「越百小屋での宿泊記?」と思ったかもしれないが実は違う。
越百小屋さんが”美味しい料理を食べさせてもらえるアットホームでナイスな山小屋”だということはネットでよくみるところ。いつか泊ってみたい(いや必ず泊る)山小屋の一つだ。
今回は休業中の越百小屋での私のほろ苦い体験談。
よろしければお付き合いいただきたい。
登山初めて間もない頃、初めての百名山&2千m超えの恵那山を踏破し、さらなる高み(文字通り高いところ)を望んでいた。何を思ったか、初心者には少々マイナーであろう中アの越百山を選び、できれば南駒ヶ岳まで縦走したいなぁなどと無茶な計画をしていた。
目指す越百山では初めてずくしの山行となった。
漆黒の闇の林道ドライブ、
興奮でまったく寝れない車中前泊、
ヘッデン点けての暗闇出発、
果てしなく続くかのような登り、
視界を遮る幻想的なガス、
ワクワクドキドキと同じくらい戸惑いや恐れもあったことを思い出す。
さて、
そもそも苦い思い出となった発端は、暗闇の中スタート直前に荷物を整理し直したのが原因。持参予定の食べ物をすべて置き忘れてしまったのだ。
そうとは露知らずアドレナリンMAXで序盤からガツガツ登った。
途中シャリバテ気味になったが、コンビニで好物ばかり購入した私は、昼食タイムだけを心の支えに、休憩予定地の越百小屋までほぼノンストップで進んだ。
赤と黒のペンキで塗られた越百小屋。
大好きな配色ではあるのだが、ガスの立ち込める奧深い山小屋となると少々怖い...
なんか魔女の館というかオカルト的な雰囲気が漂う。
気を取り直し、
「いや〜よく頑張った。お楽しみのご飯食べよ」と
ホッと一息ついたのも束の間、すぐさま切迫した状況に気づく。
「う、嘘でしょ!な、ない!食いもんが何もない...(絶句)」
思わず青ざめた。すごくお腹空いてたから。
このままでは登頂はとても無理、いや下山さえも力尽きかねない。
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ…」と繰り返される自責の怒号。
「どうするどうするどうするどうするどうする…」と繰り返される自問の連鎖。
「グーグーグーグーグーグーグーグーグーグー…」と鳴りつづける胃袋の悲鳴。
営業中とふんでいた山小屋は早目の冬期休業に入ったらしく人の気配なし。仕方ないので「食べ物あったら、お金を置いて食べさせてもらおうか...」と小屋内を物色する。
しかし、置いてあったのは…
『ご自由にお飲みください』と書かれた大量のビールのみ。
普段なら歓喜の舞でも披露しかねない状況なのだが、何とも恨めしい思いでビールの山を見つめる。
「これじゃないんですよ...今欲しいのは固形物です」
さんざん悩んだ挙句、やけくそ気味で「カンパーイ」とビールを口にするも体が受けつけるわけもなく、余計にわびしさ募るばかり。
万策尽きた私は、とりあえずもうちょっと歩いてみるかとトボトボ歩き始める。
すると、巨大なザックを背負った登山者が前方から下山してくるではないか。
普段山では気後れする私だが、今ばかりは「な、なんか食べ物恵んで下さい」と事の顛末を説明し懇願。巨大で重たそうなザックの中を色々と探していただいたら、余ったナッツ類、チーカマ、賞味期限ギリのオニギリなどが出てきた。「もう下山だから全部食べていいよ」と差し出され、すがる思いの私はムシャムシャとすぐにパクついた。その姿は救護された漂流難民の如きであったろう。
「お金払います」と申し出たが受け取ってもらえず、さらに心温まる慈愛に満ちた言葉までかけていただいた。別れ際、そのダンディーな後ろ姿を拝むと、まばゆいばかりの後光が射していた(いや、マジで)。
「なんと頼もしく素敵な御仁(ほ、惚れた)」
私が女なら「貴方にどこまでも付いていく」と言いかねない状況。
この痛烈な体験によって、「このダンディーさんのように私もありたい」と思っている(特に女性対しては...)。
その後何とか山頂を踏むことができた。
ガスで視界ゼロ、小雨や風も吹き荒れる標高2600mの稜線にポツンと一人。初めて感じる何とも言い難い孤独感に苛まれ、そそくさと山頂を後にし下山。復路の越百小屋ではビールを追加で一気飲み(これは美味しかった)。
下山後の疲労と筋肉痛、ちょっとした恐怖や認識の甘さを痛感し、「しばらく高い山はいいかなぁ」などと感じていたが、すぐにまた行きたくなるのが山の不思議なところ。
「大騒ぎするほどのトラブル談でもなかろうに」と思う方も多いだろうが、初心者だった私には心に染みた深〜い思い出エピソード。
実は今日「越百小屋」の名前をあるブログで拝見した。
これも何かの啓示だろう...
この苦い思い出を忘れぬうちに備忘録として残すことにしよう。
※長文失礼
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