ついに登った野岳イレブン!夢の入口へ(5.11a/OS)
過去天気図(気象庁) | 2018年09月の天気図 |
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写真
感想
僕は今、軽い疲労感と充足感に包まれ、酒を片手にニヤつきながらキーボードを叩いている。なので、いつも以上に説明的でくどくオタクで過去最長の文である事を予め謝っておくよ〜。クライミングに興味のない人にはほんとドーデモ良い内容なんだけど、それでも書きたいから書く。
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旅好きがその流れで山歩きも始め、岩稜歩きが楽しくなって、クライミングがコアな趣味になってしまった僕。ロープを使用し、ハーネスやクイックドロー(通称ヌンチャク:2本のカラビナを短いスリングで繋いだもの)などで安全確保しながら登る「リードクライミング(以下、リード)」を始めたのは、昨年の6月だった。ほっしーさんに誘われたのがきっかけで「竜岩自然の家」にある7mの人工壁を登ったのだった。
ほどなく外岩にも興味を持ち始めた頃、タイミング良く山友のミスチルに「西田クライミング教室(NCS)」のお誘いを受けたのが丁度一年前のこと。当時、金泉寺山小屋の管理人をしていた西田さんが、長崎県大村市の助成事業として安全登山の啓蒙事業の一環としてクライミング教室を開いたので、興味あれば来ない?と。
その主な活動エリアは多良山系の野岳だ。
野岳は「日本100岩場」にも掲載されている、96年に開拓された九州では人気のフリークライミングエリア。その開拓メンバーでもあった西田さんは、九州フリークライミング黎明の歴史を知る一人であり、龍頭泉(これまた九州では知られたエリア)の開拓者の一人だ(ちなみに「日本100岩場」の旧版には西田さんが龍頭泉を登る姿が写真入りで紹介されている)。
さて、野岳は96年に東秀磯さんが最初のルートを開拓した。
それは「東ルート」と呼ばれている。ところでルートとは岩壁を登るラインの事で、そのルートを道具に頼らず手足のみで登る(これをフリークライミングって言うのね)為に、蔦や苔などを除いたり安全性を確保するボルトの設置などを行う事を開拓と呼ぶ。それは大村山岳会の依頼によるものだったのだけど、その時の事を彼はこう語っている。
「名前は私が付けたのではない。ルートは公共性を伴うもので名称に個人名はつけないという不文律があるのだが、私がルート名をつけずに去ったため(注:ルート名は通常、開拓者が命名する。なので、中には?や!やWなルート名がある)、後に他人が便宜上そう呼んだのである。(中略)数年後に再来してみると数十人のクライマーが登っていた。岩場も見違えるほどきれいになっていて、九州を代表する岩場のひとつに数えられるらしい。今から思えば、最初の一本を作らせて頂いたのは天佑としか思えない」(R&S67号)
ちなみに「東ルート」の開拓者、東秀磯さんはクライマーなら知らない人はいない。日本を代表するルートセッターであり、クライミングを科学的に解説した『スポーツクライミング教本』の著者だ。
さてこの「東ルート」は野岳の正面壁にある。
正面壁は、真横を通る道路から真っ先に見えるそそり立つ岩壁で、難易度も高いルートが揃っている(最高難度5.13a)。言ってみれば野岳の看板だ。この壁の前に立ち挑む事は、衆目にさらされる事でもありヘタな登りは出来ない…つまり「資格」がいる、と言える。ところで、飲みつつ書いているので話が横道に逸れてもいいかな。え?もう十分それてる…ですね。
リードではルートの難易度(グレードという)は、米式の「ヨセミテ・デシマル・システム」で表す。これはフリークライミングが米コロラド州のヨセミテから日本に持ち込まれたためだ。アメリカでは登山の難易度は1〜5までのグレードに分かれている。
class1:負傷の可能性が低い歩行。ハイキング。
class2:時として手を使う単純な登り。ハイキングコースの鎖場程度。
class3:露岩の登攀。ロープの必要性を感じる。
class4:無くても登れるけど、ほぼロープを用いるクライミング。
class5:安全性を確保するプロテクションを用いるフリークライミング。
