雪のゼメリング鉄道 世界遺産を訪ねて
- GPS
- 02:22
- 距離
- 7.7km
- 登り
- 159m
- 下り
- 209m
コースタイム
- 山行
- 2:22
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 2:22
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2018年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
危険箇所なし。コース上には多数の標識あり |
写真
感想
なぜヤマレコに鉄道と怪訝に思われる方も多いことと思う。まず、この鉄道から説明しよう。ゼメリング鉄道とはゼメリング峠を中心にグログニッツからミルツツーシュタークに至る山岳鉄道であるが、ウィーンからイタリア、スロヴェニアといった地中海方面に南下するにはこの鉄道を通過して、交通の要衝である古都グラーツに向かうことになる。この鉄道は1848年から6年という異例の短期間で建設され、初めてアルプス越えを可能ならしめた鉄道であると同時に国際標準企画のゲージを用いた最初の山岳鉄道であった。勿論、鉄道到達地点は標高848mと当時としては最も高い。鉄道全体か世界遺産に認定されているのだが、とても魅力的なのは非常に美しい数々の高架橋である。
このゼメリング鉄道に沿ってBahnwanderweg(直訳すれば鉄道散策路)が設けられており、約10kmの行程である。ほとんどが山道のようであり、高低差も少ないとは言い難い。積雪した散策路は観光客を遠ざけるであろうが、冬場の積雪後故の美しい冬景色を期待して、ここを訪れる物好きもいるものである。
ウィーンからrailjetでおよそ一時間20分、ゼメリングに到着。かなりの乗客がここで降りるが、おしなべてみなスキー、スノボーを楽しむべくゼメリングスキー場に来られた人々である。すでに標高は1000mに近い。駅の上には大きなスキー場が広がっている。日本を離れる前の予報ではそれまでの数日は雪の予報であったが、我々が出かけた日は朝から快晴であった。気温はおよそ氷点下10度前後。ただし風がほとんどなく、内陸気候により湿度が低いためか、それほど寒くは感じない。
鉄道散策路はまず線路脇をゆく。トンネルの手前で線路の下を潜ると早速にも完全な山道となり、樅の林の中をゆく。日本で針葉樹といえば杉、檜であるが、こちらでは樅、トウヒであり、木立の印象が異なる。林をしばらく歩いたかと思うと間もなく隣駅Wolfsbergkogelに着く手前に樹間から展望を望む。
駅からはDoppelreiterkogelの展望台に進む。細い山道となる。kogelはオーストリア地方で、ピークに付けられることの多い名詞であり、日本語の山や峰に相当すると思われる。このDoppelreiterkogelは山というより、谷に向かって突き出たコルの頭である。針葉樹の樹林の中ではあるが、展望台が設けられており、展望台からは谷を挟んで対峙する大きな岩肌に鉄道の通るトンネルが見える。よくもこのようなところに鉄道を通したものだと思うが、それは歴史的・地理的な背景による必然性あってのことであろう。
少し先に進むと地図に20 schilling blickとあるので、何かと思ったら、昔の20シリング紙幣の裏側に用いられたのがこのポイントからの展望であったとのこと。展望台に上がると渓谷の彼方に先程のDoppelreiterkogelを上回る大絶景。渓谷の彼方な冠雪した真っ白な高山を望む景色だけで充分な風景であるのだが、この風景を際立たせているのはなんといっても、山肌に刻みこまれた線路、そしてKarte-Rinneの優美な二重アーチを有する高架橋とそのすぐ右手にもう一つの高架橋が正面に望む。ゼメリング鉄道を設計したカール・リッター・フォン・ゲーガは風景と調和するということを趣旨というが、まさに天然の渓谷をキャンバスとして描かれた芸術作品であり、設計者の構想の偉大さに心打たれる。
散策路は線路のすぐ上をゆく。樹林のすぐ向こうを特急列車が轟音をたてて通過していく。林道に入り、斜面を下っていくと、それまでは山影に隠れて見えなかったの高いアーチを有するKrausel-Krause高架橋が忽然と姿を顕す。あまりのアーチの壮麗さにしばし言葉を忘れて佇む。
高架橋の下をくぐり、トレースなついた細い山道を登っていくと今度は高架橋を上から見下ろすことになる。高架橋を見下ろす展望台を後にするが、遠くから鉄道が近づいてくる音を耳にする。来た!しまった!急げ!慌てて降りてきた斜面を駆け上がる。
見方によっては巨大なジオラマのようにも思われる。ジオラマと大きく異なるのは、山あいに響きわたる大音響である。気動車のエンジン音、いわゆるガタンゴトンという線路の継ぎ目の音に加えて、連続する急カーブのためキィーン、キューンという車輪とレールの摩擦による囂しい金属音が狭い谷間に反響する様は交響曲の様でもあり、遠くからクレシェンドしながら音響が盛り上がっていく、その大迫力は想像をはるかに上回る。
ここからは線路のすぐ脇の急な斜面を小さなアップダウンを繰り返しながらトラバースしてゆく。伐採されているために眺望に始終、恵まれ、この散策路のコースのうち、最も山岳的な箇所と思われる。異国の地であり、山座の同定は出来ないが、正面には白く冠雪して山々、谷を挟んだ対岸にゼメリング鉄道を望む。オーストリア・アルプスの東端に属する山々らしく、峻険な山容を誇る。とあるブログにおいては、WolfsbergkogelからBreitensteinのルートの多くが山道であり、眺望が少ないと書かれていたが、確かにそのように表現は正しい。ただ短い区間であれ、そこで得られる眺望の素晴らしさはそれ以外の行程の光景を補って余りあるものではなかろうか。
やがて道は鉄道から離れ、樹林の中を登った後、林道に入ると斜面の間のためか急に雪が深くなる。降り積もっ針葉樹の雪ぎ絶え間なくかぜにに舞う。再び狭い山道となり、樹林を下るといよいよKarte-Rinneの二重アーチ高架橋の優美な容姿が目に飛び込んでくる。20 schilling blick以来、である。右手にはもう一つ高架橋がみえる。まさにこのコースのクライマックスた。
体感温度は低くないものの、絶対温度は非常に低いのだろう。愚かにもカイロを用意し損ねて、まだまだあると思っていたスマホのバッテリーがここで急墜。GPSのログもここで終わるが、鉄道散策路の山道もここでほとんど終了であり、あとは谷間の舗装路を下って、谷から駅まで登り返すと15分程で駅に着く。Breitensteinから乗り込んだのは我々の他にもう一人のみであり、4両の車両を繋いだ各駅列車の車内は他には人影が見当たらない。
BreitensteinからSemmelingの区間は、帰路も含めて、この日、計3回に亘り通過することとなった。谷川の窓際に席し、注意深く車窓から観察すると、これらの鉄道橋の上を通過していくことを垣間見ることか可能ではある。しかし、車窓から目にすることが出来る光景の矮小さに却って驚きを感じるのだった。
この鉄道がいかに深い谷間に建設され、いかなるスケールと美を誇るのかを体感するには訪れる他はないのだろう。そして、困難を克服するため人間の不屈の努力、自然との調和を指向した高邁な思想の痕跡を再認識するためにも。
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