横山岳〜神又峰〜三国岳〜安蔵山☆山毛欅の回廊から霧氷の江美国境稜線へ


- GPS
- 10:31
- 距離
- 29.7km
- 登り
- 1,895m
- 下り
- 1,895m
コースタイム
- 山行
- 10:10
- 休憩
- 0:24
- 合計
- 10:34
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
感想/記録参照 |
写真
感想
この日、北西から高気圧が張り出して前日の冬型の気圧配置が解消されるにも関わらず寒気が居残り、日中でも気温が上がらない予報となる。次週からの緊急事態宣言の解除により最後のテレワークの予定ではあるが、テレワークというのは会議など対人の予定がないのでこういう急な休みを取得しやすいというのは大きなメリットでである。そのメリットを活用することにする。
果たしてどこの山に出かけようかとしばらく逡巡したが、真っ先に思いついたのは横山岳から江美国境に伸びる北東尾根だった。この尾根は昨年、土蔵岳から猫ヶ洞を経て横山岳への周回をしたのだが、寡雪により露出した藪に加えて新雪のラッセルが深く、江美国境とのジャンクション・ピークから横山岳の東峰まで何と5時間近くを要して、夜の19時過ぎに到着したのだった。心身共に極度に疲れ果てた最悪の山行であった。
雪のコンディションが良い状態の時にいつか再びこの尾根を訪れてみたいと思ってはいたが、直感的にこの日はいけるだろうという気がする。日曜日に訪れた上谷山の積雪の状態からすると藪の状態も昨年よりははるかにマシであることが見込まれる。
しかし、頭の中に思い浮かんだルートは前回の逆周回ではなく、いつか辿りたいと思っていた江美国境を北上するという計画だ。
仮に前回と同様にこの尾根に時間を要したとしても神又峰あるいはca1000mピークから奥川並谷に向かって下降する尾根を辿って林道にエスケープすることも出来るだろう。
未明に菅並に到着すると夜空には雲はなく、星が美しく瞬いているのを見て、朝からの好天を確信する。六所神社の駐車場に車を停めると、菅並集落の大ケヤキの裏手から横山岳の西尾根に取り付く。尾根の取付きには雪が少なく、多少の藪もあったが、微かな踏み跡を辿ると、間も無く林道との交差地点に出る。
ここからは明瞭な登山道があるのだが、なかなか雪がつながらない。昨年と同様、稜線の積雪が少ければ・・・という心配が脳裏をよぎる。
次第に尾根は樹木の少ない好展望の尾根となる。早朝のblue hourの薄明の中から右手には墓谷山、背後の七々頭ヶ岳、妙理山のシルエットが綺麗に浮かび上がる。しかし、先ほどまで星が瞬いていた筈の空には重苦しく雲が広がっており、金糞岳の山頂部は完全に雲の中だ。
頭の中では登山口に到着する直前に車の中で流れていたベートーヴェンの第三交響曲の葬送行進曲が流れる。その極めて鈍重なリズムは斜面を登る足取りには格好ではあるが、あまり縁起の良いものではない。
やがて西峰に至ると見事な霧氷の山毛欅の樹林が現れる。どうやら上空の雲がすぐ上まで降りてきたようだ。雲の下からはこれから辿る北東尾根がわずかに見えている。やがて稜線には猛烈な暴風が吹き始めたかと思うとあたり一面はみるみるうちに濃い霧に包まれる。風と共に吹き付ける氷の粒が頰に突き刺さる。慌てて手袋を二重にする。
北尾根から下山するという選択肢が一瞬、頭をよぎるがとりあえず目指す北東尾根の分岐となる東峰まで行ってみることにしよう。山頂から雪庇の張り出した尾根を東に向かう、強風は徐々に収まり、目の前で急速に雲が上がってゆく。
途端に両側に遮るもののない尾根からは右手には金糞岳、左手には江美国境尾根の好展望が広がり始めた。そして東峰にたどり着く頃になると雲の中から朝陽が差し込み始める。これから辿る予定の壮大な周回ルートの幕開けに相応しい感動的な光景だ。
朝陽に輝く霧氷をカメラに撮るのに夢中になり、なかなか尾根に踏みだすことが出来ない。
ついに北東尾根へと足を踏み入れる。最初は急下降ではあるが、雪が程よくしまっているお陰で足元の雪にスノーシューが沈みすぎることもなく快適に下降する。正面に眺めるモノトーンの雪稜に前回の山行時に眺めた夕暮れのラベンダー色を重ねてみる。その美しさに感動しながらも日没の時を過ぎても東峰までの稜線を絶望的な気持ちで仰ぎ見ていたのだった。
振り返ると決して忘れ得ぬ尾根の姿がそこにあった。黄昏の青藍色に染まっていった尾根はこの日は朝陽を浴びて純白に輝いていた。
下降するにつれ霧氷はすぐにも消えてしまうが、雪が少ない西尾根と異なり、こちらの尾根は雪が相当に多いようだ。前回、あれほど通過に苦労した藪はすべからく雪が覆い尽くしてくれている。
二重尾根、膝上までのラッセルに苦しんだところではあるが、この日は雪も程よく締まっており、足元の雪はスノーシューの必要がないのではないかと思うほどにほとんど沈みこみがない。
高度が下がっても一向に藪が現れる気配がない。鞍部が近づくと樹高の高い山毛欅の叢林が現れる。
上空の雲は徐々に上がり、南の金糞岳の山頂から雲が取れる。
左千方と上谷山の山頂部のみは雲に覆われていた・・・ジャンクション・ピークが近づく頃になって、やがて雲の中から左千方が姿を現すと、思わず内心で歓喜の声をあげた。というのも遠目にもわかるほど見事な霧氷がついていたからだ。