このクラス5は、5.8とか5.9などその難易度がより細分化されており、フリークライミングでは5.10(ファイブテンと読む)のグレードを登れると初級者(脱初心者)といったところかな。ただ、この5.10から実はグレードが更に細分化している。5.10a<5.10b<5.10c<5.10d<5.11a<5.11b…と続くのだ。a〜dまで難易度が増すと、小数点(デシマル)以下二桁が繰り上がるというわけだ。メンドクサイね(-_-)
クライミングに興味がない人はここまで読んだら、もうどうでもい〜や〜って感じだろうな(笑)。でも続けるよ、酔ってるから。
で、「東ルート」のグレードは5.11bなんだ。
ファイブ・イレブン・ビー…この「イレブン」って響きが、クライミングを始めると特別なものになる。マラソンに例えると市民ランナーが目指すところのサブフォー(4時間切り)な感じだろうか(個人的感想です)。ちなみに5.12台に入るとサブスリーな感じ、もう競技者レベルね。5.13台で日本選手権、5.14台で世界選手権、5.15台はオリンピックのメダル級?まぁその辺はさておき、クライミングが楽しくなった僕は、「イレブンクライマー」と呼ばれたいと思うようになった。
いや、他人から少しだけ羨望の眼差しを受けたいとか言うのじゃないよ?(や、まったく無いわけではないけど)。5.11台を楽しく登れるということは、日本の、いや世界中のどこの岩場に行っても楽しむことができるから。僕が歩きたいと焦がれているロングトレイル、PCTやJMTはヨセミテ国立公園内を通っていて、そこは世界中のクライマーの聖地でもあって、そこで夜な夜な酒をあおりつつトレイルやクライミングの話を世界中の人と出来るとしたら、最高に楽しいと思うんだよ。そう。あの「岳」でも描かれていたように。
野岳正面壁にある「東ルート」は、そんな僕の夢の入り口に思えたんだ。
NCSで初めて野岳の、グレード5.8のルート「スポットライト」を登った一年前、僕は心に誓った。一年後に「東ルート」に挑戦する、と。NCSの仲間にもそう公言した。その目標がようやく目前にやってきた、今回のレポートはそんな事なんです。はぁ、ここまで書くのにどんだけかかるんだよ(笑)。もうビールはロング缶2本空けて、純米酒「坐」に突入してるし。
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今日はミスチルとミーボーの3人で野岳に来た。
前日の雨で岩が濡れたままなら諦めてボルダリングにするつもりで。野岳は上部がカブり気味な林になっているため、雨に強い。幸いにも、「ミスター礫(5.10a)」とその隣2本が登れそうだ。ところが手元にロープは30mが一本だけで、おまけにミーボーはハーネスを忘れてきてる。
う〜む、まあ今日はお嬢さん方の特訓日ということで、5.10aだけをやるか…と少し物足りなさを感じつつも、のんびり過ごしていたんだ。そこに西田校長が現れた!しかもロープとハーネスを持って。おお、これで僕も登れるやん★と早速「ミスター礫」の左隣のルートに取り付く。この時、僕は大いなる勘違いをしていた。
その取り付いたルートを、僕は「魔の終着駅(5.11b)」と思い込んでいたのだ。このルートは「イレブンの登竜門」とされており、7月の初トライは最上部の終了点(ゴール)までたどり着けず敗退、8月のトライはトップロープ(終了点からロープを垂らした状態。仮に落下しても即座にロープに吊るされる最も安全な登攀)で、なんとかゴールしたところだ。
今回は、そのルートをマスターリードで登ろうとした。
マスターリードとは、岩に打ち込んであるボルトにヌンチャクを掛けロープを通しつつ登攀するスタイルで、トップロープより遥かに緊張感が増す。それでも割と余力を残しながら、完登した。あれぇ?前回登った時は、もっと苦しんだのになぁ?もしかして、俺ってレベルアップしちゃってる?(笑)なんてそんな僕は達成感に溢れ大声で、「やった!俺ってスゲェ!イレブン登っちゃったよ!」と叫んでいた…のだが実はこのルートは「禁じられた遊び」というルートで、グレードは 5.10c(3ランク下ねww)に過ぎなかった(笑)。ああ、恥ずかしい…。
でも、勘違いも時には悪くない。
腕の張りがやや抜けた頃、西田さんが「もうひとつ隣のルートも登るでしょ?」と水を向けてきた。それは「アンダーツゥアンダー」というルートで、グレードは5.11aだ。触った事はないが、5.11bが登れたんだし(勘違いw)イケるんじゃない?と踏んだ。
リードでは同じ完登でも、その登るスタイルで「価値」がちがう。
・トップロープ:最初から終了点にロープが掛けてあり落下の恐怖が少ない
