境界線ともなっており、これより南側は、「オーストロアルパイン系地質グループ」とともに、中生代までは「アドリア大陸ブロック」のマージン部で形成された、「サウスアルパイン系地質グループ」があります。(この図1では明確に描かれていません)。
一方、「ヨーロッパ大陸ブロック」側の地表に近い部分も、この図1では明確に描かれていませんが、「ヘルベチカ系地質グループ」があったと推定されます。
3−3章―(2)節 古第三紀「漸新世」(32Ma)における「アルプス地域」の推定断面構造
図2に、古第三紀「漸新世」(32Ma)における、「アルプス地域」の推定断面構造を示します。この図も(文献1―1)の、図6−12からの引用です。
図2と、「始新世」(40Ma)の図1とを比べて見ると、まず、紫色、うす紫色、濃い緑色で示される「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が団子状のかたまりとなって、かなり地表近くまで上昇してきていることが解ります。
これは、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の変成プロセスの検討(文献1−2)から推定されるものです。
左側(北側)の「ヨーロッパ大陸ブロック」と、右側(南側)の「アドリア大陸ブロック」との衝突によって、絞り出されるようにして、いったんは地下深部まで沈み込んでいた「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が地表近くまで上昇してきていることになります。
またこの上昇過程で、褶曲構造など大きな変形を被りながら上昇してきたと推定されており、それは現在 地表付近で見られる変形構造(逆褶曲構造、逆スラスト構造、横臥褶曲構造など)(注6)によって推測されています。
「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の構造的上位には、図1(40Ma)と同じく、黄色、薄いオレンジ色で示される「オーストロアルパイン地質グループ」が乗っかっています。図では細かすぎて解りにくいですが、隆起して山地になっていることが図示されています。
(文献1−1)の本文によると、「ペリ・アドリアティック断層系」より北側では衝突により隆起が進み、また複雑な褶曲構造も発達しました。
「オーストロアルパイン地質グループ」の南側には、図1(40Ma)の時代と同様、「ペリ・アドリアティック断層系」があり(図2では「PAF」と注記)、この図の時代(32Ma)では、水平方向には右横ずれ断層として活動していたことが示されています。また(文献1−1)の本文によると、逆スラスト断層(注6)としての活動センスも持っていたと推定されています。
また、「ペリ・アドリアティック断層系」の地下 約10〜30km付近に、朱色の塊が描かれていますが、これは、マグマ由来の貫入岩体(「ブレ―ガリア」貫入岩体;the Bregaglia pluton/intrusion)を示しています。
新生代の「アルプス造山運動」の全期間を通じて、火成活動は活発ではありませんでしたが、約30Ma前後に、マグマ由来の貫入岩体(岩質は花崗岩類の一種であるトーナル岩(tonalite))(注7)が形成されたことが解っており、この図ではそれを示しています。
なお、この30Ma前後の時代における、一過性の火成活動発生の原因については諸説あります。ここでは説明を略しますが、(注8)に少し補足説明しました。
またこの図では解りにくく、(文献1−1)の本文にも詳しい説明はありませんが、この貫入岩体のさらに地下深部には(“melt”)(メルト)と表記された、リソスフェアマントルの部分溶融ゾーン(=マグマ源)が、地下深部(50km以下)に描かれています。ただし、この時代に衝突ゾーンの地下深部で、どういうメカニズムでマグマが形成されたのかは不明です。
図の左側(北側)の「ヨーロッパ大陸ブロック」側の地表付近には、黄緑色の「ヘルベチカ系地質グループ」が描かれています。南下がりの傾斜で横たわっています。この時代より、「ヘルベチカ系地質グループ」は、その下位に位置していた「ヨーロッパ大陸ブロック」の地殻部分(基盤岩体;ベージュ色部分)とは分離し、基盤岩体は斜め下へとさらに沈み込んだと推定されています。
また「ヘルベチカ系地質グループ」は、この時代、スラスト断層群(図では赤い線で示されている)が形成され、切り刻まれたと推定されています。
