白駒池から中山展望台

過去天気図(気象庁) | 2024年01月の天気図 |
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写真
感想
厳冬期の赤岳登山の帰りは、美濃戸口から近い日帰り温泉もみの木に初めて寄ってみた。
地方の村営施設は格安で快適で、入湯料800円で何時間でも温泉や露天風呂を味わい、休憩室で熱いお茶を無料で飲んで寝られる贅沢ができて嬉しい。
レストランは宿泊者のみで軽食のちまきご飯は週末のみの販売のようで、食事には少し不便だったが、車で数分の距離に地元原村の立派な直売所がある。
そこで手作りおはぎや焼き立てパンを買ってから樅ノ木温泉へ行けば、快適に夕飯を過ごせる。
隣接する樅ノ木荘への1名素泊まり宿泊を断られてしまったので、氷点下の車中泊を決行する。
WORKMANの7000円ほどのダウン入りの3シーズン用のシュラフ寝袋に、ダウンジャケットを羽織り、ズボンと靴下も2枚重ね履き、寝袋の肩からの冷気を遮断するため木綿タオルを首に巻いて、自身の体温を逃さずにシュラフ内で保温するよう隙間なく包まった。
軽トラックなので後部座席はなく、運転席と助手席にまたがる形で足を伸ばして寝られる。
底冷えの冷気に触れないよう足は高い位置にして、マミー型シュラフであぐらもかけない窮屈さだが、目をつぶって体力を回復できるほどは睡眠をとることができた。
早朝5時の凍える寒さに寝ていられず、結露してバリバリに凍ったフロントガラスを見て,冷凍庫の中で寝ていたようなもので、よく生きて夜を越せたものだと冬の高原地帯の八ヶ岳の厳しさを知る。
ゲストハウス樅ノ木荘のフロント玄関は早朝5時には解錠したらしく、明るく暖房のきいたエントランスホールに入って心底ホッとした。
清潔な保温便座のトイレで落ち着き、暖房機の暖気で凍える手や身体を温めて生き返る。
大量の電気や石油を消費しての暖房設備を利用するのは心苦しいが、非常事態並みの極寒の地の車中泊で衰弱していたのでありがたく利用させてもらった。
フロントの男性は登山客に慣れているようで、宿泊者でなくても快く過ごさせてくれた。
水筒にお湯を入れてくれたり、暖かいエントランスホールのソファーでくつろがせてもらって英気を養えた。
せっかく八ヶ岳まで200km運転してきたので、北八ヶ岳の天狗岳も登って白駒荘へ今年も泊まろうと旅の延長を決めた。
国道299号メルヘン街道の峠道をひた走り、0から42号カーブの標識まで数えて標高を300メートルほども駆け上がる。
標高1800メートルの標識がある冬季閉鎖ゲートの手前の坂で、ついにノーマルタイヤでは上がれなくなった。
軽トラックを路肩に放置して、無事にこの峠道を帰れるか不安になるも、いざとなれば何とかなると冒険の旅を先へ進む。
長い国道の雪道を歩き続けること1時間、スノーモービルでさっそうと走り去って送迎してもらう青苔荘のお客さん二人を羨みながら、こちらは景色を味わいながらガソリンの機械に頼らずに自分の足で行くのだと鼓舞して歩き続ける。
標高差200メートルのゆるい坂道を登りきると麦草峠の看板が見えて安堵した。
3時間半かけて氷点下の標高2000メートルの国道の雪道を歩き続け、麦草ヒュッテに駆け込んだ。
低血糖になっていて力がでない久しぶりに追い込まれた感覚だ。
白砂糖は摂取したくないけど、身体が衰弱しているのでたっぷり3本入れて温かい珈琲をいただいた。
薪ストーブの暖がありがたく、凍える手足を蘇ることができた。
冬季の平日で空いているから大丈夫だろうと宿泊予約を頼むも、当日は難しいと麦草ヒュッテさんに断られてしまった。
先に白駒荘さんにも連絡していたが、木曜日は麓に降りていてスタッフがいないから無理ですすみませんと丁寧に断られていた。
残るは青苔荘で電話すると、快く受け入れてくれて心底ホッとした。
これで今夜の宿は確保できたので、安心して白駒荘の畔の青苔荘へ向かう。
麦草ヒュッテと雪は絵になる風景で、真っ白な雪原が夕景に照らされて絵画のような光景だ。
白駒の奥庭も青白く幻想的な森の隠れ家のようで、この素敵な空間を独り占めしている喜びにため息がでる。
初めて訪れた青苔荘は、昭和の古き良き味のある山小屋だった。
気取らない年季の入った内装や、素朴な接客のご主人と奥さんにも和み、自分的に当たりの宿だ。
夏は風呂も入れるというのも嬉しい。
山小屋泊の醍醐味のひとつは、小屋の人との交流だと思う。
山頂で見た景色や達成感よりも、小屋で過ごした暖かい時間やご飯、何気ない会話が記憶に強く残っていたりする。
さて、夜のメインイベントの星空撮影だ。
標高2000メートル上の氷点下の凍てつく夜の環境だが、手足の装備を二重に防寒すれば耐えられる。
青苔荘から少し樹林を歩いて白駒池の氷の湖上に出て、北八ヶ岳の夜空を見上げる。
おーすごい星だ!
