山行記録: 竜ヶ岳

記録ID: 7838725

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雪山ハイキング

霊仙・伊吹・藤原

竜ヶ岳

2025年02月15日(土) [日帰り]

akatombow

天候	南西→東／風力2／快晴／5℃
過去天気図（気象庁）	2025年02月の天気図
アクセス	利用交通機関：自家用車宇賀渓駐車場（1日500円）

感想

akatombow

山行記録688 　令和7年2月15日 (土)
　　　　ザラメ雪　～竜ヶ岳
　　　　　　　　単独　地図：竜ヶ岳

　2月に入った途端、1週間ほど強い寒波に包まれ、8日明け方から9日朝までに、四日市でも25cmほどの積雪となった。そろそろ山へ行きたいと思っていたところにこの雪。何年かぶりの雪遊びが期待できる反面、天気や雪の状態などをキチンと見極めないと厄介なことにもなりかねない。
　15日。予想天気図では南から高気圧に覆われる見込み。プロの天気予報も「お出かけ日和」と言っている。850hPaの気温は、朝9時で0℃。「雪が緩むな～」。風は、9時の予想では北西5m/s、21時の予想では南西5m/s。雪雲が流れてくる風ではない。

　毎年冬になると積雪期に7Mtを巡ってみたいと考えるのが常であるが、40年の間に1回達成できたっきり。この冬は曲がりなりにも雪のある7Mtに3座登っている。少しばかり欲も出ている。それならどこの山に行こうか。下界でも25cm積もったんだから、山の上は1mを超えているだろう。さらに気温が3月並みに上がるという予報が出ているから、心配すべきは雪崩である。
　三重県にはなだれ注意報の発表基準がないから、気象庁のHPで滋賀県や岐阜県の基準をのぞいてみると…。
【滋賀県】積雪の深さが50cm以上あり次のいずれか。1. 24時間降雪の深さ30cm以上。2. 日最高気温10℃以上。3. 24時間雨量15mm以上。
【岐阜県】①24時間降雪の深さが30cm以上で積雪が70cm以上になる場合。②積雪の深さが70cm以上あって、日平均気温が2℃以上の場合。③積雪の深さが70cm以上あって、降雨が予想される場合。
　山の上で10℃を上回るとは考えにくいが、850hPaの気温から考えると陽射しが強い場合日平均気温が2℃以上というのは無くはない。それなら尾根道にしよう。金山尾根から竜に登る事に決めた。

　15日朝、西の空に満月を過ぎた月が明るい。放射冷却で冷え込んでいるはずなのに、空気は比較的暖かい。5時半過ぎに宇賀渓の駐車場に入る。東の空が白んでくるのを見ながら足ごしらえを済ませる。
　6:05出発。林道は雪道。溶けて流れた跡が凍結しているのでゆっくりと歩いて行く。遠足尾根の登り口まで来た。林道に続いていたシッカリした踏跡がここで分岐するが、明らかに遠足尾根へ入っていく人が多い様子。それに比べて金山尾根への踏み跡は貧弱である。「静かでええは」。ボチボチ行こう。

　川を渡って山道に入る。積雪約25cm。ザクザクのザラメ雪が少し緩み始めている。岩場混じりのジグザグは7割ぐらい雪が載っていて、岩が所々露出している。そこに足を置いて安定するかどうか、足の置き場を考えながら通過して行く。斜面に陽が射し込み始めた頃、金山尾根の取付に到着。

　水を飲んで出発。雪解けが進んで融け残った雪が乱雑に踏み荒らされたような、雪道と言うには見た目が汚いが、それでも積雪は15～20cm程度。緩み始めたザラメ雪が足払いを試みてくるので、歩幅はいつもにも増して狭メを意識する。同時に鼻で息ができるぐらいの省エネペース。できるだけ力を抜いて行こう。
　まずは587m独標を目指す。中間点までは少し急な尾根に絡むようなジグザグが続く。朝陽が射し込み始めたばかりだというのに、足払いを食って斜面に滑り落ちそうになりながら通過する場面もあるぐらい、雪はすでにそんな緩み方をしている。
　ルートに刻まれた足跡は歩幅が広すぎてツボ足では少々キツい。靴のサイズ程度の歩幅でも、今まで3000m峰にいくつも登って来たんだから、自分の歩幅で登っていけばいい。慌てない慌てない。
　
　行く手に青空が広がってきた。ニセの独標に到達。森の隙間から見上げる澄み渡った青空の下、真っ白く雪化粧した竜の山頂と大蔭のガレ場がクッキリと姿を現した。ここで休憩してもいいが、何となく独標を区切りとする習慣がついてしまっているようで、いつの間にかそのまま進む。本当の独標よりも山頂がよく見えるのに…。ちょっともったいないかな。