図の右側(南側)は、図1(40Ma)と同様に、「ペリ・アドリアティック断層系」によってデカップリングされた形で、「サウスアルパイン系地質グループ」があります。この一帯は地殻変動という点ではかなり平穏で、その上には「ポー盆地」に相当する海洋域(図では薄い水色で示されている)があったと推定されています。
図2と、「始新世」(40Ma)の図1とを比べて見ると、まず、紫色、うす紫色、濃い緑色で示される「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が団子状のかたまりとなって、かなり地表近くまで上昇してきていることが解ります。
これは、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の変成プロセスの検討(文献1−2)から推定されるものです。
左側(北側)の「ヨーロッパ大陸ブロック」と、右側(南側)の「アドリア大陸ブロック」との衝突によって、絞り出されるようにして、いったんは地下深部まで沈み込んでいた「ペニン系地質グループ(1)、(2)」が地表近くまで上昇してきていることになります。
またこの上昇過程で、褶曲構造など大きな変形を被りながら上昇してきたと推定されており、それは現在 地表付近で見られる変形構造(逆褶曲構造、逆スラスト構造、横臥褶曲構造など)(注6)によって推測されています。
「ペニン系地質グループ(1)、(2)」の構造的上位には、図1(40Ma)と同じく、黄色、薄いオレンジ色で示される「オーストロアルパイン地質グループ」が乗っかっています。図では細かすぎて解りにくいですが、隆起して山地になっていることが図示されています。
(文献1−1)の本文によると、「ペリ・アドリアティック断層系」より北側では衝突により隆起が進み、また複雑な褶曲構造も発達しました。
「オーストロアルパイン地質グループ」の南側には、図1(40Ma)の時代と同様、「ペリ・アドリアティック断層系」があり(図2では「PAF」と注記)、この図の時代(32Ma)では、水平方向には右横ずれ断層として活動していたことが示されています。また(文献1−1)の本文によると、逆スラスト断層(注6)としての活動センスも持っていたと推定されています。
また、「ペリ・アドリアティック断層系」の地下 約10〜30km付近に、朱色の塊が描かれていますが、これは、マグマ由来の貫入岩体(「ブレ―ガリア」貫入岩体;the Bregaglia pluton/intrusion)を示しています。
新生代の「アルプス造山運動」の全期間を通じて、火成活動は活発ではありませんでしたが、約30Ma前後に、マグマ由来の貫入岩体(岩質は花崗岩類の一種であるトーナル岩(tonalite))(注7)が形成されたことが解っており、この図ではそれを示しています。
なお、この30Ma前後の時代における、一過性の火成活動発生の原因については諸説あります。ここでは説明を略しますが、(注8)に少し補足説明しました。
またこの図では解りにくく、(文献1−1)の本文にも詳しい説明はありませんが、この貫入岩体のさらに地下深部には(“melt”)(メルト)と表記された、リソスフェアマントルの部分溶融ゾーン(=マグマ源)が、地下深部(50km以下)に描かれています。ただし、この時代に衝突ゾーンの地下深部で、どういうメカニズムでマグマが形成されたのかは不明です。
図の左側(北側)の「ヨーロッパ大陸ブロック」側の地表付近には、黄緑色の「ヘルベチカ系地質グループ」が描かれています。南下がりの傾斜で横たわっています。この時代より、「ヘルベチカ系地質グループ」は、その下位に位置していた「ヨーロッパ大陸ブロック」の地殻部分(基盤岩体;ベージュ色部分)とは分離し、基盤岩体は斜め下へとさらに沈み込んだと推定されています。
また「ヘルベチカ系地質グループ」は、この時代、スラスト断層群(図では赤い線で示されている)が形成され、切り刻まれたと推定されています。
図の右側(南側)は、図1(40Ma)と同様に、「ペリ・アドリアティック断層系」によってデカップリングされた形で、「サウスアルパイン系地質グループ」があります。この一帯は地殻変動という点ではかなり平穏で、その上には「ポー盆地」に相当する海洋域(図では薄い水色で示されている)があったと推定されています。
3−3章―(3)節 新第三紀「中新世」(19Ma)における「アルプス地域」の推定断面構造