ジャンクション・ピークとなるca1000mの手前でこの南尾根の下降点へと立ち寄る。ここは眼前に金糞岳の雄大な山容が広がる格好の展望地だ。金糞岳の眺望を前にしばし休憩する。ここまで1時間程で到着してしまったが、半ば期待はしていたものの、こんなに容易に尾根を通過してしまって良いのだろうかと思う。雪と藪のコンディションの違いを改めて痛感する。
ジャンクション・ピークの見覚えのある山毛欅の林は素晴らしいところだ。以前、尾根から北へ続いていく壮麗な山毛欅の回廊を眺め、この先はどうなっているのだろうと好奇心が掻き立てられたことを思い出す。いよいよ左千方に向かって濃密な山毛欅の樹林の中へと足を踏み出す。
最初の小ピークの西側には樹木のない好展望地となっており、横山岳の眺望が大きく広がった。そのすぐ右手に見える妙理山も朝陽を浴びて白く輝いている。樹々の間隔の広々とした山毛欅の樹林の中を神又峰を目指して緩やかに登ってゆく。
神又峰の山頂が近づくと尾根筋一帯は伐採されたかのように山毛欅の樹がなく、帯状の雪原が広がっている。まるでゴルフ場のような印象だ。山頂にはkitayama-walkさんの手になる小さな山名標が掛けられていた。
神又峰からは正面に高丸を望みながら東側に大きく雪庇の張り出した尾根を北に辿る。当然ながら尾根からは東側の奥美濃の好展望が続く。すぐ次の小ピークca1010mには東の神又谷の左岸を長い尾根が登ってきているが、この尾根を少し下ると正面に蕎麦粒、トガスの好展望が広がった。
尾根を北上するとどころどころに山毛欅の疎林となり、随所に樹木のない小さな雪原が現れる。広々としたca1010mピークも山毛欅の大樹が疎らに生える好展望の雪原となっており、快適なところだ。
p1048を過ぎてca1130mへと登るとついに霧氷地帯へと入ってゆく。それまで曇り空が続いていたが、折しも雲からサーチライトのごとく陽光が差したかと思うと、一瞬、霧氷の樹々を白銀に輝かせる。上空では雲が勢いよく流れているために光の筋は高速で去ってゆく。
この日に限ったことではないが、次々と光が到来しては過ぎ去ってゆく感覚はまるで光の波に揺られつつ雪稜に漂っているかのような感覚に捕らわれる。
あまりにも霧氷の景色が素晴らしいので、この左千方への登りはなかなか先へに進めない。上空の雲の流れは早いが、幸い、風はそれほどきつくない。左千方への最後の登りに差し掛かるとその真っ白な頂きの先にはようやく蒼穹が広がり始める。わずかに1kmほどの距離に30分以上の時間をかけて左千方の山頂へとたどり着いた。
まずは三国岳への霧氷の尾根を往復することにする。左手に上谷山、右手には高丸から三周ヶ岳、白銀に輝く霧氷の稜線を眺めながら大きく雪庇の発達した広々とした吊尾根を進む。これらの山々も山頂の周囲はやはり三国岳が近づくと霧氷の厚さは一層、スケールアップしているようだ。
三国岳の山頂では行動食を頬張りながら、上空を足早に通り過ぎてゆく雲烟を仰いでは、雲の切れから溢れる光が霧氷を煌めくのを愉しむ。
三国岳を折り返して、左千方に戻るといよいよ下山の途につく。左千方からは正面に安蔵山、大黒山を望みつつ右手には日本海、左手には彼方で金属的な煌めきを放つ琵琶湖を同時に望むことが出来るのが嬉しい。
いざ左千方からの下降に入ろうとすると、以前にも下降してはいるのだが、こんなに急だったかと思うほどの急斜面であり、まるでスキーのジャンプ台のようだ。問題は昼前だというのにも関わらず雪面がカリカリに氷化している。ここまでは雪が締まっていることが良かったのだが、さすがにこの急斜面では仇となる。
スノーシューのまま急斜面を踏み出すと、なんとかスノーシューの爪が引っかかってくれるようだ。一足ごとに慎重に足を運び、なんとか無事に急斜面を下降する。
斜面の下部に至るとここからは平坦な樹林帯となる。先に進むにつれ、まもなく壮麗な山毛欅の樹林が広がるようになる。
p922を過ぎて尾根が南側に緩やかなアーチを描くようになると雪庇の張り出した斜面からは横山岳〜江美国境への尾根を正面に俯瞰する。やがて広々とした緩斜面が南側に広がり、暖かい冬の日差しを浴びながら一息つく。電波が届いているので家内に電話をしようとスマホを取り出すとそれまで30%近く残っていたバッテリーが瞬間で落ちた。
この日、一日、山毛欅の樹林を多く通過してきたが、谷山を経て安蔵山に至る尾根の山毛欅の樹林はやはり素晴らしい。横山岳、江美国境から神又峰、そしてこの尾根のブナ林はいずれも湖北の山域の中でも白眉だろう。山毛欅の樹々の写真を喜んで撮っているうちに今度はカメラがバッテリー切れとなってしまう。
安蔵山の山頂への登りになると背後を振り返ると左手に神又峰から左千方に至る江美国境の稜線を一望することが出来る。安蔵山の山頂が近づいて驚いたのは、山頂広場の藪がすっかり雪の下に埋もれている。以前に訪れたのはいずれも雪山ではあったのだが、山毛欅の高木の間に低木の藪が印象に残っている。
下りに入るとそれまでは硬く締まっていた雪が急速に緩み始めた。山頂部ではあれほどあった雪も山毛欅の樹林が切れたあたりから早々に切れ始め、スノーシューを諦める。尾根の末端に近づくにつれ、雪はほとんどなくなった。尾根の右手には県道中河内線が黒々とした蛇のような線を見せている。ということは県道が除雪されているということだろうか?
