礼文島トレッキング 桃岩コース
- GPS
- --:--
- 距離
- 16.3km
- 登り
- 717m
- 下り
- 715m
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2006年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
船
|
写真
感想
2006年6月18日、北海道の離島、礼文島をトレッキングしてきました。
礼文島には複数のトレッキングコースがありますが、今回はその中から「知床〜桃岩コース」と「礼文滝コース」に挑戦しました。
フェリーターミナルから路線バスに乗ること10分程で、礼文島の南端に位置する知床に着く。
バス停の近くは集落になっているので商店の一つもあるかと思いきや、それらしきモノはまったく無い。
これで、今日の食糧はザックの中に入っている携帯食料のみということが決定した。
思えば前日、札幌から乗り込んだ夜行列車から、今ここまでの間、乗り継ぎに乗り継ぎを重ねてきており、ゆっくりと食糧の事を考える時間がなかったのだが…ちょっと、いや、かなり失敗した。
予定しているコースを全てまわり、香深の町まで戻るまでに何時間かかるのだろうか。
その間、手持ちの食糧と水だけでなんとかしなくてはならない。
悔やんでいても仕方がないので、まずは出発することにした。
濃霧に覆われているため、あまり視界がないが、少しずつ明るくなってきているような気がする。
もしかしたら日が高くなれば晴れてくれるかも知れない。
スタートするとすぐにゆるやかな上り坂となる。
海から少しだけ高度を上げただけだが、あれだけ濃かった霧がすーっと薄くなっていく。
おお! どうやら願いが通じたようだ。これは晴れるぞ。
霧が晴れてくるとあたりの様子がわかるようになってきた。
まだ海抜数メートル程度の高度だが、本州の高山地帯のように樹木がほとんど無い。
冬の寒さと風が厳しいのだろうナァ。
と、突然目の前に何か人工物が現れた。木の枠組みのようなものである。
なんだ、興ざめだな! と思ったが、環境保全と水源確保のために木を育てようという試みらしい。
生活している人も居るわけだしなぁ。ある程度の手入れは必要なのだろう。
しばらく歩くとメインルートから外れて薮の中に入っていく脇道があった。
脇道というか、半分薮こぎのような道なのだがロープが張ってある。
道迷いを防ぐためのロープではなく、植物を守るための立ち入り規制らしい。
ここでは、高山並みに植生快復が困難であるとの事だ。
花を間近に見たい気持ちを抑えてロープ内から観賞する。
それでもこんなに綺麗な景色が見れますよ。
崖っぷちまで行くと断崖絶壁と海を堪能できる。
長年の風雪に浸食され、独特の景観を作り出している。
足下は頼りないロープが一本張られているだけ。
バランスを崩したら…、まぁ、命はないな…。
お花畑を堪能して、もとの道に戻る。
ゆるゆると登っていけば白亜の灯台、元地灯台が見えてくる。
とりあえず、ここまで来れば第一のピークに到達である。
元地灯台が建つ岬に立つと、今まで見ることができなかった岬の向こう側を見ることができる。
そこには、私が今まで見たことがなかった雄大な景色が広がっていた。
陳腐な表現だが「日本離れした」まさにそんな景色であった。
ここですでに小腹が空いてしまい、ザックの中から某固形食品をとりだし食べる。
これ、ノドつまりするんだよね…。
で、そうなると水をがぶ飲みしたくなるわけで…。
いかん、食料も乏しいが、それ以上に水分が乏しいのだ。節約せねば。
すばらしい景色に魅入られて、いつまでもここに居たい気分だがそうも言っていられない。
先に進むことにする。
元地灯台から先は本格的な山道になっていて、車が入って来れないトレッカーの世界である。