図3に、新第三紀「中新世」(19Ma)における、「アルプス地域」の推定断面構造を示します。この図も(文献1―1)の、図6−12からの引用です。
図3と、図2(32Ma)を比べて見ると、各「地質グループ」の大まかな配置などは、さほど変化はありませんが、細かい点では変化が認められます。
まず、地下深部から徐々に上昇してきた、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」(うす紫色、紫色、濃い緑色)は、深度で0〜30kmあたりにあり、一部が地表に顔をだすまでになっています。
その上に乗っかっている「オーストロアルパイン系地質グループ」(薄いオレンジ色、濃いオレンジ色)は、当時の「ヨーロッパアルプス」の最上位に位置していた為、浸食によってその厚みはだいぶん薄くなってきているのがわかります。
図2の時代(32Ma)に地下深部で形成され上昇してきた、トーナル岩(tonalite)(注7)からなる「ブレーガリア」貫入岩体(Bregaglia pluton/intrusive)(朱色の塊)は、この時代までには地表まで達していたと推定されています。一方でその下に続いていたマグマ由来の「根っこ」部分は既になくなっており、マグマ活動が一時的なもの(約35〜30Ma)だったことを示しています。
図の左側(北側)は、黄緑色の「ヘルベチカ系地質グループ」と、その下位に基盤岩体(「アール地塊」(“Aar” と記されている)、「ゴッタルト地塊」(“Go”と記されている)など、濃い茶色のブロック)が描かれています。これらは古い由来を持つ基盤岩体ですが、いったんは地下深部まで引きずり込まれた後、この図3の頃、つまり「中新世」以降は、ブロック化しつつ独立した動きを始め、逆に上昇することになりました。
(文献1−1)の本文によると、その上に「ヘルベチカ系地質グループ」を載せた状態で、ドーム状の隆起ゾーンとなりました。「ヘルベチカ系地質グループ」も、その影響で、この時代以降は、上昇に転じることになります。
図の右側(南側)、「ペリ・アドリアティック断層系」(図3では「PAF」と注記)(文献5)より南側は、「サウスアルパイン系地質グループ」の占めるゾーンです。
この図でははっきりしませんが、(文献1−1)の本文によると、「サウスアルパイン系地質グループ」もこの時代ころから「アルプス造山運動」の影響を受け始め、「ペリ・アドリアティック断層系」の近くでは、スラスト断層群の活動を伴う地質体の変形がはじまったと推定されています。
なお、この図には描かれていませんが、(文献1−1)の本文によると、「ペリ・アドリアティック断層系」のすぐ南側では、「下部地殻」が露出している「イブレア・ゾーン」(Ivrea zone)とよばれる場所、およびその下位の、「イブレア・ボディ」(Ivrea body)と呼ばれるリソスフェアマントルの断片も、ブロック化しつつ上昇し始めました(注9)。
なお(文献1−1)の図6−12には、ここで説明した3つの推定地質断面図以外に、「中部アルプス・東部」における35Maの推定地質断面図、現在(present-day)の推定地質断面図が示されています。
また(文献1−1)の図6−17には、「中部アルプス・西部」(the Central Alps in western Switzerland)における、各時代の推定地質断面図も示されていますが、説明内容が煩雑となるので、説明は略します。
図3と、図2(32Ma)を比べて見ると、各「地質グループ」の大まかな配置などは、さほど変化はありませんが、細かい点では変化が認められます。
まず、地下深部から徐々に上昇してきた、「ペニン系地質グループ(1)、(2)」(うす紫色、紫色、濃い緑色)は、深度で0〜30kmあたりにあり、一部が地表に顔をだすまでになっています。
その上に乗っかっている「オーストロアルパイン系地質グループ」(薄いオレンジ色、濃いオレンジ色)は、当時の「ヨーロッパアルプス」の最上位に位置していた為、浸食によってその厚みはだいぶん薄くなってきているのがわかります。
図2の時代(32Ma)に地下深部で形成され上昇してきた、トーナル岩(tonalite)(注7)からなる「ブレーガリア」貫入岩体(Bregaglia pluton/intrusive)(朱色の塊)は、この時代までには地表まで達していたと推定されています。一方でその下に続いていたマグマ由来の「根っこ」部分は既になくなっており、マグマ活動が一時的なもの(約35〜30Ma)だったことを示しています。