　8:18、587m独標に到着。いつものようにヨウカンをついばみながら小休止。陽射しが強いせいか寒さを感じない。実際、気温は4℃ある。雪の状態も少しずつ良くなってきてはいるが、ザラメ雪には変わりなく、日向の雪は相変わらず緩い。「帰りはズルズルのベシャベシャやろな～」。
　これから登っていく尾根の奥に、落葉樹の斜面が雪化粧して白く広がる。常緑の森から突然景色が変わり、来る度に、ため息ともつかない声を上げてしまう森。今日はどんな姿を見せてくれるんだろう。

　8:28、独標を出発。浅い暗部を渡って登りにかかると雪が少し増えたような気がする。蛇谷道を分けて、まずは前半の急傾斜を登る。尾根の南側を巻くようにジグザグを抜けると目の前がパッと開ける。白い雪に陽が射し込んで光が溢れる冬枯れの森は、風もなく、鳥のざわめきもなく、シンと静まりかえっている。
　トレースを外すとスネまで沈む。ピッケルを突っ込んでみると、積雪は30～40cmほど。ベンチのある尾根に乗ると、風が吹き抜けて雪の浅いところがあって、トレースもだいたいそこを辿っている。見上げる先にはいつも手を焼く急登の手前にコブが見える。雪の山だから地形が見えやすいのかもしれない。とにかく淡々と登るのみである。

　急登の詰めにかかる。冬枯れで陽当たりのいい南向きの斜面なので少し積雪が少なく、踏跡の底に地肌が見えているところもある。地肌を直接踏み荒らしたくないからトレースを外してジグザグに登っていく。
　急登を登り切り、そのまま岩の急登の基部まで進んで小休止。ここでオニギリをついばむのがいつの間にかお決まりになっている。
　岩の急登を登り始める。「岩の」とは言ってもほとんどが雪に隠れていて、どこが岩なのかわからない。登りはいいが、下りは注意しないと、岩の上の薄い雪に体重をかけて足払いを食うかもしれない。とは言え、ここではアイゼンは怖い。雪に踏み込んだとき、隠れている岩に爪を引っかけて捻挫なんかしたらえらいことである。キライなアイゼン、着けずに下れるならそれに越したことはない。要は雪がどれだけ緩むかによる。これだけの積雪なら、支持力さえなくならなければ足を食わせてユルユル下りていった方が安定するかもしれない。
　ともかく登る。息を弾ませないようにゆっくりと。その方が息を整える必要がないので立ち止まることもなく登れる。15分ほどで急登のてっぺんが見えて来た。上部の斜面は雪が浅いところもあって、踏跡の底に地肌が露出している。雪でルートが全然わからないから仕方がないが、植生保護のためにもできればルート上を辿りたいところである。

　10:00、岩の急登を登り切り、竜がよく見える平らなコブにたどり着く。雪山なので制限時間を12時としている。時間的にセキオノコバまでは行けないだろう。てっぺんはどっちでもいいとしても、ここまで来たのならクラまでは行きたい。雪の状態にもよるが、11時ぐらいかな。
　見上げる空は深く澄み渡った蒼。あふれんばかりの陽射しが熱い。ただ、藤原岳の鉱山で石灰を採掘する機械の音が耳障りである。藤原岳。どこまで切り崩されるんだろうか。
　遠足尾根を登ってくる人の声が聞こえてくる。名前のせいかな。登る人はこの尾根よりも明らかに多い。イブキササの海だった頃の遠足尾根は、ルートも足探り。ササの抵抗も熾烈を極め、雪でシッカリ埋め尽くされない限り、間違っても登りに使うなど考えもつかなかった。積雪が中途半端なササの海は、ササを鉄筋にしたコンクリートのようで、ピッケルで砕きながらのラッセルを強いられた。

　5分ほど小休止して出発。吸い込まれるような澄み切った空に向かって歩き出す。この先、当然吹き溜まりもできているだろう。どのぐらいの深さなんだろう。少し軽くなったとは言ってもザラメ雪だから、輪カンなんか履きたくはない。1歩1歩足を上げる度に消耗を強いられるだけである。
　ずっと追ってきた踏跡を辿って登っていくと、踏跡が急に深く沈むようになった。「吹き溜まりかな」。辺りを見回すと、この雪が積もる前のトレースが埋め尽くされたような痕跡が、何となく分かれて続いている。たぶん沈まないで歩けるはず。辿ってみると、思った通り沈まない。
　ノソノソ歩いて行くと、次の高まりにかかろうかという所で吹き溜まりに突き当たってトレースの痕跡が見えなくなった。その先には雪がこんもり積もっている。「どんなぐらいハマるんやろ」。シズシズ登っていくと、思ったほど沈まないで行ける。ただ、やはり時々ハマるので、脱出の時にピッケルを突き刺すと全体が突き刺さる。つまり、積雪は余裕で70cmを超えている。
　そうかと思うと、今度は風上側で雪があまり積もらない所に出たりする。すでに雪が消えた所もあるが、以前ササの海だった所は表土が流されやすくなっているから、ルート以外の地肌を直接踏みたくはない。雪の上を辿っていく。