車で簡単に乗り付けられる観光地ではない。
自分の足で歩くことを厭わない人だけが見ることができる世界だ。
後ろを振り返ると、雲海から顔を突き出す利尻富士の姿を確認することができた。
朝に比べたら霧はだいぶ後退しているが、海の上はまだまだ濃霧のようである。
それが証拠に、港の方角からは船が発着する度に何度も何度も霧笛が聞こえてくる。
そんな中でこの景色を見られたことは、かなり運がいいのかもしれない。
細い尾根道をたどっていくと徐々に見ることのできる景色の角度が変わってくる。
さっきはだいぶ遠くに見えた建物の屋根が、がけの遙か下とはいえずいぶん近くに見えるようになった。
ほんとうに日本離れしているというか、行ったことはないけれど北欧なんかはこんな景色だろうか。
ファンタジー物の映画の中にでも紛れ込んでしまったような気になってくる。
少し大きなピークを越えると、はるか行く先が見えた。
ほとんど人工物がないところを歩いてきたが、この先はしっかりした遊歩道が整備されているようだ。
遠目に見た感じでも結構な数の観光客が歩いているのが見える。
やれやれ、秘境ムードはこの辺でお終いか。ちょっと残念である。
先ほどピークの上から眺めた展望台にたどり着くと、そこの主が出迎えてくれた。
人になれているのか、このカラスは1mくらいにまで近寄っても逃げようとしない。
さすがに手をさしのべると微妙に距離を開けるが、あくまでも逃げない。
餌をもらえるのを期待しているのか、それとも人間どもに対して縄張りを主張しているのか。
近くに自然保護観察員の腕章をした人もいたが、とくに気にかける様子もない。
きっと珍しくもない光景なんだろう。
進むほどに観光客が増えてきて、どんどん俗世間に戻っていく。
それでも海と空は青いし、人を見ないようにすればほら、この通り花は咲き乱れているってヤツである。
あちらこちらで写真を撮りまくりながら歩いたため予想外に時間がかかったが知床を出発してから3時間弱で桃岩展望台までたどり着いた。
桃岩展望台まで来ると、そこはもう観光バスが次々と人を運んでくる場所でハイヒールを履いたお姉ちゃんや、足下の怪しいお年寄り、サンダル履きの兄ちゃんなどが、汗の一つもかかずに徘徊している。
この桃岩であるが、まぁ、桃に見えないことはないかなとは思うが、だいぶ苦しいというか、無理矢理なネーミングじゃないかなと思う。
この岩を見て即座に「桃」を連想する人って、どれくらいいるだろう。
いや、そんなことにケチつけても仕方ないんだけどね。
桃岩展望台から観光客に混じって車道へと下る。
そこには観光バスが何台も並んで止まっているが、当然こちらはスルー。
観光バスの群を抜けたのは私一人だけだった。
バスの窓から「歩いてるの〜?」と声をかけられる。
「はい、歩いてしか行けないところ、いっぱいありますから」と答えると「うらやましいわぁ、がんばって〜」と励ましのお言葉をちょうだいした。
ちょっとしたことだが、こういうふれあいってうれしい気持ちになる。
礼文林道の入り口まで舗装道路を歩く。
ちょっと日は陰ってきたが、やはりアスファルトの上は暑い…。
一心不乱に林道を目指す。
林道の入り口では、ひとりのおじさんが今まさに林道に歩みだそうとしていた。
見た目ちょっと個性的な感じで、正直あまりお関わりあいになりたくなかったので、そのまま脇を通り過ぎようとしたのだが、そんなことを思ったときほど声をかけられる。
ま、実際話してみたら個性的は個性的だが、いい意味で「個性的」で楽しく話をしながらの林道歩きをすることができた。
なんでも霧島から自転車でここまで来たとか。
霧島って…。
ははぁ、この人は道楽者で一人で悠々自適に暮らしているのだな〜と感心して話を聞いていると、ちゃんと仕事を持っていて、奥さんも子供も居て、自分の帰りをちゃんと待っていてくれるのだという。
いったいなんの仕事してるんだ???