図の左側(北側)は、黄緑色の「ヘルベチカ系地質グループ」と、その下位に基盤岩体(「アール地塊」(“Aar” と記されている)、「ゴッタルト地塊」(“Go”と記されている)など、濃い茶色のブロック)が描かれています。これらは古い由来を持つ基盤岩体ですが、いったんは地下深部まで引きずり込まれた後、この図3の頃、つまり「中新世」以降は、ブロック化しつつ独立した動きを始め、逆に上昇することになりました。
(文献1−1)の本文によると、その上に「ヘルベチカ系地質グループ」を載せた状態で、ドーム状の隆起ゾーンとなりました。「ヘルベチカ系地質グループ」も、その影響で、この時代以降は、上昇に転じることになります。
図の右側(南側)、「ペリ・アドリアティック断層系」(図3では「PAF」と注記)(文献5)より南側は、「サウスアルパイン系地質グループ」の占めるゾーンです。
この図でははっきりしませんが、(文献1−1)の本文によると、「サウスアルパイン系地質グループ」もこの時代ころから「アルプス造山運動」の影響を受け始め、「ペリ・アドリアティック断層系」の近くでは、スラスト断層群の活動を伴う地質体の変形がはじまったと推定されています。
なお、この図には描かれていませんが、(文献1−1)の本文によると、「ペリ・アドリアティック断層系」のすぐ南側では、「下部地殻」が露出している「イブレア・ゾーン」(Ivrea zone)とよばれる場所、およびその下位の、「イブレア・ボディ」(Ivrea body)と呼ばれるリソスフェアマントルの断片も、ブロック化しつつ上昇し始めました(注9)。
なお(文献1−1)の図6−12には、ここで説明した3つの推定地質断面図以外に、「中部アルプス・東部」における35Maの推定地質断面図、現在(present-day)の推定地質断面図が示されています。
また(文献1−1)の図6−17には、「中部アルプス・西部」(the Central Alps in western Switzerland)における、各時代の推定地質断面図も示されていますが、説明内容が煩雑となるので、説明は略します。
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【注釈の項】
注1 「新生代」の地質時代区分について
3−1章、3−2章の注釈の項でも説明しましたが、改めて「新生代」(Cenozoic)の
各地質時代の区分について、ここでまとめておきます。
古第三紀(Paleogene)「暁新世」(ぎょうしんせい)(Paleocene);66〜56Ma
〃 「始新世」(ししんせい)(Eocene);56〜34Ma
〃 「漸新世」(ぜんしんせい)(Oligocene);34〜23Ma
新第三紀(Neogene)「中新世」(ちゅしんせい)(Miocene);23〜5.3Ma
〃 「鮮新世」(せんしんせい)(Pliocene);5.5〜2.6Ma
第四紀(Quaternary)「更新世」(こうしんせい)(Pleistocene);258〜1.16万年前
〃 「完新世」(かんしんせい)(Holocene);11600年前〜現在
注2) 「地質グループ」という用語について
この章では、各時代の「アルプス地域」を構成していた地質体のグループとして、「〇〇地質グループ」という用語を使います。(文献1)における、“nappe system”に対応する用語として使っています。
注3) 「ペニン系地質グループ」(Penninic nappe system)の区分について
この章に添付した推定地質断面図は、(文献1−1)の図6-12からの引用ですが、そこでは「ペニン系地質グループ」を、さらに2つに区分しています。それを受けて、この章では以下のように表記します。
・「ペニン系地質グループ(1)」;中生代の堆積物由来の地質体、図では紫色系統
・「ペニン系地質グループ(2)」;ピエモンテ海の海洋地殻由来の地質体
図では、濃い緑色
また両者をまとめていう場合は便宜上、「ペニン系地質グループ(1)(2)」と
表記します。
注4) 変成岩の形成される深度(D)と、圧力(P)との関係
変成岩は基本的には、原岩が、地中の高い圧力(P)と高い温度(T)によって変成作用を受けて形成されます。
地中での圧力(P)は、静水圧的に考えると、深さ(D)と比例関係にあり、比例係数(地中の岩石の平均密度;ρ)をもとに、圧力(P)を深さ(D)に換算できます。