漆黒の夜空にダイヤモンドのように輝く星々が広がって、思わず声が出た。
周囲に街の明かりもない暗闇の森の中、空気の澄んだ冬の寒い季節で、雲ひとつない澄みきった最高の星空を眺められた。
冬の大三角の一等星たち、ベテルギウス、シリウス、プロキオンがはっきりとわかる。
7つの星を結ぶと鼓のような形で分かりやすいオリオン座も輝いてくっきりと見える。
サソリの尾のような北斗七星もきれいに拝められた。
もうずっと眺めていたいと思わせてくれるほど美しくきれいな星の夜景だ。
3名の撮影取材班はそれぞれの場所でスタンバイして星空撮影の準備をしている。
一般の宿泊者は自分ひとりだけという冬季平日の奇跡の独り占めだ。
忙しくカメラをセットして撮影に取り組み、30秒シャッター開放の僅かな時に星空を静かに眺める。
寒さに耐えながらシャッターを切り続け、撮れ高に満足したのでカメラは置く。
そうしてあとは広大な白駒池の漆黒の湖畔から、満天に輝く星の夜景を静かに飽きることなく眺めていた。
翌朝金曜日の早朝5時半、夜明け前の独特の空気感を味わい、青から橙色にグラデーションが変わるドラマチックな夜明けを、踏み跡の消えた純白の湖畔から眺める。
美しい日の出を拝み、天気の当たり日に出会えたて良かった。
暖かい暖房のきいた小屋にすぐに戻れる利便さのおかげで、極寒の地の撮影も耐えられる。
温かいご飯と味噌汁の朝食も本当に美味しく、里山の家庭の優しい味で癒やされた。
朝焼けがきれいなので、朝食の席を立っても女将さんはどうぞ見に行ったらいいよーと優しく、ますます青苔荘さんは良い宿だ。
撮影クルーの方たちが用意した餌についに森からリスが現れて、自分まで野生のリスを見られる幸運に出くわしてしまった。
小さくて真ん丸いリスを愛おしく眺め、高所で出会える雷鳥とはまた違う幸せな気持ちにさせてくれる素敵な時間だった。
楽しい足止めをしたので、冬季の天狗岳の登頂は去年に達成しているから今年は欲張らずに、高見石小屋から中山展望台の稜線まで登って白駒荘へ引き返して宿泊予定にした。
高見石小屋に初めて入ると、古き良き山小屋の風情そのままの素敵な空間だった。
小屋の女性スタッフの雰囲気も柔らかくて、薄暗いランプの山小屋に合っていて良かった。
宿泊者はいなくて今日初めての来訪者のようで、またまた独り占めで立派な薪ストーブの暖を味わえた。
名物の揚げパンは次回の楽しみにして珈琲を美味しくいただく。
薄暗いランプの山小屋と暖かい炎の薪ストーブの空間で、味わい深い珈琲を楽しめた。
スタッフさんとの二人きりの会話も楽しい想い出となり、気持ち良く山歩きに出発した。
中山展望台まで早いペースで1時間かからずに去年よりも素早く歩けて、装備と経験の成長ぶりが嬉しい。
森林限界を超えた標高2500メートルほどの中山展望の稜線は、樹林帯に守られていた強風がもろに吹き付けて恐怖する世界だった。
踏み跡も暴風で消えていて、道標がかすかに見えるも吹き荒れる暴風と粉雪で手足があっという間に冷え切って痛くなり、岩陰に倒れ込み避難する。
先行も後続者の登山者も一人もいない単独行でこれ以上進むのは危険だと確信して、濃い霧に包まれた展望台の岩場から先の黒百合ヒュッテは諦めて引き返す。
帰りの体力に余裕をもたせるためにも、天候の悪化やトラブルに対応できるためにもソロでは無謀なことはせずに撤退も受け入れる。
もう充分に冒険心を満たす山の荒々しい光景を体感できたし、あの素敵な高見石小屋に帰ってのんびり薪ストーブを味わいたい。
アイゼンを履いても軽量のトレイルランニングシューズなので、柔らかい雪の登山道を駆け下りて行ける。
ランプと星の宿 高見石小屋でしっかり暖をとって癒やされ、白駒荘まで無事に雪道を帰ることができた。
白駒荘のご主人は、去年連泊した自分を覚えていてくださり嬉しかった。
青苔荘では入れなかった風呂も、冬季の厳しい寒さでも強力ボイラーのある白駒荘では熱い湯につかれる贅沢。
2日ぶりの極寒の地での風呂は格別で、生き返るような幸福感だ。
食事も大きな牛肉のしゃぶしゃぶと豪華で、洗練された白駒荘のきれいな食堂で美味しくいただいた。
20人以上は入る大部屋にわずか3人という快適というか寂しいほどの広さで、暖房費がもったいなく感じる。
今夜の星空は全く見えず、昨日の満天の星空という奇跡を改めて感謝する。
気さくなおじさんが話しかけてくれて、男3人で山談義をして楽しい夜を過ごして9時に就寝。
早朝の白駒池は濃い霧に包まれて幻想的な森の風景だ。
快晴の日の出の晴れやかな感動とはまた違う味わい深く、静寂に包まれた黄泉の国のような荘厳な世界にあった。
この数日で快晴や濃霧、夕景や星空など白駒池の豊かな光景に出会えて本当に良い旅になった。
宿泊者の人たちとも楽しい会話ができて、やはり人との触れ合いも山歩きでは大切なエッセンスだ。
人恋しいのに単独行を好み、孤独を好むのに人と触れ合いたくなる。
この矛盾と葛藤しながら山歩きを続けて、良い答えにたどり着きたい。
山と文学は相性が良い。
先人の登山家の紀行文は、緊迫した遭難体験や自然の美しい描写を味わえる。
山岳小説も憧れをもって主人公の冒険を読み進めて、自身でその足跡を追える。
じっくり山岳書を読んでまた穂高岳や槍ヶ岳へ思索にふけりながら登りたい。
槍ヶ岳の北鎌尾根や、槍穂の大キレット縦走、西穂からジャンダルムの縦走登山など、夢は尽きない。
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