最後には
「帰る家があって、待ってくれている家族がいるからこそ、旅は楽しいよねぇ」
などと言っていたが、霧島を出たのが3月で、再び霧島に戻るのは12月を予定しているとかで、そんなに長い間家を空けていられるあなたはいったい何者???
少ない休みとお金を無理矢理工面して旅に出ている私、いや、たいていの旅人にとってはなんともうらやましい話だ。
そんなうらやましいおじさんとは林道の途中で別れた。
最後にお互いの旅の無事を祈りつつ。
楽しい時間をありがとう、霧島のおじさん。
再び一人に戻り、黙々と歩く。
礼文林道は未舗装ながら車も通ることができるし、そのすぐ道ばたにたくさん花が咲いている。
(※自然保護の観点から自家用車の乗り入れはできる限り避けてほしい旨の注意書きあり)
途中、礼文島の固有種である「礼文ウスユキソウ」の群生地があった。
まだちょっと時期が早いようで、残念ながら咲いているところは見ることができなかったが常設の監視小屋が建ち、自然保護観察員が何人も盗掘に目を光らせている。
先を急ぐ私は、その常設小屋の脇をスルーしていったのだが、しばらくしてふと後ろを振り返ると…先ほどの監視員の一人がついてきている。
写真を撮ろうと私が立ち止まると監視員も立ち止まる。
再び歩きだすと、監視員も歩き始める。
…もしかして、監視されてる???
うーん、自分そんなに怪しげに見えるだろうか…。
監視員と二人、なにかしゃべるわけでもなく、つかず離れず歩く。
海からは濃い霧が駆け上がってきて、あたりを乳白色に染めていく。
うわ、なんかやーな感じ…。
黙々と歩いていると礼文滝コースの入り口に着いた。
ここからは再び徒歩専用の山道となるようだ。
監視員はいつの間にか姿を消していた。
礼文滝コースに入ると両側が笹藪でまわりの様子がよくわからない。
そういえば、朝から今まで、ずっと開けたところばかり歩いていた。
なんだかよくわからないけど、圧迫感を覚える。
ただ、礼文島の良いところは熊や危険な毒蛇のたぐいがいないこと。
北海道の山歩きといえば危険なヒグマとの遭遇におびえなければいけないところだが利尻・礼文両島にはヒグマはいない。
それだけでもかなり気楽である。
礼文滝への道は意外と険しく、開けて景色が見える場所があれば、まったく視界の利かない森の中に入ったりと変化に富んでいる。
今まで歩いてきたところが「遊歩道」だとすると、ここは立派に「登山道」だ。
さすがにここまで入って来るにはそれなりの気合いが必要なようで、めったに人に会わなくなったし、会ったとしても皆それなりの装備であった。
しばらく進むとV字谷の奥底へと道が続いていくのが見えた。
沢下りとまではいかないが、数カ所渡河しなくてはいけない場所もある。
足場が悪い場所も数カ所あるので、なめてかかっては思わぬ怪我をするかもしれない。
しかし、そんな苦労をする甲斐があって、たくさんの花々を見ることができる。
V字谷の両側に可憐に咲き乱れる花々は圧巻である。
岩を登る順番を待っていると、後ろにいたおじさんが興奮気味に声をかけてきた。
「君キミ! これを見なさい。珍しい花なんだよ! いやぁ、咲いてたよ!
こんなにすばらしい物を見れるなんて感動だなぁ!!」
おお! そうですか! それは良かった!
などとおじさんのテンションに気圧されて、いっしょになって喜んだが、正直、私にはどれが貴重で珍しいのか、さっぱり判らない…。
「キミもせっかくだから写真を撮っておきなさい」
などと半ば強制的に写真を撮らされたり(笑)
撮ったものの…どれが珍しい花なんだ???