なので、変成岩の形成された深さ(D)の推定は、まず、その変成度合い(変成相;metamorphic facies)から圧力(P)を推定し、深さ(D)に換算するのが一般的です(文献7)。この章での深さ(D)は、そのようにして求められたと思われる値です。
一方で近年では、沈み込み帯(subduction channel)では、静水圧条件(lithostatic pressure)ではなく、沈み込みに伴う動的な圧力(dynamic pressure)も考慮する必要がある、とも言われており、その過剰分の圧力(P’)(tectonic over pressure)を考慮する場合、換算される深さも、修正深さ(D‘)に修正する必要がでてきます(文献1−2)。
そういうこともあり、沈み込み帯での実際の地質体の深さ(D)の推定には、あいまいさが生じます。この章ではそのあたりはややこしいので、省いて説明しています。
注5) 「高度な変成作用」について
変成岩は、原岩が、地中の高い圧力(P)と高い温度(T)によって変成作用を受けて形成されるため、変成岩の分類、開析用に、P-T図というものが良く利用されます。P-T図では(注3)にも書いたように、「変成相」(metamorphic facies)と呼ばれる、いくつかのグループに区分して開析のベースとします(文献7)。
「変成相」の詳細は略しますが、かなり高い圧力(P)、高い温度(T)条件化での「変成相」を示す変成岩を、一般的に「高度な変成作用を受けた変成岩」、「高度変成岩」などと呼びます。「高度」と呼ぶ明解な基準はありませんが、一般には「エクロジャイト相」(eclogite facies)(高圧〜超高圧、中〜高温)、「グラニュライト相」(granulite facies)(高温〜超高温、低〜中圧)、が挙げられます。「角閃岩相」(amphibolite facies)や「青色片岩相」(blue schist facies)も含めることもあります(文献7)。
(文献1)によると、「ヨーロッパアルプス」のうち、「ペニン系地質グループ」に属する地質体に、「エクロジャイト相」や「青色片岩相」の変成岩が見つかっており、「高度な変成作用」を受けた、と言えます。なお変成岩、変成作用については、別の章で改めて取り上げます。
注6) 各種変形構造について
本文では、解りにくい変形構造用語がでてきますが(文献11)を元に簡単に説明します。
・「逆褶曲構造」(back-folding, back-fold, backward-folding));ある造山帯を考えたとき、その中軸側へと褶曲軸が倒れこんだような褶曲構造。単に「バック・フォールディング」ともいう。
・「逆スラスト(断層)」(back thrust);ある造山帯を考えたとき、その中軸部から外側へと斜め上向きの走向を持つものを、通常のスラスト(断層)とし、その逆の、外側から中軸部へと向けて上向きの走向をもつものを、「逆スラスト(断層)」、あるいは単に「バックスラスト」という。
・「横臥(おうが)褶曲構造」(recumbent fold);褶曲構造のうち、褶曲の軸が、ほぼ横倒しになっているもの。
注7) 「トーナル岩」(tonalite)について
(文献8)や(文献9)によると、「トーナル岩」とは、珪長質な(felsic)深成岩の一種で、平たく言えば「花崗岩」の仲間です。花崗岩や花崗閃緑岩には含まれている鉱物;「カリ長石」は(ほとんど)含まず、かつ 有色鉱物は、「黒雲母」の代わりに「角閃石」が多い、と説明されています(見た目は花崗岩と似ています)。
なお「トーナル岩」(tonalite)という名前は、「ヨーロッパアルプス」のなかにある、(the Tonale Pass)という峠の地名に由来するそうです(文献9)。
また日本では、丹沢山地に分布している「トーナル岩体」がよく知られています。
注8) 「漸新世」における「アルプス地域」の火成活動
本文にも述べましたが、新生代の「アルプス造山運動」においては、火成活動(火山活動、深成岩体形成)は非常に限定的です。
その中で、「漸新世」のうち、30Ma前後には、「ペリ・アドリアティック断層系」に沿っての貫入岩体の形成や、その周辺でのマグマ由来の岩脈形成が生じています。
この一時的な火成活動の原因は定かではなく、(文献1)にも明確には書いてありません。
最近の論文では、新生代の「アルプス造山運動」の最中に、沈み込んでいたプレート(=スラブ)が地下深くで破断した可能性が議論されており、上記の火成活動も、その影響ではないか、という仮説もあります。
注9) 「イブレア・ゾーン」(Ivrea zone)、「イブレア・ボディ」(Ivrea body)について
