マルチピッチ修行@小川山 (サヨナラ百恵ちゃん&小川山レイバック)
天候 | 晴れときどき曇り(初日の夜は雷雨、二日目は小雨もあり) |
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過去天気図(気象庁) | 2013年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
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写真
感想
久々のクラック本気トライで命を削られた。
そしてクラックは気持ちが入っていないと、グレードが低くてもリードできないことを思い知らされた。
小川山のクラックでマルチの経験を積もうということで、初日に「サヨナラ百恵ちゃん3P(5.9)」、二日目に「小川山レイバック 2P(5.9)」を登った。
初日は前日にマルチピッチリード講習を受けるため小川山入りしていたmfさん、KS嬢と3人で。二日目はmfさんと2人で。
初日の朝、急遽お誘いしたKS嬢に参加していただき、「サヨナラ百恵ちゃん」へと向かう。
アプローチはひたすらガレ沢を詰めてゆくのだが、思った以上に長く急登で朝から汗だく。
しかもガレ沢は浮石やザレが多く、歩きにくいことこの上ない。
ちなみに下りはもっとたいへんだった。疲れて足下が覚束なくなっていたため、ザレに足を取られて尻餅をつき、危うく捻挫するところだった。
面白いルートで充実感もあったが、もう一度来るかと言われたらちょっと…という感じ。
何しろ遠いので(笑)。
たいへんではあったが、一応迷うこともなく無事取りつきに到着。
「サヨナラ百恵ちゃん」のマルチを登る前に左隣の「友和ルート」でアップしましょうということで、まずはmfさんがオンサイトトライ。
OW手前の右側スタンスにハイステップで乗り込む箇所が核心。左足のスタンスがなく、クラックは広すぎてフットジャムも決まらない。
行きつ戻りつしていたmfさん、足ブラになったところでフィストジャムが外れて残念ながら1テン。やはりオンサイトは難しい。結局、左足はスメアで切り抜けた。
2番手はワタクシ。5.8のクラックリードは自分にとってはアップなどではなく、朝からいきなりの本気トライ。
何とかフラッシュしたが、やはりmfさんのカムセットやムーブ(間違いも含めて)を見たことが大きかった。核心は下部なのだが、クラックが広すぎてジャミングがあまり使えず、結構難しかったと思う。
グレードは100岩場だと5.8だが、マルチピッチルート集だと5.9になっている。5.9はないと思うので、5.8+といったところか?
本命ルートに取りつく前に、お腹いっぱいになっちゃった。
3番手はKS嬢。さすが初段ボルダラー。クラックも10aまでフラッシュする実力者だけあって、まったく危なげなし。
mfさんはすぐにでもRPしたそうだったが、まあまあそれは後にしましょうということで、本命の「サヨナラ百恵ちゃん 3P」へ。
1P目(5.9)はKS嬢のリード。
見た目は結構フレアしていて、カムセットが難しそうに見えたが、きっちり決めてゆく。
核心と思われる箇所でのズームインが素晴らしい。躊躇なく登っていき、難なくオンサイト。
2番手のmfさんに続いて、ワタクシも登り始める。
けっこう難しかったが、無事ノーテンで抜けた。やはりフォローの気楽さゆえか。
ハンドからシンハンド、フィンガーまで様々なジャミングが決まる、バリエーションに富んだ面白いルートだった。
アプローチさえ近ければ、1P目だけでも登りに来る価値があると思う。
友和も難しかったが、やはり百恵の方が上か? 力関係的にも?