(一方的にまくしたてられたので名前すら覚えてません…)
感動おじさんをその場に残して、さらに歩みを進める。
歩き始めたときは近いと思っていた道のりだが、思いの外遠い。
…バテてきたか? いつまでも景色が変わらない…。
残りの体力と、帰りのフェリーの時間を考えて引き返そうか迷い始めたとき、前方にぽっかりと海がひろがった。
海岸に下りる急なガレ場を下りると海岸線に出ることができた。
桃岩側を見てみる。急峻な地形が続いているのが見える。
昔はこの海岸沿いに桃岩(元地)方面まで抜けることができたらしいが
現在は死亡事故があったことなどにより通行が禁止されている。
朝、バスに乗り合わせたおばさんのグループは「自己責任で」という言葉を呪文のように繰り返して、この道を歩く予定だと言っていたが、その「自己責任」には、ちゃんとセルフレスキューも含まれているんだろうか?
ま、ビビリストの私には関係のない話か。
危険な場所にはそもそも近寄らないですから〜。
お目当ての礼文滝はさっき歩いてきた沢が海に落ち込んだところにある。
道の最後の急傾斜はこの滝の真横にあるので海岸線にたどりついたら、ぐるっと回れ右すれば、見ることができる。
よくある観光地のように柵を張っていたりしないので、このように滝のすぐそばまで接近することができる。
マイナスイオンをたっぷり吸収して帰ろう。
苦労して訪れた礼文滝。
帰るのは名残惜しいが、残りの時間・体力・飲み水が乏しくなってきたので帰らねば。
ただ、下るにしても長い道だと思っていたのに、帰りは登りとなるわけで…。
ああ、あんな高くて遠いところまで行かなくてはならないなんて…。
延々と続く上り坂をゆっくりと登る。
…というか、これが今の自分の限界速度だ…。
ただ、ゆっくり進むのにも良いところがある。
往路では先を急ぐあまり見落としていた花々に気がつくことができるということだ。
途中、日当たりのいい場所に早咲きのレブンウスユキソウを発見した。
周囲を見渡しても咲いているのはこの小さな一株だけだった。
さっきすれ違ったカメラマンも「まだ早かった…」と言っていたから偶然とはいえ見ることができたのはラッキーだったのだろう。
ちょっと励まされた。
ひいこら言いながら礼文林道まで戻ってきた。
驚いたのは、さっきは居なかったはずの監視員の車が二台も停めてあり数人の監視員が今まさに登山道に向けて出発しようとしていたことだ。
…まさかとは思うけど…、俺じゃないよね???
な、なにもしてませんよ〜。
往路では霧で見ることができなかった山の斜面の反対側が見える。
山の斜面にはなにやら茶畑かなにかのように縞模様がついている。
これは過去の山火事で失われた森林の植生回復事業とのことだ。
一度失われた自然を回復するのは大変なことだ。
礼文林道を歩いて戻る途中、二度も道を尋ねられた。
…私はなぜか人に道を聞かれる事が多い。
話しかけやすい顔してるんだろうか…。
礼文林道を抜けたところでふと桃岩を見上げた。
そしたらさっきは「なんでこれが桃岩よ?」と思ったあの岩が
どうです? 見事に桃の形。
なるほど、桃岩だ…。
納得しました。難癖つけてごめんなさい。
そこからさらに舗装道路を歩いて下る。
誰か拾ってくれないかな〜と淡い期待を抱いたものの車そのものがほとんど通らず期待はずれ。
結局、香深の町まで自分の足で歩き通したのだった。
すでに飲料水を飲み尽くしていたので、自動販売機を見つけたときの喜びといったら…。
今朝、FTを出て初めて目にする自販機であった。
あんまりうれしかったので記念撮影(笑)
自販機なんて、普段なら気にもとめないのにねぇ。
人間って現金なもんです。
こうして私の礼文トレッキングは無事に終了した。
ただ、礼文島の真骨頂ともいえる北部はまったく手つかずのままである。
近い将来、再訪したいなぁと思いつつ帰途についたのであった。
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