「ヨーロッパアルプス」うち、イタリア北西部にある地域が地質学に呼ぶ「イブレア・ゾーン」で、リソスフェアマントルや、下部地殻が地表付近まで上がってきている特殊な場所です。地下にあるリソスフェアマントルの断片と推定されている地質体が「イブレア・ボディ」です。 詳細は、(文献10)をご参照ください。
注10) ”Ma” は、百万年前を意味する単位です
3−1章、3−2章の注釈の項でも説明しましたが、改めて「新生代」(Cenozoic)の
各地質時代の区分について、ここでまとめておきます。
古第三紀(Paleogene)「暁新世」(ぎょうしんせい)(Paleocene);66〜56Ma
〃 「始新世」(ししんせい)(Eocene);56〜34Ma
〃 「漸新世」(ぜんしんせい)(Oligocene);34〜23Ma
新第三紀(Neogene)「中新世」(ちゅしんせい)(Miocene);23〜5.3Ma
〃 「鮮新世」(せんしんせい)(Pliocene);5.5〜2.6Ma
第四紀(Quaternary)「更新世」(こうしんせい)(Pleistocene);258〜1.16万年前
〃 「完新世」(かんしんせい)(Holocene);11600年前〜現在
注2) 「地質グループ」という用語について
この章では、各時代の「アルプス地域」を構成していた地質体のグループとして、「〇〇地質グループ」という用語を使います。(文献1)における、“nappe system”に対応する用語として使っています。
注3) 「ペニン系地質グループ」(Penninic nappe system)の区分について
この章に添付した推定地質断面図は、(文献1−1)の図6-12からの引用ですが、そこでは「ペニン系地質グループ」を、さらに2つに区分しています。それを受けて、この章では以下のように表記します。
・「ペニン系地質グループ(1)」;中生代の堆積物由来の地質体、図では紫色系統
・「ペニン系地質グループ(2)」;ピエモンテ海の海洋地殻由来の地質体
図では、濃い緑色
また両者をまとめていう場合は便宜上、「ペニン系地質グループ(1)(2)」と
表記します。
注4) 変成岩の形成される深度(D)と、圧力(P)との関係
変成岩は基本的には、原岩が、地中の高い圧力(P)と高い温度(T)によって変成作用を受けて形成されます。
地中での圧力(P)は、静水圧的に考えると、深さ(D)と比例関係にあり、比例係数(地中の岩石の平均密度;ρ)をもとに、圧力(P)を深さ(D)に換算できます。
なので、変成岩の形成された深さ(D)の推定は、まず、その変成度合い(変成相;metamorphic facies)から圧力(P)を推定し、深さ(D)に換算するのが一般的です(文献7)。この章での深さ(D)は、そのようにして求められたと思われる値です。
一方で近年では、沈み込み帯(subduction channel)では、静水圧条件(lithostatic pressure)ではなく、沈み込みに伴う動的な圧力(dynamic pressure)も考慮する必要がある、とも言われており、その過剰分の圧力(P’)(tectonic over pressure)を考慮する場合、換算される深さも、修正深さ(D‘)に修正する必要がでてきます(文献1−2)。
そういうこともあり、沈み込み帯での実際の地質体の深さ(D)の推定には、あいまいさが生じます。この章ではそのあたりはややこしいので、省いて説明しています。
注5) 「高度な変成作用」について
変成岩は、原岩が、地中の高い圧力(P)と高い温度(T)によって変成作用を受けて形成されるため、変成岩の分類、開析用に、P-T図というものが良く利用されます。P-T図では(注3)にも書いたように、「変成相」(metamorphic facies)と呼ばれる、いくつかのグループに区分して開析のベースとします(文献7)。
「変成相」の詳細は略しますが、かなり高い圧力(P)、高い温度(T)条件化での「変成相」を示す変成岩を、一般的に「高度な変成作用を受けた変成岩」、「高度変成岩」などと呼びます。「高度」と呼ぶ明解な基準はありませんが、一般には「エクロジャイト相」(eclogite facies)(高圧〜超高圧、中〜高温)、「グラニュライト相」(granulite facies)(高温〜超高温、低〜中圧)、が挙げられます。「角閃岩相」(amphibolite facies)や「青色片岩相」(blue schist facies)も含めることもあります(文献7)。