2P目(5.8)はmfさんリード。ここはオブザベーション力が試されるピッチで、登攀ラインが分からず、迷いに迷った。
始めは右サイドにある左方向に被ったクラックにカムを決めて、そのまま登ろうとしたが、ちょっと無理があるようだ。
クラック沿いに登ろうとするとからだがのけ反ってしまうので、左のフェイスに左足を出すしかないのだが、スタンスがまったくないので上がれない。
次にスラブの左サイドを登ろうとしたが、下部で一箇所ポケットにカムセットできたものの、そのまま直上するとまったく支点が取れなくなる。
間違いなく行き詰ると思い、mfさんに思いとどまっていただく。
ああでもない、こうでもないと議論した結果、左サイドから登り、スタンスを拾って右のクラックに向けてトラバースして解決した。
自分がフォローで登る際に右側のクラックをそのまま直上できないか試してみたが、やはり無理があったので、結局これで正解だったように思う。
その後mfさんはチムニーを抜け、無事2P目終了点に到着した様子。一時は敗退も考えたので、ほっと一安心。
2P目の後半は巨大なチョックストーンの下を潜るチムニー。
右側のクラックが終わる箇所がチムニーの上部になっており、自分はリッジを手がかりにしつつ、岩に挟まったまま途中でからだを反転させたりしてトラバースしたのだが、チムニーの最低部がかなり下に見えるので意外に怖かった。
あとから聞いたら、mfさんは最低部まで下りて行ってからチムニーを直上したらしい。
どうりでヘルメットやギアスリングが邪魔になるとか言っていたわけだ。
どちらが正解なのかよく分からないが、3番手のKS嬢も自分と同じラインで登ってきたようだ。
3P目(5.7)はワタクシのリード。ほとんどステミングで登れるので、正直簡単だった。
出だしの岩に腐った残置スリングがあったので、いったい何のためにあるのだろうと思っていたが、あとあと考えてみると2Pで下りるための終了点のようだ。
一応立木もあるのだが、下地が脆くて不安定なので、懸垂の支点に使う気にはなれない感じ。
残置スリングはボロボロなので、2Pで下りる人は捨て縄が必要。上手い具合にスリングを回せる岩がある。
3P目はワイルドだった。ほとんど登られていないらしく、かなり荒れていた。
支点の取れないスラブは苔だらけで土もついているので、巻いてしまった。
後半は木登りと藪漕ぎのようになってしまい、巻いて立木で支点を取ったためロープが屈曲してしまい、途中でピッチを切らざるを得なかった。
立木を支点にしようとしたが、ちょっと押すとグラグラ動くので断念。少し脆そうなクラックに、何とかカムを決めて支点を構築した。
順番から言うと次はKS嬢のリードだったが、マルチのルーファイはまだ不慣れということで、mfさんにリードしていただく。
先はまだまだ長かったようで、すみませんでした。
その先も荒れていたようで、mfさんも岩を巻いて登ったが、終了点までは辿りつけなかった。
一旦ピッチを切り、3人揃ったところで再び自分がリードしようとしたが、3人が立てるスペースがなく、3番手のKS嬢は少し下がったところでメインロープのセルフビレイを取ったため、ロープの受け渡しができず。
やむを得ず、そのままmfさんにリードしていただいた。
mfさんがほんの数メートル登ったところに、立木に巻いたスリングと残置カラビナを発見したが、木が頼りないということで、さらに頂上に向けて歩いて偵察。
少し前から雷の音が聞こえており、早く撤収したいところだったが。
結局、頂上の方でも支点を見つけられず戻ってきて、我々も数メートル登って残置のある立木へ。
自分は立木も残置スリングも、ちょっと頼りないが静荷重なら問題なしと判断してトップで懸垂することにした。
結局、これが3Pの終了点ということで間違いなかったと思う。
50mロープ連結では取りつきまであと2〜3mほど足りず、やむを得ず1P終了点でピッチを切り、懸垂2Pで取りつきまで下りた。
雷はゴロゴロ鳴っているが、雨はまだ降り出していない。
何とか全員無事下りられて、ほっと一安心。登攀開始から全員が下りるまで、何と6時間近くかかっていた。わずか3Pで!