　10:40、遠足尾根と合流。途端に山屋の姿がソコソコ。そして暑くなってきた。雪の照り返しもあって陽射しが熱い。クラを過ぎて縦走路を合わせると、雪でルートが埋め尽くされているせいか、トレースは頂上との間の高まりに向かっている。明らかにルートよりも上部を辿っているが、「まあええは」と高みに上がった瞬間、飛び込んできたのは、今までに見たことのない竜ヶ岳の姿。雪が融けて流れたのか無数の筋が並ぶ斜面に、強風で運ばれた土埃の褐色が薄く重なる。そこに、春になるとヒツジの群れとなるシロヤシオが点々と散らばる。白一色ではない堂々たる雪山が、目の前に立ちはだかる。

　最後の登りにかかる。いつもあえぎながら登る詰めではあるが、今日はほとんど鼻息だけでノソノソ登って来たからか、ソコソコ余裕を感じる。この詰めも同じようにノソノソ登っていけば10分前後で登れるだろう。
　ルートは風が強かったようで、積雪は多くても10cm程度。すでに融けているところも多い。それでも北側斜面だから、雪は緩んでいるがキックステップが効く程度の支持力は残されている。これなら下りもアイゼンは要らない。てっぺんまで行ったら雪が緩まないうちに引き返そう。11:15、竜ヶ岳到着。

　頂上はほとんど雪のないドロドロの地肌。靴ヒモを締め直すために腰を下ろすにも場所を選ばないといけない。山頂を一回りして周囲の山を見渡したら、サッサと下山にかかる。
　まずは山頂からの急降下。思った通りキックステップがよく効く。ヘンに急がないように下ったあとは、適当に道草しながら、来た道を引き返す。陽射しが強いので、メシを食う場所は日陰があった方がいいし、人が少ない方がノンビリできるから、遠足尾根を分けてから場所を探そう。
　陽が高くなって気温も上がってきたから、登ってきたときよりも雪が緩んで水っぽい。靴にも水が染みて来ている。雨の中を歩いているワケではないから、まだマシなんだと思いながら、登ってきた自分のトレースを辿る。

　岩の急降下にかかる手前の茂みに適当な場所を見つけて陣取る。雪がよく締まっていて、ザックを置くと斜面を滑り落ちていきそう。雪を固めてベンチと物置を作って腰を下ろす。日陰はさすがにヒンヤリしているから、カッパの上着を羽織ってメシの準備を始める。山頂にはたくさんの人影が見えている。
　藤原でも思ったが、本当に雪の山に登ってくる人が多くなった。それにみんなスタイリッシュ。イマドキ、ブカブカのカッパを着て歩く人なんかいない。「まあ、ワシはワシや」。若い頃のような登り方はできなくなってきているが、その代わり、涼しい顔をして登っていれば上出来というものである。

　靴ヒモを締め直して12:27下山開始。まずは岩の急降下。上部の斜面は踏跡の底に地肌が露出しているから、できるだけルートを拾いながらジグザグを切って地肌を避けながら下る。緩んでいるとは言え、積雪がある程度深いから十分に足を食わせて下ることができ、無茶をしなければソコソコ速い。
　常緑の尾根を抜けたら、今度は急降下の尾根。下りはここが一番厄介だと思っていたが、雪の下に埋まっているルートを探り出しながら、まだ足跡がついていない所にジグザグを切ると、まあまあ安定して下っていける。ただし、積雪が少なくなってきているから、雪の下に樹の根があると、足払いを食うかもしれない。慎重に下る。
　一段落するとベンチのある森。振り返ると林床の雪面に落ちる影はのどかな春山である。こんな日は、雪の上を虫たちが大勢歩いていたりする。立ち止まって見渡すとトビムシがたくさん。所々群がっているヤツらも居る。いつだったか、コクイ谷出合の辺りで、トビムシやセッケイカワゲラなんかにもお目にかかったことがある。ネット上では、コイツらが現れると春が近いそうな…。この先1週間、最後の寒波が来た後は、一気に季節が進むのかもしれない。

　587m独標を通過すると最後の下り。雪の状態が最悪になってきた。20cm以下ぐらいの雪がシャーベットになって、ギリギリ足を食わせるぐらいの状態。尾根の傾斜がキツくなる中間点から下は、シャーベットを通り越して雪の窪みに水たまりができている。こうなると、雪の上に足場を求めていいか、足の置き場を考えながら下ることも多くなる。
　13:16、金山尾根取付に到着。暑いので水を飲んで、最後のジグザグにかかる。靴跡の窪み毎に水たまりができているような…、雪に支持力を求めることはできないと思った方がいいぐらい融けてきている。岩がどの程度出ているか少し心配したが、結構気持ちよく融けてくれたりしていて、岩の足場がたくさん出てきているから大助かりである。
　13:30、林道終点に出る。あとは林道を歩くのみ。雪が融けて水たまりになった所もあるが、それもご愛敬かな。ザクザクベシャベシャ歩いて、13:52、宇賀渓に帰還した。

　今日はいい山だった。人は居たけどそれほど多くなく、天気も好く、いままで知らなかった竜ヶ岳の姿を目にすることができたのが何よりの収穫である。