(文献1)によると、「ヨーロッパアルプス」のうち、「ペニン系地質グループ」に属する地質体に、「エクロジャイト相」や「青色片岩相」の変成岩が見つかっており、「高度な変成作用」を受けた、と言えます。なお変成岩、変成作用については、別の章で改めて取り上げます。
注6) 各種変形構造について
本文では、解りにくい変形構造用語がでてきますが(文献11)を元に簡単に説明します。
・「逆褶曲構造」(back-folding, back-fold, backward-folding));ある造山帯を考えたとき、その中軸側へと褶曲軸が倒れこんだような褶曲構造。単に「バック・フォールディング」ともいう。
・「逆スラスト(断層)」(back thrust);ある造山帯を考えたとき、その中軸部から外側へと斜め上向きの走向を持つものを、通常のスラスト(断層)とし、その逆の、外側から中軸部へと向けて上向きの走向をもつものを、「逆スラスト(断層)」、あるいは単に「バックスラスト」という。
・「横臥(おうが)褶曲構造」(recumbent fold);褶曲構造のうち、褶曲の軸が、ほぼ横倒しになっているもの。
注7) 「トーナル岩」(tonalite)について
(文献8)や(文献9)によると、「トーナル岩」とは、珪長質な(felsic)深成岩の一種で、平たく言えば「花崗岩」の仲間です。花崗岩や花崗閃緑岩には含まれている鉱物;「カリ長石」は(ほとんど)含まず、かつ 有色鉱物は、「黒雲母」の代わりに「角閃石」が多い、と説明されています(見た目は花崗岩と似ています)。
なお「トーナル岩」(tonalite)という名前は、「ヨーロッパアルプス」のなかにある、(the Tonale Pass)という峠の地名に由来するそうです(文献9)。
また日本では、丹沢山地に分布している「トーナル岩体」がよく知られています。
注8) 「漸新世」における「アルプス地域」の火成活動
本文にも述べましたが、新生代の「アルプス造山運動」においては、火成活動(火山活動、深成岩体形成)は非常に限定的です。
その中で、「漸新世」のうち、30Ma前後には、「ペリ・アドリアティック断層系」に沿っての貫入岩体の形成や、その周辺でのマグマ由来の岩脈形成が生じています。
この一時的な火成活動の原因は定かではなく、(文献1)にも明確には書いてありません。
最近の論文では、新生代の「アルプス造山運動」の最中に、沈み込んでいたプレート(=スラブ)が地下深くで破断した可能性が議論されており、上記の火成活動も、その影響ではないか、という仮説もあります。
注9) 「イブレア・ゾーン」(Ivrea zone)、「イブレア・ボディ」(Ivrea body)について
「ヨーロッパアルプス」うち、イタリア北西部にある地域が地質学に呼ぶ「イブレア・ゾーン」で、リソスフェアマントルや、下部地殻が地表付近まで上がってきている特殊な場所です。地下にあるリソスフェアマントルの断片と推定されている地質体が「イブレア・ボディ」です。 詳細は、(文献10)をご参照ください。
注10) ”Ma” は、百万年前を意味する単位です
【参考文献】
(文献1) O. A. Pfiffer 著 “Geology of the Alps”, 2nd edition ,Wiley Blackball社刊,
(2014); (原著はドイツ語版で、2014年にドイツの出版社刊)
(文献1−1) (文献1)のうち、第6−3章「新生代の造山運動」
(the Cenozoic orogeny)のうち、
図6−12「中部アルプス・東部」における推定地質断面図シリーズ
(Tectonic evolution of the central Alps of the eastern Switzerland
depicted as a series of palimpsestic cross-section )と、その説明の項
(文献1−2) (文献1)のうち、6−1章「アルプス地域の変成作用」
(Alpine Metamorphism)の項
(文献2) Schoenborn, G.,
“Alpine tectonics and kinetics models of the central Southern-Alps “
(1992) のうち、p229-393
(※ この文献は、論文ではなく書籍なので、内容は確認できてない)
(文献3) シュミッド(S. M Schmid) et al.