3Pと言えども、特にクラッシックルートは要注意。
残置支点は皆無に近く、ルートも判然としないので時間がかかる可能性がある。
3時間ぐらいで下りられるだろうと思い、登攀具以外に何も持っていかなかったのは失敗だった。
水や食料、雨具はもちろん、ヘッドランプや捨て縄すら持っていなかった。
ゲレンデであっても、マルチピッチを侮ってはいけないと反省。よい経験になった。
何はともあれ、アルパインチックなルートを全員オールフリーで完登できたので、充実した登攀だった。登ってよかった。
キャンプ場まで戻り、車で焼肉屋に向かう途中で土砂降りの雨。食べ終わって車に戻る頃には止んでおり、実にラッキーだった。
2日目はまず「小川山レイバック 2P」へ。
朝早く取りつくと誰もいない。準備中誰もやって来ないので、人気ルートなのに貸切かな?などと喜んでいたら、2パーティほど後続がやって来た。
1P目(5.9+)はワタクシのリード。衆人監視の中、緊張するなあ。
結果から先に言ってしまうと、かなり痺れるクライミングだったものの、無事にRPした。
トップロープで一度登ったときは簡単だと思ったが、やはりリードとなると全然緊張感が違う。
トップロープのときは、足はステミング中心に登ったが、リードだと足が外れるのが怖くて、フットジャム中心になった。
出だしはシンハンドでハンドジャムが効かない。
トップロープのときは右向きのレイバックで離陸したが、今回は右壁に背中を押しつけて、甘いシンハンドに耐えてフットジャムで離陸した。この方が安定するかも。
2mぐらい登るとハンドジャムが決まり始めるので、中間部のテラスまでは快適に登れた。
しかし案の定、カムが足りなくなった。
同じようなサイズが続くので、できればキャメロット1番(赤)と2番(黄色)が3つ欲しい。3番(青)は微妙に大きくて入らない。
今回は2人で来たので各サイズ2セットしかない。あまりランナウトするのも怖いので、何回も上にずらしたり、下に決めたカムを外したりながら登らざるを得なかった。
テラスの先でなぜかハンドジャムが甘くなってしまい少し焦るが、あれこれやっていると消耗するばかりなので、頑張って登り続ける。
ゴール手前の被ったマントルに乗り込む前に、もう一度2番(黄色)を高めにずらして決めたかったが、mfさんがそのまま行っても大丈夫と声をかけてくれたので、ランナウトに耐えることにした。
うう、なかなか乗越せない! 左足のスタンスを探したいが、被っているので見えない。ハンドジャムも甘い…。落ちるかも!
ああ、でも最後のカムはかなり下だったよなあ。落ちられない!
左足が滑る。足で探れるのはクラックしかないので、左足もジャミングするしかない。
マントル返しで落ちたら、頭からひっくり返るぞ! ええい、左ひざで乗り込むしかない!
ふ―――――――――。何とか乗越せた…。
残り半分もない命をまた削られたな…。
さてとりあえず1P終了点にクリップ…と思ったら、えー!登りすぎちゃった!
終了点はもっと手前にあったんだー。
めっちゃランナウトした状態で戻らなければならないとは。とほほ。
でもやっぱり怖いので、外傾したテラスの奥にカムを決めて一旦クリップしてから戻って終了点にクリップ。
そして今回は2P目も登るので、そのままスラブを登り続ける。
支点はまったく取れないので、これまた恐怖。落ちたら1P目の右壁に激突すること間違いなし。
スラブの上の安定したテラスに到着したときは、心底ほっとした。
中級者にとってはアップで登るような簡単なルートだろうけれど、自分のレベルでは必死のクライミングだった。
今度登るときは、絶対キャメロットの1番(赤)と2番(黄色)を3セットずつ持って行こう!
2P目(5.9)はmfさんリード。
前日の2P目と同じく、ここも登攀ラインがよく分からなかった。
あえて?(面倒だから?)トポを読み込まず、事前情報もなしに登っているので、自分たちでラインを探さなければならない。
ボルトがないと支点が取れないだけでなく、オブザベーションの難しさもある。
支点になりそうなのは、どう見てもルーフ下の水平クラックしかない。
だがmfさんによると、ちょっと登って覗いてみた限り埋まっているとのこと。
左面に回りこむんじゃない?などと無責任なことを言って、覗いてみてもらったがとても無理とのこと(そりゃそうだ。クレイジージャム 10dの右側のフェイスなのだから!)。
ルーフが切れる左端が弱点であることは間違いないのだが、そこに向かってフェイスを直上しようとしてもホールドがない。 ということは、ホールドのあるフェイス右サイドから登って、水平クラックを頼りに左にトラバースするしかないが、一旦水平クラックまで登って万一支点が取れなかったら、もうクライムダウンは不可能。
恥ずかしながら、結局後続パーティが来るのを待つことにした。 3番手のパーティが2P目も登るということを聞いていたので、登ってくるのを待って先に行っていただいた。
やはり後続パーティはフェイス右サイドから登り、水平クラックを手がかりに左へトラバースして行った。