・リード:岩壁に打たれたボルトに既にヌンチャクが掛けられてあり、そこにロープを掛けつつ終了点を目指す
・マスターリード:ボルトに自らヌンチャクを掛け、かつロープを通しつつ完登する
後者ほどより難易度が高い。
その上で、事前にそのルートを登る人を観察するなどして情報を得る、または自ら何度もそのルートを登り情報を蓄積した上で完登する事をレッドポイント(RP)と呼ぶ。逆になんの事前情報もなく、「初見」で完登することをオンサイト(OS)と呼び、最も難易度が高く価値があるとされる。
「アンダーツゥアンダー(5.11a)」は初見だった。
これは、マスターリードでのオンサイト・トライということになる。OSトライは、そのルートで常にたった一度しか訪れないという事でもある。イケそうなルートであれば、OSトライは大事にしたい。OSを狙いたい。クライマーはそう思うものなんだ。僕も心の中で(イケルんじゃないか?)と思っていた。勘違いなんだけどね(笑)。
「アンダーツゥアンダー」はその名の通り、ルートを通してアンダーホールド(岩の出っ張りや穴を下手に持つ、つまり親指が上に来るような持ち方)が多い。それは岩に上から指をかける通常のホールドより体幹とバランスを要求され、当然難しい。登り上がるにつれ、僕の頭の中は?マークが増えてゆく。(あれ?さっき登った5.11bよりグレード的にはワンランク易しいはずなのに、なんでこんなに難しいのよ〜?)
まあ勘違いだから当然だ(笑)。
核心部(そのルートで最難関な場所)にかかった時は、泣きが入った。(うっは〜、もう無理。落ちる!これゼッテ〜落ちる!)その時、僕の背中に声が届いた。「ガンバっ〜!!」。西田さんの励ましの声だった。クライミングでは何故か「がんばれ〜!」ではなく「ガンバッ!」と掛け声がかかる。「れ」が何処にいったのかは謎だが、その声は僕を確かに押し上げた。
僕にとってのレジェンドクライマーである西田さんが、ビレイ(地上でロープを保持し落下を食い止める)をしてくれている。教え子としてここは意地を見せねばっ!ようよう届く位置にある穴に指一本差し込み、身体を支える。実際は落ちても足元あたりに掛けてあるヌンチャクでロープが止まり安全は確保されるのだが、それでも落下の恐怖と指一本で身体を保持する体勢が心拍数を急激に高める。
「んはぁっ!」とあられもない声を上げ、僕は核心部を抜けた。
「オーケー!いいよ〜!後は慎重に〜!」西田さんがまるで耳元にいるように声が届く。震える足と吹き出す汗を感じながら、僕は終了点にロープを掛けた。しばらく声が出なかった。一拍遅れてぞわぞわと感情が込み上げてくる。(い〜っやったぁ〜!イレブン、オンサイトだ!)声が感情に追いついたように漏れ出てきた。
僕は「野岳限定」かも知れないけど、ひとまず「イレブンクライマー」になれた。そして、野岳正面壁にある「東ルート」の挑戦権を得られたように感じている。それは先に述べた、世界の人と酒(できれば若竹屋の)を飲み交わしながら山と道と岩の旅を語らい合う、そんな入り口に立てたってことなんだ。
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ここまで読んで下さった方へ。
こんな駄文にお付き合い頂きお疲れ様でした。
そしてありがとうございます。
世の中にサブフォーランナーが多くいるように、イレブンクライマーも沢山います。そんなクライミングを趣味としている人には、たかが5.11aのオンサイトごときで大げさなレポートだと思われると承知してます。もしかしたら「僕の時もそうだった。分かるよ」と思って下さるかもしれません。クライミングをしない人には(もしここまで読んで下さったとしたら、それだけでも時間を浪費させ申し訳ないですww)、何がそんなに嬉しいのか良く分からないと思われるでしょうか。ま〜そこは酔って書いたもんなんでお許しください(笑)。
ヤマレコって、自分の記録の為に始めたものでしたが、ここを通じて多くの山友(ヤス村やNCSや竜岩ECCや壁やら山やら酒やら楽しんだ友よ!)とも出逢うきっかけをもらった場所でもあります。そんな自分と、このレポートに何かしらの感想を感じた方へ、いつもの言葉で締めたいと思います。
やっぱり山はいいな
頭が空っぽになって
こころが一杯になる
いつかどこかで、酒をのみつつ
そんな山の話を語らいましょう。
あ、その酒は若竹屋でお願いします(笑)
wakatakeyaさん、こんにちは!