「アルプス-カルパチア-ディナル造山運動系:構造単位の相関と進化」
“The Alpine-Carpathian-Dinaridic orogenic system: correlation
and evolution of tectonic units”
Swiss Journal of Geosciences誌、Vol. 101, pages 139ー183, (2008)
https://link.springer.com/article/10.1007/s00015-008-1247-3
(※ このサイトから、この論文を無料で閲覧でき、PDF版のダウンロードもできる)
(文献4) ハンディ(M. R. Handy)、
「造山帯の構造と地形により、スラブの剥離、分離中の沈み込み特異点を追跡する」
“Orogenic structure and topography track subduction singularities
during slab delamination and detachment”
Scientific Reports誌、Vol. 15, article number 12091, (2025)
https://link.springer.com/article/10.1038/s41598-025-94789-2?fromPaywallRec=false
(※ このサイトから、この論文を無料で閲覧でき、PDF版のダウンロードもできる。
「アルプス地域」の多数の地質断面図、古地理図が掲載されている)
(文献5) ウイキペディア英語版の、「ペリ・アドリアティック断層系」
(Periadoriatic Seam)の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Periadriatic_Seam
(2025年8月 閲覧)
(文献6) ウイキペディア英語版の、(Geology of the Alps)の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Geology_of_the_Alps
(2025年8月 閲覧)
(文献7) 榎並 著 「現代地球科学入門シリーズ 16 岩石学」共立出版 刊(2013)
のうち、変成作用に関する、第8章〜第13章
(文献8) 西本 著 「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
のうち、「トーナル岩」の項
(文献9) ウイキペディア英語版の、(tonalite) の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Tonalite
(2025年8月 閲覧)
(文献10) ウイキペディア英語版の、(Ivrea zone)の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Ivrea_zone
(2025年8月 閲覧)
(文献11) 地質団体研究会 編 「新編・地学事典」平凡社 刊(1996)のうち、
「バックスラスト」、「バック・フォールディング」、「横臥褶曲」の各項
(2014); (原著はドイツ語版で、2014年にドイツの出版社刊)
(文献1−1) (文献1)のうち、第6−3章「新生代の造山運動」
(the Cenozoic orogeny)のうち、
図6−12「中部アルプス・東部」における推定地質断面図シリーズ
(Tectonic evolution of the central Alps of the eastern Switzerland
depicted as a series of palimpsestic cross-section )と、その説明の項
(文献1−2) (文献1)のうち、6−1章「アルプス地域の変成作用」
(Alpine Metamorphism)の項
(文献2) Schoenborn, G.,
“Alpine tectonics and kinetics models of the central Southern-Alps “
(1992) のうち、p229-393
(※ この文献は、論文ではなく書籍なので、内容は確認できてない)
(文献3) シュミッド(S. M Schmid) et al.
「アルプス-カルパチア-ディナル造山運動系:構造単位の相関と進化」
“The Alpine-Carpathian-Dinaridic orogenic system: correlation
and evolution of tectonic units”
Swiss Journal of Geosciences誌、Vol. 101, pages 139ー183, (2008)
https://link.springer.com/article/10.1007/s00015-008-1247-3
(※ このサイトから、この論文を無料で閲覧でき、PDF版のダウンロードもできる)
(文献4) ハンディ(M. R. Handy)、
「造山帯の構造と地形により、スラブの剥離、分離中の沈み込み特異点を追跡する」
“Orogenic structure and topography track subduction singularities
during slab delamination and detachment”
Scientific Reports誌、Vol. 15, article number 12091, (2025)
https://link.springer.com/article/10.1038/s41598-025-94789-2?fromPaywallRec=false
(※ このサイトから、この論文を無料で閲覧でき、PDF版のダウンロードもできる。
「アルプス地域」の多数の地質断面図、古地理図が掲載されている)
(文献5) ウイキペディア英語版の、「ペリ・アドリアティック断層系」
(Periadoriatic Seam)の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Periadriatic_Seam
(2025年8月 閲覧)
(文献6) ウイキペディア英語版の、(Geology of the Alps)の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Geology_of_the_Alps
(2025年8月 閲覧)
(文献7) 榎並 著 「現代地球科学入門シリーズ 16 岩石学」共立出版 刊(2013)
のうち、変成作用に関する、第8章〜第13章
(文献8) 西本 著 「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
のうち、「トーナル岩」の項
(文献9) ウイキペディア英語版の、(tonalite) の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Tonalite
(2025年8月 閲覧)
(文献10) ウイキペディア英語版の、(Ivrea zone)の項
https://en.wikipedia.org/wiki/Ivrea_zone
(2025年8月 閲覧)
(文献11) 地質団体研究会 編 「新編・地学事典」平凡社 刊(1996)のうち、
「バックスラスト」、「バック・フォールディング」、「横臥褶曲」の各項
【書記事項】
初版リリース;2025年8月1日
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