水平クラックは手がかりもよく、案外カムが決まるようだった。
しかしながら、それが分かっていなければなかなか難しい判断だったと思う。
我々も同じラインで後に続く。ラインさえ分かってしまえば、あっけないほど簡単だった。フェイスの5.9なので、クラックのグレードとはかなり違う感じ。
mfさんは水平クラックにカムを2つ決めてリードして行ったのだが、頂上テラスに乗越すときに1つ目のマスターカム(青)がポロリと外れて落ちてきた。スリングで延長してできるだけロープの衝撃が直接かからないようにしていたのに、なぜあんなにも簡単に外れてしまったのか不思議だ。
元々決まっていなかったのか、ロープと干渉して歩いてしまったのか… まあ、落ちなくてよかったですね。
2P目の終了点は広いテラスで、とても眺めがよかった。のんびりお昼ご飯でも食べたいぐらい。
さて命を削られた自分としては、もうお腹一杯。疲労もピークに達しており、終わりにしてもいいぐらいだったが、まだ時間も早いので昼飯を食べたらアプローチの近い岩場に行ってみましょうということで、弟岩の「ジョイフルジャム(5.8)」へ。
mfさんはやや苦心しながらも無事OSしたが、疲れきって気持ちの乗らない自分は汚点を残してしまった。
クラックリードは気持ちで登るものだと改めて痛感。集中して何が何でも登り切るという気力がないと、簡単なルートであってもリードはできない。
自分はもう疲れたし集中力もないので、トップロープでいいですなんて言っていたのだが、見た目が簡単そうだったので、中途半端な気持ちでリードしてしまった。
結果は敗退。途中手が甘くなるシンハンドの箇所があり、1、2手それに耐えて登ればバチ効きのハンドジャムが決まったらしいのだが、勇気がなかった。
カムはばっちり決まっていたし、1時間でも立っていられるような安定したスタンスにいたのに、それ以上登る気が起きず。
落ちてもいなし、普通に立っていられるところだったのに、自らそっとぶら下がって敗退した。
弱い心が、今日はもういいよと囁いていた…
もちろんこのまま終わるつもりはない。 次回、気力、体力を整えて必ず雪辱を果たす。
クライミングをやっているのは、自分の弱さを乗り越えるためでもあるのだから。
・登ったルート
「友和ルート」5.8(or5.9?)NP FL
「サヨナラ百恵ちゃん1P」5.9NP フォロー
「サヨナラ百恵ちゃん2P」5.8NP フォロー
「サヨナラ百恵ちゃん3P」5.7NP OS&フォロー
「小川山レイバック1P」5.9+NP RP
「小川山レイバック2P」5.8NP フォロー
「ジョイフルジャム」5.8NP 敗退
geraniumさん、こんばんは。
ご存知の通り、登攀のことは全くわからんのですが、、、。
命を削られるような緊張感の中、こんなに一瞬、一瞬のことを記憶されているのはスゴイです。
自分の見に置き換えると、一言、怖かったで終わってます。
5枚目、6枚目の写真、カッコいいです。
気持ちが伝わってきます。
関係ないですけど、「不惑の40」とか言いますけど、、、。
自分が若い頃、40過ぎたら惑わんのか、、、と思ってたのに、40なんてとっくに過ぎたのに、惑いっ放しで、、、。
感想の最後の2行、グッときました。
過分なお言葉恐れいります。
本当は落ちても大丈夫なのですよ。
そのためにプロテクションをセットしてありますので。
私はメンタルが弱いのです。
何しろカムというのは岩に挟まっているだけなので。
命を削られるというのは大げさですが、何かそういった感覚なのです。ヒリヒリするような…
余裕のないクライミングだからなのでしょうけれど。
何年かあとにこの記録を振り返ったら赤面するかもしれませんが、そのときに感じた正直な気持ちなので、まあいいかなと。
低グレードながらも渾身のクライミングを目指したいと思います。
ricalonさんも、また沢登りにチャレンジしてみては?
写真キマってますね。
細かい描写も臨場感あふれてます。
いつも感心しますけど、記憶もさることながら、
すばらしい分析力ですね
この分析と反省がクライミング力を向上させていくのですね。
私も見習いたいものです
講習のために今日はよいしょだけ。
おちょくりなしだと気持ちが悪いですか?
ところで、サヨナラ百恵ちゃんがあるなら、
しぶとい聖子ちゃん、とか、なんてたってKYON2、とかもあればいいのに。
こんなところで命を削られるなんていうのは、甘ちゃんでした。
近日中にアップいたしますが、錫杖岳前衛壁の左方カンテという準本チャンルートに行ってきたのですが、今度は本当に命を削られました。
上手く言えませんが、フリーと違って本チャンルートはクライミング力だけでは登れません。
でもまあ、基本となるのはやはりクライミング力なので、kanoさんも精進してくださいね。
オヤジギャグはスルーしておきます。
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