>5.11台を楽しく登れるということは、日本の、いや世界中のどこの岩場に行っても楽しむことができるから。
それなんですよね
わくわくしますね!
フリーの「グレード」は登山にはないものですが、自分の限界グレードを超えると取り付くことすらできない厳しさがあります。限界を超えたいのならアスリートみたいに自分もストイックにならざるを得ないということに最近気がつきました。短期間でイレブン登れたのはwakaさんの努力の結果だと思います。(「努力」なんて好きな言葉ではないかもしれませんが )
楽しむための努力ならなまけものの私にもできるかも。。。
いつかwakaさんと岩もご一緒してみたいです。
「努力を語りたくないタイプ」に見えますか?(笑)
ハズレではないですけど、そこはかとなく悟って欲しいタイプです
いつか小川山とか北アとかご一緒したいですね
まぁ、
長いから、
途中から、
斜め読み読みしたけどね。
でもね、
いいよね。
こうして自分らしく自分のその時を大事にしてるのはね。
以下、ワカさんが言った言葉です。
でもまあ、良いもんです。
未来は無限ではないと実感し始めた世代になった今だからこそ、どう死ぬかとはどう生きるかということだ、と分かってきた気がします。苦しみや辛さや悩みでさえも、愛おしい自分の人生なんだなぁ。僕にとって山ってそんなことを直截的に感じさせてくれるところなんです。
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-1210524.html
※これを言った過去記録のURLを貼るか考えましたが酔いながらもブレてなさそうなので載せちゃいました。
そんなんで、今日僕も しながら書いちゃってます。
お疲れ様。
yasu
あのブランド名は、そこから来てるんですよね〜。
他のブランド名も、その由来は面白いですよね クライミングシューズのメーカーに「テナヤ」ってあるんですけど、これもヨセミテにある湖河の名前から来てるんですよ。
てか、僕が語った言葉って…読み直すと恥ずかしい…
おめでとうございます。
クライミングがここまで、打ち込んで、やるものだとも思っていませんでしたが、そうとうの努力を注ぎ込まないと成長がのぞめないアクティビティ、一つの目標を達するにも、さぞかし嬉しさひとしおかと思います。
そして、5.11台はクライミングが楽しめる一つのきっぷですよね。
師から、クライミングをしながら旅するのは楽しいよ。と言われましたが、楽しみ方の変革点のようなイメージでいます。ヨセミテが一歩近づきましたね。
9/12は予定通り上京されるのですか?その折にはお話をお聞かせクダイ。
※僕も5.11を登った暁には、レコに書くことを決めて置かなければ、、、
むふふ
まだ余韻に浸ってる僕です
9/12は予定通りですよ〜。
飲むか登るか、悩ましいところですね
wakatakeyaさん、はじめまして&おめでとうございます
うん、うん、饒舌になりますよね、うん、うん、と思いながらレコを読ませていただきました。
これからも安全に楽しいクライミングライフを
追伸
禁断のカムをご購入されたのですね!
クラック、楽しいですよ〜
はじめまして&ありがとうございます!
こんなコメント頂けて、すごく嬉しいです。
お二人のレコ、拝見しました★
ボルダーからクラックまで、いいですね〜
九州はクラックルートが少ないため、周囲にもやってる人が多くありません。せっかく購入したカムをどこで練習したものか…悩んでます
ついにイレブン登りましたねー❗❗
まさに練習の成果ですな(^^)
正面岩、頑張ってー!!
東ルート登るときは下にカメラをセットするの忘れずに(^_-)
ありがとうございます
東ルートは来月辺りから通いこみたいな〜と思ってます
あそこはカメラセットしたら、かっこ良く撮れますもんね〜
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