新穂高温泉 西穂独標

過去天気図(気象庁) | 2023年01月の天気図 |
---|
写真
感想
奥飛騨温泉郷 新穂高温泉 西穂独標への道程
2023年1月7日土曜日
西穂山荘から雪山の森林限界を越えた厳しい強風吹き荒れる稜線歩き
丸山を越えて1時間の吹き付ける氷点下の雪の強風に耐えながら、西穂独標の岩場がそびえるところまで着いた。
雪で覆われた岩稜の登りでは、ピッケルとストックの二刀流でバランスと推進力をだしてぐいぐい足を上げる。
コースタイム並みの90分ほどの稜線歩きで、岩場の上の西穂独標の道標を拝めた。
途中で訓練の山岳救助隊2名を押し越してしまい、初顔合わせの単独行同士の二人で踏み跡のほとんどないまっさらな西穂独標(標高2735メートル)の山頂へ足跡をつけた。
見渡す限りの大パノラマで、双六岳や笠ヶ岳、槍ヶ岳や奥穂高岳が悠々と連なる風景に見惚れる。
すると稜線先の西穂高岳へ向かう登山道からかすかに人の声が聞こえる。
大丈夫かーがんばれー
はい、男性1名ヘリでの救助をお願いします
なんとこの厳冬期の西穂の切れ落ちた稜線から滑落してしまった登山者がいるらしい。
自分たちのいる西穂独標の山頂から数百メートル離れた細い稜線上に見える同行者が、電話で救助要請をしている声に耳を澄まして、リアルな遭難現場を垣間見てることに緊張した。
幸運にも訓練中の山岳救助隊2名がすぐに西穂独標に着いて、相談している。
手伝えることはないかと指示を仰ぐと危険ですのでヘリの救助活動を待ってください
滑落した男性の姿はここからだと目視できない。滑落痕も見えず、返事をする声も聞こえない。
200メートルほども滑り落ちてしまったらしく、自分の装備のスリングや10メートルのロープではどうにもならない距離だ。
西穂独標からの西穂高岳へは、急登の岩場の登り降りが12ピークもあるらしく、チャンピオンピークもピラミッドピークの道標のある頂きを登り降りして90分の稜線歩きでたどり着く上級コース。
夏季でさえ高難度の岩の稜線なので、厳冬期の雪道では上級者2名でのロープ確保が必要なハイレベルクライミングルートだ。
事故はその2ピーク目の稜線上で起きていた。
現場まで行けるだろうか。
山岳救助隊に相談すると、谷へ降りることをしなければ現場の稜線上の登山道にいくのは個人の自由ですと言ってもらえた。
西穂独標から急な岩場を慎重に降りる。
もしバランス崩してつまずいて落ちたら、一気に雪と岩の斜面を転がり落ちてしまうかもしれない。
やまない暴風に難儀しながらもなんとも岩場をおりて、すぐに次の岩稜を登りきる。
1ピークの頂きに着いたところで、2ピーク目の頂きの稜線に取り残された男性がまだまだ小さいが近く見えた。
滑落した男性の姿は確認できない。
振り返ると、先ほど西穂独標から降りてきた岩場がそびえ立つ存在感だ。
またあの岩場を登り降りして、さらに西穂山荘まで1時間歩いて帰らなければいけないんだ。
待機しているだけでも稜線の強風はじわじわと体力を奪う。
多重遭難となって迷惑をかけるわけにはいかない。
自分にできることはないと判断して、西穂独標から西穂山荘まで無事に帰り着くことが優先だと岩場を降りる。
そして、岩に粉雪がかぶっただけで締まっていない岩に足をかけた時、アイゼンの爪がきかずにズルズルと足が滑った。
ピッケルを刺して持ち堪えて、なんとか滑落は免れた。
その数分後、傾斜70度ほどの急斜の危険岩場で互いにロープ確保している男性パーティーふたりのうちひとりがザザザーと音を立ててオオーーと声を上げながら滑り落ちた。
その距離3メートルほどだが、厳冬期の標高2700メートルの岩稜で、目の前で人が岩場を滑り落ちる光景に出くわす。
絶対生きて帰ってやると集中力を高めて、同行の彼と無言で目だけで頷き、アイゼンの爪を雪に踏みしめながら西穂の風速20メートル以上の山頂直下、1900メートルの雪道の稜線を1時間歩き通す。
西穂丸山の道標が見えたときの安堵感はたまらなかった。
厳冬期の西穂独標から生きて帰ってこられた。
15:00 西穂山荘の温かい部屋に入り、灯油ストーブで暖を取る。
夕食時、西穂山荘のオーナーが挨拶で、滑落した男性の救助は今日はヘリは飛べなかったこと、明日早朝に救助隊が向かうこと、状況は厳しいことを宿泊者へ伝えた。
小屋の窓から暗闇の山を眺め、谷へ滑落した男性は、この瞬間も深い谷筋の間でひとり凍えながら恐怖と心細さでうずくまっているんだと想像すると恐ろしくなる。
滑落遭難は絶対に起こしたくない、人に迷惑かけずに生きて山から帰るんだと自戒する。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する