尾根の末端からは左側の植林の斜面を林道を目指して下降することになるのだが、いざ斜面を下降しようとするとツボ足では股下まで踏み抜くことを繰り返すので、再びスノーシューを履くことになる。無事、林道に着地するといくつかの片斜面を乗り越え、田戸にたどり着く。
高時川にかかる橋を渡ると大きな除雪車が停められており、県道は確かにすっかり除雪されていた。お陰で最後は菅並までは快適に舗装路を歩き、50分ほどで菅並に到着することが出来た。
菅並では登り始めの欅の樹影を確認すると、その大きさに改めて畏敬の念を禁じ得ない。
宿願の横山岳東尾根の再訪、三国岳への江美国境の縦走、そしてめくるめく山毛欅の回廊に大きな充足感を感じることが出来た山行であった。
コメント
この記録に関連する登山ルート
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このコースの企画力。
驚き以外の言葉が見つかりません
deekdeekさん
コメント有難うございます。
そのHNだけでどなたか分かりますよ
何時も素晴らしい周回コースですね~
今年は雪解けが早く、、雪の状態が読めず
なかなか装備が思うように合わないことが多いです(泣)
ジオンさん コメント有難うございます。
時間がかかりましたが、ようやく、文章が出来ました。
仰る通り、今年は比良にはもう雪はないと思いますし、湖北でも雪のあるところとないところの差が激しいですね。
はじめまして。
レポにコメント有り難う御座いました。
今回、yamanko0922さんのレポを参考にさせて頂きました。
スノーシューのトレースが神又峰から先に続いてましたので何処まで行かれたのが大変気になってました。
レポを拝見させて頂き、24日に歩かれたルートも魅力的ですね。また、歩きたいルートが増えました。早速検討させて頂きますね。
山レコは、サブでやってますのでメインはあちらになりますので今後とも宜しくお願い致します。
1000Takaさん はじめまして
神又峰はニアミスでしたが、昨年、私が歩いたルートを私の直後に歩かれていたとは大変驚きで、なんとも不思議な気がいたしました。この日はコンディションが良くて、お互い良かったですね。今となっては嗤い話ではありますが、レコに書きましたように昨年はジャンクション・ピークから横山岳まで5時間近くを要することになり、心身ともに疲れました。
どこかでお目にかかれる機会がありますことを期待しております。あるいはちーたろーさんと共にオフ会にでも・・・こちらこそどうぞよろしくお願いします。
yamanekoさん、こんにちは。
このコース、今の時期ですと、やはり藪でしょうか。
この界隈、前回行ってから少し時間がたち、またいきたくなってきました。
きっと、ブナの美しい新緑になってるんでしょうね。
無雪期のこのコースに興味を示されるとはさすがgreenriverさんですね。
まず横山岳〜ジャンクション・ピークはかなりの濃厚な藪です。そこから北は情報はないのですが、おそらくかなり厳しいルートであろうと予想されます。日帰りでは十分にエスケープルートの計算をした上で臨まれることをお薦めします。昨年の私の悲惨なレコ(~_~;)がご参考になれば幸甚です。
とはいえ、私もどこかのタイミングで土蔵岳〜猫ヶ洞、谷山〜左千方は訪れようと思っていましたが・・・
ご返答、ありがとうございます。
濃厚な藪・・・・(^^;)。
どうも、私では実力不足ですね。
この界隈で未踏の部分を無雪期に行けないかなあ・・・と思っていたのですが、やはりどこも厳しそうですね。
でも・・・、新緑の奥美濃・・・・きれいなんでしょうね。
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